第68話 相対する者#2
魔族を助けるために屋敷を襲撃したユトゥス。
煙玉を使い、姿を隠しながら行動していたが、それも一人の魔術師によって姿を看破される。
そして、ついに彼は対面した――かつての仲間達と。
『へぇ、アイツらがお前がこれから殺り合う仲間だった連中か。
まだ青いが純粋さとオーラがそれなりにあるみたいだな』
『だろ? 自慢の弟妹達だ。あと、殺し合いはしないからな』
『でも、少しだけ戦いたいんだろ?』
『できれば、ね。だけど、今は優先順位が違うからまた今度だね』
もうすでに目的を達している。
故に、この場にいる必要がないとなれば後は逃げるのが最善策。
なので、ユトゥスは窓際に向かって走り始めた。
「<簡易結界>」
「っ!」
その時、一人の少女の声が聞こえたとともにユトゥスの周りに半透明な結界が張られた。
その場に取り残されたユトゥスを見たフィラミアが思わず叫ぶ。
「主様!」
「大丈夫だ。貴様は先に脱出していろ。後で追いつく」
「わかりました。ご武運を」
フィラミアは窓から屋根に降りてそのまま闇夜の中に消えていった。
その姿を見ながらユトゥスは冒険者達へと目を移していく。
『あ~あ、捕まっちまったなぁ。逃がしてもらうには戦うしかなさそうだな』
『なにニヤニヤしてんのさ。でもまぁ、戦うしかないならしゃーなしだな』
『そっちこそ笑ってんじゃん。そうそうしゃーなしなんだよ。んじゃ、見せてみろ。お前の戦いを』
二人してニヤニヤと笑みを浮かべるユトゥスとブラックリリー。
<簡易結界>は文字通りの結界であり強度はぜい弱だ。
ただし、発動は一瞬であり、足止め効果としては非常に有効。
つまり、捕まった今、相手も簡単に逃がしてくれるような相手ではないので戦うしかない。
「それじゃ、やるか――」
「何者だ、お前は?」
やる気満々で挑もうとしていたユトゥスは急に水を差された気分になった。
その声に振り向くと、少し高い位置から怒りを露わにして見下ろす貴族バンズの姿があった。
どうやら自分が時間をかけて作り出したショーを台無しにしてお冠の様子だ。
「俺は.......そうだな、探究者とでも名乗ろうか。そして、貴様に敵対する存在だ」
「ふん、舐めたことを。お前は僕が直々に処してやろう。おい、お前! 結界を解け!」
「っ! ですが.......」
「お前は僕の言うとおりにしてればいいんだ!」
バンズは高い場所から降りながら、結界を張っているユミリィに声を掛けた。
その言葉にユミリィは困惑する表情を見せ、最終的にユトゥスを閉じ込めてる結界を解く。
瞬間、ブラックリリーは笑みを浮かべた。
『おいおい、せっかく閉じ込めたってのに一斉攻撃チャンスを無駄にしたなコイツ......って怒ってんのか?』
『人にものを頼む態度じゃないな。加えて、まるで自分のもののように。
ユミリィはユミリィ自身のものだ。本人が望まぬでもない限りその態度は許せん』
『なるほど、シスコンこじらせてるだけか。ま、着火したならなんでもいい。やったれ』
『任せろ』
バンズは近くに寝転がっている騎士から剣を拾い、鞘から引き抜く。
そして、剣を頭上に掲げ、真っ直ぐ胸の前に降ろした。
「僕の名はバンズ=アウドレッド。この名を頭に刻んで死ね」
「あっそ。さっさと来い」
「舐めやがって! 見せてやる――<岩穿ち>!」
バンズは勢いよく走り出すと同時に、ユトゥスに向かって剣を突き出す。
それを半身になって躱したユトゥスは伸びたバンズの右手を左手で掴む。
刹那、ユトゥスは伸ばした右手で胸倉を掴み、左足で足払い。
体制が崩れたバンズを右手を押し込んで地面に叩きつける。
「がっ!」
「寝てろ」
ユトゥスは左拳をバンズの顎に当てた。
たったそれだけでバンズはノックダウン。
実に数十秒の出来事であった。
「さてと、俺は貴様らに用はない。だから、見逃せ」
「そうはいかない。確かに今さっきのは見るに堪えない光景だったと思う。
だから、それに関しては礼を言うよ。だけどそれはそれ。
お前には魔族を助けた理由を聞かなければならない」
「つまり、逃がす気はないと?」
「そういう事だ」
『敵に礼を言うなんて随分と律儀だな』
『そうだろう! そうだろう!!』
サクヤの勇ましい姿を見て胸が熱くなるユトゥス。
サクヤ達の敵のような立場になってしまったことには不満はあるが、それでも別視点から弟の成長した姿を見れるのはなんとも兄冥利に尽きるというもの。
先程は冒険者としての精神面を見せてもらった。では、次は実力を見せてもらおう。
