第71話 新たな仲間#2
ユトゥスは未だ心に僅かな動揺を感じていた。
というのも、フィラミアとの待ち合わせ場所に来てみれば、今や世界で有名な令嬢の姿があったからだ。
その名はリビア=アルベール。
聖王国プロメキシアで生まれた超がつく天才少女であり、その才能は幼少期からのものでありいくつもの画期的な魔道具を作り出したり、やがては紹介を作ったりと瞬く間に経済の中心へと辿り着いた人物。
言うなれば、国相手に対等な取引を持ち掛けられるほどの影響力を持つ。
そんな人物が自らフィラミアに「攫ってくれ」と頼み、現在目の前に座っている、
大物中の大物が頭を下げて頼みこんできたという事実に妙なきな臭さを感じる。
一体どんな厄介事をこちらに持ってこようとしているのか。
そう警戒しながらユトゥスはリビアに尋ねた。
「わざわざ混乱に乗じて誘拐を頼むとはよっぽどの事情がありそうだな。
だが、俺は訳も聞かず助けてやるほどお人好しじゃない。
答えろ、貴様は一体何を望んでいる?」
「はい、それは私にとって人生にかかわる重要なことなんです。
そして、それはきっと今この時にしかかなえられない」
「要件をさっさと言え。貴様を長時間拘束しておくつもりはない」
「いえ、むしろ人生レベルで拘束して欲しいぐらいです」
「......ん?」
この時ユトゥスは一瞬にして感じ取った――今、流れ変わったか? と。
確かめるように近くのブラックリリーを見れば、同じく先の言葉にい武漢死んでいた。
どうやらこの感覚は間違いではないみたいだ。
そして、ユトゥスのその気持ちは次のリビアの言葉で確定した。
「ユー様に私の全てを貢がせてください!」
凄まじく綺麗な土下座。あまりの美しさに目が留まってしまう.......じゃない!
ユトゥスは唐突な頭痛に襲われながら、その言葉の意図を確かめた。
「それは......俺に何かを譲渡するからその対価として願いを叶えろという取引なんだよな? そういう意味で間違いないな?」
「いいえ、違います」
「違うかぁ.......そうか」
勢いで必要な言葉を端折り過ぎてしまったわけではなさそうだ。
言葉通りの意味であった。うっ、先ほどより頭が重く感じる。
この際、何か意図があってそういう言葉を言った方が信じられる。しかし――
「なぜ貢ぎたいんだ?」
「ユー様に一目惚れしたからです!」
「っ!」
この言い分だ。どうしてだかフィラミア味を感じる。
すると、案の定隣に座っている卑しい狐が反応した。
「まさかのライバル登場! 主様を一番最初に落とすのは私です!」
「私は愛人で構いません」
「ならば、ヨシ」
「ヨシ、じゃない! 何もよくない! 貴様は俺が合図するまで口を閉じてろ」
そして、言われた通りにお口をチャックするフィラミア。
そんな彼女を見て気分はすっかり問題児を抱えた保護者の気分。
先程まであんなに楽しく弟妹達と戯れていたのに。
ともかく、なにやらよくない方向に話が飛んで行ってしまった気がするので、話を戻さねば。
「貴様の言い分は理解した。だが、その要求は承諾しかねる」
「な、何がダメだったですか!? 誠意が足りなかったんですか!?
