第十六話 朝ごはん
翌朝。
村おこしの一環で運営されている農業体験用宿泊施設の一つ、小さな一軒家で、グレイヴは目を覚ました。
思ったより車酔いの影響が大きかったのか──すっかり眠り込んでしまったことに、少しばかり情けなさを覚えつつ身支度を整える。
部屋を出て階下の居間へ向かうと、そこには既にセインが寛いでいた。
「おはよう。よく寝れた?」
布張りの二人掛けのソファーから立ち上がり、グレイヴの顔を覗き込む。
その距離の近さにグレイヴは顔を顰めて仰反った。
「…なに?」
「ん、顔色良くなったね。昨日、なんだかんだずっと顔色悪かったからさ」
食欲もなかったみたいだし、と笑うセインに、グレイヴは脱力する。
「……あんたのせいだろ…」
「なんでさ」
「あんなめちゃくちゃな運転で酔わねぇとか無理」
「ひどいなぁ」
「どっちがだよ!」
半ば叫ぶように返して、グレイヴはキッチンへと向かう。
「あんた、朝メシは?」
冷蔵庫を開ける。昨日のうちに買っておいた食材が雑多に放り込まれていた。
「まだ」
「適当に作るもんでいいか?」
卵、塊のベーコン、トマトを取り出す。
少し考えてからキャベツと玉ねぎも抱え上げた。
「作ってくれるの?助かるー」
「あんた、料理しなさそうだもんな」
取り出した食材を台に置き、手を洗う。
「基本やらないね!」
「胸張ることじゃねぇだろ…」
まな板と包丁を用意しながら、グレイヴはため息を落とした。
「今日は、現場に居合わせた人への聞き取りだったか?」
野菜を洗って切り分ける。まとめてボウルに放り込む。
「そ。重体の子はまだ意識が戻ってなくて入院中らしいけど、親御さんから当時の状況聞こうと思ってる」
「そうだな」
ベーコンの包みを捲る。少し多めに切り分けて、残りを包み直す。
「セイン、これ冷蔵庫に戻しといて」
セインにベーコンの塊を押し付ける。
「はいはい」
使う分のベーコンを賽の目に切る。
フライパンを火にかける。
「聞き取りの後は、周辺の魔物調査か?」
「そうだね。増加傾向ってのがどれくらいのものか、要因があるのか、そのあたり確認しないとね」
ベーコンをフライパンに入れる。脂が出るのを待つ。
「討伐は?」
「ある程度することになるんじゃないかな」
脂が出てきたところで野菜を投入。適当に塩を入れ、焦がさないように炒める。
ボウルに卵を割入れ、ほぐす。
「魔道具の方はまだ調べることある?」
「あそこまで派手に壊れてるんじゃ、調べられる事残って……」
一瞬、グレイヴの手が止まる。
「……魔力残滓」
「え?」
「魔力残滓は調べておきたい」
卵を流し入れ、蓋をする。
「魔力残滓?」
「魔力の残り香みたいなもん」
フライパンを揺する。まだ早い。
「へぇ、そんなの調べられるんだ?」
「専用の器具があればな」
「持ってるの?」
「持ってない」
「え」
再びフライパンを揺する。もう少し。
「じゃあどうやって調べるの!?」
「作る」
「は?」
「作り方は知ってる」
蓋を外し、上下をひっくり返す。
「素材もある」
火が通るまでの間に、包丁とまな板を洗う。水気を切る。
戸棚から皿を出し、フライパンから移す。
ざっくり四等分に切り分ける。
「出来たぞ」
「……………君ってさぁ…」
「なに?」
「……なんでもない…」
「?」
首を傾げつつも、皿とカトラリーを食卓へと運ぶ。
「パン、そのままでいいか?」
「いいよー」
丸パンが詰められた紙袋ごと食卓へ置き、席に着く。
「あ、普通に美味しい」
皿に乗った卵料理を食べたセインが、意外そうな顔をした。
「混ぜて焼いただけで不味くなりようねぇだろ?」
不思議そうなグレイヴにセインは苦笑する。
「世の中にはそれを不味くする人もいるんだよ」
「へぇ」
「うわ!興味なさそな返事!」
「不味かろうが食えればいいんじゃね?」
「えぇ……」




