第67話 相対する者#1
―――魔族の処刑開始10分前
アウドレッド家屋敷の門の前で二人の兵士が話していた。
「ハァ~あ......ん~~~、だはーっ、やる気でねぇ」
「それな。今頃どこぞの上級階級達がパーティーしていると思うよ余計にな。
自分が参加できないパーティーをどういう気持ちで見張っていろと? ないわ~」
「唯一楽しみと言えば、屋敷から出てくるカワイ子ちゃん達を眺めるぐらい。
つっても、できることはそれぐらいで。お近づきなんて夢のまた夢の話だし」
「あ~あ、いいよな~バンズ様は。だってよ、財力も頭脳も美も揃えたような美少女が婚約者だぜ?
一体どんな催眠術を使ったかは知らないが、羨ましすぎて呪い殺したくなるね」
「同感だ。ん? だけど、婚約後はこの屋敷に住むんだよな?
となると、バンズ様は政務に忙しく一緒にいる時間帯が無くなる。
そん時にワンチャン寝取ることも可能か?」
「お前にそんな魅力はねぇよ。どこぞの美少女が声をかけてくる奇跡の方がまだ確率が――誰だ?」
話し込んでいる兵士達の前に現れたのは全身を外套で覆った人物。
その人物はフードを深くかぶって顔をかくしており、わずかに見える口元は鋭い三日月形をしていた。
「おいおい、このタイミングで来るってことはまさか襲撃か?」
「こんな形で門番の仕事を増やされるとは思わなんだ」
槍を構えて警戒モードに入る兵士達。
その一方で、外套の人物は少しこもった声で話しかけた。
「あのー、すみません。道をお尋ねしたいんですが」
「ん? 女の声?」
「油断するな。姿を変えられる魔法があるぐらいだ。声だって変えられるかもしれない。
用があるだったらまずは顔を見せろ。どこぞの者に親切にしてやる義理はない」
兵士の一人がそう言うと外套の人物は「そうですね」と言って、右手で仮面を外し、左手でフードを外した。
その直後、月光に照らされ毛先がピンク色になっている金髪が現れ、頭からひょこっと生える立派な狐耳、まるで遍くある美をかき集めて合成させたかのような完成しつくされた顔面偏差値の顔、整った鼻筋に力強くも優しさを感じる目つき。
そんな夜中に現れた突然の太陽に脳が興奮しすぎてショートした兵士達は思わずボソッと一言だけ言葉をこぼした。
「「奇跡......起きたわ......」」
「それでですね、道をお尋ねしたいのですが――パーティー会場ってどの辺にあるかわかりますか?」
その後、兵士たちは目をハートにして謎の少女に懇切丁寧にパーティー会場の場所を教えた。
そしてついでに中庭まで他の兵士達の目を盗んで連れて行ってもらうと、兵士達を門まで帰させた。
「主様、もう大丈夫です」
「そうか。よくやった、フィラミア。感謝の言葉をありがたく受け止めておけ。
それにしても、今のはフェロモンを使っただろ。さすがに強力だな」
「もとよりある好感度を高めただけですよ。恋は盲目であり、惚れた方の負け。
お母さんがよく言っていた言葉です。好きな人のためにはなんでもやってしまうものらしいですよ」
「俺には使わないのか? 使えば貴様の目的は容易く達成するだろう」
ユトゥスが素朴な質問をすれば、途端にフィラミアはスンとした顔で答えた。
「それは逃げであり、負けです。いいですか?
