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東京ファンタジー  作者: 亜空
立川防衛編
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22/32

二分で。

 戦場は熱を帯びていた。血と炎の赤が満ちるその真ん中で蒼夜は軍刀を振るう。


「蒼夜!まだ体力大丈夫か⁉」

「自分はまだ戦えます!東堂さんは大丈夫ですか?」

「ああ!まだ若い奴らには負けねーよ!」


 援軍が来てから六分ほど経っただろうか。

 あの装甲列車から補給物資を受け取った後衛組と合流し第17特殊近接小隊総出で小田一尉とフィゴが戦う周りのドロヴァの掃討を続けている。


「援軍の展開も八割ほど完了しています。それと警備小隊の東雲一尉も数分で現着予定です」

「報告ありがとう凛ちゃん!」

「……今は一旦いいでしょう」


 凛花の報告に東堂がいつもの口調で返す。

 報告の通り援軍の影がちらほら近づいて来ている。


「蒼夜!新手が来てるぞ」


 陸が指差す方へ視線を向ける。ドロヴァの一団が押し寄せて来ている。

 小田を振り返るとフィゴと斬り合っているが、フィゴの勢いが削がれている。小隊から数人出して決着を着ける方が良いかもしれない。


「東堂さん。数名小田一尉の支援に回してフィゴの討伐を急ぎませんか?ここで殺しておかないと必ず厄介なことになると思います」


 東堂は一瞬蒼夜を見て前を向く。


「そうだな。じゃあ蒼夜行ってこい。数分で終わらせたら焼肉奢ってやる」

「了解しました」


 踵を返しフィゴの背後に走る。

 小田一尉と目が合う。一瞬だが、蒼夜の意図は伝わったようだ。

 フィゴは小田の猛攻を凌ぐことに集中している。

 蒼夜は軍刀に魔力を乗せ背後から斬り掛かる。小田は蒼夜の攻撃が弾かれないようにフィゴの剣を抑える。

 蒼夜の軍刀がフィゴの頸を捕らえる。刃先が少し肉に沈む。

 だが。


「背後から斬り掛かるとは騎士道に反するなソウヤ!」


 上空からの声に一瞬意識が向く。

 この声はまずい。

 蒼夜はすぐさまフィゴから大股で離れる。小田も同じように距離を取る。

 見上げると、スヴェイルに跨った魔王が、闇夜の虚空に佇んでいた。

 巨大な斧は月光を返し、昼間より重い鎧は戦場に重力を与える。


「フィゴよ。危ない所であったな」


 スヴェイルが地に足を付けクラトシアは飛び降りる。


「我が主よ、感謝致します!このフィゴさらなる忠誠をクラトシア様に捧げます!」


 陶酔した表情でクラトシアを見上げるフィゴは膝を付き頭を垂れている。

 今斬り掛かれば首を取れそうなほど隙を見せているが、残された右目の圧がそれを許さない。


「蒼夜……、今のうちに退避するんだ」

「そうですよ、柊士長。北川二佐の指示です」


 蒼夜は東堂と如月を見る。この場を逃げられるかどうかも怪しい。それ以上に指示を無視したい気持ちが足の動きを邪魔する。


「自分は……」

「良いから退避だ。これは命令だぞ」

 

 東堂が有無を言わせぬ圧をかける。


「そうだぞ、蒼夜。俺達は大丈夫だ。お前は周りのドロヴァとあのフィゴ野郎の殲滅に集中してくれ」


 陸が額に汗を浮かべながら言う。視線はクラトシアに釘付けで。


「……了解しました。ご武運を」

「おう!」


 陸の短い返答を聞き、ゆっくりと後退する。魔王の目は未だ蒼夜を見据えている。


「逃げるのか?ソウヤ」

「お前の相手は俺だ魔王」


 東堂が軍刀を構えて言う。それと同時に別の方角から声がした。


「警備小隊、小隊長の東雲一尉以下十名も参戦する」


 クラトシアを囲む形で東雲とその部下達が整列する。

 それを見てクラトシアは不敵な笑みを浮かべる。微かに唇から漏れる声は笑っていた。


「フッ。ソウヤと戦う前に準備運動と行こうか」


 重々しい斧を振り上げ魔力を練るクラトシアに東雲率いる警備小隊、そして東堂率いる小隊が同時に突撃する。

 空気が揺れるほどの威力で振り下ろされた斧は大地を叩き割り、突撃した警備小隊の数名が、防衛結界ごと塵のように吹き飛ばされる。

 

