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運命変転 悲しみの鎖に囚われし世界  作者: 蛸の八っちゃん
第六章 堕ちゆく漆黒の中の光に導かれて
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目覚め

 翌日の昼前。クーラーがよく効いた居間と大部屋で十次郎と新吾はもうすぐ起き上がる予定のガクルルの前で座っていた。その後ろには、岳斗のニュースを聞いて駆けつけたタクマ、おひさ、マサさん、英一郎が岳斗の目覚めを待ち望んでいる。日向たちはガクルルの胸、腹、尻尾などのモフモフボジションで待機中。ジョーは外で牧場を眺めながら薔薇を嗅いでいる。


「そろそろだよな……?」


「ああ。さっき胸を触ったら、心臓が波打ってた。治ったかな?」


 そこに紅葉たち三姉妹が来た。十次郎の横を歩いて、ガクルルの頭の側で座った。


「にゃー(岳兄、早く目覚めないかな?)」


「にゃお! んにゃッ!(岳斗の奴、全く心配かけさせやがって。起きたら猫パンチ一発だ!)」


「んにゃお〜!(あたしはチュール三本ね!)」


「にゃお。みゃあん。んにゃん(大丈夫よ、桜、日向、きなちゃん。エリスを信じましょ。昨夜よりも匂いに生気が増してきたわ)」


 杏が尻尾根本、カイトが胸に浸ってモフモフを堪能している。


「んにゃ〜! なぁお〜(んあ〜! 今までで一番最高な絨毯!)」


「にゃほぉ……(イイ……! 溶けちゃいそうだ)」


「んにゃ。にゃおん!(それにしても二人が合体するなんてな。すっげえモフモフやで!)」


「にゃ〜、にゃおん!(お〜い、俺も混ぜろよ!)」


「んなっ! んなぉ~ん(あたしも! 岳兄の胸とか首に乗って、横になりたいよぉ~)」


 大人しく寝てる岳斗をこことばかりにモフモフし回す八匹の猫。心なしか十次郎たちの表情が和らいだ。と、後ろに白いゲートが現れ、白い髪が膝まで届く本来のエリスが出てきた。


「皆さん。おはようございます」


「エリス!」


 全員振り返ると同時にエリスが間を通った。そして、窓ガラスをすり抜けて、外にいるジョーに声をかけた。


「ジョー、ゼロはどうしてますか?」


「ボスは今、街を見回ってるよ。光たちの襲撃があるかもしれないからね」


「そうですか」


「あと少しで胸の薔薇が散る。そうすれば、目を覚ますはずだよ。もう少し待ちたまえ」




 数分後。仕事を一段落させた北三郎、邦子、るり子も大部屋に来て、ガクルルの足元に座っている。と、薔薇が急激に黒ずんで、全ての花びらが次々と散った。茎もヒビが入って、粉々に砕け消えた。


