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東京ファンタジー  作者: 亜空
立川防衛編
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26/32

激震と処遇

「番組の途中ですが、防衛省より立川防衛戦に関する極めて重大な公式発表が入りました」


 東京保護区全域に配信されている朝のニュース。原稿を読み上げるアナウンサーの声は歓喜でわずかに震えていた。

 

「かねてより激戦が伝えられていた立川防衛戦ですが、先ほど、魔王クラトシアの討伐が正式に確認されました。これにより侵攻して来た魔族軍は敗走、我が方の勝利となりました。防衛省の発表によりますと、現地で防衛線の盾となり壮絶な戦死を遂げた連隊長である桧垣宗太郎一等陸佐の遺志を継ぎ、第14陸戦連隊所属の少年兵たちが死力を尽くし激戦の末、同連隊の柊蒼夜ひいらぎそうや陸士長が魔王クラトシアに決定打を与え、討ち取ったということです。防衛省はこの歴史的な偉業に対し、前線で刃を振るった柊士長の一階級昇進を即座に決定。本日付で『三等陸曹』へと任ずる措置を発表しました。17歳での下士官登用は異例中の異例となります」


 しかし、続く原稿に目を落とし、語気を弱める。

 

「――しかし、人類が手にしたこの大金星の代償は、あまりにも、あまりにも甚大です。たった今公表された三日間に及ぶ戦闘での総戦死者数は、他部隊を含め実に6000名以上。主力を担った第14陸戦連隊にいたっては、所属する6000名のうち4500名が戦死、生存者はわずか1500名ほどという、壊滅的な損害を受けていることが判明しました。誰もが絶望したその地獄で、少年兵たちが未来を繋ぎ止めました。保護区内は湧いていますが、現地に立ち込める硝煙と、あまりにも多すぎる失われた命の重さは、計り知れません……」


