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異世界江戸転移小説「怪しい旅人たちと関所代官」  作者: 伝説の男前


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第4話 夜の対話と通過―秘密組織の幹部が見た新しい可能性―

Jacob の告白の後、直也は、その日の夜間に、Jacob のために簡素な部屋を用意することにした。


牢ではなく、関所の客間だ。その部屋には、窓がある。窓からは、夜の空が見える。逃げようと思えば、逃げられる。だが、Jacob は、その夜、逃げようとしなかった。


その夜、直也は、Jacob を訪ねた。


Jacob は、窓際に座って、月を見つめていた。その背中は、疲れに満ちていた。長い旅路の疲れか、それとも、自分の計画の失敗に対する疲れか。


「眠れないですか」


直也は、聞いた。


「ああ。寝られない。というより、寝たくない。ここで眠ることは、あまりに無責任に思える」


Jacob は、そう言った。その言葉には、組織人としての罪悪感が見える。


「…なぜ、あなたは、私を一人にしてくれたのですか」


Jacob は、窓から目を離して、直也を見た。


「逃げられるチャンスをくれるとは、異例ですね。江戸時代の代官なら、囚人をこのような扱いはしないはずです」


「そうですね」


直也は、Jacob の隣に座った。


「ですが、あなたが逃げるとは思いませんでした」


「…なぜ」


「あなたの眼を見ていたから。あなたは、既に、ここにいることを受け入れている。逃げようとしていない。その眼を見れば、わかります」


Jacob は、その言葉に、静かに頷いた。


「…そうかもしれません。我は、逃げたくない。もう十分に逃げた。別の時代へ。別の組織へ。その逃げの果てが、ここなのかもしれない」


Jacob は、その言葉を続けた。


「…あなたに聞きたいことがある」


Jacob は、直也を見つめた。


「あなたが、あの共産国の元主導者を通したのはなぜですか。我たちは、あなたの関所で、その情報を得た。あの男は、通された。記録にも残らない形で」


直也は、その質問に、一瞬答えが出なかった。


「…理由は、わかりません」


直也は、素直に答えた。


「正体を知ったら、通すなんて、普通、しませんよね。代官なら、もっと問い詰めるだろう。あるいは、報告するだって、できた。でも、それは、この時代では何の意味もない。あの男は、何かの罪人じゃない。ただ、この時代に迷い込んだ者。別の時間から来た者。それだけだ。だから…」


直也は、また言葉を探していた。


「だから、通した。別に根拠はない。ただの、気まぐれかもしれません」


Jacob は、その言葉に、少し笑った。その笑みは、苦い笑いだった。


「…気まぐれですか。…そう。それで、いいのかもしれない。人生なんて、大抵は気まぐれの積み重ねだ。それでいて、その気まぐれが、世界を変えることもある」


Jacob は、立ち上がった。そして、窓の外を見つめた。


「我たちは、江戸時代に来た時点で、既に負けていたのかもしれない。この時代に適応していない。この時代の言葉を、完璧に使っていない。その結果が、あなたに見破られた。そして、あなたは、我たちの目的が何であるかを知った」


「秘密組織818号のクーデター計画。それは…」


直也は、その計画について、もう一度確認したかった。


「…本当に、実行するつもりでした。江戸時代の権力を握り、その後の日本の歴史を変える。その歴史の変化から、現在の世界も変わる。そう考えていた」


Jacob は、その言葉を述べた。


「ですが、あなたを見ていると、その計画がいかに傲慢であるか、わかる気がします。あなたは、何も強制しない。権力を握ろうとしない。ただ、観察する。観察した上で、判断する。その判断は、その時その時で、変わるかもしれない。だが、その柔軟性が、権力には最も必要なものなのだ」


Jacob は、直也を見つめた。


「…あなたは、本当は、何なのですか」


「わかりません」


直也は、答えた。


「40代までニートでした。働いたこともない。権力も握ったこともない。この関所に来て、初めて『何か』を担当することになった。その『何か』が、何であるか。まだ、わかりません」


「…そう。それで、いいのかもしれない」


Jacob は、その言葉を受け入れた。


翌日の朝。


直也は、決断を下した。


関所にやってきた役人の田中と山本に、直也は言った。


「昨日の浪人は、通す」


田中の眼が、驚きで大きくなった。


「代官殿。…昨日は、あの者が何かの秘密組織に属していることを…」


「知っています」


直也は、その言葉を遮った。


「ですが、考えました。あの者を逮捕することが、この関所の役割であるのか。あるいは、あの者を通すことが、この関所の役割であるのか」


直也は、その言葉を続けた。


「江戸の役所に報告すれば、おそらく、あの者は逮捕されるでしょう。だが、その逮捕が、本当に必要なのか。あの者が、何かの悪事を働くつもりなら、別です。ですが、今の時点では、あの者は、ただの旅人に過ぎない」


「…代官殿」


山本が、言葉を発した。


「それでは、江戸からの指示に反することになりませんか」


「そうですね」


直也は、その言葉に頷いた。


「ですが、この関所で下した決断であれば、それは、この代官の権限です。江戸の役所が不満であれば、その時は別のことを考えます」


直也は、その言葉と同時に、自分が、この江戸時代で、ある種の権力を握っていることに気づいた。その権力は、小さなものだ。一つの関所の権力に過ぎない。だが、その小さな権力の行使の中に、人生は存在するのだ。


その昼、Jacob は、許可証を手に、関所を通った。


その時、Jacob は、直也に一言だけ言った。


「ありがとう。あなたの決定は、正しかったのか、間違っていたのか、それは時間が証明するでしょう。だが、少なくとも、あなたは決定した。その決定を下す勇気を、我たちは失っていた」


直也は、その言葉に、何も返さなかった。ただ、Jacob の背中を見送った。


Jacob は、昼間の光の中を、静かに去っていった。


その日の夜。


直也は、関所帳を開いた。


その中に、Jacob の名前を書くことにした。「浅倉源太」。その名前で。


完全な記録ではない。だが、何も書かないわけではなく、偽装された名前で記録する。その方法により、Jacob は、この江戸の記録に、ごく小さな痕跡を残すことになった。


その痕跡は、後の調査者たちが、見ても、何の意味もないだろう。だが、直也の記憶には、その人物が、本当は何であったのか、すべてが刻まれている。


直也は、その夜、月を見つめていた。


江戸時代の月だ。その月の下で、多くの秘密が、眠っている。


その秘密が、いつか、この関所に到達する日までは、直也は、待ち続けなければならないのだ。


そして、その時ごとに、直也は、判断を下し続けなければならないのだ。


気まぐれで、時には誤るかもしれない。だが、その判断こそが、この江戸の関所での、この代官の仕事なのだ。


直也は、その時、何かに気づいた。


自分は、この江戸時代で、確かに何かを始めたのだ。


転移者たちと、この江戸の秩序の間に、何かの橋を架けようとしているのだ。


その橋が何であるか、自分自身、完全には理解していない。だが、その道の上を、自分は歩み始めているのだ。


直也は、その夜、眠ることができた。


外を見ると、月が、高く上がっていた。江戸時代の月だ。その月の下で、また新しい秘密が、この関所に向かって、ゆっくりと歩み始めていたのだろう。

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