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神話 My storyとHis story ~俺と彼、交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第三章~ 聖都ルリエラ編

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第四十二話 魂の惹かれあう者たち

 俺は東屋あずまやに設けられた椅子に座ると、改めて周囲を見渡した。

 この場所なら神殿からも他の建物からも木々に遮られて死角になっているし、小声で話せば聞こえる範囲には誰がが隠れる障害物もない。


「まず今から話すことは、ラルシュ以外には他言無用だ。露見すればラルシュだけでなく、皆の身に危険が及ぶからな」


 まぁ他にも師匠だけは唯一知っている話だが、師匠が知っていることも含めて話すべきではないと考えた。

 万が一の際、巻き込む訳にはいかないからね。


「うん……」


「もちろん俺は迷宮の第二十五層まで行ったが、その先にある最下層まで行った」


「そんな……」


 この点はラルシュも槍王国の王女だな。

 第二十五層以降がどれほど危険なのかを知っているだろうし、最下層の話は初めて聞いたのだろう。


「最下層は古の時代、創世神イザギが築いたと言われる門があった。アメノ神殿にあったものと同じような転移門が、な。だが何者かによって意図的に存在を隠され、人の手が届かないものとされていた」


「まさかそれをお父様も……」


「知らないだろうな。創世神話によると門の本来の役割は、冥界に行った女神イザミを取り戻すために作られたものだそうだ。その話は聞いたことがあるか?」


 それを聞いてラルシュは大きく首を振った。

 やはり神話は歪められて伝えられているということか?


「これから話すことは前段だ。そこに隠されていた創世神話は……」


 そう言って俺は、あの石板に書かれていたことを彼女に話したが、いつの間にか彼女は涙を流して泣いていた。


「私なら絶対にそんな事をしないわ。最愛の人がたとえどんな姿になったとしても愛し続けるし、逆に私がどんな思いをしても、最愛の人が生き続けることを願うもの」


「俺だって同じかな? 最愛の人を救うためならどんな苦痛も受けるし、どんなことだってやってのける。

それが……、世界のことわりに反することでも」


 いつの間にか俺とラルシュは互いの手を握っていた。

 何故か分からない、それがまるで定めであるかのように……。


『だからこそ……、()()()()()()()()同じ道を歩んじゃダメなの。絶対に……、ね』


 俺の脳裏に響いたのはアルシェの悲しげな、そして消え入りそうな呟きだった。

 おそらくこれは、彼女が意図して発した言葉ではない。

 姿こそ見えないが声で分かる。アルシェは今も泣いているのだから……。


 ここで俺はもうひとつの秘密、地下神殿の祠に隠されていた禁忌の話を俺の推測を交えて話した。

 アルシェに託された願いのひとつを果たす思いと共に……。


 そもそも魔王は『背理の宝玉』によって誕生し、魔物と呼ばれる魔境の棲まう異形のモノは全て、この背理の宝玉の影響で生まれていること。

 異界より渡った者が背理の宝玉から力を受けることで、特別な力を持った魔王へと覚醒すること。


 転移の門はアメノ神殿や槍王国の迷宮だけでなく他にも十か所存在し、それが何者かの手によって今も厳重に封印されていること。

 あくまでも推論だが、神殿は門を管理して非道な行いをすると同時に、定期的に召喚者や転移者の中から魔王を生み出し、それにより自身の『利』を貪っていること。

 

 最後に魔境にも門は存在するが、節理の宝玉によって力を供給されていないため、異界とは繋がることができないでいると思われる。


「俺の推測では魔王が人の世界を侵攻する目的は、各地に点在する門を奪取することか、節理の宝玉を手にするためだと思う」


「……」


 ラルシュは黙って話を聞いていたが、その瞳には怒りと戸惑い、そのふたつが交錯しているかのようで、握りしめた彼女の手は震えていた。


「わ、私は……、どうすれば良いの?」


 思わずそう言ったラルシェは、まだ大いに戸惑っている様子で俺の目を見上げて来た。


 そもそもだが今も多分十五歳そこそこ、そんな年齢で世界を救うとか、大層な役割を任されること自体がおかしい。

 何も知らなければ、それも王族に生まれた定めと納得するかもしれないが、ひとたび真実を知ってしまえば?


