第四十五話 賢者の快進撃
俺はオタとの戦になんとか勝利した。ただそれは勝利と胸を張るにはおこがましい、紙一重のものだったのは言うまでもない。
本当なら初撃の雷撃を受けて俺は死んでいるか、今のオタのように気絶して大地に倒れていただろう。
「オタ……、お前は色んな意味でお前を凄いと思うよ。本当に……、久しぶりに会ってびっくりしたぞ?」
俺はそう言って倒れているオタに語り掛けずにはいられなかった。
オタには俺が敵わないと思わせる点が幾つもあった。
第一に、オタは二つの世界の理を打ち破った、初めての存在であること
第二に、本来は召喚されるべき救世主でなかったにもかかわらず、十分な力量を身に着けたこと
第三に、この世界の言語を、異様な速さで完全に習得していたこと
第四に、倒された今となってもなお、清々しく笑って倒れていることだ
「そんな……、ことは、ないさ。ボクはただ惨めに負けたんだ。これまでと同じ、ボクがボクであるせいで」
そう答えるとオタは、いつの間にか意識を取り戻したあと、地面に顔を突っ伏したまま泣いていた。
まるで、自分で自分を責めているように……。
「いつから気付いていた?」
「シオンが凄いと……、言ってくれた時から。でも、ボクは負けたんだ……」
ははは、聞かれてしまったか。
でもそれで構わない。これまでのオタの努力に対して、それは本人に伝えるべき正当な賛辞だ。
「俺は本心で言ったんだけどな、本当なら俺は負けていたよ。お前が致命的なミスを幾つも犯さなければ、な」
「ボ、ボクがミスを?」
ここまでの会話は全て此方の世界の言葉だったが、既にオタが流暢に話せることは理解できた。
だが俺は、ここからは敢えて日本語で話しかけた。
「まずお前は『賢者』と名乗っただろう? お前と同類の俺からすれば、それだけで魔法攻撃を主体とした攻撃をしてくると理解できたぞ。手の内を晒しているようなものじゃないのか?」
「あ……」
まぁ……、勇者がダメなら次は『賢者』と行きたい気持ちは、俺も分からないでもないけどね。
俺も魔法を使えないし憧れる部分はあるが、ただそれも時と場合によりけりだ。
「それとあの詠唱、『直列』とか『並列』とかは向こうの世界に転生した俺からすれば簡単に電気を想像できるし、トドメは『百万ボルト』だな。あれじゃあどんな攻撃が来るか想像がつく。もちろん『断熱膨張』や『断熱圧縮』も同じだぞ?」
「でもこの世界では……」
うん、言いたいことは分かる。分かるけどさ……。
だからこそ『時と場合によりけり』なんだよ。
「そうだ。この世界の者は理解できない。だがお前がそれを振るう相手は誰だ? 今回は俺だったが、本来の相手は魔王ではないのか? 魔王とは言え、元を糺せば向こうの世界の人間だぞ。もっともそれが、日本人であるとは限らないが、な」
「向こうの世界の? 魔王が?」
そっか、オタはこの悪辣な前提を知らなかったんだっけ。
やっぱり彼にも、この世界の真実を伝えておいた方が良いかな?
もちろんそれはラルシュと相談の上で、が前提だけどな。
「そうだね……、ボクは嬉しくってつい……」
「無詠唱で展開とかできなかったのか?」
正直言って無詠唱、または意味の分からない言葉で展開されれば対処のしようがなかった。
ただ、他にも問題はあるけどな。
「やってみたけど……、MOSW空間の扱いはとても面倒で、同時展開は番号を付けないとボクの頭の中で処理しきれないんだ。しかも、あんな方法で見破られるとは思ってもいなかったよ」
「MSOW空間? 何だそれは?」
「My Only Small World……、の頭文字をとって……、妄想」
ははは、やはり空間魔法のひとつだったのか?
それ自体はこの世界の理にある魔法だから、俺が叩き斬れた訳だ。
「ははは、それともうひとつ、俺が勝てた理由はお前と同類だからかな? 俺だってラノベは大好きだし、空間魔法とかの概念は知っていたからな、それで対処方法の想像が付いた」
ただこれも、最初に空間の揺らぎに気付いたアルシェお陰だけどね。
それでやっと、空間魔法というラノベで読んだ情報に思い至ることができただけだ。
「ははは、シオンも『お友達』だったんだ?」
いや、俺はオタのような『大きいお友達』ではないぞ?
俺が好んで読んだり見ていたりしたのは、子供向けではなく青年(大人)向けだからな。
「それともう一つ、展開が遅すぎるかな? 戦いが始まってから展開するのではなく、事前に全てを用意した上で、相手をその場所に追い込むことができれば……」
「そっか……、ボクは戦いの素人だから、そんな発想には至れなかったよ」
いや、違うぞ! 俺だって戦いはまだ素人だ。
真っすぐなオタと違い、向こうの世界で色々あったために、少し性格が歪んでいるだけだ。
いつしか俺たちは地面に座り込み、膝を突き合わせるようにして話し込んでいた。
もちろん日本語での会話は兵士たちにも全く理解されず、彼らは唖然となって見ているだけだけどね。
今はそんなことを気にしてはいられない!
