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神話 My storyとHis story ~俺と彼、交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第二章~ ゼルフィス槍王国編

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第三十一話 西風の継承

 師匠と俺は中庭に出ると、互いに模擬戦用の短槍を手にして対峙していた。

 ここからはあくまでも本気の戦い、もし本物を使用していれば、必ずいずれかが命を落とす危険があったからだ。


「我が弟子シオンよ、儂が全力で戦えるのは一度きり、そこで全てを学び取るがよい。先ずは『真の受け』を教えてやるゆえ、自在に突いてくるが良かろう」


 そう言った師匠の構えは、俺からすると変なものだった。

 通常寄りもずっと短槍の中央寄りを握り、リーチを捨てたように見える構えだったからだ。


「では遠慮なく……」


 そう言って先ずは型通りの攻撃を試みたが、思いも寄らぬ形で全てをはじき返され、更に懐に飛び込まれると、攻撃していたはずの俺が防戦一方となった。

 しかも見たことのないような変則的な動きと多彩なフェイントに、俺の攻めは師匠の思い通りに誘導されているような違和感、戦いながらそんな気持ちさえ抱いていた。


「ほっほっほ、真剣ならば既に其方は複数個所で深手を負っておるぞ?」


 そういった師匠の指摘は正しい。

 既に俺の身体の各所は打撲だらけで、アドレナリンが全開で出ているせいで大きな痛みは感じないものの、鈍い痺れが身体の各所を駆け巡っていた。


「ならば!」


 ここで俺は、以前に出した『彼』の三連撃に改良を加えたものを繰り出した。

 あの時は短槍が無様に折れ師匠からの反撃を食らったが、今はポキポキ棒での訓練や魔物相手に多くの実戦を経験している。あの時のような醜態は見せないはずだ。


 一撃目、二撃目も受け流されたが、それこそがフェイントであり、三撃目は全く違った形で繰り出すので師匠も戸惑うはず……、くそっ、嘘だろっ!


「ふふふ、敢えて以前に見せた技と思わせ油断を誘ったな? じゃが、儂が本当の狙いを易々と打たせると思ったか?」


 三連撃の三撃目を放とうとした瞬間、師匠の短槍が急に伸びた!

 その直前で無意識の『彼』が後方に飛んで威力を相殺させたため、胸部に刺突を受けたものの悶絶せずにいられただけだ。


「後ろに富んだのは見事じゃったな。しかも三撃目、面白い角度から攻撃しようとしていたな?

あれは儂も危うかったぞ?」


 そう言って不敵に笑う師匠をじっくりと見たとき、俺は愕然となった。

 明らかに短槍を握る位置が先程と変わっていたからだ!


「なるほど……、俺は『伸びた』と錯覚させられた訳ですか?」


 師匠はカウンターとなる突きを放つ際、握力を弱めて短槍を滑らした上、更に踏み込みと同時に石突きを押して威力を高めていた。

 あんあのまともに食らった日には、訓練用の模造品といえど大怪我をしてしまう。


「では……、次はどうですかね」


 俺はあの時に対峙した、神魔シェンファが見せた片身正眼かたみせいがんの構えを取り、ゆっくりと呼吸を整えた。俺が防ぎきれなかった攻撃を、師匠がどう防ぐか。それを観察することに主眼を置いて……。


 そして、息を止めた瞬間に捨て身の突進、そこから三段付きを放った。

 一撃目はフェイント、二撃目は間合いギリギリの攻撃、そして本命の三撃目は瞬時に腰を落として突き抜いた。

 その間、俺の目はただ師匠の槍捌きを見ることだけに集中していた。


「面白いな……、反撃すら許さん捨て身の攻撃か。本来なら……、斬られておったな。

それにしても我が弟子よ、儂を測ったな?」


 師匠が本来ならと言ったのは、あの特製の短槍だったなら、そういう意味だ。

 今の戦いでは三撃目も師匠に受け流されて僅かに身体を掠めただけだったが、もし重量のある槍の攻撃であれば今以上に重く、受け流し切れない場合もあったからだ。


 実際に俺も神魔シェンファから受けた攻撃は、刃先ではなく石突きだった。

 しかも雑兵が持っていた、ありきたりの短槍で……。


「まだ師匠には教えを請いたいことは多々ありますからね。次もお願いしますよ」


 そこから俺は、極力神魔シェンファが放った技を再現し、防御を捨てて観察することで師匠の『受け』をひたすら目に焼き付けていった。


 そして改めて思い知らされた。

『まさか……、あの時に神魔シェンファは、俺を本気で殺す気は無かったということか?』

 

