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東京ファンタジー  作者: 亜空
立川防衛編
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21/33

若い芽

 小田英二は隕石爆撃で崩れた医療室から、連隊本部が置かれた天幕の近くの天幕に移送された。

 魔族軍から夜襲を受け外が騒がしい。

 小田は寝かされていたベッドから上半身を起こし管理中隊の隊員に声をかけた。


「おい、敵襲か⁉」

「小田一尉!はい、隕石爆撃からすぐ敵の突撃があり現在破砕口で交戦中です!」


 遠くで鳴る銃声は気のせいでは無いようだ。

 腕に巻かれた汚れた包帯を忌々し気に睨み解き始める。


「小田一尉⁉何してるんですか⁉」

「俺も出る」

「重症なんですよ⁉昨日も一日目覚めませんでしたし!」

「今日は三日目か。もう大丈夫だ」

「あ、ちょっと!」


 制止してくる隊員を押しのけ己の軍刀を拾い上げ、小田は連隊本部の天幕に向かう。外は火災と瓦礫で埋まり死体と鉄の焼ける匂いが漂っている。


「失礼します!」


 勢いよく天幕の垂れ幕を横に払い小田が北川の前に立つと、北川は神妙な顔つきで通信機器に耳を当てている。直立不動で待っていると北川はありがとうございます、と言って通信を切った。


「動いて大丈夫なのか小田」

「はっ!もう問題ありません!戦闘への参加許可をお願い致します!」


 北川は小田の状態を観察するように見る。頭部の包帯は残っているが、腕はどうだろうか。


「腕上げられるか?」

「はい!」


 小田は若干の苦悶の表情を隠し腕を上げる。


「その状態で戦うというのか?」

「外の連中だって同じです。ほぼ全員満身創痍の中で俺だけ寝ている訳にはいきません。それに戦場にはあのガキどものいるのでしょう?」


 北川は蒼夜達の顔を思い浮かべる。彼らはまだ生きているはずだが、今後どうなるか。


「他の隊員を犠牲にしてでも子供たちを守る覚悟はあるか?」

「はい。若い芽は摘ませません」

「よし、行け」

「はっ!」


 覚悟の目で小田は敬礼をし天幕を出た。


 

 ――改めてフィゴと対峙するとその異様さを実感する。

 小田は背後に蒼夜を庇いフィゴと向き合っていた。


「フィゴって言ったよな。リベンジマッチといこうぜ!」

「ふっ、一度敗北してもなお立ち向かって来るか。来いオダよ」

「柊士長はそこで見ておきな」


 小田は左手に熱を持った魔力を集める。

 フィゴはお構いなしに突っ込んで来るが小田の魔法の方が早かった。熱気を持ったマグマの弾丸を発射しフィゴの軌道を逸らす。そして着地先に跳び軍刀を振るう。

 迫る刃を空中でフィゴは避けカウンターで突きを出す。

 しかし小田はそれを読んでいた。


 ――紫石術式「赫灼一閃」――。


 迸る眩しい程のマグマが小田の軍刀を染めフィゴの頸に迫る。

 フィゴの突きごと薙ぎ払うように。

 フィゴの顔に焦りが浮かぶ。咄嗟に二振りの剣で防御態勢を整えるが、小田の軍刀の熱は魔族の剣に触れた瞬間、剣を喰らうように溶かし始める。

 二振りの剣を引こうとフィゴは抗うが小田はそれを許さず、さらに距離を詰める。

 そしてついにフィゴの一振りの剣が解け落ちる。


「我が剣が……」

「やっぱり二振り一気には無理か!」


 魔法の有効時間を過ぎ、小田の軍刀の輝きが落ち着き、夜の闇がまた戻る。


「一刀流になっちまったな!カルナ!」

「舐めるなよニンゲン」


 フィゴは溶けた剣を投げ捨て、残った一振りの剣を前に構える。


「柊士長。動けるか?」

「もちろんです」

「周りに湧いて来た雑魚どもを頼んだ」


 さきほどから闇夜に紛れて蠢くドロヴァがいるのは少し前から検知していた。数が揃った頃に突撃するつもりなのだろうが、先にこちらから殲滅した方が良さそうだ。


「了解です」


 蒼夜は静かに軍刀を握り納刀しながら小田に背中を向ける。少し距離のある背中合わせだ。

 戦火のかがり火が二人の影を伸ばす。


「行くぞ!」

「はい!」


 小田の号令で二人が同時に敵に突撃する。


 ――紫石術式「漆閃抜刀」――。

 

 ドロヴァの包囲に向けて駆け出し神速の抜刀術を見舞う。魔法障壁を砕きながらドロヴァの腹を切り裂く。

 背後では小田とフィゴの剣劇の音が響く。

 蒼夜の剣は止まらない。

 視認出来ている範囲には八体のドロヴァ。

 魔力を軍刀に這わせ、怒涛の斬撃で魔法障壁を砕き首を落とす。

 まばたきをする間にさらに二体を屠る。

 小田の方を振り返るとフィゴと対等に斬り合っている。

 さらに援軍で来た兵士達がすでにすぐそこまで来ている。

 加勢はいらいだろう。

 残り六体のドロヴァに目を向ける。

 化物の赤い目がこちらを見ているが、恐怖はない。

 

「覚悟はいいか魔族ども」


 蒼夜の言葉が終わる頃ドロヴァの血が夜空に広がった。


 ――クラトシアは自軍の陣地の後方で物々しい玉座に座っていた。

 数で圧倒しているはずのクラトシア軍は東京防衛軍を包囲しているにも関わらず殲滅しきれていない。

 イラ立ちを込めて右の手の斧を振るい生き残った側近を一体叩き斬る。

 多少の返り血を浴びるが気にせず震える部下を睨む。


「予定では今頃ソウヤを捕らえているはずだが?」

「はっ!申し訳ございませんクラトシア様!フィゴ団長が前線を押しているはずなのですが、卑怯な人類は援軍を待っていたようです」

「たった一万ほどの援軍で我が軍は怖じ気づくのか?」

「いえ!ただ予定より時間がかかるのは致し方ないことだと愚考致します!」


 クラトシアはゆっくりと部下を見下ろす。目の前で震えているのはこの軍のドロヴァ種をまとめる将軍だ。ドロヴァの中でも巨体な体を震わせ縮こまっている。

 なんと情けないことか、とクラトシアは思ったが言葉をかけることすら鬱陶しいと思い無視する。


「おい、前線の様子はどうなっている?報告はあるか?」

「ルグナードの砲撃魔法により防衛軍の大半は壁外に隔離し包囲しております。フィゴ団長がソウヤと戦闘に入ったと報告を受けましたが、撃破や捕縛の報告はありません」

「フィゴが殺された訳ではあるまいな?」

「はい、そのような報告は……」


 あの狂信的な部下の顔を思い出す。今後クシフォスと戦う可能性を考えてあやつを失うのは得策ではない。


「我も参戦するか」

「クラトシア様!私も参戦致します!」

「私も!」


 側近達が声を上げる。


「当たり前だろう。眼前の人類どもを根絶やしにするぞ。ソウヤは我が叩き斬る」


 魔王は斧を持ち上げ愛馬のようにスヴェイルを撫で乗る。これが最後の生き残ったスヴェイルだ。

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