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7話 白亜の綻び

眩しすぎる白亜の街並みを、私たちは路地裏の影を縫うようにして進んだ。

 大通りをこっそりと覗き見ると、行き交う人々は皆、心から楽しそうに笑い合い、街は活気に満ちていた。

 子供たちが歓声を上げて広場を駆け回り、市場では商人たちが威勢のいい声を張り上げている。どこからか陽気な音楽が聞こえ、焼きたてのパンの甘い香りが漂ってくる。

 それは、裏都市のような泥とサビの臭いとは無縁の、どこまでも普通で、圧倒的に平和な光景だった。

 張り付けたような偽りの笑顔ではない。誰もが本当に、この生活を謳歌しているのだ。

「……眩しいな」

 私はボロ布のフードを目深に被り直した。

 この完璧な幸福の風景は、天界から追放され、泥水を啜ってきた今の私には、別の意味で居心地が悪かった。

「おい、ザント。目当ての宝物庫はどこだ」

「この先にある、デカい鉄門の屋敷さ。財務大臣の別邸なんだけど、今日は主人が留守で警備のシフトも手薄になる時間帯だ」

「上出来だ」

 私たちはザントの案内に従って、屋敷の裏手へと回った。

 高い石壁の一部にある、使用人用の小さな鉄扉。私が右手の小指の能力を使って内部の鍵のシリンダーだけをサビつかせて破壊すると、扉はあっさりと開いた。

 屋敷の中に潜入すると、内装もまた目が痛くなるほど豪奢な作りだった。大理石の床、高価な絵画、金細工の飾られた壺。

「おおお……! 宝の山だぜ……!」

 リドが歓喜の声を漏らした。

 その目は完全に『¥』のマークになっており、手当たり次第に高価そうな装飾品を麻袋に詰め込み始めた。

「おい、私はどうすればいい? 天界の情報など、こんな場所にあるとは思えんが」

「アザゼルは適当に厨房でも探っててくれ! 俺はこの鉄クズを案内役にして、地下の金庫室を根こそぎ頂いてくる!」

「へいへい、お手柔らかにねー」

 リドはザントの鎖を引っ張り、そそくさと奥の廊下へと消えていった。

 私は一人、広い屋敷の中を歩き、厨房へと足を踏み入れた。

「おお……っ」

 私は思わず感嘆の声を漏らした。

 そこには、裏都市では絶対に見られない『豊かな食糧』が山のように積まれていた。艶やかな果実、焼きたての白パン、そして――。

「……見つけた」

 棚の奥。ガラスの瓶の中に、純白の宝石のような『最高級の角砂糖』がぎっしりと詰まっているのを発見したのだ。

 私は無言で瓶の蓋を開け、角砂糖を一つ、口に放り込んだ。

「……ッ!」

 上品で、混じり気のない圧倒的な甘さが脳髄を突き抜ける。裏都市の濁った砂糖とは次元が違う。

 私は我を忘れ、両手で角砂糖を鷲掴みにすると、自分のボロ服のポケットに次々と詰め込み始めた。

「ふふっ、これは戦略的物資の調達だ。これで当分はあの泥スープを完璧な味に変えられる……」

 夢中で角砂糖を貪り、ポケットをパンパンに膨らませていた、その時だった。

「――こぼれていますよ」

 背後から、静かな声がした。

 ビクリと肩が跳ねる。

 振り返ると、厨房の入り口に、一人の少女が立っていた。

 王都の人間らしい、純白のメイド服。

 左手には銀のトレイを持っている。無口そうで、どこかミステリアスな雰囲気を纏った無表情なメイドだった。

「……ッ!」

 見つかった!

 私は咄嗟に右手の小指を彼女に向けた。警報を鳴らされる前に、気絶させるしかない。

「沈めッ!」

 パシュッ!

