表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神話 My storyとHis story ~俺と彼、交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第三章~ 聖都ルリエラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/53

第三十五話 行いに対する評価

 俺は無事に(?)国境を通過すると聖王国内を東へと進み、国境を越えた先にある最初の町へと入った。

 もちろん今回は前回のように山道で山賊に襲われることはなかったが、槍王国の国境で所要を済ませるため寄り道していたこともあって、今夜はここで一泊すると決めていたからだ。

 それにもうひとつ、楽しみもあったしね。


 前回と違い替え馬や積み荷ももあったため、今回は敢えてこれまで宿泊しなかった高級宿に入ると、何故かそこで凄いもてなしを受けてしまった。


「お役目ご苦労様です。こちらで最上級のお部屋を用意させていただいております。もちろんお代は必要ありません」


 開口一番にそう言われてしまって面食らった。

 は? どういうことだ?

 町に入ってからは、敢えてゼロスの短槍も覆いの袋に入れて見えないように隠していたはずだが……。


『だってさ、シェンファは国境であれだけの騒動を『仕出かしちゃった』のだもの……』


「でもそれが俺のやった事だって、何故バレるんだ?」


『たった一人で旅しているのに替え馬を連れている人も珍しいし、しかもシェンファは背中に二つの短槍を背負っているのよ、目立たない方がおかしいわ。シェンファって意外と『常識』が抜けてることが多いから、今後も気を付けないと……』


「……」


 何故だろう。アルシェの言っていることは正しい。俺もそれは納得している。

 ただ俺の心の中で、アルシェから『常識』をさとされる事に対し、物凄い抵抗を感じる。

 言ってみれば俺でない俺が、全力でそれを恥じ、否定しているような不思議な感覚だった。


「と、取り合えずこの先も、気付いたことがあったら遠慮なく言ってくれ」


『うん、素直でよろしい♡』


 いや、なんでアルシェはこんなにも上機嫌なんだ?

 ちょっと複雑な気分だな。


 そのあと宿でのVIP待遇に辟易へきえきとした俺は、町にある気軽な酒場で食事を摂ることにした。

 いや、実はそれこそがこの町に立ち寄った目的でもある。


 目的の酒場は賑やかなメインストリートを抜けた先、裏路地にある少し寂れた酒場だったが、以前にも利用したお気に入りの店だった。


『あれ? 今回は混んでいる?』


「ってかさ、今更だけどアルシェは俺の見ているものが見えるのか? 以前に聞いた時は『なんとなく感じる』と言っていた気がするが?」


『ふふふ、今更よね。シェンファと私は魂で繋がっているの。もう一年半も繋がっているのよ。今となってはシェンファの視界に入ったものは、シェンファが意識していないものでも見えるわ』


「それって……」


『そうよ、もしシェンフェが可愛い子をずっと視線で追っていたりしたら、私も気付いて泣いちゃうからね』


 うわっ、怖っ! なんか視線まで監視されているのかよ。

 俺だって男だ、これまではそんな出会いはなかったが今後もそうとは限らない。

 年中監視されている気分だな……。


『……』


「どうした?」


『今、キモっとか思ったでしょう?』


 アルシェの顔は見えないものの、声だけで思いっきりジト目で見られている既視感があるんだけど……。

 確かに怖いとは思ったけど、キモイとは思ってないぞ。そもそも『キモイ』って言葉も知っているのか?

 まさか視界だけでなく思考まで読まれていたらマズイが……、これまでの流れでそっちは大丈夫そうだな?


「思ってないさ。お一人様で飲みに行っても、二人で行っているみたいで楽しそうだな、と」


『えっ、私と一緒に飲みに行けて楽しいの? 嬉しい♡』


 いや……、アルシェさん、チョロ過ぎて悪い男に引っ掛からないか心配になるぞ?

