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猫になっちゃった俺  作者: 高野倉けいし


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2/5

再会と決意

 貧民街まではすぐそこだ。俺は急いで家に向かいたかったけれど、まだ子猫の俺の足取りでは大変だった。犬やカラス、貧民街のたちの悪い子供達に見つからないように、物陰に隠れながらの移動だった。

 やっと見覚えのある家にたどり着いたのは、もう日が暮れようとしていた。


(アリス!)


 俺は建付けの悪い扉の隙間から家の中に入る。

 家の中は静まり返って、薄暗い。

 アリスの姿はない。

 俺が猫に転生するまで、どのくらいの時間が経ったのだろう。

 もしかして、アリスはもうこの家に住んでいないかもしれない。そうなると、もうアリスに会えない。

 途方にくれていると、後ろで扉が開いた。

 振り向くと、そこには、茶色のボサボサな髪、ワンピースに紺色の上着を羽織った痩せた女の子がいた。死に際に見たときと変わらぬ姿のアリスだ。

 俺が流行り病で亡くなってから、そんなに時間は経っていないようだ。


「あっ、猫ちゃんだ」


 扉の内側からつっかえ棒をして鍵をかけると、アリスは俺を抱き上げた。


「可愛い。何処からきたの?」

(アリス!俺だよ!兄ちゃんだよ!)

「にゃーにゃーかわいい子猫ちゃんですねー」


 アリスは俺を抱いたまま、椅子に座って俺を撫でた。


(アリス、1人で大丈夫だったか?)

「お腹すいたの?ご飯食べる?」

(お前1人を残して、俺は心配してたんだ)

「パンもらったから、少しあげるね」


 会話は成立していないが、アリスが元気ならなんでもいいや。

 アリスは上着のポケットからパンを出して、少しちぎって俺にくれた。

 きっと貴重な食料だから俺はいらないと思ったけれど、口の前にパンの欠片をもって来られると、俺は欲望を抑えられずにパンに齧り付いた。


「近所のおばちゃんからもらったんだよ。美味しいね」


 おばちゃんって、母ちゃんが亡くなった時に世話してくれた近所のおばちゃんだろうな、と俺は思った。きっとアリスが1人だから世話焼いてくれてるんだと思った。


「おばちゃんがね、今度お仕事紹介してくれるの」

(うん、うん、おばちゃんに感謝だな)

「娼館ってところで、住み込みで働けるんだよ」

(だめだー!アリス!娼館は駄目だー!)

「なあに?にゃーにゃー言って。もっとパン欲しい?」

(おばちゃんを信じるなー!)


 パンがまた口元に差し出され、俺はパンを食いながら必死に鳴いてアリスに訴えた。



「顔と背中は黒くて、喉からお腹が白いのね。足の先は白い靴下履いてるみたい。絵本に出てくるタキシードを着た王子様みたいでかっこいいね」


アリスが俺の体を撫で回す。


「絵本にでてきた王子様と同じ名前のオリバーにしよう。オリバーこれからよろしくね」

どうやら俺の名前はオリバーになったらしい。


 アリスは俺を抱きしめた。


「あのね、お母さんもお兄ちゃんもいなくなっちゃって、わたし1人で寂しいの。だからこの家に一緒にいてね」


 その後、アリスは内職をして、早めにベッドに入った。俺も一緒のベッドに寝た。





 アリスは日の出と共に起きて、昨日仕上げた内職の造花を入れた籠を持って出かける。


(どこにいくんだ?)


 俺はアリスの後を追った。

 アリスは市場の近くの広場に行くと、行き交う人に造花を売り始めた。


「お花いりませんか?1本100コインです」


 母ちゃんが亡くなってから俺達は、造花の材料を50コインで買って、完成品を100コインで売ろうと話合っていた。実際は材料を買っただけで、俺は流行り病になって実現しなかったけど。

 アリスはその仕事をちゃんと続けていた。

 なんて健気なんだ俺の妹は。


 しかし、1日かけて売れたのは2本だけだった。

 そのお金で買えたのは小さなパン1つ。

 一緒に家まで帰ってきたが、アリスに元気がない。


「お花、あんまり売れなかったね」


 アリスは俺を膝の上に抱いて、頭を撫でる。

 造花が1本売れたとして、50コインの儲け。1日で作れる造花はアリスだけだったら10本が限度だろう。全部売れても500コイン。500コインといったら、安いパンを2~3個買える程度だ。とても生活していけない。

 造花を売って生活しようとすることが、最初から無理な話だったんだ。

 母ちゃんが貯めてた貯金があったが、それで生活するのも長くは続かないだろう。

 アリスも俺も無言でいると、近所のおばちゃんが訪ねてきた。


「アリスちゃん、ご飯食べた?スープ少しだけど持ってきたよ」

「おばちゃん、ありがとう」

「あれ?その猫どうしたの?まさか自分のご飯もろくに食べれないのに飼うつもり?」

「……1人でいると寂しいから、一緒にいるの」

「捨ててきな。猫なんて飼う余裕ないでしょう?あっ、でも娼館に行けば飼えるかもしれないね」

「本当?」

「本当、本当。美味しいご飯も食べれるし、猫も飼えるよきっと。だからアリスちゃんの決心がついたら、おばちゃんに言いな。おばちゃんがお仕事紹介してあげるから……って、なんだいその猫。威嚇してきて、可愛くないね!もうおばちゃんは帰るからね」


 俺がテーブルの上で背を丸めて毛を逆立てているのを見て、おばちゃんは嫌な顔をして帰っていった。

 アリスは木の器に入ったスープを、俺にも分けてくれた。

 スープとパンを食べた後、アリスはポツリと呟く。


「娼館、行ったほうがいいのかな?」

(馬鹿!そんな事言うな!)


 俺はやんのかステップを踏んで、アリスを叱った。


「あはは、変な動きー」


 アリスは俺をぎゅっと抱き寄せた。


「本当は娼館に行きたくないの。前に近所のよく遊んでくれたお姉ちゃんが娼館に連れていかれたことがあって、わたし1人で会いに行ったの。そしたらお姉ちゃんすごく怒って、こんなところに来たらだめって……綺麗なお洋服着て、お化粧してたけど、お姉ちゃん泣いてたの」


 俺は抱きしめられているのでアリスの顔は見えなかったが、声が震えていた。


「でも、1人じゃ生きていけないよぉ」


 俺はアリスの頭に猫の手を回して抱きしめ返した。

 このままではアリスは娼館行きになってしまう。

 お兄ちゃんである俺がなんとかしなければ。俺は猫の手でぐぐっと拳を握った。


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