名案
十曲歌って、開場から50分後。(十次郎は内5曲参加)
休憩時間に入った所で、岳斗と新吾の所に関根が来て、渋滞に巻き込まれたメンバーが無事来たことを耳打ちしてくれた。そして、2人を楽屋に案内した。楽屋に入ると十次郎が他のメンバーとハイタッチしている所だった。
「悪い悪い。遅れたわ」
「大丈夫だよ、ジュージが間を埋めてくれたんだぜ!」
「ははっ、本当にありがとう!」
「いやいや、こっちもありがとうだ! 久しぶりにライブ出来たんだから、ラッキー!」
他のメンバーの1人が十次郎の肩を軽く叩いた。
「助かったぁ〜! それにしてもスッゲ〜上手いじゃん!」
「へへ、柄になく頑張ったぜ」
「ジュージ、天才じゃね?」
「俺もそう思う! 2時間で振り付け覚えて、俺たちに合わせるとかバケモンレベルだわ〜」
「いやぁ〜。照れるぜ」
そう言いながらも満更じゃなかった。関根が十次郎に歩いて、肩に手を置く。
「十次郎君! お疲れ様!」
「関根さん!」
「いや〜、本当に助かったよ。あとでギャラ代をあげるよ」
「ええっ!? いやいや、そんな! 正式なメンバーではないですし……」
「いや、形はどうであれ最後までやり遂げて、観客を楽しませたんだ。君は十分プロだよ。なら、そのお礼としてギャラをあげるのは当たり前のことだ。どうか、受け取ってくれ」
「関根さん……わかりました。なら、お言葉に甘えてもらっておきます」
「おおっ、ありがとう」
休憩時間が終わり、11曲目からは本来のメンバーで参加することになった。関根の計らいで、岳斗たち3人はステージの袖から覗き見ることになった。
「へへ、まさかここから見れるとはな。ラッキーだぜ」
「ふふ、身内の特権だ。楽しんでくれ」
さらに1時間ほど楽しんで、メンバーたちがお別れの挨拶をして、ステージから退出した。十次郎がメンバーたちに言った。
「お疲れさん。最高の歌だったぜ」
「どーも! 楽しんでくれて、良かった」
と、観客席から「アンコール! アンコール!」声が一斉に轟いて来た。
「やれやれ、アンコールか」
「クク、人気者は辛いねえ」
「さて! 準備して、戻るとするか!」
楽屋でツアー用のTシャツに着替えて、再びステージに戻った12人。
「Hey! どんな曲を歌ってほしい?」
瞬間、観客が心を一つにして、叫んだ。
「Darkness Field!!」
「OK〜! よっしゃ、みんな!」
「おうよ! 俺たちは準備出来てる! お前らは出来てるかーー!」
「イエーーーーイ!!」
観客がそれぞれの推しの色に輝くペンライトを頭上に掲げながら、出せる最も大きな声で叫んだ。
二列に並んで、一人一人を淡いスポットライトが照らした。音楽が流れ始める。
「〜〜〜〜♫…………
月さえ隠れた Darkness Field…………
歌が始まった。岳斗はダンスを見るフリして、横目で十次郎を見た。
「…………」
十次郎は終始決意と羨望が入り乱れた瞳で見つめていた。
ライブが終わって、楽屋の外で関根からギャラを受け取った。
「関根さん。今日はありがとうございました。おかげで……すっごく楽しかったです」
「そう言ってくれて、良かった。ところで……」
そこまで言って、関根は唾を飲み込んだ。それがやけに大きく廊下で反響したように感じた。
「君さえ良ければ……今からでもジャパニーズに戻ってくれないか? 今日の踊りを上に見せれば、行ける……かもしれない」
「……ッ!?」
岳斗たちが驚いて、関根の瞳を見た。目が揺れていない。どうやら、真剣なようだ。
「マジかよ……? 十次郎、どうする……?」