 まぁ、上機嫌になったのは幸いだったけどな。


 傍から見れば俺は、店先でずっと独りでブツブツ言っている怪しい男にも見えるし、意を決して店の中へと入った。


 以前に来た時より賑わってはいるせいかテーブル席はほぼ埋まっており、入り口付近のテーブルかカウンター席しか空いていなかった。

 俺は短槍を二本も背に差しているため、そのままではテーブル席に座れないし、人が通る通路に短槍を置くこともはばかられた。

 結局俺はエックス字状に短槍を背中に差したまま、カウンター席に座った。


「初めてか?」


「いや、一年半ほど前も立ち寄らせてもらった。以前より繁盛していて何よりだ」


「そうか、何にする?」


 そう、ここの店主は口数も少なくぶっきらぼうなんだ。

 ただここの料理は俺の口に合って非常に美味いし、ビールに似た軽口の酒も旨い。

 まぁ飲酒は……、以前に立ち寄った時は向こうの世界ならまだ未成年だったが、今はもう成人だ。

 しかも此方の世界では十五歳が成人だから何の問題もない。


「そうだな……、オリジナルのエールにこの店自慢の肉料理、あとは腸詰を適当にもらおうか」


「わかった」


 ははは、接客も何もあったもんじゃないが、俺も余計な詮索をされずに済むし却って好都合だ。

 前回は……、そうだった。


「今日国境を越えて今日この国に入って来たのか?」


 いや……、あの無口な店主から話してくるなんてどういうことだ?

 前回は注文の時しか口を利かなかったぞ?


「ああ、そうだが?」


「じゃあ今日は俺からエールを奢らせてもらう、何杯でも飲んで行っていいぞ?」


「???」


 何故だ? あのぶっきらぼうな店主がそう言うと同時に笑っているぞ。

 やはり『やらかした』一件のせいか?


「俺たちはずっと苦々しく思っていたんだ。国境の守備兵にもあの神聖槍騎士にも、な。国境では偉そうにしているくせに、町の近くに山賊が出ても何ひとつ対処しようとしなかった」


 あ、それってあの時の山賊の話か?

 ラルシェからの手紙では、ちゃんと奴らも足を洗ってくれたことだしな。


「今は平穏になったと聞いたが?」


「ああ、噂では一年半ほど前に、一人旅の槍騎士が山賊を全て退治したって話だ。その槍騎士が通過した後、奴らは消えた。それ以降、この町にも人の出入りが戻ってくれた。あれは丁度アンタがこの町を後にしたころだったか?」


 どういうことだ? 最初にオヤジは俺に『初めてか?』と聞いたよな?

 それが今は俺を覚えているような言い回しだぞ?


「さっきの注文で思い出した。背に槍を背負い一人でふらっと来て、前回と同じ注文をしてくれたんだ。

そんな客は滅多にいねぇからな。いわばこの店の繁盛のアンタのお陰ってことだ」


「……」


『ふふふ、すっかりシェンファの活躍がバレちゃってるよね。私はシェンファが人気者になって嬉しいなぁ~』


 アルシェさん? そう言ってくれるのは嬉しいが、武骨でいかつい店主ではなく、愛想のよい給仕の女性が言った言葉ならどうなんだ?

 同じことを言って喜んでくれるのか?


「そういうことだ、口に出して迷惑を掛けたくないから皆も黙っているが、この町に住まう誰もがアンタには感謝している。大したもてなしはできんが、ゆっくり楽しんでいってくれ」


「助かる……」


 それ以上は敢えて関わらないようにしているのか、オヤジは無口に戻っていた。

 もしかしてさっきの宿屋の対応も、今日の話はオマケでむしろ山賊退治の話がメインなのか?

 そんな事を考えていた時だった。


「何もない小さな町では、噂話は何にも増して娯楽なのですよ。些細なことでも一日を経たずして町中の者たちが知ってしまうのです」


 いつの間にか俺の傍らにいた、ジョッキを片手に持っていた男が話し掛けてきたが……。

 どこかで見たことのあるような恰好だな?


