第66話 運命の日#3
―――30分前 パーティー会場
そこにはすでに招待され集まった貴族達に交じって、部屋の隅の方で固まる冒険者の姿があった。
本来、武器の持ち込みが許されないこの場所で所持が許されているのは、彼らがこのパーティーの護衛であるから。
賑やかな雰囲気に包まれる一方で、その空気に気乗りしないのかメンバーの一人であるアニリスが口を開いた。
「ハァ~~、さっさと終わってくんないかしら? このパーティー。
正直、こんな居心地悪い場所に長居したくないんだけど。ユーミだってそう思うでしょ?」
「そうだねぇ、下心丸出しの視線はさすがにねぇ。さりげなく肩とか触ってくるし」
「まぁまぁ、このパーティーまでの辛抱だから」
その言葉にアニリスはムッとした顔で答える。
「サクヤ、そうは言うけどね、もうこっちは十分に辛抱してるのよ。
貴族達の視線だけじゃない。雇い主であるバンズからも私達に床の誘いが来たのよ!?
まるで自分と関係が作れることが名誉みたいに言って。気持ち悪い。
それにあんただって気づいてないわけじゃないでしょ?
淑女とは名ばかりな獣のように目を光らせた令嬢達のことを」
「それは.......まぁ、うん.......」
サクヤはアニリスから痛い所を突かれ、反論できなくなった。
それを自覚できる程度にはサクヤも身の危険を感じていたから。
そして、サクヤが何も言わなくなったところでアニリスはボソっと言葉をこぼす。
「それにいくら付き合いだとしても、あまりユティーがいない状況で出たくはないのよ。楽しくないし」
「「........」」
アニリスの一言にサクヤとユミリィはまるで同意するかのように口を閉ざした。
そんな中、唯一三人から離れ、一人パーティを満喫していたドンバスが戻ってきた。
ドンバスは皿にいっぱいの料理を持って三人に話しかける。
「三人して辛気臭い顔してるけどどうしたんだ?」
「あんたは能天気そうで羨ましいって話してたの。
よくあんな居心地が悪い場所でほっつき回れるわね」
「まぁ、そんなカリカリすんなって。若鶏の骨付き肉だってよ。食うか?」
「.......食べる」
アニリスはストレスのはけ口にするように骨付き肉に噛り付く。
そんな彼女を見ながら、ドンバスはサクヤの隣に並んで貴族達を見ながら口を開いた。
「言いたいことはわかるぜ? どいつもこいつも俺達パーティの名前が欲しいってことぐらい。
どうせ繋がりがあることを見せつけて権威をチラつかせたいだけだろうぜ。
そんであわよくばそのまま身内として取り入れる。何しろ将来有望だからな」
「ドンバスって意外と考えてるんだね」
「ユミリィは俺をなんだと思ってたんだ.......」
「単細胞ゴリラ」
「ストレートすぎる言葉にびっくりだぜ、泣いちまうよ。
ともかくまぁ、居心地が悪いってのは大賛成だ。だけど、料理は別。食えるもんは食う。だろ?」
「確かに、そうだね。なら、僕も少し貰っていい?」
「じゃ、あたしもー!」
「おう、そのために多く持ってきたんだからな」
そして、4人で仲良くむしゃむしゃ食べてること数分。
会場には主催者であるバンズが現れ、貴族達に挨拶回りを始めた。
そんな光景を見ながら、サクヤはふと思ったことを口に出す。
「そういえば、大きな催しがあるって言われてたけどなんだろ?」
「どうせ舞踏会なんかじゃねぇの? ほら、前もあったろ?
