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黒鎧の魔道具技師-巡界士は副業です-  作者: 古河実


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第二十四話 おにぎりうまい

 タオルで髪を乾かしながらキッチンに戻る。


「やぁ、おはよう。グレイヴ」


 朝から無駄に爽やかな笑顔を浮かべたセインが、食卓に着いていた。


「ん。はよ」

「グレイヴ、味噌汁よそってくれ」

「わかった」


 レオンに呼ばれ、タオルを収納に仕舞う。

 コンロには湯気を立てる鍋。

 蓋を開ける。

 味噌の香りが鼻を抜ける。

 腹が鳴った。


「…腹が減ったのはわかったから、もうちょっと待て」


 笑いを堪えようともしないレオンに「今のは不可抗力」と口を尖らせる。

 用意された人数分の汁椀に味噌汁をよそって、食卓に運ぶ。


「今日は水郷風?」

「苦手だったか?」

「あんまり食べたことないかな」


 でも美味しそうな匂いするよ、とセインは笑う。

 特段、気を遣っているようには見えない。


「ダメそうならパンもあるからな」

「レオンってお母さんみたいだね」

「誰がだ!」

「レオンはオカン」

「グレイヴ、てめぇ」


 おむすびを握るレオンから拳骨は飛んでこなかった。

 代わりに殺気が飛んでくる。

 グレイヴは知らぬふりでセインに視線を向ける。


「箸は?」

「はし?」

「……スプーン持ってくる」


 カトラリーを用意して席に着く頃には、食卓の上におむすびの山が二つ並んでいた。


「こっちが鮭、こっちが牛しぐれ」

「海苔は?」

「売ってなかった」


 グレイヴが収納から金属製の箱を取り出す。

 刻印に触れて蓋をあける。箱の中には様々な食材が押し込められていた。

 その中から平らな袋を取り出しレオンに差し出す。


「ん」

「お前、持ってんのかよ」

「真空にしてたから湿気てない。多分」

「そうか」


 セインは海苔とグレイヴを見比べた。


「君の収納どうなってんの…?」

「普通」

「絶対違う」


 即座に否定するセイン。

 レオンは大きくため息を吐き出した。

 そしてセインを見て一言。


「……グレイヴだからしょうがない。深く考えるな」

「何がだ?」


 意味がわからず首を傾げながらも、グレイヴはおむすびに手を伸ばす。

 ちゃっかり海苔は巻いている。


「気にすんな」

「わかった」


 端から然して気にしていない様子で、グレイヴはおむすびを頬張る。


「鮭うまい」

「そうか。良かったな」

「ん」


 その様子を見ていたセインが「これ、のり?巻くの?」と首を傾げていた。


「海苔は好みだ。どっちでも良いぞ」

「手づかみなんだね」

「箸で食う奴もいる。個人的には手に持ってかぶり付く方が好きだがな」

「なるほど」


 おむすびを一つ手に取ると、セインはそのままかぶり付く。


「うん。美味しいね」

「鮭うまい」

「……そうか。良かったな」


 グレイヴの手はすでに三個目に伸びていた。


「そういや、昨日言ってた器具?はできたのか?」


 レオンの問いに、セインもグレイヴに視線を向ける。

 グレイヴはおむすびを咥えたまま頷く。


「どうだった?何かわかった?」


 首を横に振る。

 三個目のおむすびを飲み込んで、味噌汁を啜る。

 それからようやく口を開く。


「同じコードの魔力が異常な流量で逆流した…ってことしかわからなかった」

「うん?同じコードの魔力?」

「やっぱ、そこが引っ掛かるよな…」

「……君の引っ掛かりと俺の引っ掛かりは違う気がするなぁ」

「?」


 首を傾げるグレイヴにセインは苦笑する。


「そもそも同じコードってのは、どういう意味だ?」


 と、レオン。

 汁椀に野菜だけが残っていた。


「魔力の識別番号みたいなもんだ。大まかな発生地区分…魔石なら産地がわかる」

「へぇ」


 おむすびを口に入れ、レオンがあまりわかっていないような返事をする。


「つまり?」

「今回検出された魔力は、この辺りのものだった」

「それの何が引っ掛かるの?」

「…わかんねぇ。けど、なんか引っ掛かる」


 唸りながらもグレイヴはおむすびに手を伸ばす。

 海苔を巻く。

 かぶり付く。牛しぐれだった。


「牛しぐれうまい」

「そうか」

「今そこ…?」


 セインが脱力する。


「情報が足りねぇから、これ以上はわからねぇ」


 グレイヴは口をへの字に曲げる。


「わかってることを纏めると…暴発理由は異常な量の魔力の逆流。これは合ってる?」

「うん」


 グレイヴの手がおむすびに伸びる。


「魔力が逆流した原因は不明?」

「うん」


 海苔を巻く。


「逆流した魔力のコードは全部一致した…。言うなれば、凶器は同じってことかな?」

「そんな感じだ」


 かぶり付く。


「つまり、証拠が足りなくて犯人に辿り着けてないってことだね」

「…なんとなくわかった」


 そう言いながら、レオンは汁椀をグレイヴの方へ押しやった。

 グレイヴが汁椀を無言で押し返す。

 持っていたおむすびは既に無い。


「で、犯人に目星は?」

「まったく」


 再びレオンがグレイヴに汁椀押し付ける。

 グレイヴが押し返す。


「ねぇ、何やってるの…?」


 行ったり来たりする汁椀に、セインが呆れた顔をする。


「レオンが野菜食わない」

「お前いつも黙って食うだろ」

「元々少なめによそった。それくらい食え」

「グレイヴの言い分が正しいね」


 セインは公正に判断した。


「ぐっ」


 言葉に詰まりながらも、まだ諦めずに汁椀を押しやるレオン。

 グレイヴがぴくりと眉を動かした。


「これ以上ぐだぐだ言うならセインに拘束させる」

「なんか巻き込まれた!──拘束って羽交締めすればいいの?」

「おい!」

「食わせ方は見てきたから知ってる」


 酷く静かな声だった。


「やめろよ!」


 青ざめて叫ぶレオンに、グレイヴは汁椀を指差す。


「じゃあ食え」

「……はい」


 レオンは項垂れ、もそもそと野菜を口にした。

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