新吾が気持ちの整理を後回しにして、十次郎に決断の意思を聞いた。
「…………」
岳斗は目を閉じて、十次郎の口から言葉が出るのを待っている。いつ終わるとも知れない沈黙が岳斗たちを包んだ。
「関根さん……」
十次郎が消え入りそうに、だが、心の奥まで届く声で言った。関根が平常心を必死に保とうとしているが、頬が少し赤い。
「……本当に申し訳ないのですが……その話は辞退させてください」
「な……!」
「十次郎!?」
驚いて、崩れ落ちそうな膝をなんとか支える関根。
「実を言うと、今回幸運なことにステージで踊れて……少しあった未練も綺麗さっぱり消えてしまったんです」
少し俯いたのち、太陽の笑顔を浮かべた。
「俺……楽しかった。本当にありがとうございました、関根さん。今までのご恩、決して忘れません!」
「十次郎君…………」
我に返った新吾が十次郎に慌てて詰め寄った。
「ちょ……おい! 十次郎、本当にいいのかよ?」
「……ああ」
「だってよ、あんなに楽しそう……」
「新吾君!」
腹から声を出した真剣な声に思わず、息を飲んだ。
「十次郎君が自分で決めたことだ。たとえ親友だろうと口を挟んではいけないよ。もちろん私もだ」
「は、はい……」
「……ふっ。いい親友を2人とも持ったね、十次郎君」
「ええ……俺もそう思います」
「じゃあな、十次郎君。また会うかどうかは分からないが、君がどんな道を行ったとしても私は応援するよ!」
十次郎の肩を少し強めに、2回叩いた。
「じゃあ。気をつけて帰れよ」
そう言って、背を向けて去った。関根が楽屋に入ったのを見届けて、十次郎が頭を深く下げた。
その時、岳斗は十次郎のつむじを見つめながら、心の中で呟いていた。
(十次郎、未練がある目をしてただろうに……。もしかして、審査に合格して正々堂々と入りたいんだろうか? まあ、俺にゃ分からんがな。とにかく、十次郎を信じるとしようか)
現在 十次郎は正座でへたり込んでいる。
(関根さん……ごめんなさい。スッキリしたなんて嘘なんです。実は……実は未練タラタラなんだッ!)
5ヶ月前の自分の選択を後悔して、唇を噛み締めた。
(タラタラどころか、火山のように溢れ出してるんだ……! でも……でも、行動する覚悟がほんの……ほんの少し足りませんでした。怖いんです。またライバルたちに置いて行かれたらどうしよう……。また怪我して……今度こそ踊れない体になったらどうしよう……。そう思ったら踏み出せない。今だって、俺の一言で誰かを殺すかと思うと……どうしても、どうしても言葉が出てこない)
と、北三郎の声が聞こえた。
「クソッ! あと3分しかねえ! くっ……!」
「どうしたらいいの……?」
「やはり加那江を捨てるしかないでしょう……」
「だから、それもダメだッ!」
「では、何か代案はお有りですか?」
「……ッ」
北三郎が唇を噛み締めたまま、言い返せない。時計の針がじわりじわり北三郎たちの首を絞めていく。十次郎が振り向いて、岳斗の心臓の穴を見つめる。そして、自分の人生を考えてみた。
(……思えば、俺はこれまで、覚悟を決められないことを言い訳にして、ダラダラ決断を先延ばしにしてたよな? 結局は覚悟を決めないまま人生を終えていくこともあり得るかもしれないのに)
自分の愚かさを自覚して、拳を握りしめる。そして、目を大きく見開いた。
(そんな俺が覚悟を決めてから動くのか? 笑止ッ! 行動してから覚悟を決めるのだ! 行動を始めたら、俺の覚悟は何度も何度も砕け散るだろう。なら、その度にまた覚悟を決めればいいだけだ!)
