第三十四話 理論上は?
セインの作った夕食は普通に美味しかった。
牛乳、クリーム、チーズをはじめ、野菜や肉もカルム産のものを使用したシチューだった。
「カルムシチューうまい」
「間違ってはないけど、なんか違う…。でもありがとう」
夕飯を完食し、お茶と共に桃パンを齧る。
「……なんで二日連続で食べれてるんだろう……」
セインが遠くを見つめていた。
「行ったら焼き立てってオルガが言ってたから買った」
「オルガ?」
「パン屋の女将」
「そんな名前なの?」
「オルガのパン屋って看板に書いてるぞ?」
グレイヴは桃パンを食べ終え、すももパンに手を伸ばす。
「そうだっけ……?」
「本人もオルガって名乗ってたし」
間違いねぇだろ、と言いながらすももパンを齧るグレイヴ。
「パン屋……。ああ、あの女将か」
得心がいったようにレオンが頷く。
「相変わらずの熟女キラー発揮してんな」
名前聞くほど仲良くなったのか、と面白がるように笑う。
「む?」
「え、何、どういうこと?」
流れが読めず首を傾げるセインに、レオンはグレイヴを顎で示す。
「昔っからおばちゃんに気に入られんだよ、こいつ」
「おばちゃんって言い方は良くねぇって、師匠達が言ってた」
グレイヴはお茶を飲む。
「待って、なんか情報量が多いよ!?」
師匠達って何!?と喚くセインにグレイヴは煩そうに身を引いた。
「師匠達は師匠達」
「こいつじーさんにも好かれんの」
「説明になってない!」
「セインうるさい」
「えぇぇ……」
理不尽、とセインが嘆いているが、二人とも見向きもない。
「あ。明日出かけてくる」
「なんか調査あったか?」
「いや、実証実験」
お茶を飲んでいたレオンの手が止まる。
「実証実験?」
「ん」
「何のだ?」
「反射術式」
短すぎる説明にレオンが眉を顰めた。
「詳しく話せ」
「魔道具暴走対策用に作った反射術式の実証実験」
「どういう実験だ?」
「魔力量30000流して正常に作動するか確認する」
「さんまん?」
セインが復唱し、レオンは無言になる。
「ん」
「待って。それってどのくらいの規模?」
「わからねぇ」
「わからないって何!?」
「30000流した事ねぇからな。そもそも魔力量なんて測定器作るまで知らなかったし」
当たり前だろ、と言わんばかりにグレイヴはお茶を飲む。
「今回の暴発事故で流れた魔力量は17000〜21000。安全性を考慮するなら30000の想定は妥当だ」
「……どうやってその魔力を流すつもりだ?」
「それを今考えてる」
レオンが額を押さえた。
「一応、目星は付けてる」
「心底聞きたくねぇが、聞かねぇと何しでかすかわかんねぇ…」
レオンが深々と息を吐く。
「……で、目星って?」
「携行魔力砲使う」
「却下」
「じゃあどうすんだよ?」
「………」
押し黙るレオンに、グレイヴは「ほら見ろ」と鼻を鳴らす。
「無茶なのはわかってる」
レオンとセインが驚いたように、目を見開いた。
「だが30000流れる可能性がある以上、30000で耐えれるか検証しないわけにはいかねぇだろ」
グレイヴの銀の瞳が煌めく。
「理論上はできたはず、なんてのは言い訳にもならねぇ」
それは技師としてのプライドだった。
「……言いたいことはわかる」
「ん」
「方法が問題なんだよ」
「別に普通に魔力砲撃つわけじゃねぇぞ?」
んなことしたら検証する魔道具が吹っ飛ぶ、とグレイヴが眉を顰める。
「じゃあどうすんだ?」
「魔道砲の魔力運用効率を最低まで下げる」
「……意味がわからん」
「……使用魔力を最大値にして、空気の圧縮率を最低値にする」
おずおずとセインが手を挙げた。
グレイヴとレオンの視線がセインに向く。
「空気の圧縮率って関係あるの?あの種の武器って魔力を圧縮して打ち出してるって聞いてたんだけど」
「魔力砲も魔力銃も、撃ち出してるのは『魔力で圧縮した空気』だ。魔力そのものじゃねぇ」
グレイヴが即答する。
「どういうこと?」
セインが首を傾げる。
「そもそも魔力に物理力は無い。どれだけ魔力を圧縮したものをぶつけようが物理的には何も破壊できねぇ」
「じゃあ、魔力弾って言われているものは?」
「魔力で圧縮して、形を維持してる高密度空気弾だ」
レオンが小さく目を細めた。
「……なるほどな。あの威力の正体は空気か」
「ん」
「だから圧縮率下げるって話になるのか」
「ん」
理解が追いついたらしいレオンに対し、セインだけが取り残された顔をしている。
「じゃあ魔力弾じゃないじゃん!」
勢いよく身を乗り出したセインに、グレイヴは呆れたような目を向けた。
「魔力(で圧縮して、形を維持してる高密度空気)弾」
「略すところが違う!」
「別にどうでもいいだろ、そんなもん」
性能が変わるわけでもなし、とグレイヴは切り捨てる。
「どうやって30000まで上げるか……。魔石を一級にしたとして、安全装置は……」
腕組んで自分の世界に入り込むグレイヴに「嫌な予感しかしねぇ」とレオンは項垂れた。
「お前、それ、大丈夫なんだろうな……?」
「理論上は?」
一瞬の絶句。
グレイヴは素知らぬ顔でお茶を飲み干した。
「言い訳にもならねぇんじゃねぇのかよ!?」
さっきカッコつけてたのは何処のどいつだ!とレオンの叫びが響いた。