『国境でシェンファの前に並んでいた商人の代表よ』


 あ、そうか……。あの時は後ろ姿や横顔しか見ていなかったもんな。

 さて、どう応じたらいいんだ?


「突然話しかけて申し訳ありませんでした。実は私も今日国境を抜けて聖王国に入った、ヴェント商会を率いておりますウェントスと申します。国境でのご活躍を拝見し、二つの理由からエールを奢らせていただこうと思ったのですが……」


 見たところ身なりは良い。

 改めて見ると年齢は四十台前後、少し恰幅はあるが柔和な人の好さそうな顔つきをしていた。


「悪いな、それは既に店主から奢ってもらっている。ところで……、見ていたのか?」


「はい、先ほどそう話されているのを聞きましたので。そして今日の件ですが、私も西風様の前に並んでいたのですが、旅慣れぬご様子と拝察いたしましたので何かお役に立てればと、柵を超えた先で密かに見守っておりました」


「さすがに目端が利くな。どうして旅慣れぬと?」


 俺自身は堂々と振舞っていたつもりだったのだけどな。

 金貨の袋も事前に取り分けていたし……。


「はい、先ず最初にお持ちの短槍で『男』の爵位でいらっしゃることは分かりました。ですが普通なら貴族の方はお一人で国境を越えられることはありません。共の者が事前に話を付け、ただ通過されるものです。

仮にお一人だったとしても、遣いの者を用意して先触れとして送り、面倒ごとは避けられるのが普通です」


『……』


 あ! だからか。

 それで商業組合の者は、『失礼がないよう国境までお送りします』と言ってくれたのか。

 ここでも俺は常識を知らなかった訳だ。沈黙してしまったアルシェと同様に。


「ですが西風様の見事な立ち回り、彼らに向けて言い放たれた啖呵には胸がすく思いでおりました。

それが酒を奢らせていただこうと思った一つ目の理由です」


「なら二つ目の理由は、西風と知ってたから、か?」


 俺は敢えてカマを掛けてみた。

 冗談半分だったのだが……。


「はい、お察しの通りです。お立場を知った上は、今後を見据えてお近づきになりたかったからです」


 ははは、流石は海千山千うみせんやませんの商人だな。

 普通なら『いけしゃあしゃあ』と言える言葉ではないが、本心からそう思っているらしく、若干だが彼の目つきが鋭くなった気がする。


「俺と昵懇じっこんになっても大した旨みはないと思うが?」


 そう言った俺に対し、商人の男は大きく首を振って笑った。

 そして表情を真剣な顔に改めた。


「いえ……、大いにありますとも。少なくとも三つの理由で」


「ほう、それは是非聞きたいものだな」


「先ず一点目、魔王軍の討伐は我々の商いにも大きく影響します。商人として巫女様のご一行にお力添えするのは当然のことです」


 確かにな、これは彼らの死命を制する話でもある。

 しかもしかも巫女の動きに各国の連合軍も応じて動くと聞いた。ならばその中枢となる巫女一行と繋がっていれば、物資の調達などの利権が回ってくることもあるだろう。


「次に二点目、私はあの時の口上を聞いて思いました。そもそも()()()()()()貴族の立場にある方が『貴賤きせんを問わず慈愛を示せ』とは中々仰らないものです。我らはそういった方にこそ、是非ともお近づきになりたいと」


 ははは、色々と勉強になるな。そもそも俺は貴族らしからぬって事か?

 まぁ『なんちゃって』貴族である俺は、そもそも『らしく』ないしこの世界の住人でもないから、非常識なのは否めない。


「三点目は、たった今発生した理由です。()()()()()()我ら商人が近づいたとき、どなた様も『何の利益を提供してくれるのか?』を問われ、より多くの『利』を得るためにご自身を大きく見せます。ですが貴方様は『ご自身には大した旨みはない』と仰いました。それを聞き、非常に面白きお方であると感じ、自身の目利きに改めて自信を持った次第です」


 いや……、俺にとってそんな些細と思えることも理由だったのか?