 小指から淡い緑色の光弾が放たれた。いくら威力が弱くとも、不意打ちで頭部に当たれば人間など一溜まりもない。

 だが。

 メイドは表情一つ変えず、スッと右手を伸ばした。

 パシッ。

「な……!?」

 私の光弾が、メイドの素手によって呆気なく掴み取られ、握り潰されたのだ。

 驚愕に目を見開いた次の瞬間――メイドの姿が掻き消えた。

 気配すらなく、音すら置き去りにして。

「――っ」

 風が舞う。

 気づけば、彼女は私の目の前、鼻先が触れ合うほどの至近距離に立っていた。

 速い。あのザントよりも、遥かにデタラメな速度。

 メイドは、硬直する私の顔を静かに見つめると、自分の唇にそっと人差し指を当てた。

「……シー」

 静かにして。

 そのジェスチャーに込められた圧倒的な実力差の前に、私は声帯が凍りついたように動けなくなった。

 ただのメイドではない。この女、強すぎる。

 メイドはトレイの上に置かれていた手紙のようなものを、厨房のテーブルにそっと置いた。

「騒がないでください。私はエノク様からの通達を置きに来ただけ。……エノク様の命令以外で、私は動きませんので」

 淡々とした声。

 彼女は私のパンパンに膨らんだポケットと、床に落ちた角砂糖を一瞥した。

「あなたがここで何を盗もうと、見逃します」

 彼女はそれだけ言うと、静かに踵を返した。

 しかし、厨房から出て行く直前、立ち止まってぽつりと言い残した。

「……右から二番目の棚。そこに、王族専用のハチミツがあります。疲れているなら、あれも持っていくといいでしょう」

 パタン、と。

 音もなく扉が閉まり、厨房には再び私一人だけが残された。

「……はぁ、はぁ……っ!」

 メイドが去った後、私は堪えていた息を大きく吐き出し、その場にへたり込みそうになった。

 なんだ、今の女は。

 殺気はなかった。だが、その内に秘めた力は、間違いなく底知れないものだった。


* * *


右から二番目の棚を開けると、そこには王族専用だという黄金色に輝くハチミツの瓶が鎮座していた。

 私はそれを手に取り、ずっしりとした重みと、硝子越しに伝わる濃密な甘の気配に微かな笑みをこぼした。麻袋にそれを滑り込ませると、先ほどまで感じていた王都の薄気味悪さも、幾分か和らいだような気がした。

「さて、目的の戦略物資は手に入れた。さっさとリドたちと合流して、この白々しい街からずらかるぞ……」

 麻袋の口を縛り、厨房の出口へと振り返る。

 その一歩を踏み出した、まさにその時だった。

「――だから言っただろ、ここの警備はザルだって」

 大理石の廊下の向こうから、聞き慣れた軽薄な声と、ジャラジャラという重苦しい鎖の音が近づいてきた。ザントとリドだ。無事に金庫室の宝を奪い終えたらしい。

「おい、アザゼル! 大豊作だぜ!」

 パンパンに膨らんだ麻袋を抱えたリドが、厨房の入り口に姿を現した。満面の笑みを浮かべ、興奮冷めやらぬ様子だ。

 私は「ああ、こちらも完了した」と答えようと口を開き――。

 そのまま、全身の血が急激に凍りつくのを感じた。

 リドが声をかけたのは、私ではなかった。

 彼の視線の先。厨房の入り口に立つリドのすぐ横に、「もう一人の私」が立っていたのだ。

 白金と金が複雑に混ざり合った、少し長めのボブヘア。不機嫌そうに僅かに歪んだ口元。天界の美しさを泥で汚したような、見すぼらしいボロ服。そこから覗く、華奢な肩のライン。

 まるで、空中に見えない鏡が置かれているようだった。

 いや、鏡などではない。なぜなら「もう一人の私」は、私が今まさに自分の麻袋に放り込んだはずのハチミツの瓶を、自らの胸にしっかりと抱えていたからだ。

「……は?」

 ひゅっと、掠れた間抜けな声が私の喉から漏れた。

 意味が分からない。自分の麻袋を探るが、確かにハチミツの瓶はそこにある。ならば、あちらが持っているものは何だ? どういうことだ。私が、二人いる?

