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神話(MYTH) My storyとHis story ~交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~プロローグ~

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プロローグ5 血の争乱事件

 俺と魔将ゼノスと呼ばれた男が、数メートルの距離を置いて対峙していた時だった。

 横合いから突然大きな声が響き渡った!


「この場に居る全員、直ちに武器を捨てて手を挙げろ!」


 やっと通報を受けた警官たちが駆け付けたのか、到着して目にした惨状に驚くとともに拳銃を抜き放っていた。

 その数……、五人ぐらいか?

 更に今も増援が駆けつけている途中らしく、周辺の至る所からけたたましいサイレンの音が響き渡っていた。


「おいお前! 聞いているのか? 直ちに武器を捨てろ!」


 あれ? ……、ちょっと待て! 目の前の警官は『お前』って俺を指して言っている気がするが?


 何で俺にまで銃口を向けているんだよ?

 俺は何もしていないし、正当防衛と人命救助活動に従事していただけだぞ!


「ま、待ってくれ! 俺は助けに入っただけで……」


「<¥≧ΦΦЧ×~≦≒$、□ωЧ■≧≒!」

(騎士の戦いを汚す、愚か者が!)


 俺の言葉は、奴の上げた怒りの声に上書きされ、同時に遠巻きに戦いの成り行きを見守っていた七体が一斉に動き始めた!


「直ちに武器を捨てて抵抗を止めろ! 止まれ、止まらんと撃つぞ!」


 いかん! 魔将ゼノスに最も近い位置に居た警官は奴に向かって銃口を突き付けているが、それをものともせず奴は怒りに満ちた様子でゆっくりと歩みを進めて接近している。

 このままだと奴の間合いに入ってしまう!


「だ、ダメだ! 逃げろ、逃げてくれ!」


「逃がすな! 全員を殺人・傷害・騒乱罪の容疑で現行犯逮捕しろ!」


 違う! 俺が『逃げてくれ』と言ったのは警官おまえたちの方だ。

 奴らは人を殺すことを何とも思っていないし、そもそも死人に拳銃が通用するとも思えない。


「う……、撃つぞ、止まれ、止まりなさい!」


 戸惑う一人の警官は、威嚇射撃のつもりか接近する奴の足元に向けて銃口を構えた。

 それでも奴は静かに、一歩ずつ警官に歩み寄っていく……。


「奴らにそんな警告は通用しない! 撃つなら間合いに入られる前に躊躇ためらわず撃て! 狙うなら足だ!」 


 その瞬間、銃声が響き渡ると共に、引き金を引いた警官は血飛沫を上げて両断されていた。


「発砲許可! 撃て、撃てっ!」


 その指示のもと各所から銃声が響き渡り、奴らには銃弾が放たれたが……。

 誰一人として倒れた者はいなかった。


「何故だ! どうして立っていられる?」

「やむを得ん、急所を狙え!」

「撃て! 撃て! 撃て!」


 いつの間にか警官たちは十人を超える数に増えていたが、それでも彼らに対して為す術がなかった。

 襲い掛かる奴らの斬撃を浴び、一人、また一人と鮮血の中に沈んでいく。


「お前ら、彼ら(警官たち)には悪いが、この隙に這いつくばったまま逃げるんだ」


 俺はへたり込んだ二人の野次馬に声を掛けると、彼らは怯えた顔でカクカクと顔を上下に振った。

 周囲は大混乱で銃弾が飛び交い、いつ流れ弾に当たるかもしれない危険な状況になっている。

 

 俺自身も奴らと警官たちの注意が逸れた隙に、銃弾を浴びないように這いつくばって匍匐前進ほふくぜんしんしながら、少し離れた所で倒れていたゼロスの傍らへと移動した。


「□×≠!|×€∈△ΨЧ?」

(おいっ! 大丈夫か?)


「#Φ¥±、■△……、Δ▲&◎~、□※≒×¥……」

(わたしは、もう……、姫さまを、お願いし……」


 その言葉で俺は、はっとなって門を見た。

 どうやらこの混乱に紛れて逃げることに成功したのか、彼らの姿は雪の中に消えていた。


「〇%¥%¥ω。▼@△∞Ч▽И≠∈△|」

(安心しろ。向こうに帰れたようだ)


「×▽……、▼@△∞■⊂≠ξ≒……」

(いえ……、向こうにも奴らが……)


 何とか答えているものの、ゼロスの傷口からは止めどなく血が流れだし、口元も肺をやられているのか噴き出した血であふれていた。

 そんな彼の命が尽きるのは時間の問題、いや、もう間もなくだと理解できた。

 俺は黙って彼の手を握り、大きく頷いてみせた。


「□※≒×、¥◎$……、Δ▲&◎±……、#Иξ∞、≧@&ИΦ……、ΔЧ、ο」

(お願い、します……、姫様は……、我らに、残された……、ひか、り)


 そう言ってゼロスは、最後に安堵あんどしたかのような笑みを浮かべて目を閉じた。

 本来なら初対面のにもかかわらず、俺の心は張り裂けんばかりの痛みと悲しみと喪失感、そして怒りに満ちていた。


『シェンファ、マズイわ』


「今更この上で何がまずいんだ?」


『門が閉じかけているの。カギとなる彼女が彼方に帰っていったから……。貴方も早く!』


「いや、俺も行くのかよ?」


 何でそうなるんだよ!

 そもそもだけど俺が向こうに行く理由もないだろうが。


『だって……、さっきゼロスと『あの子を守る』と約束したじゃない。騎士の誓いは絶対よ』


「いや……、そもそも俺は騎士なんて大層なモンじゃないし」


 それに俺が向こうに行って何になるんだよ?

