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神話 My storyとHis story ~俺と彼、交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第二章~ ゼルフィス槍王国編

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第三十三話 旅立ち

 出発の朝、俺は久しぶりに清潔で寝心地の良い寝台で目を覚ました。

 というのも、昨日の師匠の宣言以降、俺の立場は激変していたからだ。


 今やフィリス伯家の養子として、伯家の屋敷でも下にも置かないような扱いを受け、もちろん昨日からこれまで宿としていた兵舎を出て、伯家の母屋で寝泊まりさせてもらっている。


 なお俺は師匠の養子となるので、同世代のゼロスにとっては叔父という立場になっているし、今も戦場で戦っているらしいゼロスの兄たちにとって俺は、年下の叔父という奇妙な形になっているらしい。


 起床後はこちらの世界に来て以来、初めての豪華な朝食を済ませたのち、身支度を整えた俺は師匠に挨拶するため屋敷の執務室へと足を運んだ。


「おお、ちょうど良いところに来たな。こちらでも支度が整い、遣いを送ろうとしたところだ。

其方も既に伯家の人間、それなりの格好をしてもらわんとな。着替えは全て用意してあるゆえ、今よりこちらに着替えるが良かろう」


 そう言った師匠の執務室には衝立ついたてが用意され、その向こう側には旅の準備が整えられているだけでなく、着替えを含めた服が一式と何故か礼装まで用意され、介助のメイドまで立っていた。


「ってか師匠、用意が良すぎはしませんか?」


 特に着替えの手伝いとかは要らないんですが?

 そもそも恥ずかしいし、何を手伝ってもらえば良いのかもワカラン。


「お主は西風を継承したのじゃ、各国では巫女と共に『それなりの場』に出ることもあるでの。

下手な格好でもされたら、それこそ槍王国の恥じゃ。そこは改めて認識させねばならんようじゃな」


 そう言って師匠は大きなため息を吐いていたが、服を始めこの世界でここまで旅支度を整えるのは、昨日の今日では不可能なはずだ。

 つまり師匠は俺を迷宮に送り出した時点で、既にこの準備を整えていたことになる。


「といっても師匠、これだけのものを持ち運びできませんが?」


「そのための馬がおるじゃろう。其方の馬は替え馬とし、乗馬も改めて用意した。礼服を始め当面不要な旅装は全てこの者がまとめ、替え馬に結わえておくゆえ其方は自身の背嚢リュックを身にまとうだけじゃぞ?」


 そこまで用意されているんだ……。

 俺は諦めて用意された服に着替えようとしたが、ふと見ると例の金貨を入れる皮帯ベルトが三つも用意されていた。


 いや……、これってさ、やっぱり預かるんだ?

 しかも三つって、どう言うことだ?


「其方が姫様に貸し付けた金貨は二つの革帯に総額五千枚が収めてある。神聖王国大金貨は使い勝手が悪いゆえ二枚、残りは各国共通大金貨が三十枚、それぞれの革帯に半分ずつじゃな。そして三つ目の革帯が日曜使いの物として、大金貨が十九枚に金貨が二十枚が入っており、他の革袋は金貨二十枚を詰めたものが四つある」


「いや……、金額が合わないんですけど?」


 そもそもラルシュが盛大に盛った報告の金貨が五千枚、でも三つ目のベルトや皮袋を足すと合計で金貨七千枚になるんですけど?

 この意味不明に増えた二千枚は何故?


「其方が手配してくれた兵二十名の献身的な働きぶり、姫様からも感謝の言葉を添えた書状が、王都と儂のところにもにも届いておるわ。五百枚はその費用、五百枚はその礼金、残りの一千枚は西風の職務を受けたことで発生する年俸じゃ。気にせず受け取るが良いわ」


「私が手配した……、ですか?」


 いや、俺はそんなことをしていないぞ。ラルシュ、また話を盛ったのか?

 ちょっとだけ心配になってきたな。


『シェンファ、もしかしてあの人たちでは? ほら、聖王国を出る際に金貨をあげた……』


「ああ、そうか。彼らか……」


 意外と律儀な奴らだったんだな。

 見込みのある面白い奴らだとは思っていたが、まさか早速ラルシュの下に駆けつけていたのか?

 しかも二十名って、あの時に襲ってきた人数より多いんじゃねぇか?


「どうやら思い当たる節があるようじゃな。色々と事情があることは姫さまの書状で我らも承知しておる。

彼らは今回、正式に槍王国から派遣された護衛及び姫様の世話係として追認された」


 ははは、これで彼らも正式に身を立てることができたのか?

 この辺の差配は多分だけど師匠だろうな。


 それは納得したとして、そもそもだけど西風って年俸一億円も貰えるのか? それも凄い話だぞ。

 あれ? それに加えて元から俺の所持金もあったよな?

 色々と必要経費を使ったが、今もなお神聖王国大金貨二枚に各国共通大金貨八枚、金貨が三十枚相当ぐらいだから、全部金貨に換算して二千八百三十枚か?


