運命再誕 デスティニーリバース
北三郎と邦子が大部屋側で、ゼロとエリスが反対側となった。 ゼロから口を開いた。
「時間がないから、手短に話す。 岳斗、加那江、シャルル、そして俺とツォン、エリスは運命の力を持っていて、その中でもツォンは運命を自分の思うままに固定できる能力を持っている。 それで岳斗とシャルルの死を不動の事実にしようとした。 しかし……」
そこまで言って、岳斗とシャルルを一瞥した。
「奴は一つの誤算に気づかなかった」
「誤算?」
「終焉を呼びし紅き果実……運命の力の上位互換とでも言おうか。 自分の肉体に宿る心臓を捧げることで発動できる。 しかし、他にも大量の魂が必要なのだ。 奴はそれを知らなかった、いや、死る由もなかった」
「どうして?」
「平常時ならば、黄泉の魂が消費されて、星にいる俺たちは気づかないからだ。 かくいう俺も若い頃は、地獄によく遊びに行って、よく大暴れしたものだ。 その時、売られた喧嘩を買って、完全にぶちのめしたのが7つの大罪だ。 今では俺のいい部下だよ」
「フッ、このジョーもその1人さ」
「そ、そうなのか……」
北三郎と邦子がジョーの方を振り返った。
「まあ、暴れすぎて最終的には閻魔様に徹底的に叩きのめられたがな。 今は俺も落ち着いて、仲良くさせてもらってるぜ。 とまあ、その閻魔様から大量の魂が必要だということを聞いた」
「成程……ぼんやりと分かってきた。 だが、それが岳斗たちとどう関係するんだ?」
「今、光は現世の魂を宇宙の輪廻5207周分回収して、黄泉に魂が全く回ってこない状況だ。 つまり、この現世にある魂を除いたら、あとの魂は全て奴が持っていることになる。 だが、肉体は特別な事情を除いて、魂を一つしか宿られない。 そこで、魂を保管する容器を作って、そこに保管している。 そこで問題が起きる」
「問題?」
「黄泉の中に魂が十分な数だけ存在している状態でない限り、真の力を使おうとしても発動しないという特質がある。 今回のケースの場合だと、足りない分は光が肉体から取って保管している魂で補うそうだ。 つまり、心臓と魂が無くなるだけで真の力が発動しないという状況だ。 俺も理由は分からんが、神の使いである閻魔様がそう言ったから信じるしかないだろう」
そこまで言って、ゼロがテーブルに手をかざした。 瞬間、黒いゲートが渦巻いた。
「なっ! 今度は何をするの……?」
「まあ、見てろ」
ゲートの中の黒い霧が晴れ、光と老人がテーブルを挟んで、狭い会議室で会話しているのが見えた。 光は黒いソファー、老人は車椅子、その老人の後ろにオールバックが立っていた。
「何だ、隠しカメラでも仕込んだか?」
「いや、千里眼だ。 光を見ろ、焦っている様子がまだない」
「まだ気づいてないってこと?」
「そうだ。 しかし、時間の問題だ。 いつ気づいて、魂を黄泉に送るかは分からん。 その前にお前を殺す必要があった」
「……ッ!」
先ほどの戦いを思い出して、冷や汗が出る。
「ど……どうして、北さんを殺すことが、岳斗とシャルルを救うことになるの?」
「……」
邦子を一瞥して、北三郎の方を向いた。
「それを説明するには250年前に遡る必要があるが、できる限り手短にまとめよう」
目を閉じて、長いため息を一つ吐いた。 そして、口を開く。
「さて……250年前のある日、俺たちの村では魂を輪廻転生させる儀式が行われるはずだった。 光は生贄として麒麟に心臓を差し出す役割を負っていたが、突然光と守殿一家が村に攻め入った。 ジンたちが真呂の子供たちと戦ったが、殺された。 夜と仙も立ち塞がったが、夜は光に心臓と二つの魂を奪われて、瀕死になった」
「ん? 魂が二つ?」
「ああ、儀式の関係で二つ持っていた。 時間がないから、今は飲み込んでくれ。 さて……動けない仙にも手をかけようとした所を俺が救って、すぐに俺の運命の力で光の存在を過去現在未来に渡って、消そうとした。 しかし、光は一足早く、自分の胸を短刀で抉って、取り出した心臓で真の力を発動した。 そして、俺は真の力を使う暇もなく、心臓を貫かれた。 血を出しながら死んでゆく俺は最期、光が残酷な笑顔を浮かべながら、夜の心臓を自分の胸に入れるのを見た」
