第十二話 鎧事情
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十一話、十二話連続投稿しております。
よろしければ先に十一話をご覧くださいませ。
「じゃ、始めよっか」
軽い声だった。
訓練用の盾と剣を装備したセインが上機嫌に片腕を回す。
「マジでヤダ…」
「……諦めろ」
うんざりとした表情で項垂れるグレイヴの肩を、同じような顔をしたレオンが叩く。
「二人まとめてでいいよね」
二人の様子など気にも留めず、セインはそのまま構えに入った。
──その瞬間。
まだ剣は振られていない。
盾も動いていない。
それでも、足が止まった。
呼吸が一拍だけ浅くなる。
グレイヴの指が、無意識に握り直される。
レオンの視線が、外せなくなる。
「一撃でも俺に届いたら君らの勝ち」
条件は軽い。
言葉だけなら、ただの手合わせだ。
だが“踏み込む”という発想だけが、妙に遠くなる。
まだ何も始まっていないのに、身体だけが先に「届かない」と理解していた。
グレイヴが踏み込む。
迷わず。
届かないと理解したまま、あえてそこに踏み込む。
セインの盾が真正面にくる。
構わず振り切る。
弾かれる。──想定内。
僅かに身体が泳ぐ。
突き出されるセインの剣。
無理矢理弾き返す。
後ろへ飛び退き、間合いをとる。
「盾割れるかと思った」
セインが朗らかに笑う。
グレイヴはそれに答えず、レオンに視線を投げた。
「いけるか?」
「……厳しいな」
レオンが腰だめに剣を構える。
グレイヴもまた構え直す。
同時に踏み込む。
セインが一歩踏み込む。
グレイヴの剣が振り切られるより先に盾が弾く。
と、同時に。
レオンの剣へ向けて、セインの剣が一閃した。
グレイヴが踏み替える。
親指が、無意識に柄をなぞる。
──ない。
一瞬、動きが止まった。
「っ」
セインの剣が、その隙を叩く。
首元に伸びる剣を、咄嗟に出した左腕で受ける。
「ぐっ──!」
「グレイヴ!」
「……悪い、大丈夫だ」
今度は両手で構え直す。
「……あんたも首狙いかよ」
軽口。
左腕の痺れが治らない。
だが。
グレイヴが踏み込む。
左腕の感覚はない。
それでも止まらない。
セインの盾。
避けない。
真正面から噛み合う。
──弾かせない。
重い衝突音。
剣が。
盾が。
悲鳴を上げる。
構わずそのまま押し込む。
食らいつく。
ピシリ、と剣から罅割れる音がする。
それでも引かない。
盾にも罅。
だが、崩れない。
重心は揺らぎもしない。
力だけなら押しているはずなのに。
悲鳴を上げ続ける剣と盾。
どちらが先に砕けるか。
もしくはどちらも砕けるか。
──どちらでもいい。
グレイヴは笑う。
その瞬間。
セインの視線が、ほんの僅かにグレイヴへ寄った。
レオンが消える。
「──あ」
セインが初めて声を漏らす。
首元。
そこへ、レオンの剣先が止まっていた。
「うわぁ。マジかぁ」
セインが苦笑しながら剣を下ろす。
「いやー、普通に通されるとは思わなかった」
そのままグレイヴの左腕を掴む。
グレイヴの顔が僅かに歪んだ。
「ごめんねー。ちょっと強く入りすぎた」
セインが掴んだ箇所から痺れが引いていく。
グレイヴは目線を上げて、セインの顔を見る。と、彼は悪戯っぽく片目を閉じた。
「……首狙ったやつが言う台詞かよ」
「あはは」
軽く笑ってから、セインの目が細くなる。
「で」
腕から手を離し、ぽつりと落とした。
「あの時、なんで止まったの?」
「……いつもの癖が出ただけだ」
バツが悪そうに顔を逸らすグレイヴに、レオンがため息を吐いた。
「その反応やめろ」
「自業自得だ」
「むぅ」