 俺は三本目のベルトから金貨十枚を取り出すと個人で持っていた金貨の皮袋に入れ、その空いたスペースに十枚の高額金貨を入れた。


 うん、師匠からもらったベルトは素材からして違うのか肌触りも柔らかく、最初の二本は交互にたすき掛けにできるようになっていた。

 そして三本目はその襷に固定できるように工夫されており、元から俺の持っていた腰に巻くしかできない無骨な皮ベルトとは大きく違っていた。


 ってかさ、全部合わせて十億円相当を持ち歩くなんて震えるぞ?

 俺の中の常識がひっくり返るような話だな。


「ほほほ、今の其方なら盗賊どもを返り討ちにすることなど造作もないことよ。ただ不安なら、千枚単位でなら商業組合に預けることも出来るぞ? 大きな町ならどの国でも引き出すことが可能じゃ」


「えっ、そんなことできるんですか? そんな話は聞いてませんでしたが……」


『わ、私は知っていたわよ。でも、これまでのシェンファが千枚単位の金貨を預けたって、ただ怪しまれるだけだから言わなかったんだもん!』


 いや、アルシェを責めている訳ではないんだけどな。

 確かにこれまでの俺は身の証すら立てられない、国籍不明・住所不定・職業不詳のトリプルコンボ、この上なく怪しい身だったしな。


「なら早速この場で預けて行きたいのですが……」


「残念じゃが預け入れは引き出す本人しかできん。預けた代わりに預かり証を渡されるが、これを無くせば預けた先でしか金貨は取り戻せんからな」


 はははキャッシュカードみたいなものか?

 無くすと大変ってことだな。

 取り敢えず五千枚を預けておけば安心か?


「ご教示ありがとうございます」


「なーに、この辺りも貴族なら常識、商人たちも同様じゃな。身分の高い者で知らんのは王族ぐらいなものじゃ。既に何千枚もの金貨を持ちながら、そう言った常識も知らんでは怪しまれるでな。以後は気を付けるが良いぞ」


 あ……、ここでも俺はやらかしていたのか?

 俺もラルシュと同じく世間知らず、ちゃんとした人間が見れば、俺って違う意味で隙だらけってことか?


 以後は戒めるとしよう。


 その後は礼服を試着して確認したあと、メイドさんが丁寧に畳んでくれて、その他の荷物も驚くほどコンパクトにまとめてくれた。


「あの……、師匠、この短槍は?」


 そう、俺の荷物の中には何故かゼロスの短槍も含まれていた。

 これは彼の形見と言うべきものだし、おいそれと俺が持って行って良い訳がない。


「済まんがゼロス(の短槍)もお主の旅に連れて行ってやってくれんか? あ奴も使命を全うできんて悔やんでおるだろうからな」


「はい、では師匠からお預かりした短槍を……」


「何を言っておる? それは西風の短槍、お主が持っておらんでどうするのだ?」


 そう、俺が託された師匠の短槍も、いつの間にかしっかり一番上の輪っかが金色に変えられているしさ。


「儂の短槍は目立つ故な、巫女と共に征く()()()()までは隠しておいた方が無難であろう? それにもし、戦いの最中で短槍が折れたらどうするのじゃ? 戦場に予備はないぞ」


 なるほど、そう言うことか。

 ならばありがたく預かって、平素は波風の立ちにくいゼロスの短槍を使い、師匠の短槍はイザという場面で使わせてもらおう。


「で、これより行くのか?」


「はい、これより。師匠には改めて御礼を、そしてお約束はこのゼロスの槍と師匠の槍にかけて!」


「儂も其方からの依頼、可能な限り調べてみよう。もちろん公には動けんが、な。

全く……、ぎりぎりになって途方もないものを儂に背負しょい込ませおって……」


「ふふふ、これで師匠と俺は一蓮托生ですからね。ラ・アルシュ姫を守る目的のためには、俺もなりふり構ってはいられませんからね」


 俺はちょっと困り顔になっ師匠に笑顔で応じ、そして深く一礼した。

 師匠は俺を守ってくれる立場であるが、俺を利用している立場でもある。


 そこに俺は新たな一手を打ち、俺も師匠を無理やり『共犯者』に仕立て上げていた。

 もっとも……、既に俺を『渡り者』と分かって庇護した師匠は、既にこの時点で共犯者だったけどね。

 今はもう、引き返せないところまで俺が無理やり手を引いていた。


「うむ……、決して『堕ちる』でないぞ」


「はい、そもそも俺はこの世界の悪辣な意図を知った上で敢えて挑むのです。それも飲み込んでみせますよ。

それに……、俺は救世主ではありませんしね。では! 師匠より受けた御恩、決して忘れません。

これより出立いたします!」


 そう言ってもう一度深く頭を下げたあと、俺は出発した。

 大いなる悪意の渦巻く巣窟、ラルシュたちが居る聖王国の中央神殿へと……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

いよいよ明日(8/17)からは、第三章に入り【国境での通過儀礼】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

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