↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界江戸転移小説「怪しい旅人たちと関所代官」  作者: 伝説の男前


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/56

第22話 判断と政治―妻が見つめた代官の立場の価値―

妻の正体を知った後、直也は、その夜、眠ることができなかった。


妻が、この江戸時代に来ているのだ。妻が、内閣総理大臣であるのだ。妻が、「あなたの判断を観察する」ために、この関所に来たのだ。


その事実は、直也の心を完全に揺さぶっていました。


その夜、直也は、妻のもとを訪ねることにしました。


妻は、窓際に座って、月を見つめていました。その姿勢は、これまでの転移者たちと同じだ。だが、その背中には、「政治家としての気概」が感じられました。


「眠れませんか」


直也は、聞きました。


「眠れない。眠りたくない。ここで眠ることは、観察を放棄することになる」


妻は、そう答えました。


「…なぜ、あなたが、この江戸時代に」


直也は、その問いを発しました。


「あなたを見るためです」


妻は、素直に答えました。


「21世紀の日本で、あなたは『何もしない者』でした。40代のニート。何の成果も上げていない。何の貢献もしていない。だが、この江戸時代では、あなたは『判断を下す立場』に立たされた。その立場で、あなたが『何をするのか』。それを知りたかった」


妻の言葉は、深い。その深さは、「妻としての感情」と「政治家としての分析」の両方を含んでいました。


「…あなたは、政治家です」


直也は、その言葉を述べました。


「政治家は『判断を下す者』です。その判断が『正しい』のか『間違っている』のか。その判断により『多くの人間が影響を受ける』のです。…ですが、あなたは『判断を放棄している』」


妻は、続けました。


「あなたは『転移者たちを見守っている』と言っている。だが、その『見守る』ことは『判断を放棄する』ことなのです。その『放棄』により『悪も許している』のです」


妻の指摘は、直也に、深い傷をもたらしました。


「…政治家は『判断を放棄する』ことができません」


妻は、その言葉を続けました。


「政治家は『判断を下す』ことが『義務』です。その『判断』が『正しいのか間違っているのか』は『後の歴史』が証明する。だが、『判断を放棄する』ことは『政治家ではない』ことを意味するのです」


「…では、我は『政治家ではない』のですか」


直也は、その問いを発しました。


「そうです」


妻は、素直に答えました。


「あなたは『政治家』ではなく『見守る者』です。その『見守る者』という立場は『政治的な立場』ではなく『宗教的な立場』に近い。『すべてを受け入れる』『すべてを許す』『すべてを見守る』という立場」


妻は、その言葉を続けました。


「だが、その『見守る者』という立場には『価値』がある」


その時点で、直也は、妻の言葉に注目しました。


「『価値がある』。…どのような価値ですか」


「政治家は『判断を下す』ことで『苦しむ』。なぜなら『その判断により誰かが傷つく』ことを知っているから。だが『見守る者』は『苦しまない』。『判断を放棄している』から」


妻は、その言葉を述べました。


「ですが、あなたが『苦しんでいる』のを見ました。田代義久が来た後、あなたは『苦しんでいた』。『判断を放棄しながら悪を許すことの苦しみ』を感じていた」


妻は、その言葉を続けました。


「その『苦しみ』こそが『重要』なのです。『見守る者』でありながら『苦しむ』ことができる者は『政治家より尊い』」


「…なぜですか」


「なぜなら『完全に判断を放棄した者』は『無責任』です。だが『判断を放棄しながら苦しむ者』は『その苦しみで責任を負っている』。『判断という形式ではなく苦しみという形式で責任を負っている』」


妻の言葉は、深い哲学を含んでいました。


「…では、あなたを逮捕しますか」


直也は、その問いを発しました。


「…いいえ」


妻は、穏やかに答えました。


「あなたを逮捕することは『見守る者としての立場を奪う』ことになる。その『立場』を奪うべきではない。その『立場』には『苦しみを通じた責任』が含まれているから」


その時点で、直也は、気づきました。


妻は、直也の『判断を放棄する立場』を『政治家的判断』よりも『尊い』と評価しているのです。


「…あなたを通します」


直也は、最後に、その言葉を口にしました。


「…わかりました」


妻は、その言葉を受け入れました。


「だが『一つだけ約束してください』」


妻は、その言葉を続けました。


「『苦しんでください』。『判断を放棄しながら苦しむ』というあなたの立場を『忘れないでください』。その『苦しみ』こそが『あなたの責任の形式』なのです」


その日の昼。


妻は、許可証を手に、関所を通った。


その時、妻は、直也に一言だけ言いました。


「あなたの『判断を放棄する立場』は『見守る者の立場』です。その『見守る』ことの中には『苦しみを通じた責任』がある。その『責任』を『忘れないでください』」


直也は、その言葉に、何も返さなかった。ただ、妻の背中を見送った。


妻は、昼間の光の中を、去っていった。その背中は、「政治家から見守る者へと転換した者」の背中のように見えた。


その日の夜。


直也は、関所帳を開いた。


その中に、妻の名前を書くことにしました。「佐藤恵子」。その名前で。


妻という本人の名前を、「佐藤恵子」という別の名前で、江戸時代の記録に残すのだ。


直也は、その夜、月を見つめていました。


江戸時代の月だ。


直也は、その時、気づきました。


自分は、『判断を放棄した者』として、『見守る者』として、この江戸時代に立ち続けているのだ。


その『見守る』ことの中には『苦しみを通じた責任』がある。


その『責任』を、直也は、引き受けることにしました。


『判断を下さないこと』という形式ではなく『苦しむこと』という形式で、その『責任』を、直也は、引き受けることにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。