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神話 My storyとHis story ~俺と彼、交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第三章~ 聖都ルリエラ編

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第三十八話 謁見と隠された任務

 体感時間で一時間と少し待った頃、俺をここまで案内した神官とは異なる者が控室にやって来ると、謁見の間へと案内してくれた。

 もちろんだが短槍を持ったまま謁見に進むことはできないので、丁重に預かってもらうことになったが……。

 俺が単槍を手渡した屈強な身体をした兵士は、ぎょっとした顔になって大きくよろめいた。


『何でこんなにクソ重いんだよ、勘弁してくれ!』


 彼の目は、そんな無言の抗議を伝えていたけどね。

 まぁこれを扱えるのは師匠と俺しかいない。

 謁見の間、地に落とさず大事にただ持っているだけでも、彼にとってはそれなりの苦行だろうな。

 

 そして、全ての準備が整い大きな扉が開かれた先には……。


 数百人は入れるであろう無駄に広い空間が広がり、ずっと奥に設けられた壇上の中央にはひときわ豪奢な椅子に座った聖王と思しき男と、その左右に偉そうな神官服を着た男が六人、その他はそれぞれ短槍を背に掛けた者、剣らしきものを剣帯けんたいに吊るしている者、弓を背に掛けている者や不思議な形をした杖を持っている者たちだった。


『武器を持っているのは聖王直属の護衛、神聖槍騎士や神聖剣騎士、神聖弓騎士に神聖魔導士ね。多分だけど……、それなりの人たちだと思うわ』


 そんなんだ?

 神聖騎士たちを合わせると総勢で十五人近くか? 中々の圧迫面接だよな……。


 心の中では大きなため息を吐きながら、俺は案内に従って彼らの並ぶ最後列まで進んだ。

 もちろんそこには、俺をこれまで案内した若い神官も立っていた。


『シェンファ、まずここで教えたやり方で一礼したあと、武人の挨拶よ。私が言うまで頭を上げちゃダメだからね』


 アルシェの声に従い、俺はまずこの世界の貴族の礼法に則って左手を臍の辺りに右手を胸に当てて一礼し、その後に片膝を付いて左の掌で右手の拳を包む、いわゆる古代中国の拱手きょうしゅと言われた挨拶そっくりなものを行い、その状態で頭を下げた。


「……」


 謁見の間には一瞬の沈黙が流れ、それが俺にとってはとても長い時間に感じられた。


「新たな西風よ、就任早々巫女を守るために馳せ参じたこと大儀。おもてを上げよ」


『いいわ、頭を上げて。でも真っすぐ聖王を見ちゃダメだからね』


 俺はアルシェに言われた通り、顔を少し上げて目線だけを移動させると正面に座る男の顔を見た。


「!!!」


 やっぱりそうだ!

 明るい金髪に昔はそれなりの美男だと思える顔、少し緩んだ体躯、それを隠すかのようにゆったりとした衣服を纏っている中年の男は、あの悪夢で見た男と同じ顔だ。

 俺は心の中に沸き起こる、表現し難い怒りの炎をなんとか打ち消していた。


「なかなかに不敵な面構えだな。直答を許す!」


『ここで名乗って、いい、私の言うとおりに、ね』


 今回はアルシェの言葉を、一言一句(たが)えずに繰り返した。

 それは時候の挨拶らしきものから始まり、聖王を称える言葉を並べ立てた後、やっと自身の紹介となり家名と名を伝えた。

 もちろん一切の感情を込めず、ただの棒読みだったことは否めない。

 あんな奴に美辞麗句を並べた言葉など、正直に言えば話したくもなかったからだ。


「ほう、貴族といっても教養のない傍流の田舎者と思っておったが、なかなかに如才ないな?」


 その言葉は聖王ではなく、脇に並んでいた男の一人から発せられたものだったが、俺は敢えてその言葉をスルーした。

 何故なら俺は本当にこの世界での教養なんて一切ないし、それこそ傍流どころではなく貴族の生まれですらないからね。


 そもそもだけど居並ぶ者たちは皆、金髪に碧眼と明らかに偏った人種の構成だった。

 俺はこの世界を自身で旅して見た記憶、そして夢の記憶でも多種多様な人種がいたはずだ。なのに神殿の上層部は、明らかに同一の人種によって独占されている。

 これだけでも奴らの選民意識は明らかだ。


「ちっ」


 俺が他のことを考えながら、奴の発言を何事もなかったかのように聞き流していたことに腹を立てたのか、あからさまな舌打ちが聞こえたあと、今度は代わって別の者が話し始めた。


