写真
無事スマホを入手した蒼夜達は車を少し走らせ稲毛海浜公園へ来ていた。
駐車場から少し歩き砂浜へ出ると真っ白な砂浜と太陽が四人を出迎えた。
「あちぃ」
「太陽がまぶしい…」
陸は手で顔を扇ぎ、美月は手を目の上に持って行き小さな日陰を作っている。
だが、蒼夜は無心でカメラを向け、海の写真を撮り色々な設定を試していた。
「いい写真撮れてるか?」
「はい、とても良いです」
「そりゃ良かった」
陸はいつもより少し楽しそうな蒼夜を見て少し微笑んでいる。
「せっかくだし四人で撮ろうぜ。蒼夜のスマホで」
「はい」
蒼夜を中心に陸、美月、凛花が集まりシャッターを切る。
海を背景に相変わらず無表情の蒼夜、そして笑顔の陸と美月、緩く微笑む凛花。
蒼夜はその写真をしばらく見ていた。
「それグループに送って欲しいな!」
美月が新調したスマホを片手に言った。蒼夜はライムを開き、先ほど招待されたグループの欄をタップする。慣れない手付きで写真を送信した。
すぐに既読が付く。
スマホデビューおめでとう、やいい写真!など小隊メンバーから返信が来る。
「次は小隊全員で写真を撮ろうね!」
「はい」
美月が笑顔で言う。この瞬間を撮りたいと思ったが突然撮ったら驚きそうだ。
四人は言葉もなく、自然と波打ち際を歩き始める。
海水浴は禁止のようだが、少しでも夏を感じたい市民が多く訪れている。家族連れやカップルらしき男女。友人同士で来ているグループもいる。
「せっかくなら簡易テントでも持ってくれば良かったですね」
「確かに。日陰が欲しいっす」
凛花の言葉に陸が同意する。周囲を見渡すと木陰の奥に食べ物を売るトラックが数台停まっているのが見えた。
「何か食べますか?私が奢りますよ」
「え、姉御の奢り⁉」
「良いんですか⁉レンタカーも借りて貰ってるのに」
「大人ですからね。階級が高い分お給料も多く……、ああ、でも柊三曹も変わりませんでしたね……」
「お前は自分で買えだってさ!」
大人の余裕を見せようと凛花が言うが、途中で蒼夜と階級が同じであることを思い出し、少し言葉に詰まる。
それを陸がおちょくるように言った。
「自分は空腹ではないので大丈夫です」
「いいか蒼夜、こういう時は思い出に何かを一緒に食べる方が良いんだよ。空腹じゃなくても満腹でもないんだろう?」
「そういうものですか」
「そういうもんだ」
来た道を少し戻り、蒼夜たちはキッチンカーの前に来た。フランクフルトや、かき氷が売られている。
「どれにしますか。今回は特別に柊三曹にも奢りましょう」
「私はかき氷かな」
「俺も!暑すぎる!」
美月と陸は速攻でかき氷を選んだ。蒼夜は看板に書かれたメニュー表をじっくり見る。知らない食べ物も多い。
「かき氷ってなんですか?」
「んー」
美月が驚くのを通り越して、あきれ顔で頭を抱える。
「氷を細かく砕いて、上からシロップをかけたものだよ。こういう暑い日に食べたら最高なの!」
「ではそれで」
「相変わらずの即決……」
「では、全員かき氷ですね。すぐに買いましょう」
凛花が財布を片手にキッチンカーの前へ向かう。店員がこちらを見て愛想良く微笑んだ。
「いらっしゃい!どれにしますか?」
「かき氷を四つお願いします」
「味はどれにされますか?」
「私はイチゴにしようかしら」
「俺はメロン!」
「柊三曹は?」
凛花に問われて再度メニュー表を見る。味がよく分からない蒼夜は、誰も頼んでいないハワイアンブルーを選んだ。
それを店員に告げた凛花は最後に、私はミルク味でと付け加えた。
数分も経たずに四人はかき氷を受け取り、近くの木製の椅子に座った。同じく木製のテーブルにかき氷を置く。
蒼夜は何気なくカメラを起動し、三人が入る場所でシャッターを切った。
うん、よく撮れている。
「うーーん!頭にキィィンって来るッ!」
