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神話(MYTH) My storyとHis story ~交錯する二つの時空(とき)~  作者: take4
~第二章~ ゼルフィス槍王国編

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第二十二話 転話④ 動き出した闇の意思

 かつては聖域と呼ばれた聖王国と周辺を取り囲む十二の国、これらを合わせた広大な領域ですら大陸の半分を占めるに至らない。実のところ大陸の半分以上は、『ヒト』が暮らすことのできない過酷な環境と言われた、魔境が占めていた。

 その魔境のどこか、地下の迷宮を抜けた先にある陰鬱いんうつな雰囲気の古めかしい神殿に帰還した者がいた。


「我が主……、ただいま戻りました」


 そう言うと帰還した者は、傍らに自身の持つ短槍を置き、禍々しい雰囲気をまとった黒色の兜を脱いで跪くと、ひとり壇上に座る男に深く頭を下げた。

 壇上以外にも、彼の周りには同じように禍々しい漆黒の鎧を身にまとった者が十一人ほど立っていた。


「ご苦労だった。借り物の身体と違い本来の身体は……、よく馴染んだようだな?」


 壇上の男に声を掛けられると、膝を付いて頭を下げたもう一方の男も更に深く頭を下げた。


「はっ、()()()()力を全て取り戻し、生まれ変わったような気持ちです。仮初かりそめの命から、生きる者の躍動を取り戻せたこと、改めて御礼申し上げます」


 そう言って男は、十代半ばのような若々しい顔を上げた。

 それと同時に首を三つ、主と呼んだ男の前に差し出した。


「短槍の西風ゼフル、天弓の東風エウス、魔導の南風ノトラにございます。復活した我が力、こ奴らでは相手にすらなりませんでした。これらは我が主への忠誠の証、今後も主の覇道の役に立たせていただきたく……」


 そう言った男の表情は能面のように無機質で、今や首だけになってしまった()()()()()()の無残な姿を、ただ無表情に見下ろしていた。

 首となった父親は驚愕したまま討たれたのか、驚きの表情のままで固まっていた。


「ほう……、見事だな? いずれも()()とはいえ、これで其方は一人で四風アネモイを全て討ち果たしたことになるな。どうやら心まで完全に融合したようだな?」


「はい、当初こそ奴は頑なに抵抗しましたが、()()()()により『真実』、自身が巫女を手に掛けたことを知ると発狂し、絶望と神殿への憎悪によって深い闇の中に心を沈めました。我が誘いにあがらうこともできず、今や心技体とも我らはひとつ……」


 実のところこの討たれた三人は、中央神殿よりアメノ神殿奪還と魔将ゼノスを討つ命を受けて派遣されていた、()()の四風と呼ばれた者たちであった。

 そしてこれまでの魔将ゼノスは、かつて彼らによって討ち取られたゼノスという名の武人の身体を、一時的な依り代として、死者のまま復活していたに過ぎなかった。


 だが今は違う。


 歌舞伎町で起こった血の争乱事件で、彼らによって持ち帰えられたゼロスは、死の直前で昏睡していたがまだ生きていた。

 そこにシェンファは魔王として、摂理の対局にある『背理はいり』の力を行使し、異なる時空にあった二つの魂を融合させ、ゼロスに新たな命を吹き込んでいた。


「これで魔将ゼノスの名は、いや、今後は本来の名である魔将ゼロスと名乗るが良かろう。其方の名は、十二か国連合軍に絶望をもたらす者として高まることだろう。さすれば奴らの見せ掛けの連合も、大きく揺らぐだろうな」


 そう、今や彼は得体の知れぬ魔将ゼノスではなく、槍王国で将来を嘱望されていたゼロスと同一体だ。

 ゼロスが魔将であることを知った世界の人々は、連合の一角をなす槍王国にまで猜疑の目を向けることになるだろう。


「は、御心のままに」


「それでゼロスよ、お前に与えていた役目の首尾どうなった?」


「はい、先ずは門について報告を。巫女一行はよほど慌てて逃げたのか、それとも全ての禁忌を知らぬのかは不明ですが、門自体は閉じていますが異界との接続は切れておりませんでした」