決意。勢いよく立ち上がった。
「十次郎君……?」
「新吾ッ! ピンタしてくれ!」
「ええっ!?」
新吾だけでなく、北三郎たちも驚いて、十次郎を見上げた。彼の目には決意と覚悟がはっきりと宿っていた。
「俺はッ! 覚悟を決めるッ! 最後の一秒まで全員助かる道を考え抜く覚悟をッ!!」
「じゅ、十次郎……」
新吾が唾を飲み込んで、立ち上がる。十次郎を正面に見据えて、腕を上げた。
「よし……! 十次郎! 歯を食いしばれッ!!」
足に力を入れて、体が回転を始める。唸りを上げた手が十次郎の頬に当たって、勢いよく振り抜いていった。十次郎も覚悟をしていたのか、なんとか踏ん張った。赤くなった頬をさすりながら、元の体勢に戻った。
「おー……思ったよりも痛えなぁ。ムカついたから、お返しだ」
「ええっ!? なんで俺が!」
新吾が腰を引いて、逃げようとする。十次郎も一歩踏み出す。
「歯ァ食いしば……ん?」
十次郎の目が新吾のTシャツに釘付けになった。
「十次郎? どうしたんだ?」
「…………閃いたッ!」
十次郎の目が大きく見開かれた。希望を見つけた歓喜の表情を浮かべて、新吾の肩を勢いよく掴んだ。
「フォージョン! 肉体が余るなら、合体しちゃえばいいんだよ!」
「ええっ!?」
「新吾。英一郎さんのカフェに入る前、本屋に寄って、俺はジャンプを買ったよな? 今回の龍魂で、栗リンを河豚ーザとナンパに爆破されて、絶体絶命の米空とべバターがフォージョンを試そうとしてたんだ。成功して、パワーアップした1人の食材戦士になって、河豚ーザと対等に渡り合う」
「……! そうか、肉体が6つ、魂が合計5つ。なら、誰か2人を合体すれば……」
「肉体が5つになって、魂も5つ!」
「おおっ!! 同じだッ!」
十次郎と新吾が両拳を合わせた。
「成程……なら、私にいい方法があります」
「本当か!? エリスさん、どんな方法ですか?」
「二魂還始。元々は欠けた魂を持った複数人を集めて、1人の人間に融合する儀式に使われました。北三郎さん、邦子さん、るり子さん、ついてきてください」
エリスに従って、大部屋に移動した。エリスは北三郎たち3人を岳斗たちを囲むように立たせた。
「さて、これから魂を整理します。流れはこうです」
現在:岳斗0.5 加那江0.5 シャルル1 北三郎0.5 邦子0.5 るり子1 (ジョー1)
北三郎の半分魂とシャルルの完全魂を入れ替える。北三郎1 シャルル0.5
邦子の半分魂を加那江にあげる。邦子0 加那江1
ジョーの完全魂を邦子の器に入れる。邦子1 (ジョー0)
ここまで来ると岳斗0.5 加那江1 シャルル0.5 北三郎1 邦子1 るり子1
ここで二魂還始を実行すれば、岳斗とシャルルが合体して、ガクルル?が完全な魂を手にする。
「よし、これで問題ありませんね」
「結構めんどくせーな。一気にやればいいんじゃないか?」
「いえ、順番を慎重に検討して、順番通りにやる必要があります。一つの肉体に1.0より多い量の魂が入ると、途端に激しい苦しみに襲われて、肉体が爆散する可能性が出てきます。過剰な魂の量が多いほど爆散しやすくなります」
「な、成程……」
「では、始めましょう」
エリスが左手を北三郎に、右手をシャルルに向けて何やら呪文を唱え始めた。瞬間、北三郎とシャルルを包むように白いオーラが現れた。
「よし……ハッ!」
掛け声と共に腕をクロスさせた。すると、北三郎とシャルルから白い火の玉が飛び出て、相手の胸に飛び込んでいった。北三郎が膝を落として倒れようとするのをるり子が駆けつけて、支えた。
「今ので、魂が入れ替わった……?」
「あぁ、そうみたいだな……」
と、十次郎に疑問が生まれた。
「あれ? つうか、魂を入れ替えちゃったらさ、人格も変わらね? シャルルが酒で酔っ払って女引っ掛けるエロ猫、北三郎がニャーニャー鳴いて、岳斗に撫でられるおっさんとかな」
「おお……想像してみたら、中々奇妙だな」
「いいえ、その心配はありません」
「えっ、そうなのか?」
「はい。魂と精神は別の存在で、精神は脳の働きによって作られます」
「脳……」
十次郎が自分の脳を指差したところで、北三郎が目を覚ました。
「んあ……? 俺は……」
「北三郎さん! ポインポインの姉ちゃんが後ろにいるぞ!!」
「んなッ!?」
北三郎が勢いよく立ち上がって、辺りを見回す。
「あれ〜? どこにもいねえじゃねえか?」
「嘘ですよ」
「ええっ……!? そんなぁ……」
腰を落として、ガックリする北三郎を見て、新吾が言った。
「よし、いつも通りだな」