俺以外にダンスの誘いが殺到して可哀そうな俺が誕生するという悲しい事件が起こったパーティーが」
「あー、あったわね。でも、ダンスといったらあれよ。
前に依頼を受けた村で開かれた宴で、村人達とのじゃんけん勝負に負けたあんたらがベリーダンス踊ったやつ」
「しかも、踊り子の衣装着てね」
「あ、あぁ.......アレかぁ.......」
「二人はお腹を抱えて大爆笑してたアレね......」
サクヤとドンバスは一気に顔を青ざめさせた。
それほどまでに思い出したくない黒歴史なのだ。
あれほどの屈辱はない、と今も二人は思っている。
「前にも色々あったけど、ああいう感じが一番楽しかったわ」
「村特有の悪ノリ感ってのが肌に会ってたのかもね」
「それもあるけど、やっぱりノリが良かったユティーが居てくれたからよ」
その言葉に全員が絶対的なリーダーを思い出し、口を綻ばせる。
彼らにとっては覆用のない一番星であり、最も信頼し頼れる太陽でもある。
だからこそ、これ以上下を向いてはいけない。前へと進む。
それがリーダーから願われたことだから。
そんなこんなで雑談を交わしていると、バンズが目立ち場所に立ち何やらしゃべり始めた。
何やら話しているようだったが特に興味もなく聞き流していると、その男の隣に一人の令嬢が立つ。
その姿を見てユミリィがまず最初に反応した。
「わぁ、綺麗......あの子が噂の”黄金の錬金術師”さん? なんだか随分と若く見えるけど」
「実際若いわよ。私はたまたまこの屋敷の図書室で会って話したけど、年齢は14歳らしいわ。
弱冠14歳で経済の中心にいるんだから実際将来有望よね。
ただまぁ、どれだけ恵まれた頭脳を持っていても、運だけは見放されてしまったみたいね」
「雇い主の黒い噂を聞く限りじゃこの先苦労しそうだね.......」
「苦労するどころか不幸まっしぐらだろうよ。
それこそどこぞの物語の王子様が救いにでも来ない限り永遠にな」
「なんだか可哀そうだね。できれば助けてあげたいけど......」
「おいおい、無茶言うなよサクヤ。どういう経緯で婚約に至ったか知らないが、あのお嬢様は悪く言えば金の湧く泉だ。それを剣王国が手放すわけがねぇ。
下手すれば俺達だけで剣王国並びにその他諸々と戦争だぜ? さすがにリスクがでかすぎる」
リビアの姿を見た満点星団のメンバーは揃って暗い顔をした。
この場で飛び出してピンチの女の子を助けるのが英雄や勇者と呼ばれる存在なのだろう。
しかし、あれは物語であり、現実と混同してはいけない。
だからこそ、彼らは感情を押し殺し、この状況を見届けることしかできない。
彼らがそんな気持ちを抱く中、リビアの紹介が終わり次なる展開が幕を開ける。
それは中央に呼ばれた4人の貴族達であった。
これから呼ばれる催しとして呼ばれたその4人。
その直後には彼らを取り囲むように槍を持った騎士達が集まった。
「え、何? 何が起こってるの?」
「さぁ、全くわからねぇ。だが、妙に嫌な予感がするぜ」
「まるで公開処刑のような......まさかだよね?」
「わからない。だけど、いくらなんでもこれは見過ごせない。
まだ様子は見るけど、場合によっては止める。全員、準備しておいて」
サクヤの指示に、全員が武器を構えいつでも突入できる人物がいる。
どういう理由でこの場で粛清しようとしているのかわからないが、人が死ぬとあれば見過ごせない。
そんな気持ちで構える彼らであったが、その気持ちも容易く崩れた。
「この者達、実は魔族なんですよ。今は変装していて普通の人間に見えますけどね。
まぁ、実際に見なければ疑う人もいるでしょうし。証拠を見せましょう」
バンズがそう言って指を鳴らした直後、4人の貴族からはたちまち魔族の特徴が表れた。
そうなれば話が変わってしまう。魔族は基本どの種族にとっても共通の敵。
それを助けてしまったなら、これまで積み上げた何もかもを失ってしまう。
それこそユトゥスから託された想いも全て。
「サクヤ、なぜ俺達が招待されたかわかったぜ。俺達は保険だ。そうに違いない」
「敵が強かった場合だったり、増援が来たりでしょ? わかってる。
わかってるけど......これはあまりにも残虐だよ」
「どっちが悪かわかったもんじゃないわね。でも、関わらない方は吉よ。
思うとこはあるけど、見逃した方が私達のため」
「......ユティーならどうしただろうね」
動けない。その気持ちが4人をもどかしくさせる。
立場が、積み上げた実績が、託された想いが鎖のようになって足に纏わりつく。
たとえ魔族を助けたとて、魔族に仲間として迎えられることはないだろう。
だとすれば、ただ失うことの方が大きい。それでも――
「ごめん、皆、わがまま聞いてくれる?」
「.......ハァ、うちのリーダーは仕方ねぇな」
「ったく、もう少し本買いだめしとけばよかったわ」
「仕方ない、可愛い弟分のためだもの。お姉ちゃんが付き合ってあげる」
サクヤの言葉にドンバス、アニリス、ユミリィが快く受け入れてくれた。
そんな熱い言葉にサクヤは「ありがとう」と言い、先陣切って走りだした。
バンズからは処刑の言葉が告げられる。
しかし、彼らなら間に合う距離――その時だった。
―――パリィン
唐突にガラスが割れる音がした。同時に、外から誰かが侵入してきた。
入ってきたのは二人組。どちらも仮面をしていて、姿は外套で覆われている。
そのうち一人にサクヤは注目していた。
「目の前にいるのにあまりにも気配が無い。
少し目を離せば見失ってしまいそうなほどに。
不気味だ。だからこそ危険でもある。全員、最大限の警戒をしてくれ」
読んでくださりありがとうございます(*‘∀‘)
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