第四十四話 賢者の実力
俺の周囲に現れた奇妙な『何か』は、いつも間にか数百という数になっており、オタと俺の間を埋め尽くしていた。
そこでオタは……。
「一番から百番は直列に、百一番から二百番は並列に、二百一番から三百は奴との間を繋げ!」
何を言っている? 直列に並列って電気か?
しかもそれぞれに百も繋ぐって、半端ない数だけどさ……、ま、まさか!
「食らえっ、百万ボルトの雷撃を!」
『シェンファ!』
アルシェの悲鳴と同時に俺は飛びのき、同時に俺の体から糸でも付いているかのように引っ張られていた『何か』を訓練用の短槍で薙ぎ払ったあと、短槍を無理やり少し離れた柔らかい地面に突き刺した。
それと同時に閃光と轟音が巻き起こって飛翔した雷撃は短槍を直撃し、近くに居た俺も側撃と呼ばれた飛び移りか、もしくは地面を流れた電流による歩幅電圧の影響か、いずれにしろ影響を受けて全身が痺れて一瞬だけ呼吸が詰まった。
「いや……、あんなもの直撃したらマジで死ぬぞ?」
もしかしたら普通なら先程の攻撃でも死んでいたのかもしれない。この世界で俺の肉体は物理的に強化されているから、落雷の攻撃にも痺れるだけや、呼吸が詰まるだけで済んだ可能性もある。
ただオタは素直なのか抜けているのか、わざわざ詠唱を日本語で『直列』や『並列』と言っていたし、最後は『百万ボルト』って言っていたから、俺もなんとかヤバイと感じて対処できた。
だが日本語が分からなかったら?
そもそも初見だったら?
完全に訳の分からぬ内に詰んでいるだろう。
「あはははは、どうだ、ボクの魔法は? どれだけ近接戦闘で強くても、手も足も出ないだろう?
あははは……」
両手を前に大きく広げ、傲然と胸を反らして狂ったように笑うオタの目は、完全に何処かにイッテいるようにも見えた。
『マズイわね、根が真面目な子だからこそ、完全に自分に酔っちゃっているわ。心も『異形のモノ』になった影響を受けているのかも……』
やはりそうか! 俺の心が好戦的になったのもオタがこんな風になったのも、おそらく世界を渡った影響だろう。
創世神話になぞらえてみれば、女神イザミの掛けた『呪い』の影響かよ!
「なら近接戦闘はどうだよ!」
俺は大地に突き刺した訓練用の短槍を引き抜くと、左右にステップを踏みながらオタ目掛けて突進した。
奴の課題は詠唱とその時間の長さだ。
「ふふふ、ボクがそんな事を理解していないとでも?」
そう言った奴は不敵に笑うと、最初に発生していた左右の揺らぎが俺と奴の間を阻むようにスライドしてきた。
ただ一方は大きく、一方はとても小さなものだったが。
「ちっ、今度は何を……」
そう言いつつ俺は短槍で切り裂こうとした刹那……。
揺らぎに大きな変化が起こった。
「やらせないよ! 断熱膨張、断熱圧縮!」
突然目の前にあった大きな方の揺らぎは一気に縮小し、逆に小さな揺らぎは一気に拡大した!
