フェイズ8「最弱(さいきょう)の救援」
「(オイ、どうすんだよ?!こんな事になるなんて聞いてねぇぞ)」
「(うるせぇ黙ってろい!!アイツ等にバレたら殺されるぞ!)」
目の前で突如起こった大爆発を見て小声で会話を行う二人、異国の装いをした数人の冒険者を発見し襲いかかった盗賊の残党である。二人は草原の植物の中に器用に身を隠しながら目の前の状況を分析する。
『ある事』を確認し嬉々として襲いかかった仲間達――その結果が目の前の惨状だ。
男達はこの近辺に住まう山賊である、だが不慣れな人間への襲撃などやはりするべきではなかったと歯噛みしている。
彼等は山賊とはいっても人間を極力襲わず、近辺の森や草原を根城にし周囲のモンスターを狩ることで日銭を稼ぎ慎ましくも勇敢に生活を営んでいた――この霧に包まれるまでは。
突如アストラル共和国一帯を包んだ異常気象は彼らから生活の糧の全てを奪い去った。
山々の恵みは視界を覆う霧は見つけられず、モンスターの気配はぱったりと途絶え、モンスターの素材のやり取りを行っていた行商人も姿を見せなくなって久しい。
残された彼等が盗賊の真似事に手を出すのも仕方のない事であった。
「(こっそり離れられないか?)」
「(ダメだ、『隠密』を発動させた所は見られた可能性が高い。逃げたら追ってくるぞ)」
最初の作戦では二人の仲間が注意を惹き、自分と相棒の二人による認識外からの狙撃。これで事足りるはず。
だが凶暴な肉食獣すら屠ってきたこの無敵の陣形は、敵のただ一撃により崩壊することになる。彼等が立っていた地面が抉れクレーターになっている事からもその威力の高さが伺える。
「(まさかあんな大技をあんなよくわからない生物が簡単に撃ってくるとはな・・・)」
「(あぁ、後ろの黄色い奴も同じ位の攻撃を出せると考えるべきだな)」
「(大体あの生物は何なんだ、あんな種族聞いた事もないぞ)」
「(後ろに神官みたいな奴もいるし貴族や高官の護衛と魔法生物って所か・・・?)」
「(貴族ってあの紫髪の女かよ、ありゃどう見ても庶民の振舞いだぞ。顔はいいけどな)」
「(カモフラージュって奴だろ、クソッそんな奴等からどう逃げろってんだ!)」
魔法生物(仮)が放った牽制であろう魔術のあまりの威力に多少現実逃避気味の話題を混ぜつつも、彼等はその場から離れることへの難易度を痛感した。
『あの事』を差し置いても彼等が自分達より数段上の実力者である事は明白、ならば小細工せずに真っ向から牽制し即座に離脱。これが盗賊二人の導き出した結論であった。
そして決断するやいなや即座に彼等は持っている弓から矢を放つ、狙うは彼等の護衛対象であろう紫髪の少女。
間違いなく周囲の人間はあの素人の女を庇うだろう、その隙に逃げる算段であった――――しかし
「あー、こらこら。そんな攻撃したらあの人達に危ないだろー?」
戦闘の緊張感の中だとは思えないあまりにも間抜けな声が響き渡った。
盗賊二人が目を向けるとそこに立っていたのは村人、そう本当に何の変哲もない村人だった。
「盗賊さん、ここはうちの村の管理下で略奪はご法度だ、一度村まで来なさい。話を聞こう」
何の変哲のない村人からの間の抜けた言葉、だが盗賊は驚愕し口を開けたままである。
隠密が見破られたからではない――――彼等が攻撃の為、解除したのだから。
彼等の装備に驚いた訳ではない――――防具もなく武器は『本来の用途』で使い込まれた鍬のみだから。
その言葉に驚いた訳ではない――――本来ならそんな戯言一笑に付して終るのだから。
彼等が驚き凝視しているのはただ一点、その村人の手首に巻きつけられたリングである。
手首に直接触れず、まるでオーラのように皮膚から少し浮いた形で両手首にかけられた真っ白なリング。
その意味を知る盗賊二人は膝を落とし、村人の言葉に恭順の意を示した。そしてポツリと呟く
「話には聞いていたが――――――何の力もない村人が『初期階級』とはな」




