第十四話 武門の家系
山賊の一件があったのち、俺はやっと聖王国の西にあるゼルフィス槍王国との国境に差し掛かった。
聖王国側への入国は審査が厳しいようで、厳重に囲いが巡らされた国境の門の手前で、武装した兵たちが声高に何かを叫んでおり、入国を望む者たちの多くがそこで追い返されていた。
反対に槍王国への入国は一応の審査があったが、驚くほど簡単に入国する事ができた。
もちろんそれには相応の理由があったのだけど……。
入国のため並んでいた俺は、槍王国の官吏に問われて覆いを外したゼロスの短槍を見せた途端、彼らの態度は笑えるぐらいに豹変したからだ。
慌てた様子の彼らに案内されて列を離れ、その後は取り調べを受けることも、何ら質問を受ける事もなくフリーパス状態、いや、むしろ彼らから気を遣われながら丁重に槍王国へと案内された。
「なぁアルシェ、もしかしてゼロスって……、相当な人物だったとか?」
『そうよ〜。だって王女で巫女の『あの子』を護衛する責任者に任命されているぐらいだもの。
側近としてお世話を任されるぐらい、槍王国内でも特別な身分よ』
俺はてっきり……、二十人程度の部隊を率いる隊長とか思ってました。すいません。
ならばゼロスの実家も気軽にホイホイ尋ねることなんて……。
「!!!」
考えながら歩いていたので気付かなかったが、改めて前を見ると……、門を超えた先には驚くべき光景が広がっていた。
「いや、槍王国の街並みって、めっちゃ中華風じゃん!」
思わずそう言ってしまうぐらい、見渡す限りの街並みが朱色一色に変わっていた。
これまでの聖王国では西洋風の建物が基本で、看板や窓枠に若干の中華風要素が入ったぐらいだった。
たが……、槍王国の建物は全く違い、先ずはその色鮮やかさに目を奪われた。
木造建築で朱色に塗られた梁や柱、赤土色の屋根瓦が敷き詰められた建物の様子は、沖縄の首里城を思い浮かべてしまう華やかさだったし、町並みは全てが中華風だった。
『古来より『渡り人』から影響を受けた各国は、それぞれ独自の特色があるの。古の時代はそれぞれの国から、違う文化の国々に通じる召喚門があったっんじゃないか、そう言われているくらいよ?』
いやアルシェさん? それってスバリ核心を突いていませんか?
向こうの世界の各国に通じた召喚門が『渡り人』を送り出したことで、それぞれの国の文化が独自に繫栄していくことになった。そう仮定すれば……。
『ただ、私もそれなりに色んな国を見て来たけど、そんな痕跡はなかったけどね』
そうなんだ?
でもさ、それらも含め禁忌の欠片と同様に、巧妙に隠されているとかでは?
あ、そう言えばそっちの話もあったな。
「因みにアルシェはどこで、もうひとつの禁忌の欠片を見たんだ?」
『それは……、魔境の……、近くの遺跡で?』
なんだ? 言葉に詰まっているな?
内緒と言われないだけマシだが、あまり言いたくないのか?
なら話題を変えよう。
「これからゼロスの実家に行くにしろ、どうやって行けばいいんだ?」
『任せてっ! 槍王国は土地勘があるの。ゼロスの家は槍王国で槍士団を束ねる家系で正伯家よ。
固有の領地を持たない家だけど、管理を任されている町があるし、槍王国では名門なのよ』
へえー、土地勘があるんだ?
ということはアルシェはお姫様と同じく、槍王国の出身なのか?
この辺りも余り突っ込まない方が良いよな? その方が天然で色々話してくれるし。
「いや……、名門と言われても俺には全く訳がわからないんだけど?」
『そうよね、昔は貴族の階級も制度も各国でバラバラだったけど、今は大まかな基準に統一されているわ。
どの国も貴族は『公』・『侯』・『伯』・『子』・『男』・『騎士』の六段階は同じ、そこからは各国独自で名称があったり細かく分かれているの』
そう言って説明してくれた槍王国の事情を、俺は改めて整理してみた。
『正公』 最上位の貴族で、基本的には王位継承権を持つ王族が任命されるもの
『従公』 王族以外の最上位、即ち貴族の中では最上位で、継承権を持たない王族もここ
『正侯』 『従候』または『正伯』が功績によって上り詰めることのできる最上位
『従侯』 『従伯』以下の貴族が功績によって上り詰めることのできる最上位
この下に『正伯』『従伯』『正子』『従子』『正男』『従男』『騎士』と順に続くが、何となく西洋式の爵位と、明治以前の日本や中国式の『正』や『従』が混合した感じだよな?