「蒼夜!小田一尉と共にフィゴを狩れ!」


 粉塵が舞う中、東堂が指示を飛ばす。


「了解しました!」

 

 蒼夜は後ろ髪を引かれる思いでフィゴに視線を向ける。

 フィゴと小田はクラトシアから少し離れた場所に移動していた。さらにドロヴァが援軍に集結している。そのうちの一体は他のドロヴァより巨体だ。


「小田一尉!援護に入ります!」

「おう!助かる!ここでこいつを討たないとやばい!」

「はい!」


 一瞬、陸達に視線を向ける。大丈夫まだ誰も死んでいない。蒼夜は自分にそう言い聞かせて目の前の敵たちに意識を向ける。


「ここでソウヤを殺す許可は得ていない。オダだけを殺す」

「はっ!やってみろよ」


 フィゴの殺意は小田だけに向いている。

 一刀流のままだが、それでもこの威圧感だ。


「蒼夜、一旦ドロヴァ達を頼む。俺はフィゴと斬り合ってお前の合流を待つ」

「了解しました」


 蒼夜は正面を見据える。フィゴの援護に来たドロヴァは全部で七体。一体は他のドロヴァより大きく鎧も豪華そうだ。


「三分で終わらせて来い」

 

 三分。小田一尉の戦闘可能時間なのだろうか。丸一日意識が戻らなかったと聞いていたからまだ本調子ではないのだろう。蒼夜はそう解釈した。


「二分で」

「よし、行け」


 可能な限り早く片付けなければ。

 蒼夜は納刀しゆっくり距離を縮める。

 フィゴは小田の正面に移動し、他のドロヴァ達は蒼夜の方へ近づく。


「ふー……」


 一呼吸。

 柄を握り、鞘の入り口から、わずかに白い刃を覗かせる。

 静かに進む蒼夜に対して、激しい足音を上げて突撃する三体のドロヴァ。距離は縮まる。

 蒼夜の間合いにドロヴァ達が到達した瞬間、白刃が戦場の赤色灯を跳ね返した。刹那。鋭い剣筋がドロヴァの頸を落とす。

 硬い魔法障壁をいとも容易く砕く剣技にドロヴァ達は思わず足を止める。

 だが、蒼夜の剣は容赦なかった。


「戦場で足を止めるな魔族ども」


 先鋒として突撃してきたドロヴァを二振りで壊滅させた蒼夜は、残る魔族へと視線を向けた。フィゴは小田と斬り合っているが、決着はまだ着いていない。

 残り、一分四十五秒。

 ドロヴァの方から魔力の流れを感じ蒼夜は軍刀を構える。

 紫の魔力が闇夜に溢れる。

 そして先ほどと同じく三体のドロヴァが剣を構え突撃する。

 だが先ほどと違いその禍々しい大剣には魔力が乗っている。そして早い。

 なら、もっと速く。


 ――紫石術式「漆閃抜刀」――。


 ドロヴァが大剣を振り下ろす前にその腕を斬り、腰に差していたナイフを逆手に持ち、首に突き刺す。

 手に生々しい血の脈動を感じつつ引き抜く。

 素早くナイフを次の標的に投げるが、魔法障壁に阻まれる。

 魔力を乗せた斬撃が蒼夜の頭上から振り下ろされる。

 背中からも魔力の波を感じる。

 挟み撃ちか。

 先に背後の横なぎの斬撃が届くか。そう判断した蒼夜は軍刀を背負うように背中に回す。

 背後の斬撃をまたぐように、地面と水平に跳躍。軍刀に大剣の刃が触れた瞬間、それを支点に全身を鋭く回転させて受け流し、鮮やかに着地する。

 そのまま一気に踏み込み、魔法障壁ごと首元に刃を突き立てる。目の前の敵の絶命と同時に背後で地面に大剣が叩きつけられた音が響く。

 蒼夜は前後反転し大剣が持ち上げられる前に肉薄。

 横なぎに軍刀を振り首を落とす。

 残り、一分三十五秒。

 最後のドロヴァに目を向ける。

 盾と大剣、そして分厚い装甲の鎧に身を固めている。