「はっ……!」


 全員身を乗り出して、ガクルルに呼びかけた。トップバッターは邦子だ。


「岳斗ッ! 聞こえる!?」


「おうい、ばあばですよ! 岳斗、起きるんだよ!」


「おーいっ! あたし、るり子! 聞こえてたら返事して!」


「兄様ッ!」


 紅葉がガクルルの頬に肉球を押し付けた。と、ガクルルの瞼がわずかに動いた。こことばかりに、日向ときなこも頬に何度も猫パンチを喰らわせる。


「オラオラオラァ! とっとと起きやがれ!」


「チュールよこせぇ〜!!」


 カイトは鳩尾に、虎次郎は腹に、杏は尻尾の根本にパンチを喰らわす。


「岳斗君、起きて! にしても、胸のモフモフで威力が殺されてるな」


「おりゃ……腹筋、硬えな!」


「岳斗く〜ん! 起きないと丸太のように太い尻尾をあたしの枕にしちゃうよ!」


「岳兄! 起きてぇ!」


 桜がガクルルの胸に乗って、両手で顎を前後にゆすった。呼応するようにガクルルが軽く呻いた。


「んん……」


「岳斗! 俺だ、北三郎だッ!」


「早く起きねえと面に竹刀叩き込むぜ!」


「監獄固めかますぞぉ〜!」


「三時間くらい煎ったコーヒーを飲ませるよぉ!!」


「うぅ……なんだ、うるせえなぁ」


 悪態をつきながら、瞼を開け始めた。懐かしき我が家の天井が見える。その周りに自分を覗き込んでいる家族と友人の顔が見えた。


「兄貴ッ! 目が覚めたか!」


「あれ……? ここは……」


「ここ、お前んちだぞ!」


「俺の家……?」


瞼を完全に開けて、水色の左眼と緑色の右眼のオッドアイを輝かせた。


「ねえ。岳斗、体は何ともないの?」


「んあ、母ちゃん? えと……どこも痛くねえ」


「あぁ……良かった」


 邦子が心底ほっとした表情を浮かべて、全身の力を抜いた。


「あれ……? なんだが奇妙な感覚を感じる。俺の中にシャルルが入ってるような……?」


 言い終わった瞬間、口が勝手に動いた。


「あん? 岳斗が俺の中にいるんじゃねえか?」


「なっ……!? 口が勝手に! どういうことだ……?」


「あぁ、岳斗、シャルル。こうなったのは訳が……」


 十次郎の説明を受けて、仰天するガクルル。


「ええーーッ! エリスが俺たちを合体!?」


「はい」


「う……嘘ぉ!?」


「鏡で自分の姿を確認したらどうでしょうか?」


 言われるがままに起き上がって、お風呂場に駆け込んだ。しばらくして、息を合わせた叫び声が響き渡った。


「なんじゃこりぁああああーーーーーッ!?!?!?」




 しばらくして、戻ってきたガクルルは複雑な表情をしていた。何しろ、二人分の表情だからな。


「ムフフフ……! やったぜ! とうとう、モフモフの肉体を手に入れたッ!」


「チクショー!! エリス! なんだって、この変態と合体しなきゃいけねえんだよ!?」


「なにぶん、急を要する事だったので」


「だとしても! こいつだけはダメだろうが!」


「いいじゃねえか? 自分の尻尾とかをモフモフしてもセクハラにゃならんだろ?」


「何を言ってやがる! おい、エリス!! 合体を解いてくれよ!」


「それは不可能です。貴方たちで合わせて魂一人分なので、合体を解いたらどっちかが死にます」


「んなっ!? じゃあ……他の誰かと合体するのは?」


「無理ですね。一度合体したら一生このままです」


「ガッ…………!!」


「だとさ。仲良くやろうじゃないか、シャルル君?」


「野郎……! いつかぶっ殺すッ!」


 岳斗とシャルル。口が一つしかないので、落語のような話し振りだ。脳内会議の結果、シャルルがテレパシーで会話することにした。これで同時に話せる。


「で……呼び名、どうする? ガクルルとか?」


 るり子の質問に、シャルルが無気力に言った。


(……岳斗でいいだろ?)


「はん……?」


「分かったー」


「じゃあ、着替えてくる。今気づいたんだが、何故か上半身が裸だ」


 そう言って、自分の部屋に向かった。

 



