↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鎧の魔道具技師-巡界士は副業です-  作者: 古河実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/21

第二話 協会支部

 重たい石の街並みの間に色とりどりの看板が掲げられ、隙間を縫うように無骨な配管が張り巡らされている。

 頭上では丸みを帯びた飛空艇が行き交い、遠くの塔では魔力の光が瞬いていた。

 通りを行き交う人々は、隣を歩く者の肌が鱗に覆われていようと、羽の生えた小人が飛んでいようと、角の生えた者とすれ違おうと誰も気にしない──それがこの世界の日常なのだ。


 何とも言えぬ雑多な喧騒に塗れた大通りの突き当たりに、巨大なアーチが跨いでいた。

 アーチから吊り下げられた青地の丸看板には、金文字で『異常対応巡界士協会レゾナ支部』と刻まれている。

 周囲の喧騒から切り離されたような存在感。

 グレイヴはそれを一瞥し、周囲に伸びる塀の長さに息を吐く。


「……相変わらず、バカでけぇな。どこの要塞だよ」


 巡界士協会の主要支部はどこも似たようなものだが、この規模はやはり異様だ。見えている建物だけで完結しているようには見えない。


「名前も大袈裟だけど」


 ご大層な名称だが、やっていることは何でも屋だ。

 もちろん、先のような案件も例外ではない。


 グレイヴは塀の中に足を踏み入れ、正面の建物の扉に手を掛ける。

 きぃ、と蝶番が軋む。

 幾つかの視線がグレイヴに向けられるが、構わず目的の物を探す。

 どの街でもそうであるように、入口の脇にそれは据え付けられていた。

 無機質な台座の上に、半透明の円盤だけが静かに浮かぶそれに「相変わらず無駄にハイテク」と呟いて左腕の籠手を軽くかざす。

 籠手に刻まれた円の紋章、その中心の線が緑色に強く光る。

 同時に、盤面に文字が浮かび上がった。


◆氏名

 グレイヴ


◆階級

 三級巡界士


◆現所在登録地

 ブラガンデ共和国 レゾナ支部


◆依頼引受状況

 二級依頼 1件

 確認事項があります。窓口までお越しください。


 手を離し、表示が消えたことを確認して窓口へと向かう。


「認証盤に確認事項ありってメッセージ出たんすけど」

「確認いたします。こちらに紋章をかざしてください」


 言われるまま、カウンター上の円盤に籠手の紋章をかざす。中心の線が光る。

 カウンター内の大きめの円盤を何度か操作し、受付嬢は頷いた。


「……確認いたしました。船舶組合から事後依頼が来ています。二級として処理されました。──報酬金額の確認をお願いします」


 そう言って差し出された紙に記されていたのは、三百五十万ノヴァ。


「……多すぎじゃないっすか?」

「エンリット号船長からの上乗せが含まれています」


 聞き覚えのない名に、グレイヴはわずかに首を傾げる。


「エンリット号?」

「あなたが乗り合わせた旅船の名称です」

「へぇー、……ってそうじゃなくて、それにしたって多すぎっすよ、コレ」

「そうですね。二級報酬が二百万ノヴァを超えることはあまりありません」


 本来ならこういった緊急案件は報告と謝礼で済みますから、と受付嬢は淡々と言う。


「──もし、返金が必要だと思われるなら、ご自身でのご対応をお願いします」

「……はい」


 なんとなく「さっさと受け取れ」と言われてる気がして、グレイヴは素直に頷いた。


「では報酬は口座振込でよろしいですか?」

「あ、五十万は手渡しで」

「金種はどうなさいますか?」

「千ノヴァ硬貨二十枚、後は一万ノヴァ硬貨がいいっす」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢は円盤に視線を落とし、数秒だけ指を走らせる。無機質な操作音が小さく鳴った。

 金属片の擦れる音が響き、ほどなくしてトレーの上に硬貨が並べられた。


「お待たせしました」


 グレイヴはそれを受け取り、籠手に視線を向ける。紋章が淡く光り、硬貨に触れた瞬間、それらは静かに消えた。


「……ま、いい稼ぎにはなったな」


 グレイヴはそう呟き、籠手を軽く叩く。

 その時、カウンターの中から──ピン、と小さな通知音が鳴った。


「グレイヴ様」

「はい?」

「二級依頼に関して、追加の確認事項が発生しました。2F戦術管理室までお越しください」

「……2F?」


 グレイヴは眉をひそめる。通常、依頼処理や報酬説明は1Fで完結する。わざわざ上階に呼ばれる案件は多くない。


「何か問題あったんすか?」

「いえ、問題というより──現場報告の補足解析です」


 淡々とした口調だったが、その瞳の奥には、何かを言い淀むような奇妙な含みがあった。

 グレイヴは肩をすくめる。


「まぁいいっすけど」


 そう言って踵を返す。その背に、受付嬢が小さく付け足した。


「本件、二級扱いですが、現場記録は未確定要素ありとなっていますので」

「未確定?」

「詳しくは2Fでお聞きになってください」

「わかりました」


 短く返し、2Fへと続く階段へ向かう途中。


 足裏の感覚がわずかにずれた。


「なんだ?地震か?」

「最近よく揺れるな」


 1Fフロアにいる巡界士達の声が聞こえる。だが。


「違う」


 グレイヴは呟く。

 揺れた──わけではない。


 踏んでいるはずの位置が、ほんの僅かに合わなくなるような感覚。

 視界は揺れていない。

 だが、身体だけが。外れた。


 グレイヴは眉をひそめ、軽く床を踏み直す。

 違和感はもう感じ取れない。


「──まぁ、いいか」


 グレイヴは呟いて、階段へと向かった。

初回は五話同時投稿です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。