 なかなか参考になるな。この先々で敵地に入ったとき、『らしくない』は『怪しい』に繋がってしまう可能性もあるからな。


 そもそもの話だが師匠は俺を養子に迎えるにあたって、公式にはフィリス伯家の遠縁の者(師匠の先代の妾腹の血筋)と宣言していた。

 もちろん根も葉もない話だが、今更師匠の先代の話を知る者も殆ど居ないので、事実を確認しようもないらしい。そうなれば俺の異常な膂力も『渡り者』ではなく、フィリス家の血統と強弁できると説明されていた。


 この先でも、そういった類の配慮は必要になってくるよな?

 そう考えて俺はある決心をした。


「では敢えて言葉を借りて聞きたいが、ヴェント商会は巫女様一行に対してどのような『便宜』が図れるのかな?」


「過去の伝承に倣うと、この先で巫女様御一行は四風を招集され、来る日に向けて各国を回られることと思います。我らは赴かれる先々で適正な価格にて必要なものを調達しご提供いたします」


 ははは、適正な価格で、か。面白いな。

 ただ供出するのではなく、お互いに『利』があるように対応すると言っているのだな。


「我が商会は聖王国でこそ大商会には敵いませんが、聖都を取り巻く四か国では特に、その他の国々でも()()()()()根を張っております。ご許可をいただければ専任者を陰ながら同行させ、各地の情報を提供するだけでなく、必要な交渉をお任せいただくことも……」


 いや、これは思ったよりも大きな拾いものではないか?

 俺たちに情報を提供してくれる独自の組織、そして常識を知らぬ俺に代わって、先々で交渉してくれる存在など、願ってもないぐらいだ。


 もしかするとこの商人は、今日の俺やこれまでの経緯を見て俺に足りていないもの、最も取引に臨まれやすい商材を提示してきただけかもしれない。

 それはそれで却って評価できる点だ!


「了解した。俺はシオン・フィシスだ。そういう話ならこちらとしても乗っていいと思っている。

ただ……、最終的には巫女様のご裁可をいただかねばならんので、正式な話は聖都に入ってからだけど、構わないか?」


「もちろんです。我らも目的地は聖都ルリエラ、そこで改めてシオンさまの元へ『ご挨拶』に伺わせていただきます。我らの提案をお聞き届けいただき、改めてお礼を申し上げると共に、お食事中に不躾なご挨拶をさせていただいたこと、改めてお詫びいたします」


 そう言ってウェントスは深々と一礼すると、何事もなかったように戻っていった。

 長々と粘着することもなく、引き際も鮮やかであった。


『ねぇ、シェンファ。いいの?』


 アルシェの問いかけに、俺は周囲を見回してから極力小さな声で答えた。


「少なくとも信用できると思った。目の付け所も面白いし、ただ歓心を買おうとしているだけとは思えなかったしな。何より俺達には独自の情報源が必要だ」


 そう、間諜の類なら『適正な価格で取引』とは言わず、何が何でも接近する手段を講じてくるはずだ。

 そして何より、俺達には神殿の息が掛かっていない『耳』が必要だし、常識を教えてくれるアドバイザーも必要だからな。


 この点ではアルシェも常識に疎い。

 なんせ彼が感じた俺の『非常識』な部分を、アルシェは気付いていなかったからな。

 多分だがアルシェも常識を知らない、()()()()の出自なのだろう。


 このあと俺は、非常に美味しい食事と旨いエールを楽しみ酒場を後にした。

 酒代は店主の奢りだったが、食事代はウェントスがいつの間にか支払いを済ませていたけどさ、なんか色んな意味で卒がなく、手際が鮮やかだよな。


 この先で俺たちは、彼の率いるヴェント商会と更に距離を縮めることになる。

 近すぐ先の未来で……。

 それが俺たちにとって、大きな力となっていくことは言うまでもない。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日(8/19)は、【聖都ルリエラ】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