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転生した脇役令嬢は、国一番の冷酷公爵をヤンデレにしてしまいました  作者: 桔梗


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3/10

原作通りに進めたいんです!

私は薔薇園の入口を見る。

ーーセシリアはまだ来ない。


(セシリア……何してるの!?)


あと少し。

本当にあと少し待てばいい。

原作では、彼女が来るんだからーー。


(私は関わらない!私は脇役!)


その時ーー、イヴァンの身体が大きく揺れた。


「イヴァン様!」


膝が落ちる。

ミレイユが咄嗟に肩を支える。

ーー重い。

ーー重すぎる。


「しっかりしてください!」


「離せ……」


「離したら倒れますよ!」


「……俺に、構うな」


「嫌です!」


ーーつい、強い声が出た。

イヴァンが僅かに目を開く。


「……なぜだ」


「はい?」


「なぜ……俺を助けようとする」


(確かにーー)


そんなこと、考えていなかった。


「……目の前で人が倒れているからーーですけど?」


「……それだけか?」


「それ以外に何がありますか?」


「お前、俺が誰かわかっているんだろう」


「……ええ、まあ」


「なら……」


イヴァンが苦しそうに息を呑む。


「ハインリヒ公爵家に……借りを作れる……いい機会じゃないか」


「……」


言われて私は少し驚いた。

そんな状態でも、真っ先に出てくる考えがそれなのか。


「助ければ、見返りがあるから……だろう?」


「……」


私は、初めてーーイヴァン・ハインリヒという人間を見た気がした。

聖騎士団長でもなく、未来の冷酷公爵でもない。

ただ、誰かが自分へ手を差し出した時には、必ず何か理由があると思っている青年の姿。


「……なるほど」


私は小さく呟いた。


「それで、私が助けていると思っていらっしゃるんですね」


「……違うのか?」


「違いますね」


「……では、何が欲しいんだ」


「何も?」


イヴァンの目が細くなる。


「……そんなはずはない。……何も望まず、他人を助ける人間などーーいない」


ーー『人の心を持たない怪物』


原作で、後に彼へ向けられる言葉。

でも、もしかしたらーー逆なのかもしれない。

人の心を持っていなかったのではなく、人の心というものを、誰にも教えてもらえなかっただけなのかもしれない。


(それならーー)


私は彼の腕を自分の肩へ回した。


「じゃあ、今日、初めて会えましたね」


「……何?」


「何も望まずに助ける人間に、ですよ」


「……」


「立てますか?」


「お前は……」


「何か言いたいなら、あとでお願いします」


身体中の力を込めて、どうにか彼を立たせた。


「……まずは、人目につかない場所へ移動しましょう」


「……何が目的だ」


「まだ言います?」


「貴族が、何の利益もなく他人を助けるはずがない」


私は少し笑った。


「随分寂しい世界に生きていらっしゃるのですね」


イヴァンの足が止まった。


「……何?」


声が低い。


「い、いえ……」


「今、何と言った?」


「忘れてくださいませ」


「言え」


「……寂しい考え方だと申しました」


「俺を哀れんでいるのか」


「それは違います」


私は即座に否定した。


「ただ、勿体ないと思っただけです」


「何がだ」


「世の中には、見返りを求めず親切にしてくださる方もいらっしゃいますのに。最初からいないと決めつけていたら、一生見つけられないでしょう?」


「……」


それだけ言って、私は歩き出した。

イヴァンは何も言わなかった。

少し離れた場所に、大きな木がある。

どうにかそこまで連れて行き、木の影になる場所にイヴァンを座らせる。


「ここなら雪は凌げますね」


「……」


「私は人を呼んできます」


「ーー待て!」


腕を掴まれた。


「……誰を呼ぶ気だ」


「宮廷医です」


「駄目だ」


「どうしてです?」


「俺に毒を盛った人間が……宮殿内にいるんだ」


「……」


(確かに。それもそうか)


言われてみれば当然だ。


「では、聖騎士団の方をーー」


「ダメだーー。今夜、誰が敵かわからない」


「……」


困った。

どうしたものか。


(だからーーセシリアは一体、どこで何してるのよ!)


聖女なら毒を浄化して弱められるが、私に出来ることは何もない……。


「……」


イヴァンの息がまた乱れ始めた。

まずいーー時間がない。


「イヴァン様」


「……」


「少しだけ、待ってください」


「……何を……する気だ」


「あなたを死なせない方法を考えます」


「なぜ……」


また、同じ質問。


(いい加減うんざりしてきたわね)


「自分のためです!」


「何?」


「ここであなたを置いて帰ったら……、明日から、鏡を見るたび嫌な気分になりそうですもの。だから、あなたのためではありません」


「……」


「私が、私を嫌いになりたくないだけです!」


しばらく黙って、それから不意に、イヴァンが笑った。


「……変な女だ」


「初対面の女性に対して失礼ですよ」


「……では、名前を……言え」


「嫌です」


私が即答すると、イヴァンから笑みが消えた。


「なぜだ……」


「これ以上関わりたくありませんもの」


「意味がわからない」


「わからなくて結構です!」


(絶対教えない)


イヴァンはじっと私を見た。

そしてーー自分の右手の親指から指輪を抜いた。

黒曜石に、銀の狼が描かれた、ハインリヒ公爵家の紋章。

それを、私へ差し出した。


「持っていけ」


「何でしょう?」


「……家紋の印章だ」


「見ればわかります」


「これを……見せれば……ハインリヒ家は……一度だけ、お前の要求を聞こう」


私は目を瞬いた。


「金でも……領地でも……構わない」


私は慌てて首を横へ振った。


「いりません」


「……」


「怖いので仕舞ってください」


「……受け取れ」


私は指輪を彼の掌へ押し戻した。


「……では、ひとつだけーー今、願いを聞いて下さい」


イヴァンの目が動く。

『ほら見ろ』ーーそんな顔だった。


「今日のことは、どうか忘れてくださいませ」


「……」


想定していた答えではなかったらしい。


「……それが望みか?」


「はい」


「……」


ーーその時だった。


「誰か……いらっしゃるのですか?」


女性の声に、私は勢いよく振り返った。


金色の髪に白いドレス。

胸元に輝く聖印。


(来た……!)


ーー聖女セシリア。

本来、この場所にいるべき人だ。


「ーーこちらです!!」


私は手を上げた。

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