「おい、ニンゲンの剣士よ」


 ドロヴァが声を投げて来る。


「我はドロヴァ族の族長が一人アルタだ。よくも我が部下を切り伏せてくれたな。その報い受けさせてやる」

「お前らだって人間を何人も殺したくせに」

「それもしかり。憎しみの連鎖は勝者にしか断ち切れん。来い」


 アルタは重々しい大剣を鞘から引き抜き構える。そして魔力が渦巻きアルタを包む。

 角の生えた毛深き二足歩行の獣が剣を振り上げ一度の跳躍で蒼夜の目前に迫る。

 想定外の俊敏さに蒼夜の反応が半歩遅れる。


「遅い!」


 アルタの怒声と共に大剣が振り下ろされる。回避は間に合わない。

 蒼夜は軍刀を少し斜めに構える。いなすためだ。

 上手くいなせたら反撃のチャンスが来る。

 振り下ろされた大剣は火花を散らして軌道を逸らす。

 だが、蒼夜の軍刀の中腹で止まる。

 下方向に向けていた力を途中で横向きに切り替えて来た。

 

「その見た目で技巧派かよ!」


 軋む軍刀を握りながら蒼夜は悪態をつく。


「誇り高き戦士の一族だぞ。肉体も、剣術も他の部族に劣らん!」

 

 言葉の最後にアルタは腰を入れて剣を横なぎに振りかぶる。力で劣る蒼夜はそのまま吹き飛ばされる。


「重っ!」


 空中で回転し着地するが激しい足音にすぐ顔を上げる。

 アルタが大きく大剣を振り上げて肉薄して来る。

 軍刀で受けたら折れるかもしれない。一瞬の思考の末、蒼夜は腰を落とし自ら前へ踏み込み、地面を蹴る。斬られるよりも先に斬る。

 霞崩しの構えでアルタに寄りアルタが大剣を振り下ろすよりも先に鋭い切っ先を鎧の隙間に向けて突く。

 だが、アルタは俊敏に動き蒼夜を飛び越えて避ける。

 すぐさま反転しアルタに突撃しよとするが着地と同時に大剣を構え直している。


「魔力で身体強化している訳か……」

「ほう、分かるのか。魔力は奇跡だ。その奇跡の紛い物しか扱えぬニンゲンが不憫でならぬ」


 俊敏なうえ、パワーもあり、そして頑丈な甲冑で防御するアルタを討つ方法を考える。

 残り、五十秒。

 腰を落とし、地面を蹴る。

 大剣を掻い潜り横っ腹に鋭い斬撃。

 キ――ンッ!

 弾かれる。

 止まらず連撃で甲冑を叩く。

 アルタは数撃受けたものの甲冑の防御のお陰でかすり傷一つ負わない。蒼夜は一旦下がり態勢を整える。


「鎧を破壊するのは無理か」


 蒼夜は一人呟く。

 

「鋼鉄に魔力を練り込んだ鎧だ。そう簡単には壊れんぞ」

「そうか」


 余裕を見せるように講釈を垂れるアルタに素っ気なく返す。

 残り、十秒。


「アレしかないか」


 蒼夜は納刀し足を前後に軽く開く。


「お得意の抜刀術か。よかろう来い」


 蒼夜の夜よりも暗い魔力が闇夜に広がり空気が揺れる。

 アルタもまた紫色の魔力を溜めこみ凝縮させる。

 残り、三秒。


 ――紫石術式「漆閃抜刀・改」――。


 両者は泥を抉るように踏み込み互いに迫る。

 迸る魔力がぶつかり反発し合う。

 だが、止まることなく進む。

 先にアルタの間合いに入る。

 上段からの重い一撃。

 確かに蒼夜を捉えたその一撃は空を切る。

 先ほど見せた抜刀術の間合いを読み間違えた訳ではない。

 蒼夜はより近い間合いで白刃を抜く。

 分厚い装甲の隙間、むき出しの頸を狙って閃光がはしる。

 

 残り、一秒。


 アルタの頸は宙を舞った。

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