 おそらくだが本気で殺そうとしていたら、神龍の助けが入る前に俺は殺されていただろう。

 自分自身が技を模倣し、改めてそれが身に染みて理解できた。


 そして師匠の実力も末恐ろしい。

 俺が成す術なく防戦一方でボコボコにされた攻撃を、ギリギリの所で躱しつつ隙を見てカウンターの一撃を放って来る。


 俺は敢えてその攻撃を受けながら、師匠の動きを目に焼き付け続けた。


「ふふふ、弟子の成長がここまでとはな、嬉しくもあり恐ろしくもあるわ。そろそろ儂も限界じゃ、これを受けてなお立っていることができれば、お主も合格じゃ」


 そう言って師匠は構えを取って目を閉じた。

 それは……、周囲のざわめきが一切消え、呼吸すら止まって時間が凍り付いたようにさえ感じる静けさだった。


「まさに明鏡止水めいきょうしすいか……、俺にあの境地はまだ無理だ……、な」


 思わずそう呟いた瞬間だった!


 師匠がかっと目を開くと左からフェイントとなる二連撃、続けざまに振りぬいた右から手首を返した二連撃のあと上段からの切り落としで都合五連撃、そして目も止まらぬ突きを交えた三連撃のあと、大きく踏み込んで間合い深くに身を沈めた三連撃……。


 トータル十一連撃かよ!


 攻撃と攻撃の繋ぎが流れるように無駄がなく、防御で空いたガードを次の攻撃で突いてくる、正に芸術品とも思える攻撃だった。


 もちろん俺は完全に防ぐこともできず、実戦ならば何度も致命傷に近い傷を負っていたはずだ。

 特に最後の一閃はモロに受けるはずだった。

 だったと表現したのは、それまでの攻防で師匠の短槍は真ん中からポッキリ折れていたからだ。


「ほっほっほ、今度は儂が武器を失って負けてしまったな」


 そう言って師匠は、荒い息を吐きながら笑った。

 だが師匠の言葉は正しくない。


「いえ、真剣ならば俺は何度も致命傷を浴びて死んでいましたよ」


 その言葉に師匠は首を振って笑った。


「真剣であれば、儂の槍はとうに其方の馬鹿力によって折られておったわ。それに其方は儂とは違う者を見据えて戦い、『見る』ことに意識を集中していたであろう? それでもなお儂の攻撃を受けても立っておる。

そう言うことじゃて……」


 ちぇっ、全部バレていたか。

 少しでも技を盗もうとしていたこと、俺は常に師匠の後ろに神魔シェンファを見ていた。

 ここで俺は短槍を胸の前で斜めに持ち、姿勢を正した。


「ご教示、ありがとうございました! これを糧に今後も精進し、いつか必ずや!」


 そう言って深く頭を下げた。

 感謝の念を込め、ずっと……。


「これにて槍王国は西風を我が弟子であるシオンに継承させる。同時にシオンをフィリス伯家の養子とし、継承権はないが正式に伯家の人間とする、よろしいな!」


 いや……、師匠は何を言っているんだ?

 前半は分かる、ただ後半は何かトンでもないことを言っていた気がするが?


「認めるしかありませんな。今や我が国は西風を失い、鼎の軽重(かなえのけいちょう)を問われておりますからな。見届け人として異存はござらん」


 あれ? 突然割って入ったこの偉そうなオッサン、いつから居たんだ?

 それにいつの間にかギャラリーも増えているし。


「新たな西風の誕生を祝うとともに、我らも忠誠を!」


「「「「「忠誠を!」」」」」


 いやお前ら……、いつの間に沸いて出たんだよ?

 中には共に修練を行った者たちもいるし、練兵所が空になっているんじゃないか?


「第二十五層の試練を単独かつ僅か五日で突破した新たな英雄の誕生を、我ら一同祝福させていただきます!」


「「「「「英雄の誕生に!」」」」」


 いや、さっきまで迷宮の警備に当たっていた隊長や兵たち、君たちは監視という大事な役目があるのではないのか?

 こんな場所で油を売っていて良いのか?



 なんか全てが師匠にお膳立てされていたような気もするが、いつの間にか俺は様々な大義名分を引っ提げてラルシュの元、俺にとってはもう一つの敵の巣窟に向かう準備が整えられていた。


 この日の翌日、俺がラルシュと別れだ日より一年半ちょっと、再び彼女たちに合流すべく旅立つことになる。

 彼女らの成長にも期待しながら……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日(8/15)は、【宴のあと……】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

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