↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/205

3-4:兄妹神フレイとフレイヤ


 僕らはかつてきた迷宮、西ダンジョンの前に立った。

 王都に4つある中でも最も難易度が高い。推奨レベルは25で、魔物の強さも、魔石の量も一流ダンジョンに相応しいといわれていた。

 僕らは一度攻略しているけれど、油断は禁物だろう。

 フェリクスさんとサフィに目線を送った。


「行きましょうっ」


 入ろうとした瞬間、背中を怒声が襲った。


「封鎖ぁ!?」

「どういうことだ!」

「今日の宿代どうしてくれるんだよぉ!」


 悲鳴と怒号。サフィが身をすくめて、僕も思わず耳を押さえた。

 路地も賑やかだったけど、こっちはこっちで騒がしいよ……。

 フェリクスさんは嘆息する。


「戦士団が入る間、西ダンジョンは封鎖としてあります。しかし、ゴーレム騒動と合わせて短期間に数度ともなれば、冒険者も怒り出すでしょうね」


 冒険者達は、張られた柵とロープを今にも破ってしまいそうだ。

 ギルドの係員さんと衛兵さんが、泡を食って冒険者達をなだめている。

 僕らはコソコソと中へ入った。


「あ! あいつは入ってくぞぉ!?」

「あ、あの方は鴉の戦士団ですので……」

「――くっそぉ!」


 フェリクスさんも僕も、鴉の戦士団のマントを羽織っていた。二頭鴉の文様は、遠目から見ても戦士団だってわかる。

 とはいえ僕のような子供が続いていたら、きっとそうとうに目立っただろう。おまけに幼子にしか見えないサフィだっている。

 でも――


「…………」


 ちらっと後ろを振り返っても、僕に注目する人はいなかった。

 まるでフェリクスさんだけしか目に入っていないかのように。


「すごいね、これ」


 帽子を確かめる。

 黒い羽をさした帽子は、サフィと同じデザインだった。


「でしょ! 『まどわしの帽子』、小人の技術と魔神ロキとの合作よ」


 効果は極端に目立たなくなること。

 帽子の内側には魔法文字(ルーン)がびっしり刻まれているらしい。

 サフィは得意気に指を振った。


「目に入っているけれど、印象に残らないものってあるでしょう? 道端の石ころとか、目立つ人の近くにいる小柄な人とか。その状態になるアイテムよ」


 鉱山街アルヴィースでは、奴隷商人が僕の特徴を探していた。

 それに対抗するため、小人達は隠れるアイテムを用意してくれたんだ。


「これなら街も出歩けるわ」

「ありがとう」

「ふふん」


 鍛冶屋さんを横目に、僕らは西ダンジョンの探索層へ降りた。

 そこで先行していた戦士団と次々に合流して深部を目指す。『まどわしの帽子』は壊れやすいから、外して運搬係(サポーター)の人に預かってもらった。


 足早に階層を降る。

 レベル上げという目的もないから、あっという間にボス層へたどり着いてしまった。


「……こんな簡単で、いいのかな」


 アルヴィース・ダンジョンと同じ、推奨レベル25の迷宮なのだけど。

 少し拍子抜けだった。


『リオン、君はとても落ち着いてみえる』


 ソラーナに言われて、目をパチパチしてしまった。


「そう、なの?」

『うむ。<狩神の加護>による索敵も精度が高い。風の精霊(シルフ)炎の精霊(サランマダー)で、遠距離の攻防も可能だ。みんな心強かったのではないかな』


 そういわれると、最初に来た時よりもずっと冷静でいられた。

 理由は単純。

 とれる選択肢が増えているんだ。


 レベルがあがってスピードやパワーが増している。守りで精一杯だった場面でも、反撃まで視野にいれて動けている。もちろん、足を使って離脱するなんてことも可能だ。

 <目覚まし>で解き放つ精霊も頼りになる。

 魔法を使うゴブリン、ゴブリン・メイジの火球だって、サランマダーの盾なら防御できる。シルフが風の刃を振るえば、遠くの魔物だって真っ二つだ。


『鍛錬と経験の成果だ。かつての激しい戦いが、君を冷静にさせている』


 女神様に褒められて、胸に温かさが膨らんだ。

 戦士団の男性が僕に尋ねる。


「リ、リオンさん、あなたのレベルは――」

「26です」


 そう応えると、ぽかんとされてしまった。


