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黒鎧の魔道具技師-巡界士は副業です-  作者: 古河実


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第三十七話 研究者気質

「魔力コード05/02、05/03…。二つ出るのはなんだ…?」


 自室の作業台の上に、コード地図と魔力残滓測定器の設計図を引っ張り出して唸る。


「魔力コードについて…なんかメモしてなかったか…?」


 設計図と一緒に束ねてあったメモを探る。

 紙の束を探す事しばらく。


「魔力コード表記…、これか?」


 探し当てたメモ用紙を手元に置いて、字面をなぞる。


 魔力コード

 最後に流れた魔力のコードのみ検出

 複数表記がある場合、複数の魔力源があるものと考えられる

 比率の大きいものから順に表記する


「複数の魔力源…?」


 グレイヴは腕を組む。


 05は両方に出ている。

 02と03は違う。

 実験記録を見る。

 使用魔石。

 1回目と2回目で別のものを使った。

 しばらく無言。


「あ」 


 腕を解く。


「そういや魔力砲の出力、魔石だ」


 はぁ、と息を吐く。


「増幅器で環境魔力取り込んだんだから、そりゃ混ざるだろ…」


 この辺りの魔力が05。

 魔石由来の魔力が02、03。


 実験記録に記入する。


「……無駄に悩んだ。最初に気付けよ、俺……」


 グレイヴは「むぅ」と唸りながら作業台に突っ伏した。

 

「……現象の仕組みはほぼ確定。対処法も見つかった。…けどなんで逆流したかはわからねぇまんま、か」


 身体を起こし、頬杖をつく。

 考えても答えは出そうにない。


「対処できるだけでも御の字か」

 

 そう呟いた時。ノック音が響いた。


「グレイヴ、今いい?」

「勝手に入っていいぞ」


 扉が少し開き、ひょこりとセインが顔を覗かせた。


「失礼するよ」


 一声掛けて部屋に入ってくるセインに、グレイヴは目を丸くする。


「え、何、その顔」

「……そんなこと初めて言われた」

「え?」

「だって今まで俺の部屋来る奴って、ノックしたら良い方だったし」

「人聞き悪いこと言うな」


 いつからいたのか。セインの背後からレオンが抗議の声を上げる。


「お前がノックにも気付かねぇから、皆突撃するんだろうが」

「そうだったか?」

「そうだよ」 


 首を捻るグレイヴに、呆れ顔を見せるレオン。

 二人を「まぁまぁ」と宥めながらセインはグレイヴに目を向ける。


「今朝の実験レポートみたいなのってある?」

「レポートほど丁寧にまとめてねぇけど、自分用の記録ならある」


 グレイヴは作業台に広げたままの紙を指先で叩く。


「それ、借りていい?サクッと入力したら返すから」


 グレイヴが首を傾げる。


「さっき支部に反射刻印の認定申請して優先処理するように言ったんだけどさ、実験レポート提出しろってうるさくて」

「別にいいけど、わかりやすくはねぇぞ?」


 作業台の上の記録用紙をまとめてセインに手渡す。


「いいのいいの。そんなのあっちが解読すれば」


 なんとなく言葉に棘があるような気がして、グレイヴはセインの肩越しにレオンと目を合わせる。

 レオンも理由はわからないのか、肩を竦めて首を振るだけだった。


「ルシエルにも事情話して早めに通してもらうようにはするけど、早くても明後日になるかなぁ」

「明後日なら十分早いんじゃね?」


 新術式の認定なんざ下手すりゃ数ヶ月かかるだろ、とグレイヴは落ち着いている。


「普通審査ならね。でも今回は緊急審査で回すから。……今日中に一次認定貰っときたかったんだけどなー」


 いつ次の暴発が起きるかわかんないんだし、とセインは不服顔だ。


「新術式って認定いんのか?」

「一般に普及させるならね」

「個人で使う分には申請しねぇな」


 レオンの疑問にそれぞれ答える。


「だからグレイヴの鎧とか、収納の改良もルシエルに書類提出で緊急申請通してるんだよ」

「ああ、なんかグレイヴ書かされてたな」


 視線を寄越すレオンに、グレイヴが頷く。


「てか、お前あの場にいたよな…?ルシエル『術式申請を通す』ってはっきり言ってたぞ?」

「……そうだったか?」

「興味ない話は適当に聞き流すよな、お前」


 レオンの尻尾がぱたりと一度揺れた。


「否定はしねぇ」

「意外…」


 レオンって人の話ちゃんと聞くタイプと思ってた、と瞬くセインに、グレイヴは首を横に振る。


「タチ悪いぞ、こいつ。その場では聞いてるふりしてるから。相槌打ったり、意見したりするくせに五分後には忘れてる」


 レオンは目を逸らした。


「だから昔、賭けの対象になった」

「ん?」

「は?」


 話が繋がらず疑問を顔に貼り付ける二人に、グレイヴは続ける。


「レオンが五分後に話を覚えてるかどうか、皆で賭けてた」

「おい。知らねぇぞ、それ」


 つか皆って誰だよ?と顔を顰めるレオン。

 セインはグレイヴとレオンの顔を交互に見やる。


「皆って…エルオン支所のほぼ全員。なんなら近所の人らも」

「めっちゃ規模でかい賭博だった!?」


 セインは思わず声を上げ、レオンは苦虫をまとめて噛み潰したような顔をした。


「胴元、絶対ぇ教官だろ?」

「うん」

「あのおっさんマジで碌なことしねぇな」


 苦々しく息を吐くレオンに、グレイヴは胸を張る。


「おかげで俺は儲かった」

「お前……儲かった分俺に還元しろよ」

「違うよね!?」


 賭けの対象になってたことに怒るとこだよね!?とセインが主張する。

 

「勝った日は昼飯奢ってた」

「……変なとこ律儀なんだよ、君も……」


 セインはがっくりと肩を落とした。


「ってことはお前結構な率で勝ってねぇ?」

「え!続けるの!?ってかそんなに奢ってもらってたの!?」

「観察したからな。大分わかるようになった」

「観察…」


 せめてもうちょっと言葉を選べないものか、とセインは頭を抱える。


「お前、根っから研究者気質だよな」

「そういう問題じゃない…」

 

 なぜか誇らしげな顔をするグレイヴに、セインは頭と胃が痛むのを感じた。

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