第二十三話 測定結果
収納から焼け溶けた基板七枚を取り出し等間隔に並べていく。
基板には一つ一つ魔道具名、暴発日時、発生場所が書かれたメモが貼られていた。
そのメモの字を最近どこかで見たような気がする。が、まぁ良いか、と完成した測定器へ手を伸ばした。
並べた基板の上に翳そうとして、止まる。
しばしの逡巡。
グレイヴは測定器を作業台に置き直し、収納から槍を取り出す。
保温用熱源試験機の一つだ。
分解用の刻印を押し込んで基板を露わにすると、グレイヴは魔石を外した。
槍を作業台に置き、測定器を翳す。
表示盤の中心に『測定中』と文字が浮かぶ。
数秒の後、ピッと小さな音と共に表示が変わる。
◆魔力コード:07
◆流量:06/06
「魔力コード:07は…」
地図の様なコード表を取り出し確認する。
07と区分されている地域を探す。
「ああ、フィネルのソルガ南部山脈周辺か…」
先程外した魔石へ視線を落とす。
「最大6、最少6」
確認する様に呟きながら、メモを取る。
そして今度は小型溶接機を取り出す。
基板部の魔石を抜いて、測定器を翳す。
◆魔力コード:04
◆流量:07/07
「コード4、最大7、最少7」
メモを取りながら、頷く。
そして。
ようやく並べた基板の上に測定器を翳した。
ピッ、と鳴った後に表示されたのは。
◆魔力コード:05
◆流量:18673/03
「……は?」
グレイヴは目を瞬かせる。
無言で溶接機に測定器を近付ける。
◆魔力コード:04
◆流量:07/07
「…………」
先と同じ基盤に翳す。
◆魔力コード:05
◆流量:18673/03
槍に翳す。
◆魔力コード:07
◆流量:06/06
一拍置いて、先とは違う基板に翳す。
◆魔力コード:05
◆流量:19023/04
メモを取る。
次の基板。
◆魔力コード:05
◆流量:17409/02
次。
◆魔力コード:05
◆流量:18993/04
次。
◆魔力コード:05
◆流量:19164/01
次。
◆魔力コード:05
◆流量:17765/03
次。
◆魔力コード:05
◆流量:19031/08
全ての結果をメモに取り、グレイヴは眉間を揉む。
「……なんだ、これ」
一旦基板をまとめて収納へと仕舞う。槍と溶接機も片付けておく。
広くなった作業台の上にコード地図とメモを広げる。
「コードは全部05…ブラガンデ、レゾナ東部山地周辺」
新たな用紙に書き付ける。
「魔力流量異常による過負荷。原因不明」
そこで筆が止まる。
「魔石由来の可能性は…ないな」
魔石が暴発したところで、この流量には届かない。
魔石と書いた上にバツをうつ。
「共通点は…逆向きの焼損痕」
逆流?と書き込み、ペン先で作業台を軽く叩く。
「いや」
書いたばかりの?をバツで消す。
「逆流防止刻印は発動してた。なら逆流は確定する」
手が止まる。
「何が逆流した?」
魔力流量異常に丸をして、逆流に矢印を引く。
「こいつはどこから来た?」
バツをうった魔石から魔力異常流量に矢印を引き、その矢印にバツをする。
グレイヴは腕を組んで用紙を睨む。
「魔石が要因じゃないなら、別の要因がある…?」
しばし考え込む。
「外部から入ってきた?…だがどうやって?」
外部?と書いて魔力異常流量に矢印を書く。
「………ダメだ、わかんねぇ」
グレイヴは作業台に突っ伏す。
「情報が足りねぇ…」
唸るように呟いて、突っ伏したまま書き連ねた文字を見る。
「同じコードの魔力が」
コードは全部05を指先でなぞる。
「異常な流量で」
指先を滑らせ、今度は魔力流量異常を指す。
「逆流した」
さらに指を動かし逆流の文字を指先で叩く。
「魔力コードはレゾナ東部山地周辺…。この辺り一帯………」
そこで言葉が止まる。
「魔力がこの辺りのもの……?」
一瞬、何かが引っかかった。が、形にならない。
「……やっぱ、わかんねぇ……」
グレイヴは突っ伏したまま、指先で用紙の端を小さく弾く。
「もう一個、何かありゃわかんのに……」
呟いた声はそのまま寝息へと変わった。
「……」
目を開ける。
空が明るい。
数秒考えてから、自分が作業台に突っ伏したまま寝落ちていたことに思い至る。
「いてぇ……」
首を押さえながら身を起こす。
頬に張り付いていた用紙がぺり、と剥がれた。
寝ぼけた頭でぼんやりとメモ書きを見る。
やはりまだ掴めそうにない。
階下から香ばしい匂いが漂ってきた。
くぅ、と腹が鳴る。
簡単に身支度を整え下に降りる。
「早ぇな」
グレイヴがキッチンに着くより先に、レオンから声が掛かった。
「腹減った」
「まだできねぇよ」
レオンはコンロに向かったまま、背中越しに肩を竦める。
「ぐう」
「口で腹の音を再現すんな」
「腹減った」
「バナナでも食ってろ」
「…ん」
グレイヴは食卓に束で置かれたバナナに手を伸ばす。
「昨日、バナナなんかあったか?」
一本もぎ取る。
「さっき買ってきた」
「さっき?」
皮を剥く。
「おう。朝市。賑やかだったぞ」
一口齧る。飲み込む。
「……お前凄ぇな」
「何が?」
「朝から活動的」
「…目が覚めちまうからな。しょうがねぇ」
「そうか」
バナナはすぐになくなった。
「それよりお前、風呂入れ」
昨日入ってねぇだろ、とレオンの声が低くなる。
「メシはそれからだ」
ようやくレオンがグレイヴに目を向ける。
「…汗臭ぇぞ?」
その一言に目を見開き、グレイヴはふらふらと風呂場へ向かった。