「不思議です。いえ、話には聞いていたのですけど……使う魔法や、索敵スキル、それにお聞きした戦果を聞くと、レベル30、ややもすると40でもおかしくないような……」


 僕は胸を張った。


「ありがとうございます。でも、僕だけじゃなくて……ええと、僕に力を貸してくれてる、神様も、精霊も、すごいんですよ」


 呆気にとられる戦士団の男性に、フェリクスさんはからりと笑う。


「ふふ、我らが少年は、色々と規格外なのです」


 西ダンジョンの第8層は、巨大なホールから8つの小道が伸びている構造だった。馬車の車輪に例えると、中心部に僕らがいて、車輪を支える骨組みが道ということになる。

 道の先に、ボス部屋が8つあるはずだった。その一つに向けて僕らは進みだす。


『ふむ。魔物の気配はなさそうだな』


 ソラーナが言うと、フェリクスさんが教えてくれた。


「未踏エリアが開いたせいか、この先にあるボス部屋には魔物が出現しなくなりました」

「普段は閉じてあるのよね?」


 サフィの質問に、フェリクスさんは頷いた。

 ボスが出ないボス部屋、おまけに未踏エリアが開いた場所なんて、冒険者に解放できないものね。


「その通り。今は通路を開けていますが、戦士団の技師が部屋に向かう通路ごと魔法で塞いでいました」


 前を進む人がこちらへ軽く会釈した。

 この人が、迷宮で未踏エリアを隠す魔法技師――『迷宮技師』なのかもしれない。

 王国でずっと迷宮を管理していただけあって、戦士団にはそうした技術が伝わっているみたいなんだ。


 やがて僕らはボス層へ到着する。

 だだっ広くて、明るい戦闘空間だ。今はがらんとしていて、奥側の壁が開いている。

 僕らは氷が残る未踏エリアへ進んだ。

 すると、地面から鎖がまかれた手がにょっきり生えてくる。


「おう、リオン!」


 続いて飛び出してきたのは、赤髪。

 にっと野生的な笑みを浮かべて、ミアさんは長身を半分だけ穴から出した。

 『世界樹(ユグドラシル)の水鏡』は床下の隠し廊下から向かう。ミアさんは迎えに来てくれたんだろう。


「待ってたよ。あんたと神々が来ないと、始まらないからね」


 どきっとした。

 金貨も震えたと思う。


「……やっぱり」

「ああ。小人の時みたいに、ばっちり神様の反応だと思うぞ」


 待ちきれず、僕らは小走りになった。

 隠し通路を抜けて、水鏡がある部屋へ入る。

 床一面にはすでに魔力が満ちていた。

 輝く湖面に足を踏み入れたようだ。歩く度に、踏みしめられた光が目の高さまで舞い上がる。


「こっちですぞぉ!」


 壁際の高台で小人達が手を振っていた。

 招かれるまま高台へ向かい、部屋全体を見渡す。

 水鏡、その光の面が再現しているのは、アスガルド王国の全景だ。肥沃な南から、北の不毛未踏のツンドラまで、王国すべての地形を描き出している。


 地形のあちこちに光球が浮かんでいるのは、ダンジョンがある場所。ほとんどは無色だけど、色がついているのは神様が目覚めている迷宮だった。

 王都に4つある光は、赤、紫、茶、そして青。目覚めている神様の色を宿すみたいだ。

 一方、アルヴィースにも金色の光がある。


「……で? どうなの?」


 サフィが小人達に尋ねた。

 薄い羽を背中に持つ白小人が4人。羽がなくてがっしりした黒小人が4人。

 黒小人の一人は、人間でいう40歳くらいの顔立ちだ。黙っていれば頑固な鍛冶屋さんみたいな風貌だけど、サフィを見て深々と頭を下げる。


「サフィ殿、そして――我らを救ってくださった、お歴々! あっしは生まれは黒小人(ドヴェルグ)、属すはサフィ組、この度はあっしらが手を入れたこの神具を、よくぞご照覧……」


 僕は慌てて手を振った。この小人さん、いっつもすごく大げさな感謝から入って、戸惑ってしまうんだ。


「そんなに大げさじゃなくていいんですよっ」

「そうですかい? では……うぉっほん! こちら見ての通り、ちょっくら魔力の流れを改修したらですね、さっそく神々の反応を拾ったつうわけですわい」


 金貨が震えて、ロキの声がした。


『なるほどぉ、さすがだねぇ……』

「これは勿体ないお言葉。今までは声を出せるほどはっきり目覚めた神々にしか、反応しませんでした。が、あっしらの手入れの結果、まだまだ眠りについていても探知するようにいたしました」