因みにゼロスの家系では槍騎士団の団長を任されている当主のみ『正伯』、任を受けていない場合は『従伯』とされ、ゼロス自身は三男で継承権を持たず、家を出て別の貴族として独立しているため、元の立場は『騎士』だそうだ。
この他に特に秀でた短槍使いであると認められた『槍騎士』は『従男』と同等となり、槍騎士となったゼロスは結果的に『従男』の立場だったらしい。
これらに加え、国を代表する槍騎士である『西風』になると、『従子』〜『従男』の扱いになるらしい。
ただ、ゼロスのように元々伯家の人間が『西風』となれば、一代限りではあるが『正伯』又は『従伯』に任じられるそうだ。
『ちなみにだけど、シェンファが名乗った神聖槍騎士は、聖王国でも特別な存在だから比較は難しいけど、敢えてこの国で言うと神聖槍騎士長で『従伯』、神聖槍騎士なら『正子』か『従子』ぐらいね』
げっ、俺は何も知らず、勝手にそれなりの貴族様を名乗っていた訳か?
今更だけど血の気が引いたわ。
しかもその身分を自称していた俺は、五段階から六段も上のラルシュにタメ口……、いや、『お前』呼ばわりしていたんだな?
ははは、全くもって酷い話だ。
「それで、ゼロスの家柄が格式高いお貴族様ってことは分かったが、自称槍騎士の俺なんかが家族に会いに行けるものなのか?」
『もちろん門前払いよ』
だよな……。まさか神聖槍騎士を名乗る訳もいかないし。
でもゼロスの実家に行くことを提案したのはアルシェだぞ? どうやって、何の目的で、そこに行くんだ?
『そこでゼロスさんの短槍と、あの子の手紙が登場ってわけ』
あ! なるほど……、その御威光に縋る訳か?
ちょっとだけ不本意だけど、それも仕方のないころだろう。
『シェンファはゼロスさんの遺品を届けに来た体裁で尋ねて行くの。そこで彼の最後を伝え、あの子を守るため誓いを結んだと言って、実家の方々に指導者の紹介をお願いするの。どう? 私の作戦は完璧よ』
ホントに? そんな簡単に行くのか? 相手はそれなりのお貴族様だぞ?
アルシェの導きは基本的に正しいのだけどさ、たまにアレがあるからな。今回は例の『あああっ!』は無いよね?
『まぁ、あの人たちのことだから……、ちょっとした歓迎はあるかもしれないけど、ね』
なんだよそれ! いきなり変なフラグ立てているじゃねぇか?
手荒い歓迎なんて御免だからな。
そう感じた俺は、その三日後に改めて予感が正しかったと実感させられることになる。
◇◇◇
槍王国に入ってからと言うもの、アルシェの言う通り進んでいたが、何故かどんどん寂れた方角に進んでいるのは気のせいだよな?
街道自体はちゃんと整備されているが、進むほどに町を外れ、二日目を過ぎると周囲に農村すらなくなり、三日目になると荒涼たる荒地が広がっている中を、ただひたすら進んでいた気がする。
そして遂に……。
荒地の中にポツンとある城塞都市とも言える街に着いたが、外壁の物々しさとは対照的に中身は小さな町だった。
「こんな場所に……、ゼロスの実家があるのか?」
『うん、ゼロスの実家が無いと困るの。この場所だから彼の実家がある、と言った方がいいかな?』
いや、どう言う事だ?
俺の疑問は城塞都市の堅固な城門を抜けると益々深まっていた。
街に入る際、アルシェに言われた通り『伯家への所要があって来た』と言ってゼロスの短槍を見せると、何の咎めもなく通してくれたけどさ。
ただ中に入ってみると大きな違和感を感じた。
正伯という上位貴族の治める町にしては、余りにも規模が小さく鄙びていたし、そもそも異質な『何か』を感じさせる町だった。
「まるで町全体が兵の駐屯地、いや、駐屯地に町があると言った方がいいか?」
城壁の内側は臨戦態勢の軍事拠点、そう思わせる物々しさがあった。
絶えず短槍を持った兵たちが巡回しているし、広大な練兵場では多くの兵が訓練に励んでいた。
『そうなの、本来なら此処は槍王国で最も忌避される場所なの。城壁で囲われた中には、魔物が湧き出す地下迷宮があるの』
「魔物? 話に聞いた魔物たちの棲み処、魔境とは遠く離れているのに?」
という事は、あの物々しい城壁は外部からの侵入を防ぐためのものではなく、魔物が外に溢れないようにする囲いということか?
そして槍王国は、常に魔物に対抗できるよう戦力を常駐させていると?
『ゼロスさんの家は、代々此処を守り管理する役割りを担っているわ。なので常日頃から多くの兵が常駐しているし、武門に秀でた一族なの』
いや……、アルシェは気軽に言っているが、それってかなりヤバい話じゃないか?
俺……、そんな所にお邪魔しても大丈夫なのか?
ここまで来て俺は、ますます不安になったのは言うまでもない。
そして……。
俺が感じた不安は、すぐに現実のものとなる。
最後までご覧いただきありがとうございます。
明日(7/29)は、【槍で語るべし】をお届けします。
どうぞよろしくお願いします。




