↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京ファンタジー  作者: 亜空
川越奪還編
PR
33/69

大人と子供

 魔族の黒い血と死体が転がり、血の匂いが漂う場所に蒼夜は立っている。その隣では、陸と一馬が抜き身の軍刀を構え、周囲をピリついた表情で警戒していた。


「目に入る魔族は全滅させたが、どうだ?魔力探知に反応はあるか?」

「いえ、ここ一帯の魔族は掃討されたと思います。北側も完了しているようです」

「そうか。ってことはクシフォスはまだ来ないのか」


 蒼夜の返答に陸は安堵し、軍刀を腰の鞘に納める。

 

『お疲れ様です。魔力反応が消えました。横沼の掃討は完了です』


 インカムを通して凛花の声が聞こえる。撤退するドロヴァ達を追いかけ先行していた蒼夜達は、後ろを振り返る。手を振って来る美月達後衛組が見える。


「戻るか」

「はい」


 蒼夜も軍刀を納刀し、後衛組が待つポイントまで歩き始める。


「にしても特に何もない戦闘だったな。ミノスもいないし、ドロヴァだけの編成なんて味気ねーよ」

「そうっすねー、拍子抜けというかもっと大軍が待ち受けているのかと思ってましたよ」

「分散されていた魔族の斥候を掃討するだけの作戦ですから」


 蒼夜の達観した意見に陸と一馬はそれもそうか、と納得した。


「この後は一週間くらい工兵の護衛か」

「基地の修復ってそんな早く出来るもんなんっすか?」

「インフラは後回しで外壁とか防衛設備を先にやって、侵攻軍が撤退して駐屯兵だけになってからインフラ周りを完成させるんだと」

「そうなんすね~。じゃあ一週間したら帰れるっすね!」

「クシフォスが来なければな」


 陸の言葉に一馬は押し黙る。来ない訳ない、そう思う兵士はいないだろう。

 三人は小隊と合流し、川越前線基地に帰投した。

 すでに工兵が到着しており、修復作業が始まっていた。


「護衛任務は、哨戒、休息の三交代制で行うらしい。俺達第十四遊撃旅団は一旦休みだ。基地の外には出ないように。以上!」


 東堂の言葉で一同は自由に行動し始める。

 蒼夜は基地内の一角で背嚢から内地で買った砥石を取り出し、水につけ己の愛刀を研ぎ始める。

 刃に映る自分の顔に気付く。表情筋が死んでいると來から評されるのも納得の顔だ。

 思い出が蘇る。蒼夜で居るのは、かつて焚火を囲い、仲間達から十七歳の誕生日を祝ってもらった場所だ。ケーキもプレゼントも無かったが、それでも嬉しかった。

 その時の仲間は皆、墓の中だ。遺体回収すら出来なかった者もいる。

 丁寧に愛刀を研ぎ新品の布で拭き上げると、耳にほのかの叫び声が聞こえてきた。


「だから!あっち行って下さい!」

「上官に向かってなんだその口の利き方は!あまり調子に乗るなよ!」


 目を向けるとほのかの他にも美月、楓、玲がいる。

 彼女らを囲むように数人の男性兵士が立っている。絡まれているようだ。


「クラトシアを倒したと言え、お前らはガキだろ!それにあの魔王殺しの剣士だっけ?ここでアルグス相手に逃げた卑怯者なのは間違っていないだろ!」

「蒼夜君は卑怯者じゃありません!取り消して下さい!」


 どうやら蒼夜の名誉のために絡まれたようだ。何て呼ばれても気にしないが、第三者の介入が必要そうだ。周りを見渡すが他の小隊の面々は見付からない。

 蒼夜は立ち上がり、腰に軍刀を携えて近付く。

 美月が歩いて来る蒼夜に気付き視線を向ける。美月の視線を追った男達が蒼夜を視界に入れた。


「何だお前は」


 そう言った男の階級章は三曹だった。怒りに満ちた目は気迫があるが、蒼夜を怖がらせるには不足していた。


「柊蒼夜三等陸曹です。うちの小隊の隊員が何か?」

「お、お前が……。いや、こいつらが急に発言を取り消せと、詰め寄って来たんだ」


 名乗った蒼夜に一瞬、気圧された三曹の男とその部下達だったが、気を取り直して標的を蒼夜に切り替える。


「ガキがあまり調子に乗るなよ。東京防衛軍最強の部隊は俺達、第一師団所属、特務中隊だ!」


 特務中隊。陸海空どこからでも潜入し、情報を持ち帰る、偵察大隊の中心部隊だ。

 なるほど、確かに精強な部隊に所属しているだけあって、頑強な腕と厚い胸板をしている。眼光は鋭く、戦地では頼りになるだろう。

 彼らに並ぶ美月達は確かに小柄で頼りなく映るが、蒼夜にとってはそんなこと、どうでも良かった。