ゼロが一通り語り終えたところで、エリスが口を開いた。
「ここからは私が補足します。 万が一、儀式が成し遂げられないと魂が転生出来なくなり、新しく生まれることが出来なくなります。 さらにその魂は悪霊となって、私たち不知火家全員を祟り殺します。 数では圧倒的に負けるので、不知火家の血が断絶することは確実でしょう。 結果、この宇宙で生きる人がいなくなる……と、かつては信じていました」
「ん? かつては……?」
「ええ、これは真呂が仕組んだ出鱈目でした。 それを知ったのはそれから数十年ほど後ですが、あの時の私は知りようがありませんでした。 ともかく、万が一の為に、運命再誕の力を使って、世界を複製します。 具体的には、世界の土台となる宇宙を作って、そこに生者の数だけ肉体を生成して、そこに魂を移します。 死者の魂は元々あった世界に残すのです」
「成程ね……。 まるで青森のむつ市と似てる。 使い終えた核燃料を一時的に貯めてるんだよね?」
「あぁ〜……いや、待てよ? なんで生きてる人だけなんだ? 死んでも魂が残るなら、その魂も移せばいいんじゃないか?」
「いや、それは不可能だ。 死んで、魂が肉体を離れた瞬間、魂に穢れが付く。 その状態で肉体に埋め込んでも拒否反応が起こってしまう」
「そうか……」
「あの時、世界の大部分の魂を移し終え、残るは私がいた村だけでした。 私たちの魂をまとめて移し始めたその時、光が襲ってきました」
「ええっ!? それで……どうなったの?」
「ヴィンオラフが立ち塞がって足止めしてくれましたが、すぐにやられて、再び私に近寄ってきました。 光の短刀が私の心臓を貫こうとした瞬間、空間が青い光に包まれて、村にいる全員がこの世界に飛ばされました」
「あぁ……バラバラに飛ばされたおかげで俺たちは助かったが、光と真呂の行方も分からなくなった」
「とりあえずは良かった……ってことでいいの?」
「まあ……そう思っていただいても構いません」
「ちょいと待ってくれ。 青い光って、一体何なんだ?」
「青龍が暴走したらしい。 詳しいことはジョーの方が知ってるようだ、話してやれ」
「フッ、了解だよ」
ジョーが立ち上がって、襖に軽くもたれかかった。
「そうだな……あの時、私は四獣の像を持って、ボスと共に戦いに参加していた。 そこに光が夜の心臓と魂を取る所に偶然出会して、ボスが激しく怒ったんだったね」
「ああ、それで俺はお前に夜と仙を託して、光と一騎打ちを始めた」
「私が夜を運びながら仙が妖術で治療していたが、夜の容態は弱まるばかりだった。 そこで、民家に入って、そこで本格的な治療に専念した。 今の岳斗とシャルルのように薔薇を胸に植えて、生命エネルギーを注入したが、峠を乗り越えられないということがすぐに分かったよ……。 そこで……私は一つの賭けに出た」
「賭け?」
「夜を四獣のどれかの核にするのさ。 簡単に言えば、夜が四獣の容れ物になるという感じかね? とまあ、たまたま青龍を選んで、夜の胸の穴に突っ込んで、仙が共鳴の呪文を唱えた。 すると、夜の体が光って、傷が塞がった。 そこまでは良かったんだが、魂が無かったせいで、暴走してしまった」
「魂があれば、核となる肉体に近い姿になるが、魂がない状態で共鳴すると像の姿になるんだったな」
「その通りだよ、ボス。 諸君、話はここからが本題さ。 青龍の暴走で、マダム――私は凪をそう呼んでいるのさ――の世界複製は不完全となった」
「ええ。 私の計画では、夜の魂を二つとも岳斗に、零は北三郎さんに、私は邦子さんに、仙はるり子さんに移すつもりでした」
「えっ! るり子も?」
「はい、ですが、光の襲撃で予定が狂いました。 最も、移す途中で私が殺されたら、移している途中の魂は空間を彷徨う霊となっていたので、あの暴走は幸運でした」
「どうして幸運なんだ?」
「それは魂を移す途中の段階で時が止まったからです。 意図していませんでしょうが、結果としてそうなりました」
「そうか……。 結局どうなったんだ?」
「まず、魂を二つ奪った光ですが、自分の肉体に魂を一つ入れて、この世界に来ました。 もう一つ……それはシャルルです」