「先代の西風のような醜態を晒すことの無いよう、せいぜい励むことだな」


 そこで初めて俺は発言者を真っすぐに睨んだ。

 聖王ならまだしも、格下の神聖槍騎士ともなれば本来なら立場は俺が上、槍騎士長でも同格のはずだ。

 ただこの場は弁えて発言せず、睨むだけに済ませたけどね。


「この者の発言は我らに共通するうれいでもある。果たして其方の実力は、あの魔将ゼノスに勝るものなのかな?」


 今度は別の神聖剣騎士が言葉を発したが……。

 こいつらは何か四風に含むところでもあるのか? 俺に対し風当たりが強いように感じるが……。


『あの人たちは格下である槍王国出身のシェンファが、自分たちより同格かそれ以上って立場にある事が気に入らないの。相手にしなくても良いわよ。実力があっても決して戦場には出て来ない人たちですもの』


 なるほど、そういう事か?

 どこの世界でも男の嫉妬ほど見苦しいものはないな。


「答えられぬということは、自信がないということか?」


 おいおい、こっちが大人の対応をして黙っているのに粘着してくるなよ!

 そういう気なら俺も考えがあるぞ……。


「奴は我が義兄あにの仇でもあり、四風の面目を取り戻すために、是非とも戦わなければならない相手です。この場にて必ずや倒して見せること、お約束いたします」


 そう言ったあとアルシェの用意した台詞にはなかった一言を追加した。


「もしご心配であれば、我らと共に魔王軍との戦いの場に出られるが良いと思われます。

もっとも……、それだけの勇気と()()()()()()()があれば、の話ですが」


「なっ!」

「ちっ!」


 ははは、一気に黙ってくれたな。

 安全な場所に居るだけのくせに、口だけは偉そうに言っているからだ。


『もう、シェンファったら!』


 アルシェは抗議の言葉を上げたが、これは槍王国が侮辱されたことにもなる。

 しかも格上の者を相手に礼を失した言動をしたのは奴らのほうだ。

 

「ははは、新たな西風は其方らと違い道理をわきまえている、そう言うことだ。大いに期待させてもらうぞ?」


 その聖王の言葉で怒りに肩を震わせていた男たちは引き下がったが、眼だけはずっと俺を睨んだままだった。


 ってかさ、君らは勘違いしているよな?

 それとも、神聖騎士というのは国境の男を含め、そもそも度し難い奴らばかりなのか?

 この時俺は、以前にラルシュが言っていた神聖槍騎士の評価を改めて思い出していた。


「改めて聞くが西風シオンよ、其方は西風の()()()()()()()も、しかと聞いておるであろうな?」


 ちっ、それを言わせるか。

 もちろん聞いているさ、出発の日に師匠から言われた言葉としてだけでなく、俺自身が悪夢の中でそれが実践された事実も含めて、な。


『四風の役目は巫女と救世主を守るだけではない。彼らがこの世界(聖王国)の利にならんと判断された場合には排除すること。この事は西風となったお主も逃れられない役目じゃ』


 この話を聞いた時に俺は即座にその役目を拒否したが、もちろん師匠はそれも笑って許してくれた。


『お主はお主だけの道を進むが良いわ。それが姫様を守る事である限り、儂は陰ながら支援するでな』


 そう言ってくれた師匠には感謝の気持ちで一杯だった。


「神聖王国の永遠の繁栄と世界の未来のため、私心を捨てて役目を果たすつもりです」


 俺は敢えて曖昧な表現にしつつも、迷うことなくそう言い切った。

 もっとも、意図する中身は全く違うけどね。


 正確には歪んだ世界を主導する聖王国ではなく、単に信仰の対象として救いを与える聖王国の繁栄、この世界と向こうの世界の未来のために、だ。

 もちろんその未来にお前たちは含まれていない。


 俺がそんな事を考えているとは知る由もない聖王は満足気に頷いた。


「ははは、新たな西風はまことに道理の分かった者のようじゃ! 実際に会ってみて安堵したぞ」


 この言葉で謁見の儀は終わった。

 参加した者たちの中に、多少の遺恨は残しつつも。

 そしてこの後、俺はやっとラルシェと再会することになる。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日(8/22)は、【一年半振りの再会】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

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