第二十話 村周辺
ひとしきり騒がしい昼食を終え、一行は周辺魔物の調査へ向かった。
村の周囲はなだらかな丘陵が広がっている。東の空には遠く青い山並みが霞んで見えた。
「特に魔物が群れてるとかはなさそうだね」
「痕跡も……ねぇな」
「むしろ何もいねぇ……」
セインは資料を取り出しぱらぱらと捲った。
「……結界ログだと確かにこの一ヶ月で何度か群れに襲われてるんだよね」
該当の頁をレオンとグレイヴに見せ、セインは唸る。
「魔物の種類は……小型魔物ってことしかわかんねぇか」
「種類まで判別出来るようなのは大都市にしかないんじゃない?区分がわかるだけでも大したもんだよ」
「場所は毎回この辺りなのか?」
「そうだね。東側に集中してるみたいだよ」
話し込む二人の横で、グレイヴは腕を組んで資料を眺める。
「この辺り、元々中型以上の魔物はいなかったのか?」
「んー、どうだろう?分布図あったかな……?」
資料に一通り目を通して「ないな……」と呟くと、セインはグレイヴと目を合わせた。
「何か引っかかることでもあった?」
「……襲撃にしちゃ、痕跡がなさすぎる」
「それは俺も気になってる」
レオンの同意にグレイヴは頷く。
「群れが村を襲ったんじゃなくて、別の何かから逃げてた可能性は?」
セインが首を傾げる。
「逃げてた?」
「あぁ。群れが何度も通ったなら、もう少し痕跡が残るだろ」
周囲へ視線を巡らせる。
「餌場にした形跡もねぇ。縄張りを広げた様子もねぇ。村の近くに居着いてた感じがしねぇんだよ」
「通過しただけ、ってこと?」
「かもしれねぇ」
グレイヴは腕を組み直す。
しばし沈黙。
やがてレオンが口を開いた。
「どっちにしても、こう気配も痕跡もねぇんじゃな……」
「そうだね……。もう少し範囲を広げようか」
ふと、グレイヴが東の山々に視線を投げた。
その視線の先を追い、レオンが苦笑する。
「山まで行くか?」
先回りするように問われ、グレイヴは肩を竦めた。
「いや……。先にこの辺りを調べてからだな」
三人はさらに東へと向かう。手掛かりらしい手掛かりはない。
気付けば村は見えなくなっていた。
「止まれ」
先に足を止めたのはレオンだった。
しゃがみ込み、地面へ手を伸ばす。
「……足跡か」
「小型じゃねぇな」
土に刻まれた跡をなぞる。
「中型?」
セインが覗き込む。
「多分な」
レオンは東の方角を見る。
「しかも一匹二匹じゃねぇ。……群れで動いてる」
「じゃあここら辺に中型の群れがいるってこと?」
セインの問いに、レオンはすぐには答えなかった。
耳がゆっくりと動く。
東。
西。
そして再び東。
尻尾が止まる。
数秒。
沈黙。
「……いや」
ようやく口を開いた。
「いねぇな」
首を振るレオンに「種類、わかる?」とセインが問う。
「この蹄跡は……大角羊だな」
「危険度は?」
「低いな。基本的に温厚だ。デカいけど」
「美味いやつ」
「ん?」
何か違う言語が混じった気がしてセインは首を傾げた。
「脂のってて美味い」
聞き間違いでも別言語でもなかったらしい。
「……お前、もう腹減ってんのか?」
「歩いたからな」
「晩飯まで我慢しろ」
「ん」
「……何の話してたんだっけ?」
セインは軽く目眩を感じ、眉頭を押さえた。
「大角羊のはなしだろ?」
「……ウン、ソウダネ」
一瞬、遠くを見つめる。
「けど、妙だな。あいつらは滅多に縄張りを離れねぇはずなんだがな」
「大角羊の縄張りって?」
「山岳地帯──ここいらで考えられるのは、あの山ン中だな」
レオンが顎で示したのは、東方面に聳え立つ山並みだった。
「今から山まで行って調査するより、明日仕切り直した方がいいね」
太陽の位置を確認して、セインが二人に視線を向ける。
「そうだな」
「ん」
頷く二人に「じゃ、帰ろっか」とセインは村に向かって歩き出す。
「そういえばさ、大角羊ってそんなに美味しいの?」
「美味い」
「美味いな」
即答。
「食ったことねぇの?」
不思議そうなグレイヴに「ないなぁ」とセインは首を振る。
「もったいねぇ」
「そんな言うほどなんだ?」
「うん」
「セインは魔物肉食べない派か?」
「いや、そんなこともないよ」
出されれば普通に食べる、と言ってから思い出したように「あ、でも」と手を打った。
「子供の頃出てこなかったから、親はそうだったのかな?」
「まぁ、魔物だしな。嫌がる奴もいる」
レオンは苦笑を浮かべる。
「美味いのにな。自分で狩ればタダだし」
当たり前のように言うグレイヴに、セインは思わず苦笑した。
「むしろ肉屋に卸せば金になるな」
レオンまで頷く。
「……逞しいね、二人とも」
巡界士というより猟師の会話だ。
「そういや収納って」
不意にグレイヴが口を開く。
「急に変わるな」
レオンが呆れたように眉をひそめる。
「いや、関連性あるぞ?」
真顔で返され、レオンは「そうか」と適当に流した。
「で?」
「解体して肉にしたら入れれるのに、解体前は入れれねぇのなんでだ…?」
一瞬、沈黙。
「言われてみれば」
レオンが顎に手を当てた。
「気にするとこ、そこなんだ……」
セインは軽く頭を抱える。
「何の制限かかってる……?」
グレイヴはすでに別のことを考え始めていた。
「勝手に改造すんなって言われてんじゃねぇの?」
「……帰ってルシエルに許可もらってから取り掛かる」
数歩先を歩いていたセインが足を止める。
「改造は決定なんだね」




