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第十話「セピア色のワンピース」

 セピア色のワンピースは、服の裾をレースで飾られていた。袖の内側と襟首にも、フリル状に成ったレースが縫い留められている。

 この服を一枚着れば、内側にブラウスを着ているように見えるだろう。恐らく夏服だ。十歳前後の子供が着る丈のその服は、似た物がもう一着あった。

 その一着の方は、レースが存在しない。

「出来たら、もう一着の方と同じレースを縫い留めてほしいのです」と、依頼主の女性は申し込んだ。

「古風なレースですね」と、エミルは応じた。「取り寄せられるレースによっては、繕いは可能でしょう。もし、同じレースが取り寄せられなかったら、どうしましょう?」

「その時は、このまま私の手元に戻して下さい」

「畏まりました」


 エミルは、依頼品のワンピースをトルソに着せた。

 近年の流行りのレースの一覧を見ても、依頼品に使われているレースと同じものは無い。

 表のページをめくり、十八世紀末に開発されたパターンの中に、同じレースを見つけた。

 電話で交換手と会話をし、受話器を置いてから暫く待つ。電話のベルが鳴った。


 送られてきたレースをフリル状にして、不完全な方のワンピースの裾や袖、襟元に縫い留める。

 皮膚に触れた時にザラザラしないように、フリルの根元を隠してリボンを上からたたきつけた。

 全体の僅かな綻びや、糸のほつれも修復する。

 一週間後には、そっくり同じ子供用のワンピースが揃った。


 依頼品を受け取りに来た女性は、目を輝かせた。

「まぁ。これで……これでようやく……」と、感嘆を漏らす。

 女性は気づいたように、ポーチの中から財布を取り出し、「お礼金です」と、高価な紙幣を数枚カウンターに乗せた。

「お釣りは硬貨で?」と聞くと、「いえ、取っておいて下さい」と、女性は言う。

 服をトルソから外し、綺麗に畳んで紙袋に仕舞った。

 それを女性に渡すと、彼女は紙袋を胸に抱いて涙を流した。

 その周囲を、夕暮れのような淡い朱色の光が包む。

 店の天井が淡く消えて、空が透けて見えた。女性の体は、その空の中に舞い上がる。

 セピアのワンピースを着た双子の天使が、彼女の手を掴んで天へと連れて行った。


 天空から注いでいた光が途切れ、店の中が暗くなる。

 ふわりと、カウンターの上に空の紙袋が落ちた。


 許され、天国へ迎えられる条件が、不完全な服を繕う事。

 あの女性は、双子を不平等に扱った母親だったのだろうか。

 あの衣服の記憶を見なかった今となっては、エミルには想像するしかない出来事である。

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