「冷たくてうめぇ!」
陸に教わった通りスマホで検索すると、かき氷は夏の風物詩らしい。
ストローの先を切り開いてスプーンのようになっている部分で氷を掬う。口に運ぶと冷たさが口腔内に広がる。相変わらず味は分からないが。
「美味いか?」
陸に問われ蒼夜は即答した。
「冷たいです」
どっと笑いが起こる。そりゃそうだ、かき氷だもんね、と陸と美月が声を出して笑う。その笑顔を蒼夜はカメラに捉えシャッターを押した。
だが、凛花はその答えに違和感を覚えた。確かに蒼夜は常識がないが、言葉のキャッチボールは比較的出来る方だ。それなのに「冷たい」、としか答えていない。
四人は話しながらかき氷を最後まで食べ進めた。主に陸と美月だが。
蒼夜は二人の会話を聞き、話を振られたら端的に答える。
話題は先日あった紫石感応度検査の結果になった。
「そういや、俺紫石感応度がちょっと上がったんだよ。二十六パーセントから二十九パーセントに!」
「さすがね。紫石に亀裂が入るほど無茶したからかしら?」
「そうなんかな。紫石ってよくわからねーな」
本来地球になかった鉱物。なぜそれを身につけると魔力が使えるのか、未だに謎が多い。
「蒼夜君はどうだったの?」
「自分は三十七パーセントになっていました」
「さ、三十七⁉」
陸が驚きの声を上げる。
「初めて聞く数値だぜ」
「創生の魔術と言い、柊三曹にはいつも驚かされます」
「他にも何か必殺技でも隠してるんじゃねーの?」
「剣の技はありますけど魔法はもうないです」
「そっちはあるんかい」
陸は両手を軽く上げて降参とでも言いたげな仕草をする。
「美月の検査結果はどうだったのですか?」
「私も十八パーセントから二十パーセントに上がっていました」
「皆成長してますね」
「凛花さんはどうだったんですか?」
「私は変わらず二十二パーセントですね」
やはり成人するともう上がらないのだろうか。蒼夜は昔のことを思い出していた。激戦を重ねるうちに紫石感応度が上昇していき、気付けば一般兵の上位の数値まで上がっていた。
「魔力を使えば使うほど、増えるのかもしれませんね。筋肉みたいに」
蒼夜の呟きに一同は笑った。
「はっは!魔力は筋肉か!」
「脳筋……」
「あながち間違っていないかもですね」
ひと笑いが終わり、帰る前にもう一度海に行こうとなった。
「暑いから海が心地良いわ」
「それな」
足だけ海に入り、四人は涼んでいる。
「レンタカーなのであまり汚れないようにしてくださいね」
凛花の一言で水の掛け合いは回避された結果だ。
蒼夜は少し離れた所で座りそれを眺めていた。
出発時よりも日差しが強まり、それに伴って砂浜から人が減っている。
視界に映るのは三人だけだった。
美月が海水の中を見ながらふらふらと右へ移動している。
何かを追いかけているのか、それとも適当に歩いているのか。
昨日とは違い、麦わら帽子と白いワンピースが太陽光を余すことなく反射している。
蒼夜は無意識にその姿をスマホの画面に捉える。
「綺麗だな……」
シャッターを押した。
蒼夜は撮った写真を確認する。そこには、夏の日差しの中で海を眺める美月の姿が映っていた。
直後、ライムが通知音を鳴らす。イチナナのグループチャットに東堂からのメッセージが来ていた。
『緊急招集だ。二時間以内に立川基地へ帰投せよ』
――数分後、四人は急ぎ車に乗り、ラジオをつけて立川基地に向かっていた。
「まじかよ……」
陸がスマホのニュースページを見ながら唖然と呟き皆に見えるようにこちらに画面を向けた。
そこには緊急ニュースとして掲載されたページが表示されていた。
『神奈川の重要拠点、座間基地陥落』
「南方戦線が陥落した……」
さらにその続きが目に入る。
『炎を操る特異的な魔族、アルグスを観測』
新たな魔王が出現したのだった。




