フェイズ12「聖杯に至る試練」
クライマックス戦闘です。長くなってしまいました
今回はトキアメさんが主役です。
冒険者一行はジョージから教えてもらった【聖地】のひとつ――アトランタル村はずれの神社の様な建物の前に来ていた。ジョージ曰く聖杯は動かす事が出来ないので急遽この建物を作り上げたとの事だ。
階級を持った者は持たない者に対して絶対性を持つ――――つまり万一悪党がこの聖杯に触れ階級を得てしまった場合、階級を持たない者は対抗する術を持たなくなってしまう。その為の措置らしいがその見解には一同納得をした。
だがその為に一番村から近いこの【聖地】においては必ず試練を設けることになると言う。いわゆる悪党かどうかの選別だそうなのだが・・・・・
「・・・何でお前がここにいる、クソガキ」
「勿論オイラがお前達の試練をやってやろうと思ってさ!」
心底嫌そうな顔を浮かべるトキアメとは対照的に、遊び相手を見つけたかのような無邪気さで微笑み返すクソガキ(仮)
先程のトキアメとの戦いを見ている他の者たちは一様に苦笑いを浮かべている。
「じゃあ試練の内容を説明するよ!オイラ達の攻撃をかわしつつ部屋の奥にある聖杯に全員触れる事が出来れば合格さ。当然、オイラ達は本気でいくからね」
そこは何十人と稽古が出来そうな道場のような内装になっており入り口の突き当たり、最奥に安置されるように杯が飾られている。あれが聖杯であろう事は容易に想像ができた。
だがそれを阻むのが階級持ちであるクソガキ、それと何処かで見た気がする弓矢を持ったモヒカン頭の二人組。
「(オイ、どうすんだよ?!こんな事になるなんて聞いてねぇぞ)」
「(うるせぇ黙ってろい!!アイツ等にバレたら殺されるぞ!)」
「何こそこそ話し合ってるんだ?オイラと一緒にあいつらをボコボコに出来たら盗賊まがいの事やってたのを簡便してやるんだからしっかり働けよな!」
「「OK、ボス!」」
この町に来る道中で冒険者一行を襲い捕縛された山賊達だったが、実際に冒険者を襲ったのがやむを得ない事情による初犯な点と、霧が出る以前にはモンスターの間引きなどで村に貢献をしていた事から試練の協力者として減免され彼等に立ちふさがる障害となっていた。
「・・・どうするの?」
先程絶対に勝てないと言われた相手と戦えと言われ困惑の表情で仲間達を見るカレン。
だがそれ以外の者達はやれやれと面倒そうに嘆息するだけで特に動揺はしていなかった。
「大丈夫だ、いつも通りで問題ない」
トキアメが何の心配もいらないと呟く。確かに彼等はアストラル共和国に辿り付くまでの道中でいくつもの作戦行動の練り合わせや模擬戦、実戦も何度か繰り返すことによって一般冒険者チームと遜色ないチームワークを手に入れている。
だが相手はいつも通りの攻撃など一切通用しない相手だ、それなのにいつも通り陣形を組んで戦えば大丈夫などと・・・・・
そこまで考えた事で、カレンの脳内にもトキアメが伝えたい事が理解できたのだった。
◇◆◇◆◇
オッス、オイラの名前は秘密だ。クソガキとでも呼べばいいさ!
今、オイラは町にやってきた冒険者一行の階級を得る為の試験に協力をしている。協力といってもアイツ等をボコボコにするだけの口実だけどな。
本来階級を持つ為の試験に階級持ちが相手として出てくるなんてありえない。今のアストラル共和国では階級の絶対性によりどんな手を用いても階級持ちを傷つける事は出来ないからだ。
でも冒険者達は複数人同時に試験を受ける事、階級持ちとはいってもそれ以外は普通の身体能力しかないオイラである事を他の試験官達に説明し特別に受けさせる事になった。何でも「ジョージさん推薦の冒険者ならそれ位の力があるかもしれない」だそうだ。
それを聞いてオイラは更に不機嫌になった、元々アイツ等を叩きのめしたい原因はアイツ等のせいで尊敬するジョージさんにこっぴどく怒られてしまったからだ。
ジョージさんはこの町の顔役にして最強の階級持ち冒険者、同じ階級の冒険者だろうとジョージさんは一瞬で倒してしまう所も見た事がある。
何より親を亡くし首都へ向かう途中、霧に覆われ迷ってしまった所を拾ってくれたのもジョージさんだ。それ以来、ジョージさんの家に居候させてもらってる大恩人なんだぜ!まだ一週間くらいしか経ってないなんて嘘みたいに今は幸せだ。
そんなジョージさんを常に見ていたオイラにはわかる、あの冒険者達は何かジョージさんが気にかけるものがあるに違いない。
彼等に階級の説明をした後、階級取得後のサポートやそれまでの住居としての宿泊許可、試練についてまでサポートするようオイラに言ってきた。
オイラだって居候の身だ、別に他の冒険者達を居候させても問題はない。何も問題はない。そう何も問題はないんだ。
だから全力で試練をサポートしてあげるよ、冒険者さん。
全力で君たちの試練を阻止するからね。
◇◆◇◆◇
試験官が試練の開始を宣言すると同時に戦局は大きく動き始めた。
山賊二人は己が得意とする射撃体勢に移行する為、即座に隠密を開始した。
