フェイズ4「獄中内の歌姫」
PC1の導入の続きとなります。
謎の異空間から放り出された先で訳もわからぬまま逮捕され拘留された私、久野カレン。
それから一週間ほどが経過した頃、周囲の対応はあまりにも変わってしまっていた。
「カレンちゃん、すごい綺麗な声だったよ!」
「全くだ、まるで水面に浮かぶ精霊のようだ!」
木箱の上に乗る私を見上げ羨望の眼差しを浮かべる無骨な格好の兵士達。
全くどうしてこうなってしまったのやら――――。
事の発端は拘留された日の夜。
牢に入れられたのは夕方だった為、質素な夕食を出されすぐ就寝を促された。だが多忙な生活を送る現代人の私には日が沈んですぐ寝入る事など出来なかった。
案の定夜更けに目覚め牢にある小さな窓から星空を眺める。現代の世界が隠していた夜の明かりはこの世界にはなく、見惚れる様な輝きが小さな窓一杯に広がっている。
それを見つめていると、ふと幼き頃の記憶が蘇る。日銭の為でなく純粋な喜びを表す方法として歌を歌っていたあの頃――。気付けば私の口からはハミングを口ずさむ音が流れていた。
いつもファンに綺麗に聞かせるリズムやテンポを意識した声ではない。ただ体中に溢れた自分の気持ちを吐き出すだけの音、そんな私を傍でじっと見つめる者がいた。牢内を見張る為に番をしていた兵士だ。
彼は驚愕の顔を浮かべ私を見つめていたかと思うと、やがてその目は尊いものを愛でる様な崇拝に近い眼差しへと変わっていった。
それから今の環境が変わるのは早かった・・・・・。
兵士達が入れ替わりやってきてあの時のハミングをせがむ、職業柄人に歌を求められるのは嫌ではなかったので自分の知っている歌を歌ってあげてありもした。
そうするとやってくる兵士がどんどん増えていき、一曲で満足していた兵達もすぐには戻らず私の牢の前に入り浸るようになってきた。
更には私の姿が見えにくいと十数人用の大きな牢屋に移動され木箱と樽で作った簡易ステージのようなものまで準備された。牢から出さなかったのは彼等の最後の忠誠心だったんだと思う。
「今の歌は何て言うんだい?心の奥がこう、熱くなってきたよ!」
「男の魂を震え上がらせるような感覚だったぜ!」
「あぁ全くだ!俺も行軍中・・・いや、敵との交戦中で歌いたくなってくるぜ!!」
今もまた歌い終わった後、口々に私の歌を褒め称えている。歌いながら戦うのはやめてね、お願いだから。
ちなみに歌は機神が咆吼する曲だったのだがそれを知らない人々がまるで視聴者のような感想を語る、やはり作詞・作曲者って偉大だなと改めて彼等に尊敬の念を異世界から送る。
そう、異世界なのだ。
歌を通じて仲良くなった彼等を利用しない手はないと様々な情報を聞き出す。その結果、ここは『アリアンロッド』と呼ばれる剣と魔法のファンタジー異世界らしい。全くもって度し難い。
状況を理解する事には成功した、次に考えるのは【この世界で生きる】のか【元の世界に戻る】のかだ。これに関しては今結論を出すのは早計に感じた。
確かに元の世界の友人やアイドルの仕事、ファンの人達を見捨てるのは悪いのかなと思ったが『それだけ』なのだ。
決して離れたくないと思う家族や恋人、かけがえのない親友というものが誰もいない事実に今更ながら私は思い当たる。医者になるという目標はこの世界でも叶えられない事はない、と思う。
ならば『戻る意味はあるのか?』という問いかけに対して答える事ができない。
だが少なくとも元の世界では安全という面では保障されている、根無し草となった人間でも普通に生きていける世界だがその分一切の保証はない。
この異世界は『安全』という魅力を吹き飛ばせる『何か』を与えてくれるのか。
私はそれを知らなければならない、情報収集はそろそろ終わりにしてここを出て行きたい。
そんな彼女の想いに呼応するかのように。
イザード国の王宮近衛兵がこの日、久野カレンを王宮へと連れて行った――――――。