「おい、早く行くぞアザゼル。ここのメイドに見つかったら面倒だ」

「分かっている。急かすな。下等生物の分際で」

「もう一人の私」が、私の声帯をそっくりそのまま使ったような完璧な声色でリドに答え、厨房の出口へと歩き出す。その足運び、ボロ布の擦れる音、傲慢な視線の配り方まで、何から何まで私自身だった。

 リドもザントも、そこにいる「本物の私」には目もくれず、偽物と一緒に廊下の奥へと歩き去ろうとしている。

「ま、待て! リド! 鉄クズ!」

 私は麻袋を放り出し、慌てて駆け寄った。前を歩くリドの背中に手を伸ばし、その肩を力いっぱい掴んで、自分の方へ振り向かせようとした。

 ――ガキッ。

「……え?」

 私の手は、リドの肩を確かに掴んだ。

 だが、脳に伝わってきたその感触は、圧倒的かつ暴力的なまでの「異常」だった。

 体温がない。服の布地の柔らかさもない。人間の肉や骨が持つ、微かな弾力すら一切存在しない。

 まるで、大地の底深くまで根を張った巨大な岩盤か、世界そのものに溶接された鋼鉄の彫像を掴んでいるようだった。

「おい、嘘だろう……」

 私は両手でリドの肩を掴み、全体重をかけて力任せに引っ張った。

 だが、ビクともしない。一ミリたりとも、彼の身体は揺らがなかった。私の足元のブーツが大理石の床を空しく滑るだけだ。

 リド自身は「偽物の私」と談笑しながら、ごく自然に、何の抵抗も受けていないかのように前へと歩き続けている。だというのに、私が加えた物理的な力だけが、この世界の法則から完全に除外されているかのように「無効化」されているのだ。

「無視するな! 私はここだ!!」

 私はリドを諦め、後ろを歩くザントの目の前に立ち塞がり、その胸ぐらを掴んだ。

 結果は同じだった。サイボーグの硬い装甲に触れたというより、絶対に動かすことのできない「背景」に押し潰されているような絶望的な固定感。

 ザントは私の身体を幽霊のように通り抜けるわけではない。彼が前へ進もうとする圧倒的な「世界の強制力」に押し負け、立ち塞がったはずの私が、ズザザザッと靴底を鳴らしながら無様に後ずさりさせられる。

 だが、彼の赤いカメラアイは、真正面で必死に抵抗している私を一切捉えていない。瞳の焦点は、私を透過し、遥か前方を歩く偽物の背中へと向かっていた。

「……なぁ、天使ちゃん。さっきのハチミツ、後で一口くれよ。脳みそに糖分回らなくてさ」

「嫌だ。これは私のための貴重な糖分だ。貴様のような鉄クズには機械油でも舐めさせておけ」

「ケチくせぇなぁ。少しはデレろよ」

 目の前で、私とザントの軽口が交わされている。

 私を完全に無視して。私という存在が、この世界に初めから存在していなかったかのように扱って。

「やめろ……やめろ! ふざけるなッ!!」

 私は怒りと恐怖で視界を真っ赤に染め、右手の小指を突き出した。偽物の背中へ向けて、ありったけの殺意と『豊穣』の権力を込める。

「吹き飛べッ!!」

 パシュッ。

 小指の先から、淡い緑色の光弾が放たれた。いくら最弱とはいえ、神の権力だ。何かしらの干渉は起こせるはずだ。

 光弾は真っ直ぐに飛び、偽物の背中に直撃した。

 だが、爆発も、衝撃も、服が焦げる匂いすら起きなかった。光弾は水面に落ちた一滴の雫のように、偽物の背中に音もなく吸い込まれ、完全に消え去った。歩みすら、ほんの僅かも止めることはない。

