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東京ファンタジー  作者: 亜空
神奈川焦土編
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深紅の目

 援護射撃は正確に、狙撃は確実に蒼夜の隙を埋めていた。

 前線でカルナの一団と戦う蒼夜は、二刀流を変幻自在に操り追い詰めようとするカルナの剣を避け、確実に斬れる瞬間、反撃に出る。


『蒼夜君、一瞬下がれるかい?』


 無線から届いた來の声。いつもの軽妙さを削ぎ落とした、平坦な響き。

 蒼夜は言われた通り、後方へ身を投げるように身を低くした。

 直後、二十式小銃とは明らかに違う、腹の底まで響く銃声が轟いた。

 蒼夜に斬り掛かろうと跳躍していたカルナの頭が弾け飛び、脳漿が地面を汚した。


「ナイスヘッドショット」


 インカムのボタンを押し、呟く。來が集中を切らさない声でありがとう、と返答した。

 蒼夜は動揺するカルナの一団に再度突撃する。

 前方の残りは目視できる範囲で五体。

 血と踏み荒らされた土で、蒼夜の足元が滑る。


「來さん、斬り合ってる時でも遠慮なく撃って下さい」

『ええ⁉ちょっと自信ないかもッ!』

「大丈夫ですよ。では」

『おおい!ちょ――』


 強制的に通信を切り、蒼夜は迫る刃を避け、軍刀を振るう。

 驚異的な身体能力を見せるカルナは、上半身を後方へ反らして軍刀をかわした。

 振り抜いた軍刀を返し、右足を前に踏み出しながら腹に向けて突きを放つ。

 だが、それを別のカルナが許さなかった。

 上半身を逸らした仲間を飛び越え、別のカルナが蒼夜に斬り掛かる。

 咄嗟に踏み込んだ足が土にめり込むほどの威力で蹴り、後方へ飛びのき、軍刀を防御へまわす。

 キィン、と鋭い音を鳴らし、蒼夜とカルナの刃が交差した。

 深紅の目が蒼夜を深く見る。フードの奥から爛れた皮膚と崩れつつある唇から牙が覗く。


「ソウヤ。我々と来い。我らの主と肩を並べ、人類を滅ぼそう」

「は?」


 カルナはニヤリと嗤い、蒼夜の軍刀を押し込むように力を入れる。


「我々魔族はこれより、人類を滅ぼす。だが、お主の剣は得難い才能だ。死なすには惜しい」

「……くっ」


 激しい剣劇ではなく、地力の差が出始める。

 泥のようにぬかるんだ足元が後ろへ滑り始める。


「魔王を二柱も退けたお主は我が軍門に下る価値がある」


 耳障りな声だ。蒼夜は顔を顰め、軍刀を握る手に力を入れる。


「俺単体で勝った訳じゃない……」

「一騎打ちでクシフォスを討ち破ったと聞いているぞ」

「……っ」


 顔が赤くなるほど力むが、押し返すどころかじりじりと刃が首元へ迫ってくる。

 力押しでは分が悪いと判断した蒼夜は重心を横にずらし、カルナの剣を横にいなした。


「剣の腕はやはり一級品だな」

「うるせ」


 蒼夜は軍刀を鞘に納め、音もなく腰を落とす。その目はカルナの深紅の目から離さず、殺意と魔力をまき散らす。


「魔王を破った技、か?」

「お前を斬る技だ」

「……ほう」


 ――紫石術式「影虎」――。


 闇色の魔力が蒼夜の影となりカルナの一団を動揺させる。

 魔力操作の精度を上げ、今までよりも精巧な分身体となった魔力の影。

 影と本体の高速移動で攪乱し、蒼夜の姿を見失わせた。


「恐ろしい技よ……、だが」


 最も近くにいるカルナは二振りの剣を体の後ろに持って行き、勢いを付けて旋風のように全身を回転させながら無造作に斬撃を連続的に放った。

 影は何も持たないただの魔力。風のような斬撃の嵐に為す術なく消えて行く。

 甲高い金属音を響かせ、蒼夜がカルナの剣を受けた頃には全ての影が消滅していた。


「おもしろい技だが、我の首を取るには足りないぞソウヤ」


 魔力を持たないカルナは魔力の影に惑わされず、ただ淡々と驚異的な身体能力で蒼夜の技を封殺した。

 

「純粋な剣だけが我らを殺せるぞ、ソウヤ」

「そうかよ」


 交わる鋼越しに見える深紅の目は蒼夜を直視し、その背後にいる仲間の銃声を完全に無視していた。

 

「俺だけで勝つつもりはない」

「ほう?」


 前方の敵は残り五体。後方に視線を向けると陸と東堂で効率的に倒して残り六体。

 全身に纏った魔力が、蒼夜の周囲を竜巻のように風を切り激しく渦巻く。

 前方のカルナ達は腰を落とし、双剣を構え蒼夜の攻撃に備えている。

 短く背後の仲間達に目配せをする。


「自分の動きを読んで撃ちまくって下さい」

 