 ガクルル……これ以降は岳斗と呼ぼう。岳斗がクローゼットにある黄色のTシャツを着て、居間に戻るとゼロが大部屋にいた。


「よう、目ぇ覚めたか」


「……ッ!?」


 ゼロの一言で瞳孔が細くなり、ゼロに飛びかかろうと足に力を込める。


「ゼロッ! てめえ、この野郎……」


「待ってッ!」


 るり子の一言で体が一瞬硬直した。


「ゼロは岳斗とシャルルを助けたの。ジョーも生命を維持してくれた!」


「えっ!?」


 ジョーが岳斗の前に歩き出る。


「あれ……そういえば、意外な組み合わせだな。ゼロとエリスは敵同士なんじゃないか?」

「ククク……聞いて驚くなよ。エリスは俺の妻だ」


「ほぉ~…………んなーーーーーッ!!?!?!?!?」


 思わず全身の毛が爆発したように逆立った。


「え……えっ? しかし、ゼロは今まで俺たちに立ち塞がってきた。エリスは俺に運命の力をくれた。とすると、どうしても結びつかねえんだけど……」


「私たちも昨日聞いたんだけど、ゼロは岳斗たちを鍛えてたんだって。儀式は生きてる人にしか出来ないから、岳斗がやる必要があるとかなんとか」


「俺を鍛えてた……?」


「光……ツォンは俺たちの息子だ。光は二つの世界を滅ぼして、理想郷を作ろうとしている」


「……? 二つの世界?」


「あぁ、お前が今いる世界はエリスが『裏世界』を複製して作った並行世界だ」


「何っ!?」


「お前たちは何度も白いゲートを潜って、裏世界に行っただろう。そこで戦った敵は肉体を失った魂が悪霊化した奴らだ。本来、俺たち不知火家が儀式で昇天させる必要があるが、光の襲撃で俺は死んで、凪……エリスは肉体を再起不能にさせた」


「私の脳内宇宙をこの次元に具現化させて、この世界を作りました。その時、私の肉体は魂と精神を失い、動かない塊肉となりました。今ここにいる『私』はこの宇宙自身の精神体です」


「お……おぅ」


(やれやれ、ぶっ飛んでるな)


「まあ、とりあえず飲み込め。窒息の心配はしなくていい。続き……夜はジョーが青龍の像を胸の穴に埋め込んで、四獣となった」


「ええと……となると夜は生きてるのか?」


「それはよく分からん。自分の時を止めて、存在してるからな。生きているとも死んでいるとも言えるだろう。どっちみち魂を失っているから、儀式は不可能だ。結論を言うと、儀式が出来るのはお前と加那江だけだ」


「俺と加那江……ハッ! 加那江はどうなったんだ!?」


「加那江はツォンに囚われている」


「何っ!?」


 岳斗が地面を蹴って、ゼロの前に躍り出た。


「加那江とツォンはどこだ!? すぐに助けなきゃ!」


「詳しい場所はパインに探させている。だが、少なくとも地球の何処かだ」


「えっ、どうしてそう思う?」


「地球がリュカオーン星のクローンだからです」


「リュカオーン星の……!?」


「儀式が出来るのはリュカオーン星のナゥバ洞窟だけ……お前らが行った洞窟だ」


「複製したので、地球にも儀式できる場所があります。おそらくそこに光は現れるでしょう」


「焦るのも無理はないが、少し待て」


「ぐっ……あとどのくらい待てばいい!?」


「安心しろ。ツォンがこの世界を滅ぼす決行日は判明している」


「いつなんだ!?」


「二日後の午後零時……この星を公転する月が新月となる日だ。ユナヴァ星は世界の影を体現した存在。すわなち、無を意味する新月だ」


「あと四十八時間と十二分ほどです」


「四十八時間……! ん?」


 岳斗が突然周りを見渡した。


「あれ……ジェシカたちもいないぞ」


「アイツたちもツォンが攫った。アイツらは四獣だ。麒麟のいる時空の狭間とこの世界を繋ぐゲートを開く鍵だ」


「鍵……!? ツォンは麒麟をここに呼んでどうするつもりだ? アイツらはどうなるんだ?」


「恐らく麒麟を取り込んで、自分が神となるつもりだろう。四獣は……分からん。四獣が人型になったことはこの歴史上、一度もない」


「なら、早く取り戻さねえと! もしかしたら死ぬかもしれない!」


「慌てるんじゃない。麒麟へのゲートが開くのは新月が真上に上る直前だけ、つまりほとんど丸二日間は開かない」


「……信じていいんだな?」


 岳斗がゼロを見定める。その表情は険しい。


「……信じてもらうしかない。信じないなら、俺を倒せ。それから自分で探し回ればいい」


 ゼロの思いがけない言葉に少し驚いたが、そのお陰で覚悟が決まった。


「………………わかった。エリスに免じて、あんたを信じてやる」


 こうして、岳斗とゼロは光を共通敵に設定して、共同戦線を張るのだった。

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