なら、今すぐ裸になって文字通り全てを曝け出して忠誠の心を示します!」
「早まるな、動くな、そして落ち着け。
そもそも俺は貴様のことは名前と偉業ぐらいしかしらない。
それに貴様にとっても俺達が何の目的に行動しているか知らんだろ? まずはそこからだ」
「わかりました。では、私の前世や生い立ち、身体的特徴、性癖などそれらすべてを開示しますね!」
「だから、早まるな! 誰もそこまで言えとは言ってない――」
そして、ユトゥスの「話を聞け」という声も空しくリビアの一人語りが始まった。
時に内容として聞いて良かったのかと思う部分もあったが、彼女の話から出たとある言葉がユトゥスの知識欲を刺激した、結果的に食いつくように話を聞いた。
「――なるほど、”転生者”という言葉は古い文献で聞いたことがあったが、まさか目の前にその転生者がいるとはな。なんとも不思議な感覚だ。
聞いてる限りでは疑わしいに尽きたが、考えてみれば画期的な魔道具と称賛された物はどれもこの世界の文明レベルより高次元の発想、それも魔法に足らない側面は確かに転生者と認める証拠になる」
「ま、私の場合は”異世界”という言葉が前に付きますけどね。
その知識は技術班の協力あっての発明でできたものがほとんどです。
私はイメージができても、作るのは苦手でしたし」
「そうか......なら、貴様のおかげで――」
ユトゥスが言いかけた言葉にリビアは「え?」と反応する。
すると、ユトゥスは過去のことを思い浮かべながら話し始めた。
「俺がいた村に足を悪くしたババアがいたんだが、そのババアは外で遊ぶガキどもを眺めるのが好きでな。
だが、足が悪いせいで見るには誰かが背負って外に連れ出す必要があって.......そのせいか遠慮して外に出よとしなくなった」
その影響かそのおばあさんはどんどんと表情を暗くしていった。
普段は気丈を振る舞っているが、時折見える表情は確かに寂しそうだった。
そんな時、とある国で画期的なものがつくられた。その名は「車いす」。
「車いすが出来た時、丁度作成に携わってた村出身の人が送ってくれたんだ。
そのおかげでババアは自分の意思で外に出られるようになって.......そして、暖かい日差しに子供達を眺めながら幸せそうに永い眠りについた」
「そんなことが.......」
「だから、ババアが安らかに眠れたのは貴様が作ってくれた車いすのおかげだ。
俺の感謝の言葉をありがたく受け取れ」
ユトゥスは優しい笑みを浮かべて言った。
それは彼が村に住んでいた頃の数少ない思い出の一つ。
そのおばあさんによくしてもらっただけにとても大切な記憶なのだ。
そんなユトゥスの言葉にリビアは小刻みに震えだし、やがて小さく言葉を漏らす。
「お........」
「お?」
「お"じに"ほ"め"ら"れ"た"ぁぁぁぁあああああ~~~~~~!!!」
それはリビアの感謝の嬉し涙であった。
まるで体中の水分を放出するかのように涙を滝に変えた大号泣。
さながら赤子のようなワンワンとした泣きっぷりにユトゥスは少し引いた。
『相当嬉しいみたいだな。ここまで嬉しがられるとさすがに悪い気分はしねぇな。ちょっとキモいけど』
『この世界は理不尽で残酷だ。だから、幸せに死ねる人は少ない。
その中でもこの子が作り出した物は、それが死に誘うものだったとしても確かに人を幸せにした。
それにそれ自体は足を悪くした人達に翼を与える代物なんだ。多くの人が感謝してるはずさ』
いつも何かと邪気を纏っているブラックリリーが珍しくその気配を無散させていた。
それほどまでに彼女の中でも響くものがあったのだろう。
そんなことを思っていると突然リビアがピタっと泣き止んだ。
どうしたのかと思った矢先、彼女は一言。
「あ、尊死る.......」
「何言っていってんだ貴様? 感謝されたぐらいで死ぬわけないだろ?」
「ユー様、ヲタクという生き物は過剰な愛で尊死るのです。
では、ユー様また来世で仕えさせてください。さようなら」
「え、おい!」
そう言ってリビアはパタリと崩れ落ちる。
その反応に焦るユトゥスと、すぐさま安否を確かめるフィラミア。
「主様、どうやら泣き疲れて寝てしまっただけのようです」
「ハァ、人騒がせな.......」
『変人の女......略して変女の追加だな』
そして、リビアに対するユトゥスの好感度はプラマイゼロになった。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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