第3話 愚かな下心
僕は彼女を部屋に入れた。
部屋の電気をつけ、バスタオルを取り出し彼女に渡した。シャワーの使い方とスエットが入っている引き出しの場所を伝えて、「腹減ってますよね?買ってきますよ。」と言い部屋から出た。彼女は何も言わずに、驚いてるような怯えているような不思議な顔をしていた。
初めて会った人を部屋に入れ、シャワーを貸し、飯まで買いに行っている。一見善人のように思えるが、それは違う。僕はチャンスだと思った。
《やれる。やれる。これはいける》
僕は彼女を部屋に入れた瞬間から下心がわき、その後は彼女をそのような対象としか見えなくなっていた。
近所のコンビニへ行った。買い物カゴを手に取り、店内の奥の方に足を向けた。
「0.03ミリと0.02ミリ……200円差か……」
少し高めのコンドームを手に取り買い物カゴに入れた。立ち上がろうとした時にボクサーブリーフが目に入り、MサイズとLサイズがあったので小さい方を手に取りこれも買い物カゴに入れた。流石に他人の下着は履きたくないだろう、そのように思ったからだ。その後は酒、おつまみ、夕飯用のパスタなど適当に選び買い物カゴに放り込んでいった。
会計をしてもらおうと思ってレジに行った。
レジに立っていたの知り合いの山下さんというおばちゃんだった。
「あ、こんばんは。」
「あら〜川端さん、こんばんは。仕事終わり??ご苦労さま〜。」
「あー、はい。」
正直僕は、この人が苦手だ。なんかめんどくさい。
それでも普通に会計をしてくれた。手際良く商品のバーコードを読み取っていき、パスタは電子レンジで2つとも温めてもらった。買い物カゴの一番下からコンドームが出てきた。それを見て山下さんはニヤリと笑い「若いわね〜」と言った。大きなお世話だ。
会計を済ませてパスタが温まるのを待っている。
チン、という音が聞こえたので山下さんの立っているレジに戻りパスタを受け取った。いつもならそこで「ありがと〜またね〜」と山下さんは言うのだが今日は、「泣かせちゃ駄目だからね。」と、小さい声で言いレジ袋を差し出してきた。
コンビニから出て家に向かう。下心は恥じらいもなく僕の心の中で渦巻いるが、山下さんのあの言葉が妙に引っかかるような、そんな気がしていた。
部屋に帰ってきた。玄関には彼女が履いた低めのヒールの靴があるので、中にはいるのだろう思うが姿は見当たらない。シャワーの音が聞こえたので多分風呂場にいるのだろうとそう思った。
レジ袋に入っている酒を一本取り出しグビグビっと飲みその缶を冷蔵庫の上に置いた。残りの缶は冷蔵庫の中に入れ、パスタとおつまみはこたつの上に置いた。レジ袋の中にはあとボクサーブリーフとコンドームだけが入っている。
ボクサーブリーフを取り出し風呂場に近づき中にいる彼女に声を掛けようとしたその時、中から声が聞こえた。
泣いてる。小さな声で泣いている。
山下さんは泣かせちゃ駄目と言っていたが、彼女はすでに泣いていた。
《この時僕の下心は消えた》
「新しい下着買ってきたんで、良かったら使ってください。」
中にいる彼女にそれを伝えて風呂場の入り口に下着を置いた。その場を離れ冷蔵庫の方に行きさっき飲んでいた酒を手に取りこたつの方に持って行った。その際にコンドームを、酒と入れ替えるように冷蔵庫の上に置いた。
パスタを半分ほど食べたところでシャワーの音が止まった。反射的に風呂場の扉の方へ目を向けようとしてしまったが、それはいけないと思い目をそらした。風呂場の方からは少し扉を開ける音とカサカサっという音が聞こえた。多分ボクサーブリーフを取ったのだろう。その後は扉の閉まる音が聞こえた。僕はなぜがほっとした。
程なくして彼女が出てきた。
ドライヤーが無いからか、髪は少し濡れいてた。普段僕が着ているスエットを着ていて、目は少し赤くなっていた。
「ありがとう。」
彼女が僕に行ったので僕は「あー、はい。」と返事を返した。
「パスタ買ってきたんで良かったら食べてください。」
と言ったら彼女はうなずきこたつに入りパスタを食べ始めた。
「あったかい、美味しいです。」
彼女は嬉しそうに言った。プラスチックのフォークを使い少しずつその小さな口にパスタ入れ、そのたびに顔の表情が和らいでいった。
「あ、飲み物。冷蔵庫の中に酒と…あとお茶もあったかな?好きなの飲んでください。」
「ありがとうございます。お酒はあまり飲めないのでお茶を頂きます。」
彼女はそう言うと立ち上がり、冷蔵庫の方へ向かった。冷蔵庫の前に行った彼女は5秒ほど立ち止まり扉を開けずにいた。そのあと「やっぱりお酒もらっていいですか?」と聞いてきたので「どっちでも好きな方をどうぞ〜。」と何気なく言ったら。
彼女は酒を持ってこたつに戻ってくるといきなりグビグビグビグビっと物凄い勢いで酒を飲み始めた。
「えっ、大丈夫なんですか。」
僕は驚いた。それでも彼女は酒を飲み続けている。途中でむせたのか口から缶を離してその後、ゴホゴボっと咳き込んだ。
「無理に飲まなくてもいいですよ。」
と僕が彼女に言うとは彼女は、
「だってシラフだったら多分できないから。」
と言い冷蔵庫の方に目を向けた。冷蔵庫の上にはコンドームが置きっぱなしになっていた。
《しまった‼︎》
僕は彼女の泣き声を聞いてからは、もうそんな気は無かった。しかし、彼女にしてみればそーゆーことなんだろうと思うのは当然だろう。ヤバイ、ヤバイと焦りわたわたしていると彼女が僕に言った。
「いいですよ。でも初めてなんで、優しくしてくださいね。」
その顔は少なくとも軽蔑的な顔ではなかったが、寂しそうな、悲しそうな、でも嬉しそうな、なんとも言い表せないような顔だった。僕はその時自分の愚かさを感じた。
《駄目だ、これは駄目だ》
深く息を吸い、そして吐き出した。そして、
「最初は、そのつもりだったんだけどその……気が変わった。君に手を出すつもりはもう無いよ。」
敬語も使わずに素直な気持ちを彼女に言った。
すると彼女は、「そっか。」と小さい声をもらした。その後は酒を取ってくる前と同じようにまたパスタを食べ始めた。さっきの会話は無かったことにしたと慮るようにパスタを食べていた。
僕は彼女より先にパスタを食べ終えた。
その頃には2缶目の後半ぐらいまで酒を飲み進めていて酔がまわってきた。彼女は飲み物をお茶に替えてまだパスタを食べている。
「タバコ吸っていい?」
「大丈夫ですよ。」
この辺りから僕は彼女に対して敬語を使わなくなっていった。
タバコに火をつけ一服。疲れと眠気が同時に襲ってきたような気がした。タバコを吸い終えて、
「ごめん、もう寝るわ。」
僕は彼女に言った。座布団がわりにしているクッションを枕に、ハンガーにかけていた上着を毛布がわりにして部屋の端っこの方に横たわった。
目を閉じるとすぐに寝てしまった。
「おやすみなさい。」と言われたような、言われてないような。
僕は深い眠りの中に落ちていった。
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