 しかも神殿は、それを利用して自身を肥え太らせているのだから、吐き気がするほど醜悪な存在であり、討つべき魔王もまた、神殿による被害者と知ってしまったら?


 神殿の意に従って動くことは罪の共犯者となることであるが、魔王討伐に動かなければこの世界の人々は殺され尽くしてしまう。

 この世界に生きる者たちの常識が崩れ去り、時として正義と悪の立ち位置が入れ替わってしまうことにも成りかねない話だからな。


「俺と一緒に世界を救う、そして同時に、禁忌の謎を解き明かして晒してやるんだ。向こうの世界から不幸な運命に引きずられて来る人々を、もうこれ以上出さないためにも」


「そうね……、私は向こうの世界の人たちに詫びなくてはいけないもの。せめてこれ以上、この世界で苦しむことのないように。シェンファはこんな世界でも、こんな私でも……、助けてくれるの?」


 おそらくラルシュは、俺の正体を薄々知っているのだろう。

 多分だけど本来なら俺が彼女と魂の繋がりを持つ存在だということも、今は本能的に気付いているだろう。

 それは俺自身が今も強く彼女に惹かれ、抗えない気持ちになっていることでも明白だ。


「俺にもまだ話せないことはある。でも、そんな俺を信じてくれるなら、俺は全身全霊をかけてラルシュを守っていく。魔王からも神殿からも、そしてこの世界の悪意からも」


「うん」


「だから全てをやり遂げたら、最後に少しだけ……、向こうの世界を救うことも手を貸してくれ」


「嬉しい。凄く……、嬉しい。シェンファがそう言ってくれたこと、そして今の私が、誰かを心から頼ることができることも……」


 そう言ってラルシュは、いつの間にか俺に抱き着いてきていた。

 いや……、でもそれは……、非常にマズイ気がする。

 そんな事をされたら、俺だってもう……。


「大丈夫、大丈夫よ。今だけ……、こうしていると凄く落ち着くの……」


 いや……、焦っている俺があやされている気もするが……、彼女が最後に言った気持ちは分かる。

 俺だってそうだからだ。


 何か凄く温かいものに包まれるような安心感、そして言いようのない充足感と、身体の奥底から力が溢れ出てくるような不思議な感覚。


 でもさ、俺はさっきまで全身汗だくだったんだぞ?

 それに……、向こうの世界でラルシュのような年齢の子に抱き着くようなことをしたら、それはもう立派な犯罪だ。


 そう思ったが、俺はいつのまにか彼女を受け入れ、いつかアルシェに言われた通り彼女の頭を優しく撫でていた。

 ラルシュはそもまま、心地よさげに身体を預けている。


 ふと気づくと……、キンと何かが共鳴したような澄み渡った音が響き、温かい朝日が差し込む中で、俺たちの周囲だけ凍て付く空気が張り詰めた感じになり、キラキラと美しく輝いていた。


 いや、これって……、ダイヤモンドダストだよな?

