第十六話「ライムライト・ステージ 下編」
「水槽の中のランプアイに親愛のキスを」とのメモを見て、二人は屋敷の設計図を眺め回した。
「水槽と呼べそうな物や、場所は?」と、マリーナ。
エミルは答える。
「屋内では、浴槽があります。それから、ホールに在った大型の水槽。野外では、噴水がありますね」
「一つ一つ確認してみましょう。ランプアイが居るかどうか」
二人は、鍵の入った木箱とメモを持って、浴室に行った。
壊れている水道から、広い浴槽に水が滴っている。ランプアイと呼べそうなものは無い。
次に、ホールの水槽を観に行った。何も飼われていない水槽には、目印になるものは無い。
外に出ると、暮れかけていた夕陽はすっかり宵の空に成っていた。
エミルの持って居るライトが、噴水の水面を照らす。
噴水の内側には、優美なヒレを持つ小さな魚の模様が、無数に描かれている。
水の中を見つめて居たエミルが、「居た」と言って、噴水の一ヶ所をライトで示した。
マリーナも、その光の中を見つめる。
瞳に宝石を埋めた小さな魚が描かれていた。その小さな魚は、口元に鍵穴がある。
「エ、エ、エミル。鍵を」と、マリーナは慌てて木箱を開いて声をかけた。
「はい。少し、お借りします」
エミルは鍵を手に取り、シャツの袖をまくり上げると、宝石の瞳を持った魚の口元に、鍵を差し込んだ。
カチリと言う手応えがあり、噴水の底の排水口が起動した。
水が空に成ってから、噴水の一部が凹んで行き、地下への階段が現れた。
「行ってみましょう」と、マリーナはエミルの肩に手を掛けた。
その後、カサンドラはバルツァー警部のお手柄の一つとしてカウントされ、ドローテの姪は、生前のドローテが目をかけていた孤児院に多額の寄付を収めた。
「『私の人生の中で、唯一残せなかったものだから』と、伯母はよく言っていました」と、ドローテの姪は言う。「『無垢な命に、一つでも多い選択肢を与えたいの』って」
「きっと、ドローテは喜んでくれているわ」と、マリーナは声をかけた。
地下への階段を下りた先には、大きな空間があり、其処には金塊と金貨がぎっしりと収まっていた。
その地下の存在は、エミルとマリーナとドローテの姪だけの秘密にしたが、鍵を預かる事になったエミルは一つ気がかりな事があった。
地下への鍵の握り部分に、見覚えのある模様が描かれていたのだ。
とある商品に縫い込んだ物と同じ、ルーン文字だ。
文字の崩し方のデザインまで、そっくりな。
ステージの外には、誰かいるらしい。