「ガキどもしか所属していない部隊など、本作戦には不要だ」


 三曹の言葉に部下達がそうだ、そうだ、と賛同する。美月達が顔をしかめ何かを言おうとする。

 蒼夜は一つため息を尽き、言葉を並べる。


「軍は実績が全てです。プライドだけではすぐに戦死しますよ。それに今回の作戦の部隊招集は宮内陸将によるものと聞いています。上官の判断に疑いを持つのですか?」


 蒼夜の言葉に徐々に顔を赤くする男は、腰を落とし腰から突き出ている柄に手を掛ける。

 周囲からは他部隊の固唾を飲む雰囲気を感じる。


「ガキが……ッ!調子に乗りやがってッ」


 蒼夜も柄に手をかけるか迷っていたその時、横から凛とした女性の声が響く。


「やめろ。みっともないぞお前達。大の大人が子供たちを虐めるなど。それでも軍人か!」


 声の主を見ると、そこには黒髪をポニーテールにまとめ、その長身を戦闘服に包む妙齢の女性が仁王立ちで立っていた。凛花より年上だろうか。

 男達は驚愕し、すぐさま背筋を伸ばし敬礼する。


「矢野二尉!」


 矢野、と言うらしい。


「去れ。私はこの少年達に用事がある」

「はっ!失礼致します!」


 男達は口惜しそうにしながらその場を後にする。安堵の声を漏らす美月達を横目に蒼夜は上官である矢野に感謝の意を込め敬礼を送る。

 矢野は返礼し、腕を下して蒼夜達に近づく。


「君たちが噂の第十七特殊近接小隊、通称イチナナか」


 矢野は蒼夜と横に並ぶ美月達へ順々に視線を向け頷く。


「いい顔じゃないか。私はお前達と同じ第十四遊撃旅団の第四中隊、中隊長の矢野鳴子《やの なるこ》だ。よろしく」

「雷葬の魔女……」


 美月の呟きで蒼夜は思い出した。掃討作戦でインカムに流れた来た声の主は彼女なのか、と。


「柊蒼夜三等陸曹です。この度は場を収めて頂きありがとうございます」

「いや、良いんだ。用事があったのは事実だしな」

「用事、ですか?」

「何そんな大層なものじゃない。東堂の居場所を聞こうと思ってな。知っているか?」


 蒼夜は分からないため美月達の方を見る。

 玲は知っていたようで手を上げた。


「はい!東堂さんなら今、北川二佐と話すために旅団本部の天幕にいます」

「何と!入れ違いだったか。仕方ない、戻るとしよう」


 矢野は踵を返し手を振る。


「期待しているよ、若き兵士達と新しいエースに」


 ――矢野鳴子は蒼夜達と分かれ、旅団本部がある天幕に向かった。東堂と話すためだ。

 天幕の垂れ幕を勢い良く開ける。そこでは各中隊長達がタバコを吸いながら地図を囲んで話していた。

 小隊長の東堂が呼ばれたのは、イチナナ小隊が中隊並みの戦闘力を有し扱い方が他の中隊と変わらないからだ。


「矢野も来たか」

「ああ、お前のところの隊員が特務と喧嘩していたぞ」


 東堂が矢野に声をかけ、矢野が先程の一幕を語る。

 頭を抱える東堂だったが、小田が笑い飛ばす。


「元気があって良いじゃねーか!ますます気に入ったぜ」

「まあ、どうやらこっちから吹っ掛けた喧嘩じゃなさそうだし、お咎めなしかな」

「そうしてやれよ!」


 東堂と小田は旧知の仲で階級をあまり気にせず喋る。矢野はそんな東堂に視線を向ける。


「柊蒼夜。中々いい目してるじゃないか。四中の奴らも褒めてたぞ。戦場では頼りになるって」

「そうなのか。雷葬の魔女に褒められて、うちの魔王殺しの剣士も喜んでるよ。多分」


 東堂は語尾だけ小さく付け足す。蒼夜はあまり周囲からの評価で一喜一憂するタイプではないからな、と。

 

「やめろよ、その二つ名。もう少し可愛い二つ名を付けて欲しいものだ」


 矢野は少し拗ねるように言う。だが、すぐ表情を硬め、本題に移る。


「川越レポートを読んだ。二個連隊をものの数分で滅ぼしたアルグス。今回も地獄になりそうだな」


 そこに北川が割って入る。


「それについて話していた。先の防衛戦でアルグスの行動は蒼夜を討つことに軸が置かれていた。報告によればクラトシアは柊三曹の存在を知っていたことからアルグス同士で共有が行われていたことは明白だ」


 その場の全員が北川の言葉に耳を傾ける。


「今回も柊三曹を廻る戦いになるだろう。前回は余力がなかったが、今回は備えたい」


 かつての上官の言葉を思い出すように言う。


「若い兵士を死なせないために、俺達大人が盾になるぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。