小手先の技術も悪いとはいいませんが、それを使えば自分の実力はそれまでと認めることになります。
私が目指す勝利とは正々堂々の力業。そのような方法で達成してもそれは実質負けです」
「そ、そうなのか......まぁ、あんまり頑張らないでくれ」
「いいえ、必ず主様を落とします!」
力強い目を向けるフィラミアにそっと目を向けるユトゥス。
そんなやり取りを第三者目線から見ていたのがブラックリリーだ。
『アタシは何を見せつけられてんだ。いいからさっさと行け』
『それはそうだな。ごめん』
ブラックリリーに急かされつつ、ユトゥスは外壁を器用に伝って屋根に乗る。
そして、近くの窓からパーティーの様子を伺った。
この時、ユトゥスはアルミルの言葉から魔族がこのパーティー会場にいる貴族達を殺すと考えていた。
故に、フィラミアに周囲の警戒をさせていたが、突然4人の貴族が騎士達に囲まれるという事態が起こり、それが魔族の姿となってからは事態は急変した。
「主様、確認ですがこの状況って完全に主様が想定していた展開とは真逆ですよね?」
「そうだな。考えうるにこのパーティーの主催者の方が一枚上手だったのだろう」
「つまり、罠に嵌めるつもりが逆に嵌められてしまったと」
「そういうことだ。それに魔族が囲まれた状態から動かないのも不自然だ。
魔族は基本的に人族よりも高いステータスを持つ。同レベルなら確実に魔族が勝る。
そんな状況で脱出のために行動しないということは、おそらく何か施されてる」
『ま、考えられるとしたら魔道具だろうな。
バレたなら暴れる方がマシなのにそれもできないあたり、<魔力遮断>と<弱体化>が付与された魔道具ってところだろう』
『そうだな。このままでは為すすべもなく殺されるだろう。
俺は人が死ぬところは見たくない。だから、やることは変わらない』
「フィラミア、予定変更だ。これからあの魔族達を助ける。
登場したらすぐにこの煙玉を使え。そして、魔族を窓際まで誘導しろ」
「わかりました。ちなみに、主様は何を?」
「煙に乗じて兵士達を倒して回る。そして、恐らく冒険者による護衛もいるだろう。
その時は逃げるまで時間は俺が稼ぐ。貴様は優先して魔族を逃がせ。いいな?」
「はい」
「入る合図は俺が出す。いつでも動けるように準備していろ」
そして、ユトゥスは場の状況を見極めるため注意深く観察し始めた。
それから少しして、運命の邂逅は訪れた。
「これ以上は危険だ。突入する。ついてこい」
ユトゥスは勢いよくガラスを蹴り割ると中に侵入した。
着地同時にすぐさま周囲の兵士の位置、数、護衛の有無の確認を行った。
魔族を囲っている兵士までの距離は10メートル少し、数は10、冒険者は――っ!
「護衛の冒険者がまさかアイツとはな......」
ユトゥスが目撃した冒険者は大扉の近くに四人。
服装はもとよりその姿は見覚えがあるどころか忘れるはずがない。
しかし、今の優先順位は魔族を助けること。
加えて、自分の存在がバレるのも避けたい。
「フィラミア、やれ」
「行きます!」
フィラミアが腰ポーチから白い球体を取り出し、それを地面に向かって叩きつける。
直後、ボフンと煙玉がはじけると同時に周囲に白い煙幕が張られた。
それは瞬く間に周囲に広がり、それに合わせてユトゥスは走り出す。
「敵襲だー! 全員、攻撃にそなえ――がっ!」
「煙幕が張られている! 下手に動くな!」
「誰か風魔法を使えるものは――ぐあ!?」
「下手に声を出すな! 位置がバレるぞ――ぐほっ」
兵士達が声をあげて全体に呼び掛けるが、その声は周囲の貴族達の叫び声と、ユトゥスの襲撃によってすぐさま掻き消える。
「―――風よ収束せよ! 吸風引」
周囲に広がった煙が突如として空中の一か所に集められる。
風にフードが飛ばないように手で押さえながら、その魔法を行使している方向を見た。
大きめな魔女の帽子を被り、杖を掲げる一人の少女。
その名も”歩く魔導書”アニリス。その横には”天真の慈愛”ユミリィ、”不動の巨壁”ドンバス、”閃光の騎士”サクヤの姿もある。
「さすがの対応の早さ。相変わらず優秀だな。だからこそ、そう簡単に逃がしてくれない」
集められた煙幕は丁寧に窓の外へと捨てられた。
そして、露わになる自分の姿。襲撃者を逃がすほど相手も甘くない。
戦闘になる。そのことにユトゥスは僅かに口角を上げた。
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