第三十一話 放出口
翌朝。
朝食を終え、レオンから鎧を返してもらう。と、グレイヴは早速自室へ駆け込んだ。
装甲を剥がし基板を露わにする。
焼け焦げた術式刻印、焼け溶けた術式保護板。発動した形跡のある逆流防止刻印。砕け散った魔石。
そこまでは村で暴発した魔道具と同じだった。
違うのは、見事なまでに真ん中で真っ二つになっていることと、導線の一部が生き残っていることの二点。
「一撃で真っ二つ」
さすがレオン、と感心したように呟き、基板を慎重に取り外す。
先日作った魔力残滓測定器を基板に翳す。
◆魔力コード:05
◆流量:21086/09
魔力コードは05。異常な流量。
村での暴発魔道具との共通点がまた増えた。
増えたが、原因は未だ掴めない。
グレイヴは基板を手に取る。
生き残っている導線を摘む。
「なんでこいつは生き残った?」
少し考え導線を外す。
外した導線を光に翳す。
虹色に輝く、金属ではないその質感。
「……あ」
グレイヴは目を瞬いた後、作業台の上に突っ伏した。
「……やらかした……」
「ほぉう」
グレイヴの肩が跳ね上がる。
慌てて振り返ると、扉に凭れて腕を組むレオンの姿があった。
「…………お前、いつからいた?」
「はじめから」
レオンは音も無く作業台に近寄る。
「で?何をやらかした?」
表情は笑っている。なのに圧がひどい。
グレイヴはそっと目を逸らす。
目を逸らした先には真っ二つの基板。
「……導線」
レオンが目線で先を促す。
「……ちょっといい素材使い過ぎてた」
「へぇ。何使った?」
「……龍の髭」
「聞いたことねぇな」
「あんまり出回らない」
「珍しいのか」
「……それなりに」
「それなり、ねぇ」
見透かすようなレオンの目に、グレイヴは身動ぎする。
「で、そいつはどういう素材だ?」
「……超高耐魔圧、超高耐熱、超導魔率」
「そりゃすげぇな」
感情のこもらない平坦な声だった。
「んで?」
「そのせいで鎧の暴走止まらなくしてた、かも」
「ほぉ」
「普通の導線だったらもっと早い段階で焼き切れて発火……するか、止まってた、と思う」
「発火は発火で問題だがな」
はぁ、とレオンは息を吐く。
「つまり、そんな導線使ってたおかげでお前は危うく凍死しかけたってわけか」
「う」
「このバカ」
「うう」
返す言葉もなく、グレイヴは小さく萎れていく。
「セインだって相当無理してたんだぞ」
「……そうなのか?」
「魔力切れ起こしてた」
「……ごめん」
「セインに言え」
「それは言う。けど、お前にも……心配かけた」
だからごめん、とグレイヴは頭を下げた。
しばしの沈黙の後、思いっきり額を弾かれ頭が揺れる。
視界が一瞬白く弾けた。
「────!?」
「まったくな」
痛い、というレベルを超えたデコピンに涙目になる。
明日になったら痣ができてることだけは確信できた。
「んで?」
「……んで?」
「その導線が生き残った理由はわかったとして、なんで暴走した?」
レオンが基板を見る。
「村の暴発と同じだ。コード05の魔力が異常な流量で逆流した」
「その魔力はどこから来た?」
「……それがわかんねぇ……」
グレイヴが額を摩る。まだ痛い。
「そういやお前、昨日妙なこと言ってなかったか?」
「妙なこと?」
レオンの言葉に、妙なことなど言った覚えはない、と首を傾げる。
「靄が流れ込んだのなんのって」
「……言ったな」
グレイヴは沈黙する。
確証はない。
ただあの時、靄の先が細く鎧に繋がっていたような気がした。
「……あのもやが魔力だった……?」
あり得るのか。
魔力が目に見えるなんて聞いたことはない。
だが、あの時確かに空気は震えた。
それは魔力が動く時の感覚に近かった。
靄が魔力だとするなら。
鎧のどこに繋がっていた?
一瞬とはいえ、見た気がした以上視界の範囲内だ。
グレイヴは鎧の胸部装甲を引き寄せる。
不意に目についた、余剰魔力を逃がす放出口。
基板設置部のすぐ横にある小さな穴。
装甲を裏返す。
放出口付近に彫られた放出刻印。
その刻印が、真っ黒に焼け焦げていた。
「ここを通った……?」
魔力が放出口を通って内部に入り込み逆流したと考えれば、辻褄は合う。が、確証はない。
そもそも何故内部に入った?
「わっかんねぇ……」
唸るグレイヴにレオンが首を傾げる。
「何がわかんねぇんだよ」
「原因魔力が放出口を通った可能性がある。けど、入ってきたのか出ていったのか確証がない。それにもし入ってきたとしたなら、なんで入ったかがわからねぇ」
グレイヴが確認しながら言う。
「そもそも何だったんだ、あの魔力」
腕を組んで考え込むグレイヴにレオンは首を傾げた。
「それ、今考えなきゃいけないことか?」
「は?」
「原因魔力の通り道?の目星が付いたんだろ?」
「確証はねぇけどな」
「だったらそこに罠でも仕掛けときゃ良いじゃねぇか」
「罠?」
「通ったらわかるように。あわよくば通さねぇようにだよ」
レオンはさも当然とばかりに言う。
原因を突き止める。
異常の正体を解明する。
そう考え続けていたグレイヴは、一瞬言葉を失った。
乱雑な理屈だが、確かにその通りだった。
「通ったらわかる……、通さない……」
グレイヴは立ち上がる。
「とりあえず、村の暴走した魔道具見てくる。放出口確認しときたい」
「なら行くか」
「一人で行けるぞ?」
「今日の俺の仕事はお前の監視だよ」
「……むぅ」
完全に不満の鳴き声だった。
「だから鳴くな」
「鳴いてねぇ」