 そう締めくくりしばしの黙祷が行われた。


 ――立川基地。激戦の跡が残るこの場所で蒼夜達は朝から屍のように眠り込んでいた。


「全く起きんな彼らは」

「仕方ありませんよ、激戦でしたから。今日くらいは見逃してやって下さいよ北川二佐」


 蒼夜達が寝ている天幕の外で、東堂と北川二佐は瓦礫の上に座り缶詰を開けていた。


「これからこの連隊はどうなるんですかね」

「渡辺陸将からは欠員の補充を急ぐ、とだけ聞いている。補充までの間はまあ、休暇になるだろうな」

「それはありがたいですね。あいつら喜んで遊びに行きますよ」

「実家にも顔を出すよう言っておけ」


 東堂は北川への返答に少し時間を置いた。


「ご存知かと思いますが、半分は戦争孤児で家族はいません。それに蒼夜辺りは休暇なんていらない。戦地に送れとか言い出しそうです」

「ははっ。ああ、そう言えば柊士長、おっと柊三曹についてだが、命令違反の罰はどうしたものか」

「あはは、お手柔らかにお願いしますよ。一応、今回の戦闘の立役者ですから」

「分かっているよ。形式上の話さ」


 そう言って北川は空を見上げる。


「まさか桧垣さんが柊にあんなことをおっしゃっていたとはな」

「仲間のために限界を超えろ、ですか。蒼夜はまさしく限界を超えて戦いましたよ」

「ああ、だからこそ今後は、俺達があの子たちを守らなければ。おそらく政治屋どもが動くぞ」

「ですよね。渡辺陸将辺りが対応してくるとありがたいのですがね」

「まあ、なるようになるさ」


 高く上った太陽が瓦礫だらけの基地を照らしていた。


 ――夢だ。最初から分かっていたが、やけにリアルだった。

 陸がいて、來がいて、他の小隊の全員が集まって笑っている。

 蒼夜自身も輪に入ろうとしたとき、視界の隅に桧垣一佐が映る。


「桧垣一佐」

「柊士長、よくやったな」

「ありがとうございます。その、なんとか生き残りました」

「ああ、それに限界を超えたな。見事な一撃だった」


 桧垣の手が蒼夜の頭を撫でる。とても暖かく心地よい。


「さあ、仲間の所に戻りなさい。皆、待っているよ」


 その言葉を最後に意識が現実世界に戻った。

 目覚めるともう夕方だった。天幕の隙間から朱い日差しが内側を照らしている。周囲を見渡すと小隊の面々が死屍累々といった具合に寝ている。

 数人は包帯でぐるぐる巻きになっていて、誰か判別は付かないが全員五体満足で生き残った。

 上体を起こそうとすると脇腹に痛みが走る。

 そう言えば負傷していたな、と今になって思い出す。

 何とか踏ん張り起き上がる。腹の虫が鳴き止まないため、食料を貰いに行かなければ。ついでに小隊のメンバー分も貰っておこう。そんなことを考えながら天幕を出る。

 出ると無残な姿の基地が広がる。瓦礫の山と遠くでは夥しい数の遺体袋が並ぶ。

 行き交う兵士たちの目は誇りと、そして悲しみで溢れていた。

 一体、何名の兵士が死んだのだろう。少し憂鬱な気分になりながら保管場所になっている天幕へ足を進める。


「お、蒼夜じゃん」


 天幕には小田一尉がタバコをふかしながらパイプ椅子に座りテレビを観ていた。

 画面には魔王討伐!最大功労者の少年兵に迫る!とテロップが流れている。


「一躍有名人だな!」

「はあ」


 上官に対して気の抜けた返事をしてしまったと思い、謝罪をする。


「あ、いえ。すみません」

「何を謝ってんだ?あ、そこに飯あるから食べて良いぞ」

 

 小田が指差す方を見ると段ボールに戦闘糧食が詰まっていた。口腔内に唾が溢れる。


「ここ使っていいぞ」


 ここで食べて良いということだろうか。正直助かる。


「ありがとうございます」

「おう」


 戦闘糧食、略してパック飯を一つ掴みテーブルの上に置く。

 豚カルビか。正直味覚が弱っている蒼夜には何でも良かった。

 パックを開け大口で一口食べる。

 腹の虫はまだ収まらない。もう一口。さらに一口。


「良く食うな。まあ無理もねーか」


 口をもぐもぐ動かしながら小田に視線を向ける。

 

「ああ、ゆっくり食って良いぞ」

「ふぁい」


 ご飯でいっぱいの口を、無理やり動かし返事をしたせいで変な声が出てしまった。口の中の物を急いで飲み込み話を振る。


「東雲一尉はどうですか?」

「ああ、あいつならケロっとした顔で飯食って寝たぞ。趣味の釣りが出来なくなって嘆いていたけど」

「そうですか」

 