 僕が持っている角笛は、鳴らすたびに広く響き渡っているという。人間には聞こえない音が、魔力と一緒に世界中に伝わっているらしいんだ。

 だから、封印の眠りについている神様も、その音を聞けば聞くほど覚醒に近づいていく。

 小人達がやってくれた改良は、要するに――


「ええと。力を取り戻してきたけど、意識を取り戻すほどじゃない。そういう神様も探せるってこと?」

「そのとおり!」


 年配の鍛冶師さんは頷いて、分厚い手を光の地図に向けた。


「あちらを」


 僕らがいる高台、その足元には4つの光点。ここが王都だ。

 そこから離れた位置に――方向としては南側に、緑色の光が生まれていた。


「……フローシアですね」


 フェリクスさんが顎に手を当てる。


「これはこれは。そこに神様もいるとなれば、少し面白いことになるかもしれません」


 にやっと不敵に笑うフェリクスさん。

 面白い? どういう、ことだろう。


『リオン、わたし達も確認したい。いいかな?』


 ソラーナの声に、僕はコインケースを取り出した。

 露になっている部分に親指を這わせる。


「目覚ましっ」


 金貨から神々が飛び出した。

 緑の光を見下ろすように、5柱が滞空する。


「……ここは」


 狩神ウルが微風におさげをなびかせた。


「湖。丘。素晴らしい。地形を見下ろすだけで、生き物の声が聞こえてきそうな場所だよ」


 ああ、と雷神トールが大槌を肩にかつぐ。


「豊穣の土地か。そしてこの緑の光……眠っている神も見当がつくな」


 薬神シグリスも青髪を揺らす。同じ色の鎧に床からの光が宿っていた。


「今回は2柱の神を一度に救うことになりそうですね」


 僕は肩を跳ね上げてしまったと思う。


「ふ、2人っ!? 一気に、神様が2人も見つかるんですか……?」


 ソラーナが僕の方を見て顎を引いた。


「うむ。ここにいた神は、神の中でも特殊な、兄妹神なのだ」


 ルゥのことが頭に浮かぶ。


「兄妹……?」

「そうだ。同じ時に生まれ、同じ力を持ち、信徒さえ同じだった。だから兄妹だ」


 兄妹神。

 不思議な一致に、僕はなんて言っていいかわからなくて、しばらく南の光を見つめていた。アルヴィースは王都の北だったけど、次の場所は南。

 確か大きな湖もあって、商いも農作も盛んな、王都に負けないくらい大きな都だって聞いている。


「リオン殿」


 小人達も、僕らを見上げていた。

 声を出したのは、さっきも話していた年かさの人だった。


「は、はい」

「この場でお告げしましょう。あなたが持つ目覚ましの角笛(ギャラルホルン)のことです」


 僕は少し戸惑いながらも、頷いた。


「結論から申せば、あっしらの技術でかなりのことはわかりました。神を内側に封じ、守るための魔法がかかっています。神を外に出さないような仕掛けもありましたが、封印解除が可能なよう、あらかた外しておきました」


 ただ、とその人は言い添える。


「あなたがお持ちの金貨のように、その神を出してやることは現時点ではできないと思います。それははっきりしています」


 年配の黒小人は、サフィに目で断る。

 サフィも腕を組んで、頭を振っていた。


「……アタシ達も、かなり調べてみた。細工が専門の小人にも見せたけど、どうにもできなかったわ」

「そう、なんだね」


 正直なところ、落胆もある。

 僕はポーチから角笛を取り出して、うっすらと輝く表面をなでてみた。

 でも仕方がない。

 王都に来てから小人達は道具を打ったり、こうして神具『世界樹(ユグドラシル)の水鏡』を強化したり、ルゥを守るための防備を整えたり、大活躍だった。

 そんな人たちでもわからなかったのだもの。


「技術の体系が違うのです。中に神はおられます。確実におられますじゃ。ただ、どうもあっしらが使う魔法文字――ルーンとは違う、()()()()()で封じられております。鍵に例えますと、九割がたの鍵は外しましたが、最後に一つだけどうしても外せない鍵があるっちゅうわけです」


 小人達は、地図に宿る緑色の光に目を向けた。


「……だからこそ、まさに天の采配」


 続く言葉に、僕は震える。


「兄妹神は、そのような魔法の使い手であったのです。きっとあなたのお役に立つ……」

「その、神様の名前は……?」


 鍛冶屋さんは口をつぐんだ。その役目は自分じゃない――そう言いたげに口に人差し指をやって、水鏡に浮かぶ女神様へ手を向けた。

 ソラーナの声が広間に響き渡る。


「兄の名はフレイ。妹の名は、フレイヤだ」


 女神様は言う。


「剣と魔法に優れる。そして、緑をもたらした豊穣の兄妹神だ」

「――うん!」


 僕は取り出した角笛をぐっと握った。


「神様の起こし屋、次の目的地だね」


 今度は南への旅になるだろう。

 水鏡が描くなだらかな丘陵と、大きな湖。

 僕は新しい土地へ行く勇気を奮い立たせた。


お読みいただきありがとうございます。


ブックマーク、☆評価、感想、レビューなどでリオンを応援いただけましたら幸いです。

下にあるいいねボタンも、よろしければ押してやってくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
転生少女は大秘境スローライフを目指す ~スキル『もふもふ召喚』はハズレと追放されました。でも実は神獣が全員もふもふしてた件。せっかくなので、神獣の召喚士として愛犬達と異世界を謳歌します~

【書籍化】 3月15日(水) 小説第2巻・漫画第1巻が発売します!
コミック ノヴァ様でコミカライズ版は連載中です!

4vugbv80ipbmezeva6qpk4rp5y4a_ba7_15w_1pr_on12.jpg

書籍サイトはこちらから!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。