俺はオタの魔法の凄さを知り、それをもっと深く知りたくなっていたからだ。
「因みに粉塵爆発や水蒸気爆発を起こすことって……、できるのか?」
実はこれが一番気になる話だ。自由に放てる広大な空間があれば大技も展開できる可能性もあるし、実際に魔王軍と戦う際に使えれば、恐ろしくチートな攻撃手段になる可能性を秘めている。
「一応は……、ただ制御が難しくて爆発しないこともあるし、思った以上の威力になって自爆しちゃうこともあるんだよね」
できるのかよ! MOSWって末恐ろしい力だな。
そんな攻撃を受けたら、物理一辺倒の俺などひとたまりもないぞ?
「なら安定的に爆発させるには火薬が必要か? そんな代物をこの世界で再現するなんて到底無理な話だから……」
「あるよ? 作ったから」
「はぁぁぁぁっ?」
オタ、お前ってどんだけチートなんだよ!
そんな危険物までホイホイ作り出せるなんて、本当に『賢者』じゃねぇか!
「硫黄の入手に手間取ったのと硝石作りは難航したけど、そこはフェイヤたちが協力してくれたからね。
配合比率は頭に入っていたし……、ただ、作ってみたけど威力がイマイチで」
イマイチ? どういうことだ?
黒色火薬自体は作れているんだよな?
「よく燃えるか?」
「それはもう盛大に」
そうなんだよな。普通に火薬に火をつけても、ただよく燃えるだけで爆発はしない。
俺だって子供のころは、遊びで花火を分解したりしていたからな。
「火薬を圧縮して詰めたり、閉鎖された小さな空間で点火しているか?」
「あ……」
やっぱりな。これってそもそもの話だぞ? 花火だってそもままだと爆発しないんだからな。
博識なオタでも抜けていることはあるんだな?
「なら早速実験しようぜ! それで爆発力が得られれば、安定した火力で無双できるじゃないか!
やっぱりオタは最強だよ!」
「ボ、ボクが最強? そうかな……、そうかなぁ?」
ここでみるみるオタの表情が緩み、ニタニタし始めたが……、ちょとチョロ過ぎないか?
純粋なのは分かるけどさ。
そんな時だった。ラルシュが食堂のある建物の方から、息を切らして駆け寄って来た。
「シェ、シオン! オタさま、お二人とも大丈夫……、ですか?」
どうやら俺とオタが壮絶な殺し合いをしているとでも聞いたのだろう。
血相を変えて駆け寄って来たものの、その時は既に俺とオタは肩を組んで話し込んでいたからね。
言葉の最後は不思議な顔をして、頭の上には盛大に『???』が浮かんでいるような表情だったし。
「お、お二人は?」
「心配掛けてごめん。槍で語り合って、俺もオタが凄い奴と分かってびっくりしたよ。
今は二人で今後のこと、魔王を倒すための作戦を考えている最中で……」
「もう知りません! お二人を心配して来てみれば……」
「姫様が……、ボクを心配?」
「当り前じゃないですか! 私たちの世界を救っていただくためとは言え、無理やり招いてしまった経緯はあっても、私にとっては大事なお方なんですから」
「はははははは」
笑いながらオタは涙を流していた。
そしてひとしきり笑ったあと、敢えて日本語で彼女に話しかけた。
「ボクを認めてくれた世界のために、ボクも戦うよ。本当なら姫様の一番になりたかったけど、どうやらそれに相応しいのはシオンだと分かったし。ちょと悔しいけどね、ボクは陰ながら二人を応援するよ」
「なっ!」
「まぁっ!」
俺とラルシュは、このオタの言葉に絶句させられた。
ってかオタ、やっぱりお前は凄い奴だよ。
『私もオタさんの複雑な気持ち、とぉっ~ても分かるもの。シェンファ、オタさんを大事にしてあげないとダメだからね!』
おいおい、アルシェまでオタの味方かよ。
もしかして食事の時に拗ねたのも、いつの間にかオタに感情移入していたからか?
この日、俺たちは改めて三人だけ(+アルシェは秘密のオブザーバー)で秘密の会合を持ち、これまでに俺が知った創世神話と禁忌、ラルシュがアメノ神殿で知った禁忌を共有した。
そして、数日後には火薬を使用したMOSW空間を駆使できるようなったオタは、その攻撃力や集団戦での破壊力が爆増し、巫女一行の大きな力となるべく期待され始めた。
そしてその数日後……、ある切っ掛けによってラルシュもまた覚醒することになる。
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明日(8/29)は、【神龍の宝玉】をお届けします。
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