 無事を聞いて少し安心する。

 再び静寂。何か話題は無いだろうか。


「そう言えば相沢陸さんの師匠と窺っているのですが」

「ああ、陸?まあ師匠っていうか剣をサラッと教えただけだ。あいつ中々いい筋してるんだよな」


 改めて小田を観察する。程良い日焼け具合とキツ目の目元。ほんのり白髪が混じる頭。歳の頃は三十代半ばだろうか。


「陸さんは刺突は早すぎてたまに見えませんもんね」

「だろ?あいつ俺の技見ただけで盗んでいくから、見せがいがあるんだよ」


 そして、教育に熱心なのかもしれない。


「お前も鍛えてやろうか?って魔王討伐の張本人に教えることなんてないか」

「いえ、そんなことは」


 実際、隣で小田の太刀筋を見ていた蒼夜は聞きたいことがあった。


「小田一尉。極限まで集中した時、視界がモノクロになることありますか?」

「あ?まあ、そういわれるとあったかもな。俺の場合は、こいつぜってぇ殺すって思った時とかだな」


 小田一尉のトリガーは殺意なのだろうか、蒼夜は思考を巡らす。


「ただ、その状態に長くいると死ぬぞ」


 小田はタバコの先端で蒼夜を指す。


「俺の元上官はとんでもない化けモンだったが、ある日の戦闘で、突然血を吐いて戦死した。まあそれが原因かはわかんねーが、リスクはあるって考えた方がいいな」

「そう、ですか」

「お前はクラトシアとの戦闘でその領域に入ったって訳か」

「はい。そうじゃなきゃとっくに死んでました」

「正直俺はその状態になってもクラトシア相手に生き残れる気がしねぇな」


 それはどうだろうか。小田一尉ならケロっと生還しそうだ。


「でもお前は勝って生きて帰ってきた。桧垣一佐の仇討ってくれてありがとな」


 そう言った小田の目は感謝と優しさが浮かんでいた。


 ――連隊本部の天幕を出て両手いっぱいの食料を持って小隊の元のへ戻るとすでに全員起きていた。


「柊三等陸曹殿へ、敬礼!」


 天幕に入ると陸の号令で東堂を除く全員が敬礼をしていた。


「へ?」


 なんとも間抜けな声だ。目の前の全員がニヤニヤ笑っている。


「本日付けで柊蒼夜を三等陸曹に任命する。これは東京防衛軍統合幕僚長からの辞令だ。この連隊に着任して一カ月で三曹とはスピード昇進だな」


 東堂が腕を組みながら頷き言う。まるで我が子の成長を見守るような素振りだ。


「階級が並ばれてしまった……」


 横では凛花が肩を落として呟く。凛花もまた、東京防衛陸軍の三等陸曹なのだ。


「まあまあ、同等の階級の場合、部隊着任順が指揮権の譲渡順ですから」


 美月が凛花の背中を摩りながら励ましの言葉をかける。

 陸や來など小隊の面々から祝いの言葉を受け取り、蒼夜は手に持った段ボールを開ける。


「ありがとうございます。これ飯です。豚カルビでしたよ」


 うおーありがとう、など歓声が上がり全員がパック飯を受け取りむさぼるように食べ始める。

 先ほど小田が見ていた蒼夜もこんな感じだったのか、と口いっぱいに飯を掻き込む仲間を眺める。

 本当に全員無事だ、その事実を噛みしめる。


「そういや、蒼夜。北川二佐が呼んでたぞ。多分命令違反の件だな」


 東堂が短時間で飯を食べ口元を拭きながら言った。

 そう言えば凛花が言っていたことを思い出す。クラトシアを倒せば不問とかなんとか。


「昇進もしたんだしそんな厳しい罰はないさ。俺も一緒に行くよ」

「あ、俺も行きます!」


 東堂が気休めを言い、陸も同行を表明する。


「一緒に怒られに行こうぜ」

「はい」


 東堂に連れられて蒼夜と陸は北川がいる連隊本部の天幕へ向かった。


 ――結論から言えば蒼夜を始め第17特殊近接小隊全員に罰が与えられた。


「まったくお前って奴は。おい聞いているのか」

「聞いております。申し訳ありません」

「謝罪より行動で示せ。今後同じように独断専行をしたらまた士長に戻すからな。次からちゃんと聞け」

「はい。努力します」

「努力じゃなくて……。頼むぞ本当に」


 北川の説教は五分ほど続き、処遇が言い渡された。


「渡辺陸将からの処遇はこうだ。慰労費を使い切るまで無期限の休暇。ちなみに慰労費は一人当たり五万だ。少なくて悪いが軍も予算不足でな」


 一人当たり五万ということは部隊全体で六十万円。それなりに無理して捻出してくれたのだろう。


「ってことで明日からお前ら第17特殊近接小隊《イチナナ小》は全員基地から追放だ。帰隊するときに一円でも財布に入ってたらもう一回追放だからな」


 久しぶりの内地への帰還が決定した瞬間だった。

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