↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鎧の魔道具技師-巡界士は副業です-  作者: 古河実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/39

第三十八話 支部長襲来

 翌朝。

 グレイヴが朝食後の後片付けに勤しんでいると、玄関のチャイムが鳴った。


「俺が出るよ」

「おう、悪ぃな」


 ソファーに座っていたセインが立ち上がり、玄関に向かう。

 グレイヴが洗った食器を拭きながら、レオンはセインを見送った。


「勝手に洗って乾かしてくれる魔道具ねぇかな」


 食器を洗い終わり、シンクを掃除しながらグレイヴは小さな息を吐く。


「お前はまた…。昔、服洗う時も同じこと言ってたよな」


 レオンは拭いた食器を戸棚に直していく。


「それは試作した」

「したのかよ…」

「乾かすとこまでいってないけど、脱水まではできる」


 下手すると皺だらけになるけど、と不満顔のグレイヴにレオンは苦笑する。


「お前って…横着する為に全力で研究するのな」

「む」


 横着言うな、とグレイヴは口をへの字に曲げた。


「あの、二人共…。ちょっといい?」


 リビングの入り口で、セインが何とも形容し難い顔で立ち尽くしている。


「………」

「何だ?」


 ぴくりと眉を動かすレオンと、首を傾げるグレイヴ。


「反射術式、一次認定は貰えたんだけど…さ」

「うん?早くても明日って言ってなかったか?」


 レオンは何も言わない。


「そうなんだけど、条件付きで今日ってことになって」


 セインはちらと後ろに視線を流し、息を吐く。


「……支部長に全権を引き継げって…」


 セインの後方に、赤い髪の女がいつの間にか立っていた。


「……誰?」


 グレイヴの言葉に女の滅紫の瞳が愉快そうに細められる。


「支部長のカルラだ」

「支部長?」


 グレイヴは目を瞬いてセインを見る。

 セインは疲れた顔で頷く。

 次いでレオンを見る。

 レオンは苦り切った顔で頷く。

 最後にカルラを見る。

 カルラは楽しげに笑っていた。


「……マジで?こんな美人が?」

「「は!?」」

「ほう?見る目があるじゃないか、坊や」

「坊やじゃないっす!」


 俺もう二十三!と抗議するグレイヴだが、カルラは機嫌良さげに笑うのみ。


「やめとけ、グレイヴ。そいつはお前の手に負える女じゃない」

「何言ってんだ、お前?」

「そうだよ、グレイヴ。好きになるなら普通の女の子にしときなさい」

「あんたも何言ってんだ?」

「まったくな」


 すっとカルラが動いたかと思うと、二人の脳天に拳が振り下ろされていた。


「いったぁい!!」

「痛ぇ!!」

「すげぇ…!カッケェ…!!」


 痛みに蹲り苦悶の声を上げる二人を気にも留めず、グレイヴは目を輝かせてカルラを見上げた。


「支部長めっちゃ強いっすね!」

「これでも特級だからな」

「特級!」


 グレイヴの目が更に輝く。


「現役の人初めて見たっす!」

「ほう。引退した特級を知っているのか」

「っす。見習い時代の教官が元特級だったっす」

「なるほど。その教官の名前は?」

「確か…ギースだったはずっす」


 その瞬間、カルラの表情がわずかに変わった。


「……お前、ギースの教え子だったのか」

「知ってるんすか?」

「同期だ」


 カルラは喉の奥で笑った。


「そうか、あのバカの教え子か」


 一つ頷き、カルラはぽんぽんとグレイヴの頭をあやすように叩いた。

 子供扱い……とグレイヴは不満そうな顔をするが、それ以上は何も言わなかった。


「支部長がなんか優しいんだけど…」

「…熟女キラー発動したか?」

「なるほど、これが熟女キラー…」


 余計なことを言う二人の脳天に再び拳が振るわれる。


「痛いっ!」

「…ってぇ!」

「熟女とはなんだ、熟女とは。アタシはまだピチピチだよ」

「ピチピチって言ってる時点で世代がわかるよね」


 セインの頭に三撃目が落ちた。


「……っ!………!!」


 声も出せずにもんどり打つセインを尻目に、「さて」とカルラは腕を組み直した。

 先程までの愉快そうな笑みは消えている。


「例の反射刻印だが、有用であることは認められた。術式の正確性もルシエルが認めている」


 だが、とカルラは言葉を続ける。


「いかんせん実験例が少なすぎる」

「まぁ、それはそうっすね」


 グレイヴは頷く。


「個人でやる実験としては規格外れの規模だ。成功例と比較例を取っただけでも大したものだがな」


 カルラはグレイヴに視線を向ける。

 グレイヴが小さく頭を下げた。


「そこでカルム村を実証区域に指定する」

「実証区域?」

「暴発被害が集中し、原因魔力も同一。追加検証にはこれ以上ない」


 グレイヴの表情が引き締まる。


「……村全体で試すんすか」


 カルラは感心したように「ほう?」と目を細めた。


「サンプルが増えたと喜ばんのか?」

「増えるのはありがたいっすけど」


 グレイヴが窓の外に目を向ける。


「村ひとつ巻き込む話なら、俺が『やってみます』で済む規模じゃないっすよね」

「その通りだ。以後の検証結果は協会のものになる。……不満か?」


 外を見ていた視線をカルラに戻す。


「不満っつーか…責任を丸投げするみたいで、なんか嫌なんすよね…」

「ほう。権利ではなく責任を主張するか」

「そんな大層なもんじゃないっすよ。十分検証したと納得したもんなら丸投げするっす」


 鎧とか収納とか、あの辺みたいに、とグレイヴは苦笑する。


「検証が足りない。それは俺もわかってるっす。村全体を実証区域にする有用性も、そうするには組織で動かなきゃいけねぇってこともわかってはいるんすけど…」

「ふむ。なるほど、流石はドワーフの職人だな」


 奴らと同じことを言う、とカルラは眉を上げた。

 一瞬だけ口元に笑みが浮かぶ。


「だが、今回は納得してもらう。異論は認めん」

「……っす」


 断じられた言葉に、グレイヴはそれ以上の反論をしなかった。


「よし。ならばこの先は我々が引き継ぐ。お前達は本日中にレゾナに戻れ」


 その前に少しは観光で羽を伸ばしても良いぞ、と笑ってカルラは去って行く。


「……我々?」

「技術班、連れて来てるみたいだよ」

「ああ、なるほどな」


 グレイヴは何も言わず、ただ俯いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。