フェイズ9「アトランタル村」
「ハイ、これでよしっと。君達大丈夫だったかな?」
「助かりました、ありがとうございます」
カレンを除く一向は、目の前の状況を理解できないでいた。
【ただの村人】が【山賊】を縛り上げたのだ。これが逆ならばカレンが知る、いわゆる「異世界でもお決まりの展開」である。そのありえない事実に冒険者一同は思考を巡らせ、この世界の常識をまだ理解していないカレンのみが礼を述べる形になった。
「ふーむ、手首のリングが強力なマジックアイテムなのでは?」
グノバがそう考え仲間達に告げる。その村人の男性はあまりにも隙だらけであった。
武器として持ってきたであろう鍬を置き、持っていたロープで結んでいる最中も無防備に背中を曝け出す場面が何度もあった。トキアメが警戒をしていたが、もしも盗賊達がその気なら一瞬で村人の上半身と下半身は引き離されていたであろう。本来ならばそれ程の力量差があるのだ。
その彼等が何もせず、時々その村人の両手首に視線をやるだけ。村人が所持しているリングにその原因があるのだと思い当たるのは当然だった。
「ちょっとちょっとー、いいアクセサリーつけてるじゃんよぉ。貸してみそ!」
図々しいのか演技なのかわからない勢いで神速丸が村人の手首からリングを外しにかかる。
だがその神速丸の手はリングを貫通し、村人の手首を握っただけに終る。
「はっはっは、これが珍しかったようですね。すみませんがこれは外せませんよ。
これについて知りたければ我が村にどうぞ、先程の盗賊達は別の者が対応するので私が案内しましょう。」
いきなりの横取り発言を気にも留めず朗らかに対応する村人、一向はどうやら危険はないようだと判断した。
「我々の目的は首都ベクターですが、情報収集を行うのもよいかもしれませんね」
「・・そうだな、既に状況は俺達の認識している範囲を超えている」
「そうですね、首都へ向かう前に情報を集めた方がよさそうです」
「なんでもいいんじゃねぇのー?」
グノバ、トキアメ、シャドウ丸の順に言葉が続く。神速丸の言葉は皆聞かない事にしている。
「わかりました、是非お願いします。お名前をお伺いしても?」
「私には名前がないので『村人A』とでも呼んで下さい、可愛いお嬢さん」
あまりに捻りのない名前に周囲が苦笑しつつも村人Aは先導し一向を案内する。
・・・とその途中に何か光る物が見えた。
「どうかしましたか?」
村人Aは気付いていなかった。
やはり探知を含めた戦闘能力は並なのだろう、と判断したトキアメは警戒を一段階緩める。
「おいおい、こりゃあまぁ・・・」
「なんという事だ・・・・」
その光る物へと向かっていたシャドウ丸と神速丸はその正体を見て愕然とする、
それは【龍の十字の紋章】をかたどった厳かな鎧である、それも十数体が散らばっており乾ききった血痕が付着している。鎧だけ散乱してるものもあるが遺骸として残っているものもあった。
「巡回に来るとたまに見るんですよね、彼等も『ここの環境』では生き抜く事が難しかったのでしょう」
村人が見た事もない戦士の無念を想像し、悲しげな顔を浮かべながら言葉を溢す。
だがシャドウ丸と神速丸は違った、龍の十字・・・・・それはイザード王国が誇る最強の騎士団【アスカロン聖騎士団】が身につける紋章だからである。
数値化すればレベル15程とも言われる聖騎士団。そんな猛者が全滅したという事実に二人は悲痛な顔を浮かべ――――――
「よし、この鎧高そうだから回収できないか?」
「問題ありません、幸い破損してないものも多く十分商品として売れます!我が主」
・・・・・切り替えだけは早い二人であった。
だが遺骸に関してはグノバ達の協力の下、丁重に葬られた事だけは彼等の名誉の為述べさせて頂く。
◇◆◇◆◇
騎士の埋葬と遺品の回収を行った一行は、村人Aの案内のもと小さな村へと辿りついた。
建物こそ質素な作りであるものの、人通りや建物数も多く町といっても遜色ない大きさであった。
「さぁ、ここが俺達の村【アトランタル】だよ」
「ありがとうございます、助かりました」
「いやいや、お役に立てたなら何よりだ。このまま真っ直ぐ行った先の広場ど真ん中にある店に行くといい。この村の顔役がいるから、彼から話を聞くといい」
そういって朗らかに笑いながら村人Aは去っていった。
「さて、では次の行動の話し合いですがまずは顔役とやらに話を聞きに行くと言う事でよろしいですかな?」
「えぇ、問題ないでしょう」
グノバとシャドウ丸の意見も一致し、まずは村の中央広場まで一向は歩みを進める。
すると小さな噴水と花壇が中心から円を描くように続く、幻想的で美しい広場が現れた――ある一点に目が入るまではだが。
その広場のど真ん中に自己主張激しく佇む木造二階建ての建物、周囲には一階層の建物しか続いていないのでより強い圧迫感を醸し出している。
カレンはまるでどこかのカウボーイ映画の西部劇に出てくる酒場のようだと思ったがそれはさすがに失礼だとその思考を取り払う。
何故なら全体的にピンクだからだ。
白黒の状態であれば渋い西部の酒場のようだが夜のお店かと見まごう程のコテコテのピンクで装飾された建物は一言で言えば「異様」としか形容し難いものであった。
その様相に一向は二の足を止める、ただ一人を除いて――
「・・さっさと行くぞ」
頭まで隠れるフード、そこから伸びる獣耳のような寝癖。
男女共に視線を惹きつけてしまいそうな中世的な顔立ちに似合わずぶっきらぼうな言葉を放ち、トキアメはピンクの建物へと近付いていく。
何事にも物怖じしないトキアメに感化されたのか金縛りのとけた一向はトキアメに続こうとする、そんなトキアメに向け冷たい声がかけられ彼等はまたもや体が硬直する。
「誰さアンタ、この店に何の用だよ?」
何事にも動じないと進むトキアメに立ちふさがる様に建物入り口の目の前を塞ぐ帽子を被った少年、十に至っているかすら怪しい幼さの残る顔立ちにも関わらず傲岸不遜な言葉を言い放つ。
「ここに入りたかったら、オイラを倒してからにしてみなよ!」
子供らしい挑発の言葉とは裏腹にトキアメは少年への警戒度を上げる。
その理由は、少年の両手首に見える「白いリング」を装着しているが故であった。