「シャルル!?」
北三郎がシャルルの方を見た。
「一言で言ってしまえば、シャルルは真呂の手によって作られた人工生命体なのです」
「ええーーーッ!?」
北三郎と邦子が同時に立ち上がって、家が揺れる勢いで驚き叫んだ。
「え……ええ? シャルルが創られた? 嘘だろ……」
「驚く気持ちはわかりますが、今は話を最後まで聞いてください。 シャルルは魂を完全に持っているので、蘇生は可能です」
「えっ、そうなの? なら、安心していいのかな……?」
「次に、夜は魂を奪われたので飛ばします。 零ですが……これもまた特殊なケースなのです」
「ああ。 光にやられて、俺は死に向かっていた。 それに辿り着くと同時に夜の暴走が起きた。 その影響で魂だけが転移して、岳斗に辿り着いた」
「今度は岳斗なのか……」
「ところで、北三郎さん。 岳斗が熊に襲われた事件は覚えていますか?」
「……ッ!」
北三郎の脳裏に8年前の地獄が蘇って、思わず体を硬直させた。 顔から血の気が引いて青くなっている。
「貴方が駆けつけて、岳斗を助けた。 その代わり、貴方が重傷を負った……そうですね?」
「あぁ……それがどうした?」
エリスが一瞬躊躇うように北三郎を見つめた。 そして、話す覚悟を決めた。
「北三郎さん……貴方は、あの時に死ぬ運命だったのです」
「な――?」
自分の心臓が太鼓を打ったかのように大きく響いた……ように感じた。
「岳斗が運命変転を使って、魂を共有したのです。 無意識にですが」
「岳斗が……!?」
「ああ。 そこで俺がお前を殺そうとした理由に繋がる。 光が岳斗を殺したことで、魂のバランスがお前に偏っている状態だ。 光の運命固定が完全に発動する前にお前を殺せば、魂は岳斗の中で安定して収まる」
「何だって……!?」
北三郎の目が見開かれ、勢いよく立ち上がった。 そして、テーブルを回って、ゼロの側に来た。
「もしそれが本当なら……ゼロ! 今すぐ俺を殺せッ!」
「なっ? 北さん、何バカなこと言ってるの!?」
邦子も立ち上がって、北三郎に叱るように叫んだ。
「岳斗とシャルルが目覚めた時、貴方がいなくなったら、あの子たちはッ……どうなるの?」
「邦子……残酷なのは分かってるつもりだ! でも、岳斗が死んでいくなんて、黙って見てられねえッ!」
「……ッ!」
邦子がゆっくり岳斗とシャルルの方に振り向く。 そして、震えながら目を閉じた。
「…………ダメ。 選べない……。 だって、どっちを選んでもシャルルが悲しむ。 増してや貴方が死んだら、岳斗も! あの子、この二年間でやっと落ち着いてきたのよ!? それを、それを…………」
そこから先が声にならない。 ゆっくり北三郎の方に振り向いて、震えながらも力強く北三郎の服を両手で掴んだ。 そして、胸に軽く頭突きして、涙を流し始めた。
「邦子……………………クッ………………」
かける言葉が思い浮かばない。 左を選ぶも、右を選ぶも地獄。 足は鉛となって、分岐点で立ちすくむ。 しかし、後ろから最悪のタイムリミットの足音が響く。
どうしたら…………どうしたらいいんだ――――。
「私の魂を使いたまえ、諸君」
ジョーの声で、弾かれたように頭を上げる2人。 ジョーが右手で胸に穴を開けて、左手で白饅頭らしき物体を魂保管専用氷で包んだ物を差し出した。
「なっ……!? あんた、魂を失ったら――」
「心配はいらないさ、私はとっくに死人だ。 魂などあっても無くても一緒だと思わんかね?」
そう言って、右手を離した。 胸の穴が閉じていく。 北三郎が腕を震わせながら、ジョーから魂を受け取った。 北三郎と邦子の嗚咽が響き渡る。
「うっ……うぐっ…………あ、ありがてえ…………ッ! ありがとう……ッ!!」
「私からも……ッ! お礼を言います、ありがとう……! ジョーさん!」
2人で同時にジョーにお辞儀して、腕で涙を力強く拭き取った。 そして、元の席に戻って、テーブルの上に魂を置いた。
「さて、話を続けましょう。 まず、私の魂は本来邦子さんに送られるはずでした。 しかし、青龍の暴走と儀式の未完了などの要因が相待って、貴方には半分しか届きませんでした。 残りの半分ほどは加那江の方に行ってしまいました」