 ――世界から、私という存在だけが完全に切り離されてしまった。

 周囲の音が急速に遠のいていく。遠くから聞こえていた王都の喧騒も、子供たちの笑い声も、鳥のさえずりも、すべてが分厚いガラスの向こう側に隔てられたように濁り、消えた。

 まるで深海に沈められたように鼓膜に痛いほどの圧がかかる。極彩色に輝いていた厨房の白亜の光が、今はひどく暴力的で、無機質なノイズのように感じられた。

 自分の荒い呼吸音と、異常に早い心臓の鼓動だけが、耳障りに頭蓋骨の中で反響している。

 幻覚か? それとも、あの化け物メイドに脳をいじられたのか? それとも、ついにソロモンの呪いが私から「存在」すらも奪い取ったというのか?

『……こっちじゃよ……』

 不意に、耳元でねっとりと掠れた声が這った。

 ビクンと肩が大きく跳ねる。

 恐る恐る振り返ると、誰もいないはずの厨房の片隅に、いつの間にか**「黒いモヤ」**のようなものが渦巻いていた。

 それは単なる影ではなかった。泥とも、煙とも、腐敗した肉ともつかない、不吉で絶対的な「異物」。この徹底的に管理された完璧な「正義の国」の白亜の空間には、絶対に存在してはならない淀んだ闇だ。

 そのモヤは、空間そのものを腐らせて抉り取ったように、ぽっかりと黒い口を開けていた。

『……世界から弾かれた、可哀想な小鳥ちゃん。道に、迷ったのかえ……?』

 ヒッヒッ、という、骨が軋むような気味の悪い笑い声が、モヤの奥から手招きしている。

 危険だ。本能が、細胞の一つ一つが、そうけたたましく警鐘を鳴らしている。

 あの闇は、天界の高潔な光とも、裏都市の這いずるような泥とも違う。まったく別の、触れてはならない理外の「何か」だ。

 だが、今の私にはリドたちを追う術もない。完全に孤立し、世界のバグとして放置されたこの狂った空間で、唯一私を「認識」し、声をかけてきているのは、この不気味なモヤだけだった。

 私は震える拳を強く握り締めた。

 爪が手のひらに食い込み、微かな痛みが私がまだここに「在る」ことを教えてくれる。

 ここで透明な幽霊として永遠に彷徨うくらいなら、どんな悪魔の罠であろうと踏み越えてやる。私を誰だと思っている。高潔なる元天使、アザゼルだ。

 私は冷や汗を拭い、顎を上げると――意を決し、その淀んだ黒いモヤの中へと、自ら足を踏み入れた。


* * *


モヤの中に足を踏み入れた瞬間、世界が裏返った。

 上下左右の感覚が唐突に消失し、内臓が泥の中で掻き回されるような強烈な嘔吐感が喉元までせり上がる。視界は一時的に完全な暗黒に沈み、まるで空間という概念そのものがミキサーにかけられ、粗雑に縫い合わされるような、暴力的なまでの奇妙な浮遊感に襲われた。

 ――ガツッ。

 唐突に重力が戻り、足裏に硬い感触が叩きつけられた。

 私が立っていたのは、大理石で美しく磨かれた厨房の床などではなかった。冷たく湿り気を帯びた、歪な石造りの階段の上だった。

「……ここは?」

 思わず声が漏れるが、その響きすらもどこか遠く、幕を一枚隔てたように鈍く反響した。

 振り返っても、私が潜り抜けてきたはずの「厨房」へ繋がる扉も、黒いモヤも存在しない。ただ、無骨な石の壁がそそり立っているだけだ。さっきまでいた屋敷の図面を思い出してみても、あんな場所に下へ続く階段など、物理的に存在し得るはずがなかった。

