第十三話「雪色のブラウス」
伝聞紙が伝える。
王室に、犯行予告の文書が届いた。「次の満月の夜、星屑の涙を頂きに上がる」と言う内容であった。
星屑の涙と言うのは、女王陛下のティアラの愛称である。
再び、バルツァー警部がエミルの店の扉を叩いた。
一着の、白いブラウスを受け付け台の上に乗せる。胸元に艶やかな宝石のブローチを飾っていた。
「王室の狙った怪盗を知っているだろう?」と、警部は威嚇するように言う。
「伝聞紙で読んだ限りでは」と、エミルは答えた。
「この服は、その怪盗が着ていたと思われる、遺留品だ。これをもとに、情報をくれないか」との事である。
エミルは、また「魔法」目当ての依頼に、顔を曇らせる。
「何も分からなくても、責任は持ちませんよ?」
そう念を押したが、バルツァー警部はその言葉を「承諾」だと解釈した。
警部を店から追い出し、内鍵を閉めてカーテンを引く。
それから、作業台の上に持って行ったブラウスの肩を軽く叩いた。
「見事な絨毯だ」と、男性の声がする。
「ウェーバー商会から販売された、一級品です」と、別の男性の声が答える。
「こんな絨毯が、宮殿中に?」と、最初の声。
「ええ。何処もかしこも、一級品だらけです。洗浄も定期的に行なわれていまして」
「流石、王宮の威厳を守っているだけはある」
「その……ええっと、貴族様のお名前は?」
「アーレンベルク」
「伯爵様でしたか」
「まだまだ、伯爵としては新参者だよ」
「それなら、確かに宮殿の中が珍しいでしょうね。あちこち、見学なさいますか? ご案内しますので」
「それはありがたい。君の名前は?」
「カール・デア・ディーナーと申します」
「それでは、案内を申し込もうか。カール」
その会話を聞きながら、エミルはずっとブローチの表面を見ていた。
怪盗は、アーレンベルクを名乗り、宮殿に侵入。カールと言う使用人に取り入り、宮殿内の情報を収集。
宮殿の中庭を抜け、複数の脱出ルートを確保。
その内の幾つかは……と言う情報を、エミルはバルツァー警部に持たせた。
数日後の伝聞紙に、こうあった。
「バルツァー警部の眼力は冴えわたり、怪盗の逃走ルートをことごとく封じた。中庭に追い詰められた怪盗は、何と言う事か、空を飛ぶ一機のヘリコプターに掴まり、まんまと逃げおおせたのである」
世紀の大怪盗は、近年の発明品を使えるほどの財力を持っているようだ。
そんな財産がありながら、危険を冒して王家から物を奪う意味とは?
その答えは、暫く出そうになかった。