そしてクソガキと前衛であるトキアメが共に走り出し、道場の中央へと向かう。
同じく前衛である神速丸も中央に向け走り出し・・・・・・
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そのまま全員をスルーし最奥へと走っていった。
「「「は?」」」
クソガキと山賊二人はあまりの事態に口を開けポカンとしている。
数秒後、クソガキは平常心を取り戻し山賊に指示を飛ばす。
「お、おい。アイツを早く止めるんだ!」
「無理ですボス。隠密直後でまだ射撃準備が整ってません!」
敵から狙われない隠密ではあるが逆に敵の足止めをする事も適わない。
思いもよらない味方の弱点にクソガキは神速丸を諦める事に決めた。
「(クソッ、いきなりだったしアイツは仕方ないか。他の奴を失格にすればいいんだ!)」
思考を即座に切り替え他の目標に向けた、そのつもりであったが――――――
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
「ええええええええええええい!!」
「これも神の御力あああああああああ!!」
一般人である少年が見せた隙を見逃すほど、彼等は愚かではなかった。
三者三様の叫び声を上げながら山賊の攻撃準備が整う前に聖杯へと走っていく。状況はまさに大混乱、精神的にはただの少年であるクソガキが山賊達に指示など出せる状況ではなかった。
「ッ!!させるかああああああああああ!!」
少年は腰にあるナイフを取り出し体力の差から一番後方を走っているカレンへ攻撃を向ける。身体能力のない少年ではあるが最奥へ向かうため中央に近い位置にいる彼女は絶好の標的であった。
階級持ちの自身の攻撃は絶対に回避できない、その法則により射程圏内への攻撃発生が成立した時点でカレンのその動きを止める。
策も何もないただの電撃作戦、そんなものにやられてたまるかとナイフを持ちカレンへと迫るが――――
「知らないのか、クソガキ。後衛への攻撃は前衛がフォローする事が基本だ。」
その進路を阻むようにトキアメが立ちふさがり、カレンの金縛りが解け彼女は前のめりに倒れる。
またコイツか!!そんな苛立ちを感じながらもトキアメへと攻撃目標を変えナイフを突き出す。既にこの攻撃がどうやっても防げない事は証明済みである。道場の手前へと吹飛ばすようにナイフを横から薙ぐように振る。トキアメは持っている片手斧を振り下ろすようにナイフへと振り下ろす。
「馬鹿め!階級持ちのオイラの攻撃は絶対に通る、吹き飛ぶがいいさ!」
その声と共に大きな剣戟音が道場中に響いた―――
「馬鹿・・・・な・・・・」
驚愕の声は少年、攻撃は決まった。確実にいけ好かないコイツを吹飛ばせる一撃だった筈だ。
だが実際には・・・武器を交差させた状態で目の前に立つトキアメがいた。
「・・・お前はひとつ勘違いをしている。」
ポツリ、とトキアメは少年に向けて話しかけた。
「確かに階級を持たない俺は階級持ちであるお前に傷をつける事は出来ないし、攻撃されれば確実にダメージを受ける。だが”お前の攻撃は吹き飛ばされる”なんて誰が決めた?」
「・・・・・ぁ!!」
それは盲点、だが少年にはついぞ気づく事が出来なかった勘違いであった。
この霧が出てから一週間あまり、混乱に包まれたアストラル共和国では子供である少年も階級による恩恵を自覚してからは幾度となく武器を振るった。
打撃、斬撃、射撃・・・・その全ての攻撃において階級を持たない人々は少年の攻撃でダメージを受け例外なく吹き飛ばされていった。ゆえに【ダメージを負う事】と【吹飛ばされる事】をイコールで繋げてしまったのだ。
【ダメージを負う事】は階級の概念により抗う事は出来ない、だが【吹飛ばされる事】は受けるダメージの影響を抑え込めば防ぐ事が出来るのだ。更にトキアメは先程とは違い攻撃に対し受けるのではなく押し返す事で対抗した。それによりダメージは減らずとも衝撃は軽減できたのだ。
勿論その代償は安いものではない、斧を持つ手はありえない方向に曲がり、伝わった衝撃により背中は痺れ足は奮えてもはや一歩も動く事が出来ない。
だがその結果は少年に対し驚愕を与えるだけの時間を生み出した、その時間によりトキアメ以外の全員は山賊の攻撃を無効化し聖杯へと辿りついていた。
「くっ・・・・この、このおおおおおおおおおおおおおお!!!」
完全に出し抜かれた!戦略において圧倒的な差を見せ付けられた!!
階級を持っていた事によりジョージ以外の冒険者を下に見ていた少年は目に涙を浮かべ悔しそうな顔を浮かべながらナイフを振る。斧をもう片方の手に持ち替えた事で狙いやすいよう先程とは逆方向へナイフを振る。
今度はトキアメはその攻撃を受けきる事が出来ず吹き飛ばされていく。
「・・・もう一つ、逆上して状況を把握しないでする攻撃は逆効果だ」
全身から血を流しボロボロになりながら吹き飛ばされるトキアメ、だがその口は不適に笑い、その体は・・・・・
「しまっ!!?」
聖杯のある最奥へと向かっていくのであった――――――




