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黒鎧の魔道具技師-巡界士は副業です-  作者: 古河実


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第二十一話 魔力残滓測定器

 カルム村へ帰り着いた頃には、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。


「じゃあ、俺は村長に一応の報告してくるよ」


 役場に向けて歩き出すセインに、グレイヴが「あ」と声を上げる。


「何?どしたの?」

「ついでに暴発魔道具の基板借りてきてくれ」

「基板…?」


 セインは数秒考え、ぽんと手を打つ。


「朝言ってた魔力残滓だっけ?」


 頷くグレイヴに「りょーかい」と軽く返して、セインは今度こそ役場へと向かった。


「魔力残滓?ってなんだ?」


 借り家に戻りながらレオンが首を傾げる。


「魔力の残り香みたいなもん」

「へえ、そんなもんあるのか」


 聞いたことねぇな、と小首を傾げるレオンにグレイヴは「書庫で読んだ」と頷く。


「で、それをどうすんだ?」

「調べる」

「どうやって?」

「器具使って」

「器具?」

「専用の器具がある」


 なるほど、とレオンは頷く。


「持ってんのか?」

「今から作る」

「……お前……」


 思わず額を押さえる。


「何だよ?」

「……いや、いい」


 レオンは盛大に息を吐く。


「それで、その魔力残滓?を調べて何がわかるんだ?」

「痕跡」

「おい」


 あまりにも説明になっていない。

 半眼でグレイヴを見下ろす。


「ログを取り出すと思ばいい」

「ログ?記録装置があったのか?」

「ない」

「は?」

「魔力残滓から取り出す」

「──そんな事できるのか?」


 ありえねぇだろ、とレオンが真顔で問う。


「まだ俺も検証してない」


 グレイヴがレオンを見上げる。


「ただ、理論上はそうなってる」


 迷いのない目でグレイヴは言う。


「だから試す」

「……試すのはいいが、徹夜すんじゃねぇぞ」


 無駄であろう釘を刺す。


「善処する、多分」


 グレイヴは目を逸らす。

 レオンは無言でその頭を小突いた。


「痛い」


 恨めしげな目を向けるグレイヴを無視して、レオンは歩みを早める。

 歩幅の関係か。

 ただ歩いているだけでレオンが先を行くのを、不満そうにグレイヴが睨む。


「ちょっと足が長いからって…!」

「なんか言ったか?」

「言ってねぇよ!」

「へぇ」

「なんかムカつく!」

「はいはい。いいから帰んぞ」


 お前もやる事あるんだろ?と言われ、グレイヴは不承不承ながらも頷きレオンの後を追う。

 小走りでレオンの横に並び「そういや」と口を開く。


「レオンって何で来たんだ?」


 問われたレオンはぴくりと片眉を上げた。


「今更だな、おい」

「今、気になった」

「……そういう奴だよお前は」


 肩を竦め、レオンは苦笑する。


「ルシエルに頼まれた」

「やっぱルシエルは今回の件、重要視してんのか?」

「…あー。それもある、な」

「それ以外にあるのか?」

「まぁ、色々あるんだよ」

「そうか」


 それ以上追及する気もないのか、グレイヴはあっさり頷いた。

 だが次の瞬間には、もう別のことを考えている。


「魔力残滓どの程度残ってるもんか…」

「おい、ちゃんと前みろよ」

「んー」


 帰ってくるのは生返事。

 レオンは再び息を吐く。


「お前ら二人だと何しでかすかわかんねぇから、俺まで駆り出されたんだよなぁ」


 ぼそりと落とした独り言に「んー」と返事をされて、思わずグレイヴを見る。が、彼の意識はここにはないようだった。


「適当な生返事してんじゃねぇよ、紛らわしい」


 レオンはグレイヴの背中を叩く。


「っ!?何!?」

「おら、さっさと歩け。いつまで経っても帰れねぇだろ」

「口で言えよ!」

「生返事しかしねぇの誰だよ」

「ぐ」


 ようやく辿り着いた借り家に入ると、グレイヴは自身に割り当てられた部屋へと向かう。


「飯できたら呼ぶ。ちゃんと降りてこいよ」

「………わかった」


 レオンの目が細まった。

 グレイヴは足早に自室に入り扉を閉める。


「……さて」


 鎧を外し収納に入れる。

 次いで簡易作業台、折り畳み椅子、設計図、工具箱、素材箱を取り出していく。

 籠手のフックをベルトループに引っ掛け、椅子に腰を下ろす。

 設計図を広げ、固定すると腕をまくる。


「やるか」


 術式保護板を固定具に挟む。

 手馴れた動きで、艶の落ちた古い皮のケースを開く。

 細い刻印針を取り出し、表面に術式線を刻んでいく。

 設計図へ視線を落とすのは最初の一度だけ。

 カリ、カリ、と刻印針が術式保護板を削る。

 一本。

 また一本。

 細い術式線が術式保護板の上に描かれていく。

 一通り刻み終えると、術式保護板を裏返した。

 裏面に掘られた細い溝へ導線となる魔銀線を這わせる。

 固定具で導線を留め、導線切りで余分な部分を切り落とす。

 切り落とされた魔銀線の切れ端が作業台の上へ転がる。

 これで基板は完成だ。


「……こんなもんか」


 導線切りを置いて、一息吐く。

 顔を上げると、窓の外は既に真っ暗になっていた。

 素材箱から整然と並べられた規格魔石の一本を取り出し、小型灯具へ翳す。

 床へ落ちた光は細かな網目模様を描いた。


「……三級」


 それを箱へ戻し、別の一本を摘み上げる。

 同じように翳すと単純な格子模様が映し出された。


「五級。これでいい」


 基板の保持具に魔石を装着する。

 術式線に淡い光が走った。


「…動いた」


 グレイヴの口角が上がる。


「次は表示部分…」


 素材箱に手を伸ばしたところで、扉がノックされた。


「メシ」


 遠慮なく扉を開けたのはレオン。

 グレイヴの視線がレオンの顔と完成した基板の上を彷徨う。


「グレイヴ」


 眇められるレオンの目。声に圧がこもっている。


「……もうちょっと」

「お前のもうちょっとは信用できん」

「う」


 呻きつつもなかな腰を上げようとしないグレイヴに、レオンはため息を一つ。


「今日は赤ワイン煮なんだがなぁ」

「行く」


 装着した魔石を手早く外し、勢い良く立ち上がるグレイヴ。

 レオンは笑いを噛み殺した。

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