「ほっ……良かった」
「どうやら、性格は変わってないっすね」
「さて、次は邦子さんです。ジョー、加那江に移し終えるまでに魂を保存してる氷を溶かしてください」
「フッ……了解だよ、マダム」
ジョーが氷に薔薇の花びらを一枚載せた。氷が湯気を発して、溶け始める。エリスが邦子に手を向けた。邦子もるり子に支えられながら、緊張した顔を浮かべている。呪文を唱えて、邦子の体を白いオーラで包んだ。と、手を自分の胸に叩きつけた。邦子の魂がエリスの胸に突き刺さった。
「えっ!? エリスさん……」
意識を失った邦子を支えながら、るり子が戸惑っている。
「私を経由して、加那江に送りました。よし、無事届いたようです」
「マダム! 氷が溶けたよ」
「了解です」
ジョーから魂を受け取って、素早く邦子の胸に押し込んだ。一瞬痙攣したのち、目を覚ました邦子。
「邦子さん、目を覚ましましたか。いよいよ、大詰めです。岳斗とシャルルを合体しましょう」
エリスが正座して、左手にシャルル、右手に岳斗にかざした。先ほどよりも長い呪文を唱え切って、目を閉じる。数秒ほど沈黙していた。
「……ハッ!!」
掛け声と共に、両手を勢いよく合掌した。合掌の音が響き渡ると同時に、岳斗とシャルルの体が光り始めた。と思ったら、光が激しくなり、全員思わず目を瞑った。
しばらくして、光が収束した。そこには灰色に近い蒼色(くすんだ青)と純白で分かれたハチワレ(額から始まって、目の下を通る。そして、胸・腹を通って、尻尾の中央で収束している)猫イルカ獣人……岳斗とシャルルが合体した一人の獣人が横たわっていた。シャルルのもふもふは合体しても損なわれていない。それどころか、ボリュームがさらに増えたのは、岳斗の獣愛好精神による賜物だろう。 二人分の肉体が一人の肉体にまとまって、胸の穴が綺麗に消え去って、毛が隙間なく生えた。
「あっ!」
「魂も完全に満たされたようです。ふう……」
エリスが額の汗を腕で拭った。ゼロが立ち上がって、大部屋に入ってきた。
「よし、最大の障壁を乗り越えた」
「最大の障壁?」
「岳斗を殺した終焉を呼びし紅き果実。あれは心臓と黄泉の魂を引き換えに発動する人が生きている必要がある。そして、今の光は死人だから、二度と発動出来ない。それに、真の力にはもう一つ弱点があって、真の力を使った後に新しく生まれた運命の力に関しては干渉出来ないのだ。つまり、奴は麒麟の力を手に入れることでしか、岳斗を倒せない」
「あれっ、いつ生まれたんだ?」
「岳斗とシャルルが合体した時だ。運命の力は精神を司る脳によって保持され、意思や覚悟をパワーに変える。合体して一つの脳となれば、二つの運命が混ざり合い、新しい運命の力に変化する」
「どんな力かは実際に使ってみないと分かりません」
「クク、後のお楽しみってな。まあ、大丈夫かもな。俺が少し前に岳斗と戦った時、岳斗が覚醒して、俺を打ち破った。俺の運命の力は光と同じくらいだ。その俺を打ち破ったってことは、岳斗は光より格上だ。増してや、シャルルと合体したんだ。覚醒しなくとも、光に勝てるかもしれねえな」
「おおっ!? そりゃ、すげ……って、待て! あんた、岳斗と戦ってるのかよ!」
「クク、十次郎。岳斗を成長させる為だ。俺が本気を出せば、光と渡り合えるが、俺には致命的な問題がある」
「致命的な?」
「俺も死人だ。麒麟は死人を嫌う。完全な四獣が揃ったとしても、完全な儀式が出来ない。だから、岳斗、加那江、シャルルの誰かに儀式をやってもらおうと思った。だが四獣の試練を乗り越えて、四獣の像を得るか四獣を仲間にした者にしか麒麟を呼ぶことが許されない。それなりの実力は必要だ。だから、俺が敵になって、鍛えた」
「そうだったのか……」
「どんな儀式なんだ?」
「死者の魂を輪廻転生させる儀式だ。魂は放っておくと彷徨って、悪霊化するからな」
ゼロが口の中で笑いを響かせながら、居間の方に歩いて行った。
「ククク……中々俺を楽しませてくれた岳斗だ。このまま死なせるには惜しい」
「はぁ……。まあ、生きててくれて良かった。俺、諦めなくて本当に良かったぁ……!」
十次郎が感激で涙を流し始めた。新吾が十次郎の肩に手を優しく置いた。
「エリスさん。傷が消えたみたいけど、岳……ルル?はいつ目を覚ますの?」
「まだ心臓の修復が済んでいません。 一日ほどかかるかと」
「私がつきっきりで見守ろう。完治するまでは安心できない」
「ジョーさん、ありがとう。 お願いします」
邦子がジョーにお辞儀した。
「もちろんさ、邦子」




