第69話 相対する者#3
ユトゥスは一時的にサクヤとドンバスの動きを封じると、魔術師アニリスと僧侶ユミリィに向かって走り出した。
その動きに対し、攻撃をしかけたのはアニリスだ。
「<雹冷弾>」
アニリスが作り出したのは空中で凝固した氷の塊。大きさは10センチ程度もある。
それを弾幕のように一斉に発射し、ユトゥスを狙う。
ユトゥスはその攻撃を躱しながら進めば、床に着弾した氷は五十センチほどの氷柱を形成した。
「このまま移動スペースを制限するつもりか?」
ユトゥスがそう疑問視したのはユミリィの魔法を唱える光景を見たからだ。
氷の弾丸を放つアニリスと同じく空中に光の槍を作り出したユミリィはそれらを一斉に放った。
「<光球掃射>」
それらを躱そうとユトゥスが動き出した時、僅かな違和感を感じ取った。
それはアニリスの攻撃が標的を狙って放っているのに対し、ユミリィの攻撃はわずかに軌道が違う。
放たれた光の球が左右の密度が濃くなるように放たれているのだ。
つまりは、意図的に真っ直ぐ走りこむよう誘導されている。
よく観察しなければ気づけないような僅かな違い。
このまま真っ直ぐに走りこめば、アニリスかユミリィのどちらかの攻撃で仕留められるという巧妙な罠。
されど、逆を言えばそれを踏まえた上で突破すれば最大のチャンスになる。
「勝負といこうか」
ユトゥスは速度を落とさず真っ直ぐ走り出した。
すると、氷柱に隠れた左右の床から魔法陣が現れ、光の鎖が飛び出してくる。
<縛鎖の瞬き>という拘束系の魔法だ。捕まればその時点で終わり。
加えて、それは左右に意識を向けるブラフでもある。
その隙に来るは魔術師による高速の攻撃。
「<ダイヤモンドショット>」
アニリスの空中に作り出された透き通る宝石のような弾丸。
それは左右に逃げ場のないユトゥスに襲い掛かる。
対して、ユトゥスはこの状況でも比較的冷静であった。
沸騰するような戦いの高揚感、勝ちたいという欲望に脳が驚くほど冴えていく。
魔法もあり、バフもありの勝負。ここは兄の威厳を示したい。
ユトゥスは足をつっぱねて思いっきりブレーキをかけた。
同時に、眼前に迫る鉱石の弾丸を地面と平行になるほど体を大きくのけぞらせて次々と躱した。
「え、嘘! 凄い!」
「褒めてる場合じゃないでしょ! 私が前に出る。援護よろ」
ユトゥスが体勢を戻し走り出そうとしたその時、正面から杖を構えたアニリスが走ってきた。
そして、彼女は杖の先端に氷の刃を作り出し、それを薙刀のようにして振り下ろしてくる。
しかし、その攻撃はユトゥスが後ろに下がって躱した。
「まだまだ!」
アニリスは体を回転させ、その勢いで杖を横に振るう。
その攻撃に対し、ユトゥスはあえて間合いを詰め左手で杖を掴むと、右手の掌底で顔面を狙った。
しかし、その攻撃はアニリスに躱され、代わりに彼女から金的を狙った足の振り上げ攻撃が来たがそれは足でもって防いだ。
「<アルバスの光針>」
その時、アニリスの背後から尖った光が出現し、ユトゥスに向かって飛んだ。
それに気づいたユトゥスが後ろに下がって躱す。
すると、距離ができたアニリスが杖先を向けて魔法を放つ。
「<風刃>」
アニリスが威力は低いが速射の魔法でもって攻撃してくる。
近接戦は速度が命。間違いなく正しい判断だ。しかし、まだ経験が浅い。
ユトゥスはすぐさま近づき、杖を持って軌道を逸らす。
杖から放たれた風の刃は天井のシャンデリアを破壊した。
「なっ!」
「筋は良い。だが、もう少し近づかれた敵への対処を考えておくことだな」
ユトゥスは杖を持つ手とは逆の手でアニリスの胸倉を掴む。
そして、そのまま背後に向かって受け流すと、背を向けたアニリスのお尻に向かって回し蹴り。
「痛っ!?」
タイキックのような一撃でもってスパァンと高い音が響く。
その一撃によってアニリスはサクヤ達がいる方へ吹き飛んだ。
これで残すはユミリィただ一人。
「後は貴様だ」
「っ! <縛鎖の瞬き>!」
ユミリィは咄嗟に光の鎖でもってユトゥスの動きを制限しようとする。
しかし、ユトゥスの速度は一向に落ちない。
「光きゅ――」
「甘い」
魔法を放とうとしたユミリィの杖を足で蹴り上げる。
それによってクルクルと杖が空中に舞った。
「これで終わりか?」
「まだだよ!」
ユミリィは体術でもって応戦してきた。
拳や蹴り技は少なくとも素人のそれではない。
長年積み重ねてきた戦いの技術が感じ取れる。
ちゃんと実践でも使えるレベルになっているようだ。
しかし、それでもまだまだ詰めが甘い。