「あれっ? 俺と岳斗が魂を共有しているのと同じか?」
「はい、そうです。 そして、最後に仙からるり子さんの場合、魂自体は完全に転移出来ましたが、妖力がほんの僅かしか転移出来ませんでした。 結果、今の仙は妖力だけで形作られた幽霊のような存在です」
「これで全部か……ん? 待てよ」
「どうしたの、北さん?」
「おい……大変だ! 一つ足りねえ!」
「あぁ、成程。 今、シャルルとるり子は魂を完全に持っています。 岳斗と北三郎さんは一つの魂を共有していますが、ジョーの魂を加えて二つとなるので、それもクリアです。 問題……邦子さんと加那江も一つの魂を共有していて、どちらかが死ぬかを選ぶ……」
「おい、そりゃ待った! 一つ足りねえ……他に魂はねえのか?」
「いいえ、ありません」
「俺も持ってねえ」
「私も自分の魂を差し上げてしまったよ」
「そんな……いや、待てよ! 光が魂を大量に保管してるんだろ? それを一つ掻っ攫って、ジョーの氷に保管すれば……」
「いいえ、不可能です。 あの魂は穢れこそ無いものの、光の運命固定で成り立っている存在です。 光を倒せば、その魂は即時穢れを持ち始めるでしょう。 そうなれば、その魂の持ち主はまた死にます」
「くっ……でもよ、そもそも魂を共有出来るんだよな? なら、そのままでもいいんじゃねえか?」
「いや、その状態は長く持たない。 魂を共有するってことは、本来完全な魂で満たされた器に隙間が出来るってことだ。 隙間があると、魂を持たざる死霊や怨霊がそこから入ってきて、肉体や精神を脅かす。 そもそも8年生きられただけでも奇跡中の奇跡だ」
「ええ、それに関しては私も同意見です。 肉体や精神を手に入れた悪霊は他の人間に膨大な悪影響を及ぼして、最悪死に至らせる恐れがあります。 それに……」
突然エリスの眼差しが氷のように冷たくなった。 北三郎と邦子は背中に悪寒を感じた。
「加那江は赤の他人でしょう?」
「――ッ!」
言い返せない。 残酷な提案が思わず頭の中で浮かんでしまう。
「加那江は元々死ぬ運命でした。 それに、たかが数回会っただけの他人……そんな人の為に自分の命を投げ打って、家族を悲しませるおつもりなのですか?」
「そ、それは……!」
と、岳斗たちが出発する風景が脳裏に蘇った。 あの時はこんなことになるとは思いもしなかった……。 加那江の笑顔をはっきりと思い出す。 邦子が大きく息を吐いて、力強い視線をエリスに向けた。
「エリスさん。 確かに私たちは加那江ちゃんとは二回しか会っていない。 でも……岳斗にとっては、この数週間旅路を共にした大切な仲間のはず。 加那江ちゃんは元々死ぬはずだったのに、生き延びたんだよね。 生き延びて……岳斗とシャルルと出会えた。 ……その喜びをぬか喜びにさせていいの!?」
「残酷ですが、やむを得ません。 この世界を守る為には、これしかないので……」
「ふざけんなァッ!」
エリスが言い終わる前に、北三郎の拳が上からテーブルを叩きつけた。 顔を上げて、エリスを睨みつける。
「……こんなことは言いたかねえが、光ってあんたらの息子なんだろ! 元を辿れば、あんたらの教育失敗だろう!? 魂だって完全に移せなかった! そのせいで今こんなことになってんだろうがッ!? そのツケを俺たちに負わせようたぁ、虫が良すぎるにも程がねえかッ!?」
そこまで言って、ゼロを一瞥した。 再びエリスの方を見て、言った。
「あんたら…………それでも親なのかッ!!」
「…………!」
ゼロとエリスの瞳が初めて、揺れた。 迷いの一石が投じられて、心の中で水紋が広がる。
「…………」
全員石になったかのように動けない。 どうしようもなく重い沈黙が空間を包んだ。 どのくらい時間が経ったのだろうか……。
ドサッ……。 地面に何かがぶつかったような音が大部屋の縁側から聞こえた。 全員振り返って、縁側に駆けつけた。 縁側を降りた裏庭には、申し訳なさそうな様子のるり子と『竜魂』のアニメTシャツを着ている新吾、尻餅をつきながら青ざめている十次郎がいた。