言葉に詰まるグレイヴにセインは小首を傾げる。
「いつもの癖、で何しようとしたの?」
「……魔力弾……」
小さな声。グレイヴは目を合わせない。
「ん?」
「魔力弾、撃とうとした…」
「……剣で?」
「剣で」
セインはレオンに視線を移した。
「……レオン、翻訳」
レオンは再び大きなため息を吐き出す。
「こいつの武器、おかしいんだよ」
レオンはグレイヴに近付き「ん」と手を突き出した。
「何?」
「出せ。口で説明するより早い」
グレイヴが腰に吊り下げた籠手から武器を取り出す。
一瞬で手元に収まるそれに、セインは羨望の声を上げた。
「思ってたより早いね」
良いなぁ、とセインの視線が籠手に張り付く。
「ヤダ」
「何も言ってないよね!?」
「目が言ってる」
そんな二人のやりとりを他所に、レオンは「またデカくなってんじゃねぇか…」と武器を見て顔を顰めた。
「お前、何付けた?」
「今は発砲機構、伸縮機構、チェーンソー機構…だけだな」
「……え」
セインが目を瞬かせ、低い唸りを上げる武器を見た。
無骨だった。
刀身は異様に分厚く、剣というより金属塊に近い。
刃先は今は収納されているのか表には見えておらず溝になっている。
根元には後付けされた外装と固定ボルト。
柄から鍔にかけては、術式刻印が幾つも刻み込まれていた。
もはや武器というより、魔道機械だった。
「な?おかしいだろ?」
「あ!発砲機構は魔力弾の出力も調節できるようになった!」
得意気に胸を張るグレイヴに、セインは呆然とし、レオンは「…そうか…」と辛うじて頷いた。
「って、グレイヴ片手で持ってるけど重くないの?」
「普通」
「普通じゃねぇわ、この馬鹿力。…言っとくけど、俺は両手で持ち上げるのがやっとだった」
こめかみを押さえるレオンに「お前が非力なだけじゃね?」と言って小突かれるグレイヴを眺めつつ、セインはしばし考える。
「…ねぇ、もう一戦しない?今度は実装備で」
どこか高揚感を帯びた声。
──だが。
「ヤダ」
グレイヴは、にべもなかった。
「なんでさーっ!?」
叫ぶセインにグレイヴは「うるさっ」と顔を顰める。
「実装備での模擬戦は事前申請が必要だって規則に書いてあった」
「…………君、本当、そういうとこ生真面目だよね…」
勝手に色んなもの魔改造するくせに、と口を尖らせるセインに「使いやすくしてるだけだ」と応じ、武器を収納する。
本格的に相手をしてもらえそうにないと悟ってセインは「残念」と肩を落とす。
そしてふと気付いたように、まじまじとグレイヴを見る。
「……何?」
「君、もしかして防具も改造とかしてない?結界機能付けましたーとかさ」
「んな事してねぇよ。そもそも結界をそんな小型化できるかよ」
呆れたように言われ「そうだよねー」と笑うセイン。
「付けてんのは浮力補助と冷却機能だけだ」
続いた言葉に表情が固まった。
「ちょっと待て」
レオンから待てがかかり、グレイヴは口を閉ざす。
「浮力補助ってのは?」
「水に落ちても沈まないように付けた」
「冷却機能ってのは?」
「蒸れるから。特に夏」
「……そうか」
レオンが複雑な表情で頷く。
その後ろで。いや、彼らの周囲で。にじりよじりと近付いてくる複数の影。
彼ら、彼女らの視線は真っ直ぐにグレイヴに向けられていた。
いくら気配感知がザルと言われるグレイヴでも気付くレベルで集中する視線に、思わず身構える。
彼らはグレイヴをひたと見据えて一様に口を開く。
「「「「「──その機能はどこで付けてもらえるんですかーーーっ!?」」」」」
「ひっ!」
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