 本来ならマイナス15度以下で空気の水蒸気が冷却され、結晶化して起きる現象のはずだが……。

 でも今は初夏だぞ? こんなこと起こりえる筈が……。


「ラルシェ、周りを見てみな?」


「うん……、凄く奇麗。ちょっと寒いけど暖かい……」


 それからしばらくの間、俺たちは抱き合ったまま幻想的な景色をただ黙って見つめていた。

 そして……。


「あれ?」


 抱きしめられたままラルシュが不思議そうに顔を上げた。

 胸元には彼女が肌身離さず付けていた六花のペンダントが光を放って輝いており、今度はそれと同じ……、いや、次々と目に見えるサイズの大きな雪の結晶が顕現し始めた。


「こんなことって、でも、綺麗……」


 そもそもだけど、雪の結晶が手のひらサイズに成長するなんてあり得ない。

 しかもそれが更に成長し、無数に俺たちの周りで静止したまま輝いている。


『これが彼女の本来の力よ。結ばれるべき相手と魂の絆を通わせた時に顕現する、巫女が持つ邪を祓う力……』


 今の俺たちは互いに魂の絆を交し合ったってことになるのか?

 アルシュの言葉に俺は改めて、あることを思い出した。

 俺が訪れた転移門を守っていた水の神、神龍も穢れを払うときに同じものを使っていたはずだ!


 これは俺の推論でしかないが、あの神龍が言った言葉通りだとすると、俺とラルシュは同じく水の神の加護を受けている。もしかすると俺たちは、同じ瀬織津姫に繋がる者たちなのかもしれない。


「迷宮に入り込んだ神魔シェンファと戦っていた際、神龍は今と同じような六花の力を使っていた。なのでラルシュもきっと……」


「えっ!」


 ここでラルシュは大きな声を上げて驚いていたが……。

 あれ?

 そう言えばシ神魔シェンファの下りはまだ話してなかったな。


「た、戦ったの? 神魔シェンファと……」


「ああ、こっぴどく負けたけどね。最後に神龍が神魔シェンファを魔境の向こうに追い返してくれなかったら、今頃俺は死んでいただろうけどね」


「バカ! 何でそんな危ないことをするのよ!」


 いや……、分かっていたらそもそも最下層に下りなかったし、一目散に逃げだしていたさ。

 もちろん逃げられるなら、の話だけどさ。


「ごめん……」


 改めて見ると、またラルシュは泣いていた。

 

「だからこそ俺は、奴に打ち勝つために日々修練を欠かさない。だからこそ俺は、いち速くラルシュに合流しようとやって来た」


 こういう時、どうすれば良いんだよ?

 お互いに色々あって、何故か急接近してしまった俺には、どう対処して良いか分からなかった。

 そもそも恋愛スキルは皆無なんだからな……。


『シェンファ、こういうときは謝るだけじゃダメ、もう離れないという意思を示して、彼女を安心させるの! 今なら……』


 俺は敢えてアルシュが最後に言った指示を敢えて無視した。

 そしたラルシュの頭を撫でながら、努めて優しく告げた。


「ラルシュ、もう日が昇った。このままでは皆も起きだす……」


「う、うん……」


『もう! シェンファの意気地なし!』


 おいおいアルシェ、良いのかよ?

 いつもは散々焼きもち焼くって宣言していたくせに……。

 やっと落ち着いたラルシュを他所に、俺は少し的外れなことで動揺していた。


 俺自身の思いは……、アルシェとラルシュ、どちらにあるのか?

 そんな訳のわからない思いに……。



◇◇◇



 本来なら誰も見ている者などいない筈の早朝の東屋を、茂みの陰から体を震わせながら、じっと見つめていた者がいた。


「ボ、ボクのラルシュを……、ボクだけを見て微笑んでくれた魔法少女を……、やっと見つけた理想の子を……。

くっ、たとえ師恩シオンでも、絶対に許さない!」


 そう呟いた男は、嫉妬の炎に自らを焼く思いでいた。

 これまでとは違う視線で二人をにらみつけた後、改めて決意を露わにした。


「今やボクは、最強の賢者になったんだ! この世界で最強の……。ならば師恩シオンだって倒すことが……」


 そう呟いた男は、仲睦まじく抱き合う二人を再び忌々しく睨むと、これ以上見たくもない光景を断ち切るため背を向けて歩き始めた。

 新たな覚悟とともに……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日(8/25)は、【嫉妬の果てに……】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

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