第27話 時間と旅―明治から来た者が見つめるもの―
エドワード・ドレイクが関所を去ってから、四ヶ月が経った。
その四ヶ月の間に、直也は、「見守ることが責任放棄である」という認識に、深く苦しんでいました。
その苦しみは、「苦しみを通じた責任」という形式で、直也を支え続けていました。だが、その形式自体が、実は「虚構」かもしれないという疑念が、毎晩、直也を襲っていました。
午後5時。
新しい旅人が、関所にやってきた。
その人物は、30代後半の男だ。顔は、若いように見えますが、眼には、深い「時間の重さ」が感じられました。その眼は、何か極めて大きな時間を見つめているような眼をしていました。
着物は、江戸時代のものだ。帯も、江戸時代のものだ。だが、その着物の着方に、わずかな「不自然さ」があります。その不自然さは、「江戸時代の着物に不慣れな者が着ている」ことを示していました。
護衛がついていません。一人での旅です。だが、その一人という状態の中に、ある種の「絶望的な孤独」が感じられました。
「通行を願う」
その男は、許可証を差し出しました。その声は、低く、沈着だ。だが、その沈着さの中には、ある種の「疲労」が感じられました。
直也は、その許可証を受け取りました。
許可証は、整っています。だが、その許可証は、極めて古いものに見えます。その古さは、「100年以上前のもの」に見えるのです。
「この許可証。…いつのものですか」
直也は、その許可証を見つめました。
「…明治時代のものです。明治20年代のものです」
その男は、素直に答えました。
「明治時代。…では、あなたは、転移者ですか」
「…そうです」
その男は、その言葉を認めました。
「明治時代から、転移してきました。我は『時間を旅する者』です。『過去を見に来た者』です」
その男の告白は、これまでの転移者たちとは全く異なっていました。
「過去を見に来た。…あなたの目的は何ですか」
「…わかりません」
その男は、奇妙な返答をしました。
「わかりません。我は『なぜ、この時代に来たのか』『何を求めているのか』『何をしたいのか』。その全てが、わかりません。ただ、『明治から逃げてきた』というだけです」
その男の言葉は、深い虚無感を伴っていました。
「では、あなたの本当の名前は」
直也は、聞きました。
「…知りません」
その男は、答えました。
「我は『時間を旅する者』であり、『どの時代にも属さない者』です。だから『本当の名前』というものが、存在しない。『時代ごとに異なる名前』を使い、『時代ごとに異なる身分』を持っているだけなのです」
その男の言葉は、「アイデンティティの完全な喪失」を示していました。
「では、関所の奥に来ていただけますか」
直也の声は、いつもの穏やかなものです。だが、その穏やかさの中には、「極めて複雑な問題」への直感が感じられました。
その男は、素直に従いました。だが、その従い方に、ある種の「諦め」が感じられました。
関所の奥の部屋で、その男は座らされました。
田中と山本が、同席しています。
「あなたの本当の身分は何ですか」
直也は、聞きました。
「…わかりません」
その男は、答えました。
「『時間を旅する者』というだけです。『明治時代で何をしていたのか』『江戸時代で何をするのか』。その全てが『不確定』です。『時間の中で、浮遊している』というだけです」
その男の言葉は、「時間的に浮遊している者」を示していました。
「…では、あなたを逮捕します」
直也は、その言葉を口にしました。
その言葉は、「確信」を伴っていません。その言葉は、「自動的に出た言葉」に見えました。