「ちっ!」
俺は攻撃を止めて急制動を掛けると、思いっきり後ろに飛んだが……。
同時に大きな衝撃波と衝撃音が襲って来ると、そのまま後方に吹き飛ばされた。
「ははは、短槍を使い接近戦に秀でた西風も、これでは為す術がないよね? どうだい、ボクに無条件降伏するかい?」
ははは、オタ、お前は確かに凄ぇよ。
理によって無力化された魔法を、物理の法則で書き換えて有効化したんだからな。
ちょっと尊敬したいぐらいだよ。
俺は荒い息を吐きながら大地を強く握りしめて立ち上がると、再び短槍を片手で持った。
ただ……、残念ながら相手が悪かったな。
お前の技は基本的に初見殺しだ。しかも詠唱と準備に時間を要する後衛型なんだよ。
パーティ戦では無双できるが、一対一の対人戦、しかも物理の法則を知る相手だと、事前に攻撃は読まれてしまうからな。
「で、次は粉塵爆発や水蒸気爆発でも見せてくれるのか? 言っておくが、そんな裏技を使えるのがお前だけだとでも思ったのか?」
「な、何だと?」
俺のブラフにオタは明らかに動揺していた。
単に俺は、そうされたらマズイと思った攻撃を羅列しただけなんだけどな。
「それに……、威力の調整はできるんだよな? 膨大な爆発に巻き込まれて自身も吹き飛んだら、笑い話にもならないぞ?」
こう言っておけば、奴は仮にぞんなヤバイ攻撃手段があったとしても、使用するのに躊躇するはずだ。
まぁ……、そうあって欲しいと願う俺の願望も含まれているけどな。
ここで俺は片手で短槍の石突きを使って地面を抉って持ち上げると、土煙が周囲に舞った。
もちろん会話している間に、そうしやすい場所に何気なく移動していたからだ。
「見えた!」
俺の前には舞う土煙のなか、何も影響されていない異様に浮き上がった空間が幾つも浮かびあがった。
咄嗟にそれを薙ぎ払うと、再びオタ目掛けて突進した。
「……」
オタが何かを呟いている瞬間、今度は倒れている時に握りしめていた砂を思いっきり前に投げつけると、オタの周囲に浮かんでいた空間も露わになった。
その数……、およそ五十!
「なっ!」
動揺するオタを尻目に、短槍を振り回してその空間を全て叩き割ると同時に、身体を回転させながらオタの懐に入った。
それと同時に……。
「ぐぇっ……」
オタは石突きで腹を強かに突かれ、身体を『くの字』に曲げると、そのままゆっくりと地面に倒れこんだ。
「シ、シオンさまの勝利!」
ふと見ると、いつも間にか遠巻きに見守っていた兵たちが駆け寄って来たけどさ……。
オタめ、こっそりギャラリーまで用意していたのかよ?
「シオンさまご無事ですか? 『ケンジャ』さまも……」
駆け寄って来たサドレスも蒼白な顔をしていたけどさ。
実戦さながらの戦いだったから、当然だよな。下手をすれば俺は死んでいたし……。
「ああ、ちょっと腹を不意打ちされて悶絶しているだけだ。救世主の身体は頑丈だからな、こんな程度で死にやしないさ」
倒れたオタの顔を見ると、何故か清々しそうに笑っていやがる。
本来なら苦悶の表情を浮かべていると思ったのだけど……。
「それにしても……、凄まじい戦いでしたな。我らも『ケンジャ』さまより『この戦いは二人のケジメをつけるための戦いゆえ、決して邪魔をするな』ときつく厳命されておりまして……」
なるほど……、ケジメね。オタはオタなりに思うところがあったのか?
いや、ちょっとおかしいぞ!
「因みに……、賢者はこちらの言葉を話せるようになったのか?」
そう、以前ならオタはラルシュを介してしか、此方の人間とコミュニケーションが取れなかったはずだ。
たった一年半で日常会話程度はこなせる程度まで習得したと?
「は、半年ほどで意思疎通はできる程度に、平素からフェイヤたちとは込み入ったお話をされておりましたので、一年を過ぎたあたりからは問題なく」
「ははは、そういう意味でもオタは凄ぇな」
『彼』は少なくとも三年は掛かっていたようだし、その後も長い間ぶきらっぽうな話し方しかできなかったというのに……。
『そうね、色んな意味でオタさんは『特別』な存在なのかもね。これまでこの世界の無いような……』
確かにアルシェの言った通りだ。
この世界の常識をひっくり返すようなことを、たった一年半でやり遂げたんだからな。
物理攻撃しか通用しない魔王にも、オタの魔法は確実に入る。
しかも使いようによっては、魔王軍すら一撃で殲滅できたしまうほどの力を持っていうのだから……。
この時に俺は初めて、満足げな顔で倒れているオタをカッコイイと思ってしまった。
ちょっとだけ、不本意な部分はあるけどさ。
そしてこの日より俺とオタの不思議な関係が始まり、巫女一行は神殿すら予想しなかった大きな力を得ることになる。
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明日(8/28)は、【賢者の快進撃】をお届けします。
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