 完全なる信頼。

 蒼夜の背後にいる小隊のメンバーはニヤリと笑い小銃を構えた。

 蒼夜は纏う魔力をそのままに、カルナ達の群れの中に斬り込んで行った。

 紫石の輝きが闇の中で蒼夜の位置を知らせる。

 蒼夜が動く隙を作る度にその隙間を埋める援護射撃が、カルナを襲う。


『蒼夜!玲と一馬を援護に送る!斬るなよ!』

「了解です」


 東堂の声がインカム越しに届いた。前線に援軍だ。陸は最後尾でカルナと戦っている今、中衛組の玲と一馬が派遣された。

 

「蒼夜君!足止めと牽制は任せて!」


 玲は練った魔力を氷に変化させ、地面に這わせる。カルナ達の足場を埋める。そこに一馬の重力操作の魔法が放たれた。


「グっ、足が――」


 足を滑らせ、重力で通常の重力よりも強い重力で押しつぶされるカルナ達。

 この好機を逃さず、蒼夜は右手を前に出した。


 ――紫石法術「千刃乱舞」――。


 一度に大量の魔力を消費する魔法。

 魔力の塊がカルナ達の上で徐々に五振りの剣を形作る。

 月光を反射し、切っ先が地面に伏すカルナ達へ向く。

 カルナ達の深紅の目が人一人分の高さに現れた剣へ向く。蒼夜は小さく呟く。


「終わりだ」


 そして、五本の剣は煌めき、カルナ達の心臓を突き破った。

 カルナの最期の悲鳴が山の間を駆け巡る。

 蒼夜と玲と一馬はわずかな間に視線を交わし緊張をほぐした。


「ナイスアシストです。二人とも」

「さすがだね、柊三等陸曹殿」


 玲は冗談ぽく、からかうように言った。


「蒼夜さん!魔力大丈夫ですか⁉」


 創生の魔術でもある千刃乱舞は具現化するモノと量で消費魔力が変化する。一馬はそれを心配して聞いた。


「問題ありません。二人のお陰で、最小限の魔力消費で倒せました」


 そう答えながら視線を後方の陸へ向けた。最前線を一人で張り、中衛に志信と東堂がいた。

 敵の残りは六人。千刃乱舞で倒すには魔力が足りない。

 

「行きましょう。後ろも殲滅して、民間人の捜索に戻らないと」


 二人は頷き、蒼夜に続いた。後衛を務める、美月達の横を走り抜け、一瞬、焔と目が合う。


「あ、蒼夜さん……」


 焔が何か声を掛けて来たが、構う余裕はない。

 蒼夜達が走り去った後、焔の髪が追い風で揺れる。


「どうやってそんなに強く……?」


 焔の問いは蒼夜には届かなかった。今も恐怖に押し潰されそうな状況で何でみんなは戦えるのか。

 蒼夜は陸が戦うカルナ達の位置を右目で把握し、軍刀を抜く。

 闇夜で醜いがカルナの紅い目が良い目印だった。


「蒼夜!前は片付いたか⁉」

「陸さん、まだ終わってないんですか?」


 軍刀を交えていたカルナから一度退いた陸がこちらを見ずに声を投げて来た。


「はは!うるせーよ!行くぜ!」

「はい」


 前衛を務める蒼夜、陸、東堂、そしてその一歩後ろに玲、一馬、凛花、志信が待機。そのさらに後ろで後衛組が援護の瞬間を待っている。

 先に動いたのは一体のカルナだった。

 個の強さを是とするカルナには集団戦で挑む。


「蒼夜、そろそろ集団戦の指揮は取れそうか?」

「東堂さん。まだ無理です」


 三曹に上がってから東堂から指揮の心得と座学を学んでいるが、実戦で使えそうにない。ましてはカルナ相手に。


「じゃあ、俺の指揮で。とりあえず蒼夜と陸で対応!残りは分断を図れ!」


 東堂の指示が飛ぶ。一歩踏み込んで来たカルナに蒼夜と陸は息を合わせて接近し、挟み込む。

 カルナは悠々と二振りの剣を蒼夜と陸に向けた。


「東のニンゲンの最高戦力か……。」


 そう呟き、後方に控えるカルナへ魔族の言葉で叫んだ。

 その叫びに後方のカルナ達が反応し、全員が闇夜に音もなく消えていった。


「戦果報告か?」


 蒼夜は腰を低くし、切っ先をカルナに向け聞いた。


「誰も殺せていないのに戦果も無いだろう?情報を持ち帰るだけだ」

「お前は退かないのか?」

「我は良い。お前達を殲滅出来なかった時点で我の魔族軍での立場は終わった」

「最期の足掻きか」


 カルナは嗤い言った。


「剣士の矜持だ」


 蒼夜と陸は同時に動き、斬り掛かった。

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