「では、時が満ちれば自動的に我が同胞を呼び込むと?」


「はい、我が主の配下となるべき者たちを引き込んでくれるでしょう。ただ、気になることもひとつ……」


 これまでずっと表情を変えなかった魔将ゼロスが、ここで初めて笑った。

 もちろんそれは、ぞっとするような冷たい笑みだったが……。


「異界にて我が主の依り代と思しき者と出会いました。あの短槍捌き、まるでかつて私と短槍を交わされたお姿を思い出さずにはいられませんでした」


「ははは、予定外のことではあるが、我らがこの世界に干渉した結果でもあるのだろう。奴とてこの先で巫女と出会う運命さだめ、そこからは逃れられんということだ」


「どうやら此方の世界に渡ったようですが、放置してもよろしいので?」


「構わぬ、いずれ我が依り代も巫女と共に、自身の意思で此方にやってくる日が訪れる。『導き手』によって手を引かれて、な。その時こそ我が願いも成就されるというもの」


 ゼロスの質問に対し魔王、いや、既に魔王を超えた存在として存在する神魔シェンファは、低い声で笑った。


 それに対しゼロスは深く頭を下げた。まるで自身の犯した罪から解放される日が訪れるのを願っているかのように……。


「それと……、禁忌は回収できたか?」


 今より一年前、魔王軍が人の住まう世界に侵攻を始めた時、魔将ゼノス(ゼロス)に課されていた役割は三つあった。


 ひとつ、アメノ神殿を占拠し召喚門を抑えること

 ふたつ、神殿にいる巫女の身柄を確保し、傷つけず生きたまま連れ帰ること

 みっつ、神殿に隠されているという、禁忌の欠片を集めてくること


 二つ目は予想外のことで破綻したが、これまでの会話により神魔シェンファは、それすら織り込み済であるとゼロスは理解した。


「禁書庫に三つ、そして神殿の最下部、門の近くにあった隠し部屋に一つ、四つを全て回収しております」


 その言葉に神魔シェンファは鷹揚おうように頷くと、冷酷な表情のまま口元を綻ばせた。


「ほう? 更にもう一つあったと言うのか?」


「はい、神殿を攻略するに当たって網を張っていたところ、我先に神殿を捨てて逃げ出した大神官一行を捕らえました。拷問の末、大神官以外は四つ目の存在を知らなかったようで死にましたが、そのざまを見ていた大神官は震え上がり、素直に自白しました」


 そもそもだがゼロスと融合したもう一人のゼロスは、ことのほか神殿と聖王国を憎んでいた。

 そのため捕縛された彼らには遠慮呵責のない拷問が加えられ、神官や聖騎士たちは『死んだほうがマシ』と思える苦痛を加えられたなかで、次々と息絶えていった。


 最後に残された大神官は、自身の指が切り落とされた時点で素直に四つ目の欠片のありかを自白し、右腕の指を全て切り落とされた時点でもう一つの秘密まで自白していた。


「残された欠片は八つあるそうですが、中身までは知らされていないようです。最後は手足まで切り落として確認しましたが、『知っているのは聖王と中央神殿の上層部のみ』と言い続け、その後に死にましたので……」


「ほう、聖王と中央神殿か……、厄介な場所だな。我ら『背理』の理で存在する者たちは、『摂理』の守護下にある聖域には立ち入ることができんからな」


 実のところアメノ神殿は彼らの言う『聖域』には含まれていない。

 聖王国が誕生した折に、召喚門があった北のアクイロス剣王国からアメノ神殿は無理やり接収されていたに過ぎない。

 だからこそアメノ神殿には、背理の力で命を与えられた魔将ゼノスも侵入することができていた。


「いずれ禁忌は我らによって全てを白日の下に晒さねばならん。それを知った愚か者共はこの世界、自身の非道な行いに気付くだろう。悪辣な聖王と神殿によって築かれた偽りの世界から目を覚ます。その後に残るものは、我らのもたらす恐怖と絶望だけだ」


「この魔王神殿にひとつ、残るは七つですな?」


 この言葉に神魔シェンファは決断した。


「魔将ゼロスよ、まだ我らの依り代がこの地に至るまでには時がある。其方はその間に中央神殿より事情を知る者を連れて参れ! 先ずは次代の北風と東風に南風、それぞれを我が配下と融合させ聖域へと入れ!」


 その言葉に、これまでずっと無言で立っていた三人の人影が動き、その場で跪いた。


「承知しました。我らもゼロスと共に」

「本来の力を取り戻して参ります」

「若く美しい肉体を取り戻し、是非ともお傍に!」



 ここに神魔シェンファ配下の魔将、十二将のうち最強の四将が新たな目的を持って動き始めた。

 大いなる災厄をもたらすために……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日(8/6)は、【最終試練】をお届けします。

どうぞよろしくお願いします。

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