空中から杖が落ちて来る。
ユミリィがわずかに視線を動かし、杖の位置を確かめた。
その瞬間をユトゥスは見逃さなかった。
「え?」
ユトゥスは左手を伸ばし、ユミリィの目を防いだ。
突然視界を奪われ動揺するユミリィの胸倉を掴み、同じくサクヤ達がいる場所へ投げ飛ばす。
そして、落ちて来る杖を奪えばフィニッシュ。
そんなユトゥスの戦いを見てブラックリリーが感想をこぼした。
『さっきの魔術師の女もそうだが、この女も僧侶なのにバリバリ近接戦いけるんだな。
まぁ、さすがに本職には劣るけど、ステータスの分下手な闘士よりは強いぞ』
『そう教え込んだからな。後衛職だから近接に弱いから負けましたってのは言い訳だ。
負けるということは死ぬことだったり、尊厳や信念を奪われたりすることだ。
後者は時に死ぬよりも辛い屈辱だ。そんな目に遭わせないためにもあの子達には教え込んだ』
『なるほど、どうりで女相手でも容赦なく顔面を狙えるわけだ。
確かに、相手が女だからって手加減して殺されるよりはマシか。
ただまぁ、人を殺すことに抵抗感を持っているオマエが言うと酷く滑稽だがな』
『俺のことは好きに言え。強ければ相手を殺すも殺さないも選択肢はこっちにある。
どのみち誰かを守るためには強さが必要なんだ。そのためなら技術も知識も全て手に入れる。
もちろん、君の力を利用してでもな』
『その割には一切力を使わなかったじゃねぇか。まるで当てつけのように』
『それは違うな。この力を使えば一瞬にして勝負がついてしまう。
せっかくあの子達の戦えて成長と喜びが同時に味わえるというのに、そんなんじゃ味気ないじゃないか』
『案外バトルジャンキーなんだな、オマエ』
『勝てば強くなったと実感できるしね。
だけど、なんというかもう少しあの子達の成長を味わい尽くしたい。
もう少し本気をだしていいかもしれない』
『お、殺るのか? いまここで!』
『いや、殺さんよ。それと今の言葉で冷静になれた。ありがとう』
『冷静にさせるために言った言葉じゃねぇよ』
ブラックリリーとの楽しい脳内雑談も終えたところでユトゥスはサクヤ達を見た。
そんな彼らからは敵意を感じる。
それが悲しくもあったが、いつも足手まといであった自分が強くなった高揚感も感じられた。
「勝負ありだな。これで俺と貴様らの実力差がハッキリしたはずだ。
貴様らは弱い。だが、まだまだ伸びしろがある。ふっ、強くなったな」
「え?」
その言葉にサクヤが反応した。
同時に、ブラックリリーも反応する。
『おい!』
『あ、しまった』
『これ以上ボロ出したくなければさっさと逃げろ』
『指摘ありがとう。そうする』
ユトゥスは杖を床に置くと、開いているルーフバルコニーに向かって走り出した。
そして、柵に足をかけると、サクヤ達へ振り返る。
名残惜しい視線を送りながら、思わず出そうになった言葉を口を閉じて堪え、闇夜の外へと姿を消していった。
******
謎の仮面の男にコテンパンにやられたサクヤ達。
彼らは任務を果たせなかった悔しさと同時に、どこか不思議な感覚に襲われていた。
その感想を指し世に口にしたのはドンバスだ。
「......なぁ、なんだか懐かしい感じがしたのは俺だけか?」
その言葉に三人が反応した。
「奇遇ね、私もよ。なんというか凄く覚えがある感じだった。
おかしいわよね、敵なのに全然嫌な感じがしないの。むしろ......いえ、なんでもないわ」
「それになんかアタシ達の動きを知ってる感じの動きをしてた気がした」
「いや、たぶん知ってる。だって最後の言葉......明らかに昔から知ってるような言いぶりだった。だけど、僕達は誰も気づいてない」
サクヤが神妙な顔をして告げる。
そんな彼に対し、ドンバスはあっけらかんとした様子で返した。
「ま、あれだけ顔を徹底的に隠されちゃな。それにあんな口調の奴いたような、いなかったような。
にしても、俺が投げ飛ばされるとは思わなかったなぁ。アレはめっちゃ動揺した」
「なんにせよ、久々の黒星よね。ここ最近調子が良かった分凹むわ~」
「なにより違約金がね........」
「「「あぁ........」」」
ユミリィの言葉にサクヤ、ドンバス、アニリスの三人は今後降りかかるであろうギルドからの説教に深く落ち込んだ。
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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