 長い階段の壁には、鉄の燭台が等間隔で掛けられている。だが、そこで揺らめいているのは暖かな赤い火ではない。死人の顔を思わせる、不気味なほど青白い炎だった。

 手をかざしても、一切の熱を感じない。むしろ、炎の傍にいる方が芯から凍りつくような底冷えを感じる。空気は酷く淀んでおり、数百年も換気されていないような濃密なカビの臭いと、むせ返るような鉄錆の血生臭さが混ざり合って肺を満たした。

 私は全身の産毛が逆立つほどの警戒心を抱きながら、右手の小指に微かな『豊穣』の力を集めた。気休めにしかならない極小の光だが、今はそれに縋るしかなかった。

 一段、また一段と、音を殺してゆっくりと階段を下りていく。

 階段を降りきった先には、私の想像を絶する広大な空間が広がっていた。

 ――牢獄だ。

 見渡す限り、無数の錆びついた鉄格子が規則正しく並んでいる。床一面にはどこから湧き出したのか黒い水たまりが広がっており、私のブーツが動くたびにピチャリ、と嫌な音を立てた。

 どこか遠くで、ピチョン……ピチョン……と、水滴が落ちる音が無限に反響している。

 異常だ。あまりにも異常すぎる。

 あの眩しすぎるほどに管理された、塵一つない白亜の「正義の国」の地下に、こんな陰惨で広大な空間が隠されていたというのか? いや、違う。ここは恐らく、ドロステ王国の地下などではない。空間の繋がり方、空気の質、流れる時間の感覚すらも、地上のそれとは完全に断絶している。

「……よく来たねぇ。羽の捥がれた、可哀想な小鳥ちゃん」

 鼓膜を通さず、直接脳髄を撫で回すような、ねっとりとした声が響いた。

 声は、広大な空間の中央にある、他よりも一回り巨大な牢の中から聞こえてきた。

 鉄格子の奥。青白い松明の光すらも届かない、底なしの闇に沈んだ冷たい石の床に、一人の人物が座り込んでいた。

 松明の光が揺らぎ、その姿を微かに暗闇から浮かび上がらせる。

「……誰だ、貴様は」

 私は喉の奥から絞り出すように声を放った。自分でも驚くほど、声が僅かに震えていた。

 そこにいたのは、今にも寿命が尽き、土へ還りそうなほどに酷くヨボヨボでしわくちゃな「老婆」だった。

 いつから着ているのかも分からないボロ布のような衣服を纏い、小柄な身体は丸く縮こまっている。顔には刃物で刻み込まれたような深いシワが幾重にも走り、落ち窪んだ眼窩の奥にある眼球は、完全に白濁して見えた。

 一見すれば、とうの昔に忘れ去られ、死を待つだけのただの哀れな年老いた囚人だ。

 ――だが、違う。

 私の、かつて天界で高位に在った「元天使としての直感」が、全身の神経を逆撫でしながら、けたたましく狂ったように警報を鳴らし続けている。

 この老婆は、ただの人間ではない。いや、人間かどうかの次元すら超えている。

 目の前に存在しているのに、世界の法則から完全に逸脱しているのだ。神が定めた生命の理、時間の流れ、空間の連続性。この老婆は、そのすべてに逆らい、この世界に無理やり開けられた「バグ」のような存在としてそこに座っている。

 この空間に満ちている、息もできないほどの異常な空気。そして、地上で体験した「もう一人の私」が世界に溶け込み、本物の私が弾き出されたという狂ったパラドックス。

 すべては、この気味の悪い老婆ただ一人が発している、神を冒涜するような絶対的な「異物感」から生じているのだと、私の魂が理解してしまった。

 老婆は、シワだらけの口元を不気味な三日月のようにつり上げた。

 ヒッヒッヒ、と、錆びたノコギリで骨を挽くような耳障りな笑い声が、巨大な牢獄全体にビリビリと反響する。

「ヒッヒッ……そんなに怯えなさんな。アタシはただ、天界を夢見る哀れな迷子に……ほんの少し、ちょっかいをかけたくなっただけさね」


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