『お、戦るんだな? オマエの記憶を見る限り純粋な武力のみのハンデ勝負とはいえ、明らかに実力が伴わない状況で引き分けに持っていってるみたいだな』
『あの時の俺はまともな打ち合いが出来なかったからね。
受け流しの技術で頑張ってたんだ。
だけど、今の俺は攻撃を受け止められる。
加えて、今度はなんでもありの実力勝負。
こんなにワクワクすることってあるか?』
『強くなってる実感があるおかげでハイになってやがる。
まぁいい、どんな結果になるか楽しみにしているぞ』
ブラックリリーからの期待の眼差しを受けつつ、ユトゥスは構える。
対して、サクヤ達も武器を構え、サクヤが先陣切って走り出した。
「<全能力強化>」
ユミリィが魔法を発動させた瞬間、サクヤの動きが加速した。
先程の魔法はあらゆるステータスを向上させるバフ系の中でも上位の魔法だ。
それを初手から使うということは、サクヤ達から強敵認定された証。
ユトゥスにとってそれはとても嬉しいことだった。
高速で動くサクヤがわずかに残像を残しながら迫る。
前方から剣を引いたサクヤが迫った――が、威圧感はあまりない。
つまり、この残像はデコイ。本命は背後だ。
ユトゥスが半身になると、サクヤの剣を振り下ろしてきた。
その攻撃を躱した瞬間、ユトゥスはサクヤの剣を足で押さえ、右手で裏拳で攻撃。
しかし、それはサクヤに左手で防がれ、さらに相手は剣を手放して拳を放ってくる。
『おい、コイツ剣士なのに武器手放したぞ!?』
『武器なしでも戦えるような戦闘訓練をしてたからな。
それにサクヤには剣を手放してもいい理由がある。見てな』
ユトゥスはサクヤの右拳を左手で掴むと、前蹴りでサクヤを蹴って距離を作った。
瞬間、吹き飛ばされるサクヤの背後から光の剣が現れる。
「<写し見の光剣>!」
サクヤから五本の光の剣が放たれる。
それをユトゥスが後ろに下がって躱せば、一本一本がホーミングしながら少しずつ感覚を開けて地面に突き刺さる。
直後、サクヤは走り出し、地面に寝ている剣を拾わず、突き刺さっている光の剣に手を伸ばす。
するとそれを握った瞬間、光の剣は実体化した剣へと変わり、何事もなかったようにユトゥスに迫った。
『剣が実体化したぞ!?』
『<写し見の光剣>は光の剣を放つ遠距離攻撃魔法だが、その最大の特徴は剣を転移させられることだ。
つまり、敵に武器を奪われようとも、それを使えば強制的に武器を奪え返すことができるってわけだ』
サクヤが剣を引きずるように構えながらユトゥスに迫る。
そして、間合いに捉えると下から上に斬り上げた。
それをユトゥスが後ろに下がって躱せば、追撃に振り下ろした剣から斬撃が放たれる。
「<光斬波>」
単純な直線攻撃。躱すことは容易い。
だがその時、一人の大男の叫び声が響いた。
「ウォォォォオオオオ!」
重騎士の技である<ウォークライ>だ。
一瞬だけ相手の意識を強制的に奪うことができる。
つまり、目の前から迫る斬撃よりも走ってくるドンバスに視線が移るということだ。
しかし、ユトゥスは知っている――その技の特性を。
確かに、戦闘中に意識を別に強制的に奪われるというのは危険だが、効果は一瞬だ。
加えて、向かって来ているのは斬撃であり、タイミングさえわかっていれば攻撃は容易い。
ユトゥスは意識が外れたと同時に斬撃に目を移しつつ、横に跳んで躱した。
直後、頭上からドンバスが落ちて来る。
「見事な連撃だ。だが......」
ユトゥスはサクヤとドンバスのコンビネーション攻撃に笑みを浮かべる。
しかし、ずっとそばで見続けてきた彼にとってその動きは容易く読める。
そうこの瞬間、避けた背後から突き攻撃を放ってくるのも。
「不意打ちなら気配を出し過ぎだ」
「なっ!?」
サクヤの突き攻撃をその場でしゃがんで躱し、頭上に伸びた両手を掴んで投げ攻撃。
一本背負いで地面を叩きつけ、同時に手首を捻って剣を奪い、ドンバスに向かって投擲。
ドンバスは咄嗟に盾でサクヤの剣を弾けば、その隙に眼前に迫ったユトゥスに剣を突き出す。
しかし、ユトゥスはその攻撃を躱すと、右手で鎧の襟を、左手で股下を掴み、持ち上げた。
「この俺を持ち上げ.....!?」
「図体のデカい相手しか吹き飛ばされないと思っているなら、その想定から改め直すことだな」
ユトゥスは寝転がっているサクヤに向かってドンバスを投げた。
直後、サクヤの体にドンバスの巨体がのしかかる。
「さて、これで近接は一時的に片付いた。次は遠距離部隊の貴様らだ」
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