 今でさえ訳の分からない展開に巻き込まれて混乱しているんだぞ?


『でも……、もうすぐ魔将ゼノスたちも向こう側に帰るわよ。彼らの目的は彼女だし。そうなるとこの場に残るのは、シェンファだけになっちゃうけど……』


「!!!」


 俺はやっと今の危機的な状況を理解した。

 彼らが帰ってしまうと、俺は今回の騒乱で唯一残された『当事者』になってしまう。

 元々『壊れていた』俺の言葉を信じる者なんて誰もいないだろうし、そもそもが信じてもらえるレベルを遥かに超越している。

 頭がおかしいと思われても当然だ。


 しかもマズイことに歌舞伎町は日本最大の歓楽街だ。

 おそらく防犯カメラは山のように設置されているだろうし、既に周辺地区は厳重に封鎖されているだろう。

 響き渡るけたたましいサイレンの音から、既に数十台のパトカーと百人単位の警官が動員されていると思えたし、俺の姿はきっと周辺の防犯カメラにもしっかり映っているだろう。


 更にマズイことに、近距離から俺をしっかり撮影していた野次馬たちもいる……。

 仮にこの場から逃げ出すことができたとしても、日本の警察は優秀だ。いずれ捜査の手が俺に及ぶのは明白、そうなれば……。


「ちっ! このまま残っても殺人犯の一味として刑務所行きか、良くて精神病院送りかよ! なら……、俺はどうすればいいんだ?」


 この時点で俺は既に詰んでいる。それを理解したあとは、もう全てがどうでも良くなってきた。

 この世界で平穏に暮らして行きたいと望んでも、今となってはもう叶わぬ夢だ。


『私の加護があるから、シェンファなら無事に向こう側に行けるわよ。さあ、急いで!』


「ありがたい話だな……」


 もちろんこれは感謝の言葉ではない。

 なんとなく『妖精さん』にめられた気がしないでもないが、今はそれしか生きる望みはないことも事実だった。


 そして俺は『妖精さん』に促されるまま、惨劇で混乱する中を走り抜け、異界へと繋がる門に飛び込んだ。

 多くの疑問を胸に抱えたまま……。



 そしてこれより、『俺』の世界と『彼』の世界が交錯し、二つの人生が新しいstory(歴史)を織りなすことになる。

 My story と His story が重なる世界にて……。



◇◇◇


 

 大雪のなか新宿歌舞伎町で発生した騒乱事件は、突然出現した不思議な建造物の扉が閉じかけようとしたとき、唐突に終わりを告げた。


 なぜなら、凶器を振るい殺戮を行っていた者たちは突如として蛮行を止め、警官たちの制止と放たれた銃弾をものともせず、一斉に門の中へと走り去っていったからだ。


 そして……、彼らが飛び込んだ直後に『門』のような構造物は扉を閉じ、まるで空気が揺らぐように見えたあと忽然と姿を消した。


 流血の地に残されていたのは通行人の死者数名と、無謀にも騒乱を撮影しようとして討たれた者が数名、犯人たちから身を挺して市民を守った警察官の死者が十数名、そして……、国籍不明の奇妙な姿をした男たち()()の亡骸だった。



 だが……、その後になって現場から報告を受けた捜査関係者は大いに頭を抱えることになった。


 ひとつ、現場から報告のあった建造物が存在した痕跡が、彼らが消えた後は一切確認できなかったこと

 ひとつ、信じ難い話ではあるが、防犯カメラの映像には確かに門が存在した記録が残っていたこと

 ひとつ、現場に残されていた外国人風の者たちは、日本に入国した形跡も履歴も一切なかったこと

 ひとつ、彼らが身に着けていた衣服や武器に防具は、明らかに今の時代のものとは異なる作りであること

 ひとつ、多くの警察官を殺害した者たちは、拳銃による攻撃が一切通用しなかったこと

 ひとつ、行方不明者二名のうち、各所で撮影されていた重要参考人の少年のは、忽然と姿を消していたこと


 そんなこともあって、連日に渡り大々的にマスコミにも取り上げられたこの大事件は、提供された貴重な映像記録を元に様々な角度から検証が行われた。

 そこで明らかになったのは、偶然にも記録されていた音声、『彼ら』が話していた言語はどの国の言葉でもないことだった。

 ただそれが分かっても、視聴者が満足できる答えを導くことはできなかった。


 こうして捜査関係者の必死の努力にもかかわらず、現場から逃走した27名と2名行方不明者の足取りは一切掴めず、捜査は何一つ進展することなく事件は迷宮入りとなってしまう。


 ただネット上では、この『血の争乱事件』に関して様々な憶測が飛び交っていた。


『彼らは異世界からやって来た違いない!』

『異世界からのゲートが開かれた!』


 そんなことが各所で書かれ、警察の発表を疑問視する声で溢れていた。

 一部の映像や証言者によって行方不明となった少年のひとりは、『何らかの事情を知っており、居合わせた者たち守っていた』とも言われたが、真実は闇の中から拾い上げられることはなかった。


 その後も現場に居合わせた者たちが投稿した映像や書き込みにより、盛んに各所の掲示板を賑わせることになったが、もちろん警察はそんな話を取り上げることもなかった。


 そして後日、事件のあった場所には亡くなった者たちを追悼する碑が建てられ、訪れる人々によって日々沢山の花が捧げられていた……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

プロローグはこれで最後となります。

本編は7/15日より、毎日10時に公開する予定ですので、楽しみにしていただければ幸いです。

よかったら是非、ブックマークなどで応援いただけると今後の励みになるので嬉しいです。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

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